【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜   作:シート

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第二十六話 更識さんとした約束

 早いもので勉強会も今夜で最後。

 明日月曜日からは期末テストがいよいよ始まる。

 今日までやったこの勉強会以外にも各々自習もしっかりやっているから抜かりはない。

 準備万端。のはず、なのだが……。

 

「な、なぁ……」

 

 今夜はあの五人の包囲網から抜け出し隣で勉強している一夏。

 その一夏がなにやら言いたけだが何を言いたいのかは分かる。気づいている。

 

「ならいいけどさ。でも、更識さんめっちゃ見てる。ってか睨んでるぞ、お前のこと。また何かしたんじゃないだろうな」

 

 またとはなんだ。

 いやしかし、自分では気づいていないだけで何かしてしまった可能性は否定できない。

 

「……」

 

 一夏が言ったように今も向かい斜め右の席にいる更識さんに凄い見られてる。

 本人にしたらそんなつもりはないんだろうことは分かっているが、最早これは睨まれてると言っても過言ではないほどだ。

 何か言いだけなのは気もしなくはないが。

 こうなったのは第二回目の勉強会が終った頃から。

 

 あれから変なわだかまりはなくなった。普通に話せるようにもなった。

 だがその代わりかのように睨まれるようになった。

 原因は分からない。臨海学校の水着の件とかではないだろうし。

 自問自答したところで埒が明かない。かといって直接更識さんに聞いてみたところで。

 

「……何が?」

 

 とはぐらかされ、逆に聞かれてしまう始末。

 どうしたものか……。

 

「もう~ダメだよ、かんちゃん。困らせたら本末転倒~」

 

「困らせてって……そんなことは……」

 

「あるよ~それと睨むのも禁止~おりむー達困ってるよ」

 

「に、睨んでない……でも、こ、困らせた……?」

 

 申し訳なさそうな顔をして更識さんはそう言ってくる。

 

「い、いやその何だ。俺は別に気にしてないけど、こいつがよ」

 

 そこで一夏は俺を出すのか。卑怯だ。

 しかし、困ってると言えば、その通りではあるので曖昧に言葉を誤魔化すようなことしかいえなかった。

 

「あ、ぅ……ごめんなさい。そんなつもりはなくて……」

 

 それは分かってる。更識さんに謝らせてしまったこちらの方こそ申し訳ない。

 

「かんちゃんはね、ただ睨んでたんじゃないんだよ。彼に言いたいことあるんだよね~?」

 

「ちょ、本音……!」

 

 何故か更識さんは慌てて布仏さんを制止する。

 自分に言いたいこと。なるほど、それでさっき見ていたのは言い出すタイミングを伺っていったという感じか。

 ひとまず納得がいった。

 

「そういうこと~誤解が解けたなら折角だしこのまま言ったら? 言いたいことはちゃんと言わないとね~」

 

「っ、分かってる。でも、いきなりそんな……言いにくい。タイミングとか心の準備とか……いろいろある」

 

「そんな事言ってたら余計にタイミング見失うと思うんだけどな~」

 

 言いたいことはあるのは本当のようだ。

 だが、言いにくい様子。何なら、スマホのメッセージでいいのではないんだろうか。

 それなら好きなタイミングで好きなように相手に伝えられる。

 

「ううん……これは自分の口でちゃんと伝えたい……近いうちにちゃんと話すから……その、待ってくれると嬉しい」

 

 更識さんがそう言うなら何も言わないほうがいい。

 内容自体も真面目なもののようだ。

 

「あの……盛り上がってるところ悪いんけど」

 

 横から声が入った。

 

「更識さん助けて! 分かんない~!」

 

「私もヘルプー!」

 

「すみません、私だけではちょっと力不足で」

 

 皆勉強に躓き出したらしい。

 頭のいい四十院さんですからお手上げとはよほどのことだ。

 指名された更識さんはと言うと。

 

「ま、任せて。ここは……えっと……こうして」

 

 問題を解きながら皆に分かりやすく解説している。

 テスト前日の今日までしてきたとあれば、更識さんはもう馴れたものだ。

 

「なるほど、こうなるんだ!」

 

「はぁ~流石更識さんだ」

 

「ええ、本当に。こうやって説くんですね」

 

「ここは難しい応用を使うから躓きやすいかも……でも、この説き方のパターンに当てはめれば解けると思う。数学のフランシィ先生が前やった小テストの傾向からして、この系統の問題は一回は確実に出してくると思うからここを踏まえればテスト、大丈夫なはず」

 

「そんなことまで」

 

「助かる~」

 

 俺が出る幕はない。

 こういうのもアレかもしれないが、更識さんは本当に教えるのが上手くなった。

 そのことが自分のことのように嬉しい。そう思っているのは俺だけではなく。

 

「ふふっ」

 

「嬉しそうだな、のほほんさん」

 

「うん、嬉しいよ~! かんちゃんがこんな風に皆と一緒なんて想像もしてなかったからね~しかもあんなに楽しそう。かんちゃんの成長も何かもういろいろ嬉しくて胸いっぱいだよ~!」

 

「凄い笑顔。こんなのほほんさん始めてみたぞ」

 

 布仏さんは凄い嬉しそうだ。

 俺となんか比べるまでもなく、布仏さんと更識さんの付き合いは長い。

 それ故に布仏さんにとって更識さんの成長は考え深く自分のこと以上に心底嬉しくてたまらないのが伝わってくる。

 

「かんちゃんが頑張ったってのはもちろんあるけど、かんちゃんがやってみようって思ったきっかけをくれた君には本当感謝だよ~」

 

 感謝なんて大層な。

 だが、更識さんがいいほうへと変っていっていることは喜ばしいことで。

 布仏さんが言うように俺がそのきっかけになれているのならそれは誇らしいことだ。

 

 

 

 

「早いけど今日はこの辺にしとくか。おーい皆、テスト前だから今日はこの辺で終わりにしようぜ。キリがいい人から各自解散ってことで。皆、勉強会参加してくれてありがとうな。テスト頑張ろうぜ!」

 

「はーい!」

 

「おー!」

 

 というわけで今夜の勉強会も終わり。

 明日はもう期末テスト。やれるだけのことはやった。いい結果を残せるようテスト当日も頑張らねば。

 荷物をまとめ席から立つ。

 

「おっ、何だ。お前もう部屋に戻るのか」

 

 キリがいいところまで終っているからここにいても仕方ない。

 後、部屋に戻って寝るまでの時間に明日の予習復習をもう一度しておきたい。

 

「生真面目だな」

 

 何とでも。

 同じテーブルだった人達にも別れの挨拶をして、今度こそ席を立つ。

 

「待って待って~」

 

 今度は布仏さんに呼び止められた。

 すぐ傍には更識さんの姿がある。

 

「ほら、かんちゃん。頑張って~!」

 

「う、うんっ。あの……少し時間いい……? 話したいことがあって……時間は取らせないから」

 

 さっきそういえば、言いたいことがあるとか言っていた。

 それのことだろう。話を聞いてみることにした。

 

「ありがとう。でも……ここではちょっと……」

 

 更識さんは言いにくそうな顔をしている。

 人に聞かれるのは嫌なようだ。

 先ほどの真剣な表情かしてよほどのことのなんだろう。

 場所を変えよう。確かにここでは誰が聞いてるかは分からない。

 一夏とか聞き耳立てているし。

 

 更識さんと俺は食堂を後にした。

 そしてやってきたのは俺の部屋。

 どうかとも思ったが、人に聞かれない使える部屋と言えばここぐらいなもの。

 早速、更識さんの話を聞こう。

 

「えっと……話ってのは……その……期末テスト、総合成績の順位発表されるのは知ってる……?」

 

 知っている。

 IS学園の期末テストも普通の学校と変わらず、各教科の点数が順位化される。

 そして各学年上位十位までは昇降口近くにある校内掲示板にて大々的に発表される。

 

「それでね、総合成績一位を取ったら……一つお願い聞いてほしいんだけど……あっ! 嫌なら無理には……えっ即答!? いいの?」

 

 分かったと頷いたら驚かれた。

 何も考えなしに即答した訳ではない。相手が更識さんだからこそ即答することができた。

 今年の一年生で総合成績一位を取るということは言葉にしてみれば簡単のように思えるが、並大抵のことではない。

 一位を取ろうと更識さんが頑張って、取れたのならその頑張りには報いたい。

 もちろん、俺にできる範囲でと言う前フリが入るけども、更識さんだったら一位を取ったからって変なお願いはしてこないはずだ。

 

「それはそうだけど……と、兎に角、お願い大丈夫……?」

 

 男に二言はない。

 大きく頷いてみせた。

 

「ありがと……」

 

 更識さんは嬉しそうだった。

 ところで肝心のお願いは何だろう。

 こういうのは一位取ったら教えてくれると言うのがお約束だが、事前に知っているといろいろ準備できるかもしれない。

 

「えっ? いや、それはその……ううん、ここでちゃんと伝えなくちゃ……すぅ~……はぁ~……」

 

 更識さんは一瞬言い迷った様子だったが、ゆっくりと深呼吸を一つして。

 

「お願いっていうのは……貴方を下の名前で呼ばせてほしい……そして貴方にも私のことを下の名前でほしい。それが私の、お願い」

 

 呆気に取られてしまったと言えばいいのか。

 それが更識さんの一位取ってまでしたいことなのか。

 

「一位取ってまでお願いすることじゃないって言いたいのは分かる。でも、これは私なりのケジメというか。きっかけみたいなもので……我ながらめんどくさいとは思うけど……」

 

 そう更識さんは言った。

 更識さんがの言いたいこと分かる。

 更識さんと俺はお互いのことを苗字で呼び合っている。きっかけなしでいきなり下の名前で呼び合うのはハードルが高い。

 これは更識さんにとって必要なことなんだろう。それは俺にも言えることだ。

 お願いの内容はよく分かった。そのために頑張る更識さんを応援する。そしてまた、更識さんのその頑張りに俺自身も報えるよう頑張る。

 約束だ。

 

 

「約束……そうだね、約束。ありがとう……お互いテスト頑張ろうね」

 

 更識さんと頷き、そうして俺達は期末テストを迎えた。

 

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