【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜   作:シート

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第二十七話 簪と名前を呼び合えば

 IS学園の期末テストも一般的な学校と変らず一日四限授業を三日間。

 テスト教科は日頃やっている最低限の一般教科とIS座学。

 やはり、エリート高と言われるだけあって期末テストは思った以上に難しかった。

 だが、やれるだけのことはやった。大丈夫。自己採点を見る限り結構自信がある。

 そしてテストが終わってから二日経った今日。テストの結果が全て出た。

 

「あ~ここ自信あったのにな~」

 

「思ったよりもいい点数!」

 

「山当たったっ」

 

「本当、ギリギリだった」

 

 とクラスメイトの反応は様々。

 かくいう自分の結果はというと自己採点通りの結果。 

 いくつか結構いい点数が取れてる。勉強した甲斐あった。これはかなり嬉しい。

 総合成績の順位もテスト内容を思えばいい方だろう。

 

「おっ。順位、俺より上だな。今回はお前の勝ちか」

 

 勝手に人の順位覗き込んで何を言ってるんだか。

 一夏のほうこそ順位はどうなんだ。

 

「俺はほいこれ」

 

 隠す素振りもなく一夏はさらっと見せてくれた。

 順位的にはギリギリ中の上といったところ。

 勝ち負けは兎も角、一夏も結構いい順位だ。毎日勉強会とかで勉強していたのもあるだろうが、あの五人の相手をしながらこの結果はかなり凄い。

 流石というべきなのか。

 

「照れるな。でも、お前だってよく頑張ってるよ。流石は俺の親友」

 

 褒めてくれるのは嬉しいが少し場所というものを考えてもらいたい。

 周りの目と反応が怖い。

 この後の展開が何となく予想できた。

 

「友人を褒めるのも結構だが私の嫁たる者、夫を褒めなくてどうする。さあ、褒めるがいい」

 

「おぉ! 一桁台、四位じゃん。すげぇよ、ラウラ。頑張ったな!」

 

「と、当然の結果だ!」

 

 言葉はぶっきらぼうだが顔が凄いうれしそうだ。

 ボーデヴィッヒが来たとなると最早お約束。

 

「あ~ラウラずるい。ラウラには負けたけど僕だって頑張ったんだよ。ほら、五位」

 

「抜け駆けは許しませんわ。一夏さんご覧になって。そして褒めて下さいまし、わたくしは二位ですのよ!」

 

「くっ……皆に劣るが私だってよくやったんだぞ、一夏。六位だ。どうだっ。ほ、褒めて罰は当たらんぞ!」

 

 案の定、デュノア、オルコット、篠ノ之が順位を見せてきた。

 微妙に張り合っているのがまた何とも。

 しかし、全員一桁台だったり上から数えてすぐだったりと成績がいい。

 代表候補生ないし専用機持ちは当然本人達の努力の結果なのは分かっているが皆エリート揃いなんだな。

 できる奴の結果はいつだって眩しすぎるぐらい眩しい。

 

「ま、待てって。皆凄い、よくやった! ……うん!」

 

「それだけですの!?」

 

「他に言うことはないのか、一夏!」

 

「そうだ。夫を褒めずして嫁たりえないぞ」

 

「あんなに皆で勉強頑張ったんだからもっと何か言ってたくさん褒めてほしい、な」

 

「え、えぇ……あーあっ! そ、そうだ。一つ気になることがあるんだけど」

 

「何だ。弁解か。言うだけ言わせてやる」

 

「そうじゃねぇよ、箒。セシリアが2位ってことはもしかして鈴の奴が一位だったりするのか?」

 

 たじたじだったが一夏の奴、上手く話題をそらした。

 オルコットが一位でもおかしくなかった。

 だが、そうでなかったとなると誰が一位なのか気にはなる。

 

「そうだよな。お前も気になるよな」

 

「私達もその話はしてました。鈴さんの可能性もなくはないですが、確認しないことには何とも」

 

「時間的にどのクラスもHR終って、もう順位発表されている頃だし掲示板の張り出し見に行くのいいかもね」

 

「となると全は急げだ。皆、考えることは同じだろう。掲示板前は込むと予想できる」

 

「うむ。ラウラの言う通りだ。途中、鈴とも合流できるだろうしそうしよう一夏」

 

「そうだな。皆で見に行くか」

 

 話が勝手に進んでいく。

 今に始まったことではないが、その皆に俺も入ってるんだろうな。

 

「もちろん。気になってるんだったら行かないとな」

 

 と言って一夏はガシっと肩を組んでくる。

 逃げないからやめてくれ。

 

「よかったら~私も一緒に行っていい~?」

 

 聞き馴染みのあるのんびりとした声。

 それは見て確かめるまでもなく布仏さんだった。

 

「いいぜ。のほほんさんも一緒に行くか」

 

「やった~ありがとっ~」

 

 布仏さんも一緒になって見に行くことになった。

 布仏さんも気になるのだろうか。というより、彼女がこうしてわざわざ見に行くということはそいうことなんだろう。

 実のところ凰以外に一位になりそうな人には心当たりがあった。

 

「順位、もしかんちゃんが一位だったら嬉しいね~」

 

 俺も更識さんが一位だったら嬉しい。

 一位取りそうな人は更識さんぐらいなもので、勉強を頑張っていたのはよく知っている。

 しかし、ここで布仏さんが更識さんの名前を出してきたということは考えを読まれたのか、それともただ単に同じことを考えていただけなのか。

 

「ふふっ」

 

 布仏さんは更識さんが一位を取った時のことを知っているな。

 前、布仏さんはお膳立てしていたし。

 だからこそ、この含みのある意味深な笑み。

 

 更識さんが一位を取った時、更識さんと俺は下の名前で呼び合う。

 テスト前そういう約束をした。

 もちろん約束は守る。しかし、改めて名前で呼び合うと思えば聊か緊張のようなものを感じる。

 勉強会が終わってから今日までお互いこの話題に触れてこなかったのはきっとこのせいなんだろう。

 

「やっぱ、人多いな」

 

 掲示板前に着くとそこには沢山の人がいた。

 場所は離れているがここには三年分の順位が張り出させているだけかほとんどが野次馬的なもので人の多さは一際。

 とりあえず一年生のところへ行っては見たが、人が多くて見れない。

 

「見れないね~ん~あっ、かんちゃんだ」

 

 釣られて見てみるとそこには更識さんの姿があった。

 

「気づいてくれた~こっちこっち~」

 

 布仏さんが手招きして呼ぶ。

 更識さんも確認しに来たんだろう。

 けれど自分の順位表には各教科の点数と順位が載ったので確認できる。ということは違うのか。

 他の人のはここで確認しないと分けらないから見に来たとか。

 

「実は~おりむー達と今から見に行くからかんちゃんもおいでって連絡しておいたの。ね~かんちゃん」

 

「……うん」

 

 なるほど、それで。

 更識さんはもう順位確認したんだろうか。

 

「他の人のはまだ……」

 

「で、肝心のかんちゃんの順位は~?」

 

「えっと……」

 

「更識さんおめでとう!」

 

 一夏が割り込んできた。

 ということは。

 

「お前ものほほんさんも今なら見えるぞ。ほら、あそこ」

 

 一夏が指差したところ。

 そこには『一位、更識簪』と名前が点数と一緒に乗っていた。

 

「わぁ~! かんちゃん一位だよ~! すごいすごい~! おめでと~!」

 

「本当に凄いな、これは。更識さん、おめでとう!」

 

「おめでとう、更識さん!」

 

「あ、ありがとう」

 

 布仏さんと一夏、デュノア達に祝福されたが更識さんは嬉しそうにしつつも少し片身が狭そうにもしていた。

 今ので俺達だけでなく、周りの人達の注目を集めてしまったから無理もない。

 

「ほら、お前も」

 

 一夏にさとされるように俺も更識さんを祝福した。

 

「お前、更識さんが一位取ったのに一言だけかよ」

 

 お前がそれを言うのか。

 今はこれだけでいいだろう。

 こんな人の多いところでこれ以上言うのもどうかと思う。

 

「ううん……いいよ、全然。一言だけでも嬉しい」

 

 更識さんも特に気にしてないようで何より。

 

「おめでとうですわ、更識さん。もしよろしければ、順位表を見せてもらってもよろしくて……?」

 

「あっ、私もいい?」

 

「うん」

 

 更識さんがオルコットと途中合流した凰に取り出した順位表を見せた。

 

「……くっ」

 

「す、凄い点数……」

 

 悔しそうな顔をしながら何も言わないオルコットと同じく悔しそうな顔をしている凰。

 更識さんの点数はよほど高いんだろう。

 でなければ、あの総合点数はでない。

 

 しかし、まさか本当に更識さんが一位を取るなんて。

 取るだろうとは思っていたが、こうして目の当たりにすると何ともまた。

 一位を取ったことも重要なのことだが、俺たちにとって重要なのはここから。

 あの約束を果たす時がきた。

 

 

 

 掲示板で順位を見た後一夏達とは別れ、更識さんと俺はいつもの整備室にやってきていた。

 いつもと変らない二人しかない整備室。

 けれど勉強会からテストまでの間整備室に来てなかったからか、こうして更識さんと整備室で二人になるのはたった数日だったなのに凄く久しぶりな感じだ。

 

「……」

 

 整備室に来てから更識さんとの間に会話はまだない。

 お互いとりあえず自分のことをやっている。正直なところただのフリに近い。全然集中できない。

 こんなことしてる場合でないことは分かっている。

 整備室に来たのはあの約束を果たす為なのだから。

 

『頑張ってね~かんちゃん。君もね~』

 

 なんてここに来る前布仏さんに言われてしまったからここで今日何もないまま終るのはよくない。

 先延ばしには出来ない。

 俺は、約束のことを切り出してみた。

 

「……っ!」

 

 両肩を震わせる。

 その顔をはっきりと確認することはできないがちらりと見えた頬は赤く染まる。

 忘れていたということはなさそうだ。むしろ、このことをずっと意識してくれていた様子。

 そのなんて言えばいいんだ。

 

「……はいっ……」

 

 緊張した様子でこちらを向き身なりを正す。

 それでより一層緊張してきた。

 今からいうことはなんてのことのないことなのに口が重い。辺りがスローモーションしているみたいだ。

 いや、好きな人の名前を初めて呼ぶのだから当然なんだろう。

 

 言った言葉は極めて簡単なもの。

 一位おめでとう、簪。

 そう改めて祝福の言葉を名前を呼びながら伝えた。

 

「……」

 

 静けさが怖い。恥ずかしさからくる耳の熱さと鼓動の速さが嫌なほど分かってしまう。

 今、様子を確認するなんてとても無理だ。

 何も反応ないのがまた怖さに拍車をかけるというか。やはり、いきなり呼び捨てはまずかったのやも……。

 

「ありが、とう……嬉しい――」

 

 不安を感じていた時、そう言って同じ様に俺の名前を呼んでくれた。

 下の名前を呼び捨てで呼ばれることなんて初めての経験ではないはずなのに、まるで産れて初めてのように新鮮だ。

 

「……っ」

 

 呼び慣れてないからかお互い照れて俯くので精一杯。

 本当に照れくさくて何より、嬉しい。勝手な思い込みかもしれないが、前よりも仲が深まった感じがする。

 ようやく簪と呼ぶことが出来た。名前を呼んでもらえた。

 今後はこの呼び方で呼び合っていくから慣れていかないとな。

 

「そう、だね……慣れていかないと……あ」

 

 何か思いついた顔になる。

 

「よかったら、だけど……も、もう一度名前呼び合わない……? そのっ、私達には練習が必要だと思う。……無理にとは言わないけど……」

 

 確かに練習は必要だ。

 俺達はまだ回数にして一回しか呼び合えてない。

 そんな意識するほどのことでもないだろうが、早いうちに慣れた方がいいはず。

 では改めて呼んでみよう。

 

「……はいっ……」

 

 また緊張した様子でこちらを向き身なりを正す。

 やりづらい。

 

「だ、だって……緊張する、からっ……」

 

 分かるけどもだ。

 まあ仕方ない。

 こみ上げてくる緊張とかその他諸々を堪えつつまた簪の名前を呼んでみた。

 

「……っ」

 

 今度は赤らめながらも嬉しそうにしているのが目に見えた。

 名前一つでここまで喜ばれると安心するし、嬉しい。

 

「もっ、もう一度お願い……」

 

 ねだられ気をよくしてまた名前を呼ぶ。

 

「~っ……もう一度……」

 

 また呼ぶ。

 順番交代。

 

「分かった――」

 

 優しい声で名前を呼ばれた。

 名前を呼ばれるだけで緊張をかき消すほどの嬉しさで胸が一杯になる。

 これはもう一度呼んでほしくなる。

 

「ん、いいよ。もう一度――」

 

 もう一度名前を呼んでもらえた。

 そのまま簪と俺は、時間の許す限り馬鹿みたいに練習を続けた。

 

 

 

 

 食堂への道を簪と歩く。

 夕食を食べに向かっているところだ。

 結局、本当に時間の許すまで名前を呼び合う練習を続けてしまった。

 本当に馬鹿みたい呼び合っていたが、おかげで始めの頃より呼んだり呼ばれることに慣れた。

 それに楽しかった。嬉しかった。得られたものは多い。

 

「そう言えば、明日から夏休みだね……」

 

 食堂に着きカウンターから今夜の夕食を受け取りながらそんなことを話す。

 結果発表があった今日が終わり、明日からはいよいよい約一ヶ月ちょっとの夏休み。

 やることは大体決めて学園の外に出ることはそうないだろうがそれは別として、夏休みは楽しみだ。

 

あなた(・・・)もなんだ」

 

 も、ということは……。

 

「うん、私も楽しみ」

 

 簪の楽しみにしている顔を見ていると何か一緒に思い出とかでも作れたらと思ってしまう。

 

「おーい! 二人とも!」

 

「……織斑さん……」

 

 適当な席に座ろうとしていると先に来て食べている一夏に呼ばれた。

 辺りにはいつもと変わらずいつものメンツと今夜は布仏さんや谷本さん、四十院さん達までいる。

 皆こっちにこいと言わんばかり。これは行くしかない。

 

「仕方ないね……」

 

 簪と共に向かい席に着いた。

 

「今日も二人仲良しだね~」

 

「だよな。ンフフッ」

 

 またかと思わざるおえないお約束の反応。

 凄いニヤニヤして見られる。オマケに一夏の笑い方はいやらしい。

 皆何か言いだけだが毎度のことながら簪と俺は皆が考えるようなものではないし、勘ぐられてもどうしようもない。

 

「いや、分かってるけどさ……ってお前、それ」

 

 一夏だけでなく皆まで驚いた顔している。

 このテーブルだけやけに静かだ。

 隣にいる簪まで驚いているのだからよほどのことが。

 

「その……な、名前……」

 

 簪に指摘され理解した。

 呼び方を変えたんだった。前まで苗字呼びしていたのがいきなり下の名前で呼んでいたらこうなって当然だ。

 さっき練習していた感じそのままに呼んだが、しまった間違ったとは思わない。

 隠すようなものではないし、隠していてもいずれ知られてしまう。というより、隠していたらやましいことみたいでよくない。

 それに折角呼び合えるようになったのだからちゃんと簪の名前は呼びたい。恥ずかしさがないと言えば嘘になるが、ちゃんと呼ぶべきだ。

 もっともこんな注目されて簪には悪いとは思うけども。

 

「だ、大丈夫……そっか、そうだよね……私もあなたのことちゃんと呼びたい」

 

 同じ気持ちだった。

 後は皆に呼ぶようになった経緯を説明しなければ。

 目を輝かせているこいつらに説明するのは少々骨が折れそうだ。

 

 とりあえず経緯を簡単に説明してみた。

 

「後ね~私が二人に提案したんだ。折角仲良しさんなんだからいつまでも苗字呼びは寂しくない~って」

 

「なるほど、それでか」

 

 布仏さんのフォローで一夏達は納得してくれたようだった。

 自分だけだと今一説得力にかけている気がしていたから助かった。

 

「やったね! 更識さん、一歩前進じゃん!」

 

「おめでとうございます! 更識さん! 一位取ったりと本当に今日はめでたい」

 

「今夜は更識さんのお祝いしなくちゃね!」

 

「ちょっ、谷本さん達まで……」

 

「かんちゃん、照れてる~照れてる~!」

 

「ほ、本音……」

 

 何やら盛り上がっている。

 確かに今日は簪が一位取ったりとめでたい日だがそういうことではなさそう。

 

「更識さん進んでますわね」

 

「うん、私達なんか目じゃないほど先に行っているね。あれ」

 

「僕達も見習わないと」

 

「ああ、そうだ。私達に必要なのは積極性、でも更識みたいな慎ましやかな積極性だな」

 

「うむぅ……」

 

 こっちはこっちで反省会みたいなものをしている。

 おそらく一夏絡みのことでだろう。

 

「何かよくわかんねぇけど皆楽しそうだな」

 

 当の本人はこんなにも暢気だ。

 だがこの楽しさが夏休みに入っても変らず続いていけばいい。

 


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