【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜   作:シート

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第二十八話―幕間ー彼との夏の始まり

 すっと目が開く。

 見えたのは天井。そのまま視線を左右辺りに寝ている本音がいた。

 もう朝なんだ。

 今何時なんだろう。気になって携帯で確認して驚いた。

 たった今、朝五時になったところ。凄い早起きだ。しかも、今日から夏休み。早く起きる必要はないどころか、休日みたいにゆっくりしていても大丈夫。

 なのに私はこんなにも早く起きてしまった。どうしよう。二度寝したりベットの中でじっとしていたい気分ではちょっとない。

 とりあえず、顔洗おう。ベットから体を起こし、眼鏡と携帯を手に持つと洗面所に向かう。顔を洗い、タオルで顔を拭きながら鏡を見る。

そこに映る私は、顔を洗ったこともあるんだろうけど本当に目覚めがいいらしく眠気がなくすっきり冴えた顔をしている。

 昨日、中々寝付けなかったのに。

 

「昨日……」

 

 脳裏に蘇る昨日の出来事。

 私は昨日期末テストで好成績を取り、学年で総合成績一位を取った。

 そして彼に約束を果たしてもらった。

 

 一位を取ったら、名前で呼び合いたい。

 そんな約束をした。

 自分でも子供っぽいとは思う。こんなこと一位取ってまで約束するようなことじゃないし、約束がないと呼ぶきっかけさえ作れない自分が情けない。

 でも、約束は果たすことが出来た。彼の名前を呼べた。彼に名前を呼んでもらえた。

 

「――」

 

 必要はないけどふと、小さく彼の名前を口に出してみる。

 初めて呼んだ時より慣れた感じはあるけど、まだちょっぴり恥ずかしい。

 男子を下の名前で呼ぶことなんて生まれて初めてのことだから、きっとそのことも関係しているんだろうな。

 でも、ようやく呼ぶことが出来て嬉しい。

 

 彼に名前を呼んでもらえたのも嬉しかった。

 お父様や親戚の男の人に呼び捨てで呼ばれることはあったけど、身内。身内以外の男の人である彼に呼ばれるのは全然違う。自分の名前はずなのになんだか特別な言葉に感じた。

 私の思い込みだろうけど、名前を呼び合っただけで前より仲が深まった感じがする。

 

 それに彼は人前でもちゃんと下の呼んでくれたのが一番嬉しかった。

 人前だとしても私の名前を呼ぶのは恥ずかしくない大切してくれるんだって知れたから。

 

「……っ」

 

 鏡を見て本当にハッとなった。

 だらしなく頬を緩ませ、凄く嬉しそうな顔している私が鏡越しにいる。

 なんて顔してるんだ私。嬉しかったからっていくらなんでも恥ずかし過ぎる。

 恥ずかしがって耳先や頬が赤い私がまた映ったから余計にくるものがある。

 誤魔化すように髪を梳き始めた。

 髪を梳きながらふと思う。

 

「私……こんな顔できるようになったんだ」

 

 常に意識してるわけじゃないからちゃんと覚えてないけど、鏡に映る私はいつも暗く情けない顔しているばかりの記憶が強い。

 それを思うと恥ずかしい反面、こういうところでも私は変っていけているんだとちょっとは自覚を持てた。

 

 けれど、いつまでも昨日の出来事に想いを馳せてもいられない。

 

「……よし」

 

 気持ちを切り替えるように髪を梳いていたブラシを置き、手に取った眼鏡をかける。

 顔を洗って、簡単にだけど髪も解いて身だしなみも整えた。

 さて、これからどうしよう。さっき時間を確認してからまだ数分ほどしか経ってない。

 やることもやりたいこともない。朝ごはん食べれるようになるまでにはまだ早い。

 

「そう言えば……」

 

 前にもこんなことあったな。

 六月入ったばかりの頃。

 あの時も今と同じ様な状況で確か外の空気吸いに出かけた。

 その時、彼と出会ったんだ。

 

「そうだ……外」

 

 行ってみよう。

 もしかしたら会えるかもしれない。確証があるわけじゃないけど、いつも朝はランニングしてると言ってた。しかも今日は晴れ。確率は高い、かもしれない。

 ここでこうしていても埒が明かない。行動あるのみ。私は部屋を出た。

 

 流石にこの時間だと当たり前に廊下は静か。

 そして寮の受け付けには今日も変らずコンシェルジュの人がいた。

 奇しくもあの時と同じ受付の人。

 前の時は失敗してしまったけど今日こそは。

 

「おはようございます……!」

 

 緊張することなく我ながら上手く挨拶が出来た。

 

「ふふっ、おはようございます。お早いお目覚めですね……あら、前にもこんなことありましたね」

 

「ええ、今日も早く起きてしまって……すみません、外に出たいんですけどいいですか……?」

 

「はい、もちろん。お気をつけて」

 

 見送られて自動ドアを潜る。

 しっかり笑顔も返せた。上出来。

 

「……」

 

 外に出て辺りを見渡す。

 当然と言うべきか、人影どころか気配すらない。ここもまた静か。

 

「……仕方ない」

 

 ちょっとショックだけどこればっかりはどうしようもない。

 気持ちを切り替えるように空を見上げる。

 

「いい天気」

 

 まだ太陽が昇りきっておらず、日の光がほんのり照らしてくれているのが丁度いい。

 最近夏真っ盛りで暑い日が続くけど、早朝は涼しくて気持ちがいい。昼間もこのぐらい涼しければいいのに。

 

「ん、ん~……」

 

 体を伸ばす。

 外の空気を浴びているせいか部屋で体を伸ばすよりもすごく気持ちがいい。

 会えなかったけど外出てよかった。そう伸びをしている時だった。

 

「ひゃっ!?」

 

 突然声をかけられ、思わず声を上げてしまった。

 気を抜いていたから心臓バクバクだけど上げてしまった声がそこまで大きくなかったのだけはせめてもの救い。

 それにこの声には聞き覚えがある。忘れない、間違えるはずがない。低い男性の声。彼だ。

 振り向くと正解だった。

 私が驚いたことを彼に謝らせてしまった。

 

「ううん、大丈夫」

 

 そう答えると彼は納得してくれた。

 そして朝の挨拶を言ってくれた。今朝もちゃんと私の名前を呼んで。

 

「お、おはよう――、――」

 

 対する私は、挨拶を返すことは出来たけど微妙にどもってしまった。

 後、名前も一瞬恥ずかしさからなのか何なのか躊躇ってしまい一言ではちゃんと呼べなかった。

 つ、次こそは私からちゃんと挨拶して名前も普通に呼べるようになろう。

 で案の定、ここで何をしているのか聞かれた。

 

「私は早く目が覚めて外の空気吸いに……あなたは……」

 

 問いかけそうになってやめた。

 見れば分かる。彼は今ジャージ姿。今からトレーニングをするんだ。

 

「夏休みなのに頑張るね……」

 

 ついそんな言葉が口から零れ出てしまった。

 嫌味っぽくなってしまった気がしたけどそんな風には受け止められず、夏休みだからという答えが返って来た。

 夏休みは普段より時間に余裕がある。それに朝は涼しい。トレーニングにうってつけとのこと。

 後は日課になっているらしく夏休みだからって怠けるとやらなくなるとか。

 確かにその通りだ。この人は本当に生真面目。話していてつくづく感じる。それが彼のよさでもあるんだけど。

 

「あっ…ごめんね、邪魔して」

 

 そろそろ朝のトレーニングを始めたそうにしている。

 こうしていつまでも引き止めてたら悪い。

 少しは時間潰せたはずだから部屋に戻ろう。

 でも、帰っても暇なのは変わらない。どうやって時間を潰したら……

 

「……」

 

 ふいにある考えが私の脳裏に過ぎった。

 あ……そうだ。これだ!

 名案を思いついた。

 

「あ、あの……トレーニング始めるの少し待って。十五分っ、ううんっ、十分でいいから……! す、すぐ戻る……!」

 

 私は急いで部屋に戻る。

 あまり待たせられない。急いで支度しないと。

 


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