【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜 作:シート
「はぁ~! 無理! もう無理だー!」
何度目かになるその台詞を吐き、隣の一夏が机へとうつ伏せで倒れる。
つい五分ほど前にも同じこと言っていた。
「言いたくもなるだろ、普通。難しすぎる」
夜外出禁止時刻を回った俺達は、自室で勉強をしていた。
同室の一夏の気持ちは分からなくはない。一般科目にも関わらず、ISの座学並みに難しく、遅々として進んでない。
それでも愚痴っていても仕方ないが。
「それは分かるけどさ。本当に生真面目だな、お前は。毎晩毎晩よく勉強してられるよ」
呆れられてしまった。
生真面目だろうがなんだろうが俺には今勉強するぐらいしか、出来ることもやれることもないのが現状。
実技は兎も角、せめて一般科目の勉強ぐらいやっておいて授業を楽に受けられるようになりたい。
地道ではあるが、これ以外に道はない。急がば回れという奴だ。
何より、授業についていけなくて情けない姿はこれ以上見せたくない。
「それもそうだな。よし……! もうひと頑張りするか! お前にも負けてられねぇからな!」
やる気を取り戻して一夏はもう一度机に向きなおす。
俺も一夏には負けてられない。もうひと踏ん張りだ。
「そうだ、ところでなんだけどお前さ」
勉強を進めていると一夏が問いかけてきた。
返事しながらも手は止めず聞く。
「最近、やけに楽しそうにしてるけど何かあったか?」
言われて、ドキッとする。
隠してるつもりはないけど、言ってもなかった。
一夏にでも分かるほど顔に出ているんだろうか。
「いやパッと見じゃわかんねぇけど、お前の無愛想な雰囲気がこう柔らかくなったというか。こいつ最近楽しそうしてるなあってのが伝わってきてよ」
一夏にビックリだ。
鋭いというか何と言うか。自分のことにもそのぐらい鋭ければ、あの三人がもう少し浮かばれるだろうに。
そう三人によって言い争いの果てに今日破壊された部屋のドアを思い浮かべながら思う。ちなみにもう直ってるが、壊されるのは今日で2回目。
それはいいとして一夏の言う通り、最近楽しい。
やっぱりそれは最近、更識さんと少しずつ会話できるようになったからなんだろう。
黙々と作業や課題しているのもいいのだが、話し相手できるのはやっぱりいいことだ。
「へぇ~話し相手ね、お前が一緒に整備室使ってる子だろ? 確か名前は更識さんだっけか?」
頷いて肯定する。
更識さんのおかげで整備室に通うのが、整備室で過す時間が前よりも楽しくなってきた。
「そっか~お前がなあ。無愛想なお前に知り合いが増えることはいいことだ。うんうん」
一人納得した様子だが、ニヤニヤしているのがどうも気になる。
というか、下衆な勘ぐりをされているような。
一夏が思ってるようなことは断じてないから、そのニヤついた顔やめろ。
「分かってるって。いやしかし、お前がなあ~」
こいつのニヤついた顔は本当くるものがある。
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HRが終わって先生が教室を出て行くと、騒がしくなる教室。
やっと放課後だ。今日は整備室に行く日。不思議と足取りが軽くなる。
一夏やクラスメイトに別れを告げ、整備室に向かおうとした。
「ねぇねぇ~ちょっといい~?」
呼び止めてきたのはクラスメイトの布仏本音さんだった。
仲良くしてくれる女子の一人でもあり、クラスの癒し系マスコットでもある彼女は、『のほほんさん』のあだ名が示すとおり、彼女がいるだけでその場は不思議とのほほんとしてしまう。
相変わらず、サイズあってない制服が凄い気になった。袖邪魔じゃないんだろうか。
彼女に連れ出され、廊下の端へと連れて行かれる。
話がある様子だが、女子とこんな風に話すの勿論、布仏さんとこうやって二人っきりで話すのはほとんど始めてのことだ。
何だか怖い。つい身構えてしまう。
「そんな警戒しなくても大丈夫だよ~すこ~し聞きたいことがあってね~」
聞きたいこと……なんなんだろうか。
「ほら君、最近整備室で頑張ってるでしょ~? そこにいる四組のかんちゃんと仲良しさんだって聞いて」
一瞬誰のことを言っているのか分からなかった。
でも整備室となれば当てはまる一人心当たりは一人しかいない。
かんちゃん……おりむーという一夏のあだ名といい、不思議なネーミングセンスだ。
でもあだ名で更識さんのことを呼ぶとは、更識さんと友達なんだ。
「うーん、まあ一応~?」
微妙な反応。
というか、聞き返させないでほしい。
「ごめんごめん。幼馴染って奴になるのかな~君だけにこそっと教えると厳密に言うなら主従関係になるんだよ~」
主従関係……ご主人様とメイドとかといった奴だろうか。
安易な想像が口から出た。
「そうそう、それ~私こう見えてもメイド歴長いベテランなんだよっ!」
えっへんと胸を張る布仏さん。
そういうのって本当にあるのか。
オルコットみたいな本物の貴族もいるし、ISはいろいろと金がかかる競技だからクラスにも他に金持ちは確かにいるが。
「チッチッチッ~! かんちゃんはそんじょそこらのお金持ちじゃないんだよ~由緒正しい名家のお嬢様なんだから」
納得した。
そう言われると、こう気品を感じるというか何と言うか。
そうか……それでか。
大切な主人に男がこれ以上近づくのはよくないと警告しに。
「いや、そういうのじゃないから。考えすぎだよ~。まったくもう~君は生真面目さんだなあ~珍しくかんちゃんのほうから話しかけてきて、君のこと聞いてきたから気になって。どういう関係なのかなぁっと思って」
どういう関係……どういう関係なんだろう。
友達ではないし、顔見知りではもうないし……同級生の話し相手あたりだろうか。
「私に聞かないでよ~さっきの仕返し~? でも、友達じゃないんだ。あんな楽しそうなかんちゃん久しぶりに見たからてっきりお友達できたんだと思ったんだけどなあ~」
布仏さんは残念そうだった。
そんな顔されても困る。つい最近ようやく会話する間柄になったばかりだ。友達というほど親しくはないのは事実なのだから、勝手に友達を名乗ったら更識さんにきっと嫌な思いさせるはず。
というか、更識さんは布仏さんに俺のどんなことを聞いたんだろうか。そっちの方が気になる。
「それは秘密だよ~兎も角、私としてはこれからもかんちゃんと変らず仲良くしてほしいな~って。でも、分かっていると思うけど」
のほほんとしたほがらかな微笑を浮かべながらも、どこか真剣味を感じさせる布仏さん。
いつもののほほんとした雰囲気はそこにはない。
思わず、息を呑む。
「かんちゃんを傷つけるようなことや泣かせるようなことあったら絶対許さないからね。それだけは覚えといて。絶対に」
布仏さんは、言い聞かすように言ってきた。
釘刺されたんだろう。そんなことするつもりはないが、そうならないように誠意を見せ続けよう。
万が一、そうなったら罰を受ける覚悟だ。
「そこまで言うんなら信じてるからね。かんちゃんのことよっろしく~」
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更識さんと会話するようになったが、しょっちゅう会話するわけではない。
会話する時間よりも今みたいにお互い無言で自分のことをやっている時間の方が多い。
第一、更識さんと会話する為に整備室に来ているわけじゃない。
それでも話し始めると長くはなる。盛り上がれる共通の話題というのはやはり強い。
ちなみにだが話すのはもっぱらヒーローもの作品についてだ。一昔前にあったヒーローアニメや特撮戦隊や特撮ライダーの話題が多い。
更識さんは本当に特撮ヒーロー物やヒーローアニメが好きなようで、内容が結構マニアックだ。正直ミーハー程度の知識しかない俺はほとんど聞いていることの方が多いけども、聞いているだけでも凄く楽しい。興味を惹かれる。おかげで最近は勉強の息抜きでまた見直すようになって、そのおもしろさを実感するほどだ。
何より、話している時の更識さんは凄く楽しそうで、そんな彼女の姿を見るのはとても楽しい一時だ。
そしてふと、ここに来る前にあった布仏さんとのことを思い出した。
そういえばこんなことがあったんだ的なノリで趣味以外の会話をしようと思い、邪魔しないタイミングで更識さんに声をかけてみた。
「はっ、はい!?」
体を震わせ、背筋をピンと伸ばす更識さん。凄いビックリされてしまった。
もう毎度のことだがそんなにビックリされるとちょっと傷つく。
「ごめんなさい……! その、あのっ……やっぱりまだ、お、男の人と話しなれてなくて……今まで身内の男性以外とまともに話したことがなかったから」
今度は申し訳なさそうに言われてしまった。若干、怯えてる様にも見える。
趣味の話に熱が篭るまで毎回こんな感じだ。大丈夫なんだろうか。毎回こうだと無理に話につき合わせているんじゃないかとつい思ってしまう。
「そ、そんなことないです……! 本当に大丈夫ですから……! 貴方とお話しするの……本当に楽しいですっ……!」
それならいいんだけど。
これ以上気にしても堂々巡りしかしなさそうなので驚かせてしまったことを謝りつつ、さっき布仏さんと話したことを言った。
「本音と話……あの子失礼なことしたり、言ったりしてませんか……? その……なんと言うかあの子見ての通り、のんびりしてるっていえばいいのか……凄くふわふわしてる子だから」
失礼なんてとんでもない。
むしろ、布仏さんにはよくしてもらっている。クラスに溶け込めてると感じられるのは、布仏さんのおかげも大きい。
変なことではないけど……友達なのかどうかは聞かれた。
「と、友達……!?」
更識さんが目を見開くぐらい驚いていた。当たり前か。
ただ整備室を一緒に利用するようになって、少し話すようになった話し相手だ、やっぱり。
「……っ、話し相手……そ、そうですよね……うん、そう……うん」
ショックを受けたようにしょんぼりした様子で更識さんは一人納得していた。
いや、これは納得しようとしている。
「……」
俯いたまま何も話さなくなる更識さん。
なんだ、これは。とても気まずい。もしかして……もしかしなくても俺は失言してしまった。
少し話すようになった男に友達だと思われていたら女子は気持ち悪いと思うと聞いたことがあるから、そういうものだと思っていたのが間違いだったんだろうか。
分からない。こういう時の女子との接し方がまったく分からない。どう言えば、よかったんだ。一夏なら上手くやっていんだろうが、俺は一夏ではない。一体どうしたら。
あれこれ考えを巡らせるものの、友達ではないのもやはり事実。
ここはいっそ、この機会に更識さんと友達になるとか……いや、更識さんが俺をどう思っているかは定かではない。
更識さんと友達になりたくないわけじゃない。むしろ、友達になってもらいたいぐらいだ。
情けない話、IS学園に入学して仲のいいクラスメイトはそこそこいても、友達と呼べるような相手は一夏以外いない。女友達なら尚更だ。
友達ぐらい改まってお願いするものではないが、相手は女子。形は大切だ。更識さんへ、良かったら自分と友達になっていただけませんかと言ってみた。
「えっ?」
今度は目を丸くしてビックリしている。
やはり、急すぎたりしたんだろうか。
「い、いいんですか……? わ、私……何かが友達になっても……」
申し訳なそうに更識さんは俯き加減にこちらを見る。
また自分を蔑むようなことを言う。更識さんがいいんだ。
せっかくこうして話し出来る様にまでなったのだから。
「そ、そうなんですか……――っ、あの! 不束者ですけど……これからはお、お友達、としてよろしくおねがいします……!」
初めて会話らしい会話をした時のように更識さんは深々とお辞儀していた。
こちらこそ。同じ様に俺もまた深々とお辞儀した。
何だか変な感じだ。でも、こういう始まりもきっとありなんじゃないんだろうか。
「ふふっ、そうですね」
更識さんは嬉しそうに柔らかく笑ってくれた。
そうだ。敬語。
折角友達になったのだから、お互い敬語はなしのほうがいい。
敬語というのはどうしても壁を感じるし、敬語をやめることで関係性の変化を自覚しやすい。
「えぇっ!? そんな急には……」
今の今までお互いずっと敬語で話していたから、いきなりは難しいだろう。
提案した俺だって敬語でまた言ってしまったのだから抜けきってないが、少しずつ普通に話せるよう慣れていけたらと思う。共に頑張ってみたい。
「分かりました……っ、頑張ってみます……! ぁ……が、頑張るっ」
宣言していきなり一人だけ敬語を使ってしまったことに気づいた更識さんは罰が悪そうに俯く。
何だか可愛い人だ。
微笑ましくなって笑ってしまうと、恥ずかしそうに頬を赤くしながら抗議する更識さんの姿もまた可愛らしい。
「も、もうっ、笑わないでっ」
照れる更識さんの様子は乙なものだった。
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