【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜   作:シート

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第三十話 簪と進める打鉄・弐式開発

 手伝う約束をした日から一日あけた翌々日のこと。

 一昨日から始まった早朝ランニングも今日で三日目。ここ三日、天気に恵まれ走りやすかった。

 今は走り終え寮の前に戻ってきた。そして一息つきながらランニング後のストレッチをしている最中。

 

「確認なんだけど……この後のこと。昨日メッセで伝えたこと忘れてないよね……?」

 

 確認されるのはこれで何度目なんだろうか。

 ゆうに片手にある指の数分は越えている。

 

「あ……ご、ごめんなさい」

 

 簪も自分でまた行った事に気づいて申し訳なさそうな顔を浮かべる。

 まあ、それだけ心配ということなんだろう。

 今日は弐式の運用試験当日。その知らせが昨日の夕方頃メッセで来た。

 これだけ沢山確認されれば忘れられない。

 もっともこんな早くとは思ってなかった。ISをたった一人で開発するというのはどの工程も恐ろしい時間がかかる。

 簪は昨日一昨日と早朝ランニング以外一日中部屋に篭っていたとは言え、素人ながらにでも分かる凄まじい速さ。流石だ。

 

「それは言うのはまだ早い。頑張らないといけないのはこれから」

 

 それもそうだ。

 手伝うといったからには邪魔にならないよう精一杯頑張らなければ。

 運用試験は朝食食べたらすぐやるとのことだった。

 

「朝早くからになるけど……よろしくね」

 

 こちらこそ。そう頷いてみせた。

 

 

 

 簪と別れた後、身支度を済ませるとひとまず朝食を食べに食堂へ来た。

 夏休みの朝ともなるとほとんどの人が遅起きなのか周りに人は少ない。いても本当に数人。

 IS学園は部活動も夏休みの間は基本的に休部なので尚更早く起きてくる人は少ない。

 丁度いい。

 

「よっ、おはよう!」

 

 静かな朝は突如として終わりを迎えた。

 一夏達が起きてきた。

 いつものこと。そろそろ起きてくるだろうと思っていたからいいが少し残念だ。

 今日も一夏以外は篠ノ之とボーデヴィッヒの二人だけ。珍しい組み合わせだが夏休みに入ってからずっとこうだ。

 

「ああ、おはよう。今日も早起きとは関心だ」

 

「おはよう。まったくだな」

 

 二人にも挨拶を返す。

 他の人達はまだ寝ているのか。

 

「ああ。シャルルならまだ寝ていたぞ」

 

「静寐もまだ寝ていたな。まあ、他の者も夏休みだから起きてくるのにはまだかかるだろう」

 

 そんなことを言いながら一夏を二人で挟むようにして席に着いた。

 

「そう言えば、今日も朝錬やってたんだよな。更識さんと」

 

 一昨日朝のランニングのことを聞かれ、簪と一緒にやっていることはその時話した。

 なので誤魔化す必要もなく頷いた。

 それが何かあるんだろうか。

 

「いや、な。折角夏休みだから時間あるし俺も一緒にやろかな……って、お前嫌そうな顔するなよ」

 

 そう言われても一夏には以前三日坊主になった前科があるから仕方ないと思う。

 

「うっ……それを言われると辛い」

 

「三日坊主で終わったのは頂けないが、またやろうと思うのは素晴らしいことだ。流石は私の嫁。よしっ、私が朝も特別教官してやろう。遠慮しなくていい夫として当然だ」

 

「私も付きやってやろう。何、同じ篠ノ之流の門下生、姉弟子として弟弟子の面倒を見るのは当たり前だからな」

 

「お、おう……あ、ありがとな?」

 

 二人の圧に押されて一夏は疑問系に言った。

 結局こうなった。分かっていたからいつものことだぐらいにしか思わないし、一夏達が朝ランニングする分には勝手にしたらいい。

 でも、せめて他所でやってほしい。朝から隣が騒がしいのは嫌だ。

 

「冷たいな。あっ! 分かった! そう言うことか。なるほどな。まあ、二人っきりのほうがいいよな」

 

「一夏、今いやらしい顔してるぞ。気持ちも分からんでもないが」

 

「私も分かるぞ。嫁とは二人っきりのほうがいい。のらりくらりとやってる割にはお前も隅に置けんな」

 

 三人揃って嫌な笑みを向けてくる。

 飽きないな。本当に。

 他人のは何とやらと言った感じなんだろう。

 適当に受け流しつつ朝食を食べ進める。

 

「っと噂をしてたら何やらだぞ。おーい更識さんこっちこっち」

 

 食堂に入ってきた簪を見つけて一夏が呼ぶ。

 

「……」

 

 目があった。

 一瞬このテーブルのメンツを見て何か思った様子だったが。

 分かったと会釈すると先にカウンターで朝食を受け取り、簪はテーブルへとやってきた。

 

「……皆、おはよう」

 

「おはようっ。更識さん」

 

「おはよう更識」

 

「更識おはよう」

 

「……隣、いい……?」

 

 返事すると簪は隣の席に座る。

 

「ありがとう……いただきます」

 

 食事の挨拶をしてから食べ始めた。

 部屋に戻ってシャワーでも浴びてきたのか、いい匂いがする。

 いや、これはいい。最近輪にかけていろいろなことが無意識のうちに気になってしまう。

 ちなみに服装は学園の制服だった。 

 それに一夏は気になったらしく。

 

「あれ? 更識さん何で制服なんだ?」

 

「……朝ごはんの後、学園のほうに用事があって……」

 

「それってこいつも関係ある奴?」

 

「えっと……まあ、うん」

 

 今日のことは一夏にも知らせてあった。

 というか昨日の夜、明日の予定を聞かれて運用試験のことをそれとなく答えたので一夏は知っている。

 

「そっか。確か更識さんの専用機のことするんだったよな? 白式についていろいろ調べたら白式と打鉄弐式って同じ倉持で作られたらしいから何か役に立てるかもしれないし、よかったら力を貸すぜ。遠慮なく言ってくれよな」

 

 一夏が親切心から言ってくれたのはよく分かる。

 ただいろいろ事情を知っている身からするとこの発言は何処かヒヤヒヤするものがある。

 

「ありがとう、織斑さん。機会があればお願いするかもしれない……その時は、よろしくね」

 

「おう任せろ!」

 

 意外と言えば意外な展開だった

 簪は特に気にした様子もなく当たり障りのない返事をしていた。

 これはもしかしなくても心配しすぎ。杞憂だったのか。

 

 

「えっ……? 朝のこと……?」

 

 朝食後。

 所変ってアリーナ。

 ISスーツに着替えた俺達は運用試験をする為ここへやってきていた。

 そして今準備運動をしながら朝のことを聞いてみたが、案の定きょとんとした。

 

「ああ……あれ。ビックリしたよね」

 

 なんてことないかのように言う簪。

 やはり気にした様子はない。

 

「織斑さんがただ善意で言ってくれたのは私にでも分かるし。気にしてない、思うところがないって言えば、嘘になるけど……済んだことだから」

 

 簪がそう言うのならそうなんだろう。

 

「それよりも私にはやらないといけないことがあるから気にしてる余裕ない。集中しないと」

 

 ならこれは杞憂だったらしい。

 余計なお世話をしてしまった。

 

「ううん、気にしないで……心配してくれたんだよね、ありがとう。でも本当、ビックリした。ああいうことさらっと言えちゃうの流石織斑さんって感じするよ」

 

 それについては激しく同意だ。

 底なしにいいい奴なんだ、一夏は。言葉の全てが嘘偽りない本心。いつも誰かの為に頑張り続ける男。

 実際、この運用試験も手伝おうとしてくれた。まあ、あいつはあの五人との訓練とかで忙しくて叶わなかったが。

 しかし、あれだけでなくたまにとんでもないことを言うからヒヤヒヤさせられる。

 

「思ったことあまり考えずそのまますっと言ってるんだろうね。いっぱいおもわせぶりなこと言われるんだろな……あれは篠ノ之さん達すっごく苦労しそう……うん」

 

 簪はまるで他人事のよう。

 実際、他人事なわけだが。

 

「さて、と……準備いい……? そろそろ始めたい」

 

 無駄話はここまで

 準備完了したので、一足先に自分の機体を展開し、今から弐式をモニタリング投影ディスプレイを表示する。

 いつもでも始められる。

 

「じゃあ、始めよう。ふぅ……よし――来て、『打鉄・弐式』」

 

 その呼びかけと共に瞬間簪の体は淡い光に包まれ、光が解けたと同時に装甲に身を包んでいた。

 これが簪の専用機。

 

「うん……これが純日本製第三世代IS打鉄・弐式。どう、かな……?」

 

 そう言えば、こうして展開状態を見にまとった姿を見るのは初めてだ。

 普段見ていたのは展開待機状態だったからこうして見るといろいろな発見があった。

 機体名とさっきの言葉から分かる通り、弐式は打鉄の後継機で発展型。

 ただ防御型の打鉄と違って、弐式は高機動重視の攻撃型と言えばいいんだろうか。

 打鉄にあった武者鎧の当世袖を模した袖部装甲とスカートアーマーは廃止され、代わりに大型のウィングスラスターになっており、スカート部は左右それぞれ独立したスラビライザー付きウィングスカートになっていた。

 重量感と無骨な印象を感じさせる打鉄とは違い、全体的にスマートな印象を受ける。

 ぱっと見打鉄と共通点はないように見えたが、腕部や脚部の装甲が打鉄のものと通ずる。

 紛うことなき打鉄の後継機、発展型。

 かっこいいな。ISらしく近未来感があって好きなデザインだ。

 

「ありがとう……嬉しい」

 

 ISとその使い手は一心同体。

 簪は自分のことのようにはにかんで喜んでいた。

 

 武装はどうなっているんだろうか。

 

「えっと……まずはマルチロックオンシステムで撃つ高性能誘導八連装ミサイル『山嵐』が六門」

 

 空間投影型のキーボードを展開しながら簪は武装を説明してくれる。

 さっき注目した大型ウィングスラスターとスカート部のスラビライザー付きウィングスカートがミサイルコンテナのようだ。

 ミサイルだけでもう打鉄の基本装備の火力を凌駕してる。

 

「次は……荷電粒子砲『春雷』が二門」

 

 見せてくれたのは両腰の一番端にある二門の武装。

 ジャキンと砲身の先が伸びた。

 凄い高火力があるのだろう。しかも荷電粒子砲と言えば、一夏の白式にもあったな。そういうところも同じところで作られた影響。言うならば、兄弟機の関係があるんだろうか。

 

「最後に……対複合装甲用超振動薙刀『夢現』が一振り」

 

 現れたのは簪の身体ほどの長さがある一振りの薙刀。

 この三つの武装を駆使して打鉄弐式は戦うようだ。

 

「まあ、ちゃんと使えるのは薙刀だけなんだけどね。ミサイルはマルチロックオンシステムはまだ完成してないし、荷電粒子砲も撃てるけど今のままだと一、二発でエネルギー全部使い切っちゃうから出力制御と収束率の調整は続けないと」

 

 大体分かった。

 ということはまず、武装の調整からになるのか。

 

「ううん、まずは普通に機体を動かすテストから。よし……ヘッドギアとハイパーセンサー及び機体システムのデータリンク完了。機体システム正常……打鉄と弐式のデータリンク確認」

 

 こちらのディスプレイにも確認の文字が表示される。

 

皮膜装甲(スキンバリア)、エネルギーシールド 展開……展開確認。PIC始動」

 

 こちらでも……皮膜装甲(スキンバリア)とエネルギーシールドの展開を確認すると、弐式がゆっくりと浮き始めた。

 俺の方でモニタリングしている画面でも弐式が正常に動いているのが確認できる。

 

 そして簪はそのまま辺りを移動する。

 続いて簪は腕や足を簡単に動かして稼動範囲や動きを確認していた。

 

「打鉄使ってた時より違和感はあるけど許容範囲。地上での通常移動と動きはひとまず問題なし。次、上昇して空中での動き確認するからモニタリングと万が一の時の補助お願い」

 

 了解してまた先に上空へ上がり待機する。

 

「ウィングスラスター、よし……――!」

 

 簪は跳ねるように一気に上空へと飛び上がった。

 

「よかった……飛べてる」

 

 ホバリングしながら簪は胸を撫で下ろしたような安堵の表情を浮かべる。

 それから簪は空中でも辺りを地上の時のように動き回ったり、また腕や足を簡単に動かして動作を確認する。

 順調そのものだ。モニタリングしてる画面にも正常な数値や情報などが表示されている。

 正直なところ一応完成したとはいえトラブルが起きるんじゃないかと心配だったが、この調子なら大丈夫そうだ。

 

「次は高速機動試験始めるから。高速機動での上空旋回の後、急降下。安全な体勢で地上に着地できるか確認したい。いい……?」

 

 頷いて空中から降りて今度は地上で備える。

 俺が降りたのを簪は確認するとスラスターを吹かし、機体に速度を乗せ加速していく。

 高加速で大きな円を描くように一周する。

 これまた順調そうだ。ちゃんと高速機動に入れている。

 

「行くよ……!」

 

 その言葉と共に簪は円を描いた状態から止まることなく急降下してくる。

 最中、衝撃緩和用にエネルギーシールドが再展開されたのが確認できた。

 しかし、それは一瞬で展開が終了した。

 簪が自ら展開をやめたのではない。強制的に展開が終ったのだ。

 所謂エラー。その文字がモニタリング用のモニターにも表示される。

 そのエラーがスラスターや姿勢制御機能にまで干渉したのか、姿勢を崩して危険な格好で落下してくる。

 

「……っ!」

 

 焦る簪の表情を俺の打鉄のハイパーセンサーが捉える。

 まずい。このままでは簪が機体ごと地面と激突してしまう。

 焦りから俺は簪の名前を強く叫ぶ。

 落下位置を予測して待ち構える。結構無茶な方法だが落ちてくる簪を無理やりにでも受け止め、こちらの防御機能で衝撃諸々を相殺しなければ簪が。

 

「だい、じょうぶ……!」

 

 焦る俺とは対照的に簪は至極落ち着いた手付きで開いたコンソールをしながらエラーを落下しながら修正してく。

 凄いタイピング速度だ。しかも、ちゃんと崩した姿勢も徐々に安定したものへと変えていく。

 

「くっ……!」

 

 ギリギリのところで安定姿勢をとった簪は無事地上に降り立てた。

 

「ごめんなさい。心配かけ、わぁああっ……!」

 

 よろけてこけそうになった簪に手を伸ばし体で受け止められた。

 落下したのといい今のといいヒヤヒヤだ。

 

「うぅっ……ごめんなさい……」

 

 攻めるような言い方をしてしまったのかもしれないがそうじゃない。

 見たところ怪我や痛めたところとかはないみたいだ。

 

「うん、大丈夫……おかげさまで」

 

 ならひとまず安心だ。

 無事でよかった。俺よりも落ち着いて対処していたし当然と言えば当然か。

 落ち着いてエラーを対処しつつ安定した姿勢をとっていたのは流石だ。

 俺の出る幕なかった。

 

「そんなことない……実際今助けてもらったばかりだし。それにエラーが出た時、あなたがいてくれたから落ち着いて対応できた。私一人だったら今頃大事故になってた」

 

 そう小さく笑っていってもらえるののなら少しは自身持てる。

 で、話は変るがこれからどうするのだろう。

 エラーを修正したからまた移動試験の続きあたりだろうか。

 

「うーん……そうしたいのは山々何だけどさっきのエラー箇所もう一度見直したいし、他にもいろいろ修正したい箇所あるから少し時間、もらってもいい……?」

 

 全然構わない。

 やはり、実際に機体を動かして分かったことや気になった所はあるのだろう。

 自分にもそういう経験は何度かある。

 

「うん……当たり前だけどシミュレーターと今実際に動かすのじゃ全然違う。調整完璧にしてきたつもりだったけど甘かった。やっぱり、エネルギーシールドのここの数値をこうして……姿勢制御システムのここを……」

 

 コンソールとディスプレイを展開すると簪はぶつぶつ言いながら調整しだす。

 やる気そのものだ。それはいいけども、このままここでやるのはやめたほうがいい。

 アリーナに来て運用試験を始めてから結構な時間が経つ。日も昇って大分外は暑くなってきた。

 だから、我が侭言うと調整するならせめて日陰に行きたい。

 

「そ、それもそうだね……つい夢中になっちゃって……あなたもずっと立ちっぱなしで疲れたでしょ。 ピットで休憩しよ」

 

 俺達は一度ピットに向かった。

 

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