【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜   作:シート

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第三十五話 簪の行く道はどこまでも険しい

「……」

 

 隣で昼飯を食べる簪の手はあまり進んでいない。

 いつもこんな感じと言えば、こんな感じだが今日のことでまた緊張しているのだろうか。

 

「……う、うん……ごめんなさい、緊張しやすくて……」

 

 謝るようなことではない。

 緊張して当然だ。今日、この後のことも簪にとって一大事。

 

 簪と本音に黛先輩と整備科のことを話した後、簪には黛先輩の連絡先を伝えた。

 それが先日の出来事で、一日経った今日は黛先輩が声をかける整備科の人達と簪が一度顔を会わせる日。

 ちなみにこの後、お昼過ぎに会う予定とのこと。

 

 緊張している彼女をこういう時、どう言葉をかければいいのか。

 頑張れというのは何だか無責任な気がする。

 だから、応援していると気の効かない言葉しかかけることが出来なかった。

 

「ありがとう……あなたの言葉ならどんな言葉でも力、沸いてくる。頑張る」

 

 真っ直ぐな眼差しを向けながら言われると言葉も相まって、照れくさいが俺も真っ直ぐ受け止める。

 上手くいくよう祈ろう。

 

「って、私いるの忘れてない~? 二人の世界に入らないでよ~!」

 

 忘れてないし、入ってもいない。

 

「あ……本音居たんだ」

 

「ひどい!」

 

 簪、本音相手になると扱いが凄いな。

 仲の良さあってのことなんだろうが。

 

「嘘嘘……冗談だから」

 

「かんちゃんの冗談は心臓に悪いよ~」

 

「ごめんなさい……本音、よろしくね」

 

「それはもちろん!」

 

 本音は自信満々の様子で胸を張った。

 顔合わせには本音も立ち会うことになっている。

 俺は立ち会えない。立ち会うべきでもないだろう。

 だから、ここは心配であるが本音に簪を頼むしかない。

 

「うんっ! まっかせて~! かんちゃんを清い体のままお見せするよ」

 

「何それ……もうっ」

 

「あはは~」

 

 和やかな空気が流れている。

 楽しげに簪は笑っていて、もうすっかり緊張は解れたようだ。 

 

 

「じゃあ、また夕飯の時にな!」

 

 一夏のその言葉に返事を返して更衣室を出た俺達は別れた。

 これから一夏はあの五人の元へといくらしい。

 そんなことには付き合ってられないので俺は一人寮へと帰る。

 

 簪と本音が顔合わせに行った後、俺はいつもと変らず一夏との訓練に行った。

 今丁度終ったところ。内容はさして語るほどでもなくいつも通り。

 時間は夕方。流石にもう顔合わせは思っているだろう。

 スマホには特に簪や本音からの連絡はなかった。まあ、わざわざ知らせるようなことでもないか。

 もしかすると、顔合わせから具体的な話し合いに進んでいるのかもしれない。

 

 そんなことを考えていると寮に着いた。

 中に入ると玄関の横にある談話スペースに見知った人達を見た。

 

「……」

 

「はぁ……」

 

 珍しくあからさまに怒っている本音。

 それから落ち込んでいる。いや、そんな本音に飽きれている簪の二人が居た。

 見かけたのにこのまま通り過ぎるのもアレだ。ひとまず声をかけた。

 

「あ……お疲れ様」

 

 普通に返してはくれた。

 深くは落ち込んでないみたいだ。

 

「えっと、とりあえず……座る……?」

 

 言われて簪の隣に座る。

 簪はいいとして、本音はまだ怒っている。

 初めて見たこんな本音。叫ぶような怒り方でなく、ただ静かに怒っている。これは初めて見ただけでも本気で怒っているのが分かる。

 何かあったに間違い。その何かとなると思い当たるのは顔合わせ。そこで何かあったんだろ。

 それに顔合わせが結果的にどうなったの気になる。本音の様子を見る限り、上手くはいかなかったのは想像つくが。

 

「……あの、ね……整備科の人達の話なんだけど……」

 

 簪の方から話を切り出してくれた。

 

「ごめんなさい……断られちゃった」

 

 思ったとおりではあった。

 しかし簪はショック受けてないどころか、まったく気にしてない。

 

「思うものがないわけじゃない……でも、気にしたところで事実はどうしようないから。それに先輩達には悪いけど最初から断られるの覚悟したし、実際顔合わせた瞬間の相手の反応からしてすぐ無理だって分かったから軽症で済んだ。むしろ、今まで運がよ過ぎた」

 

 しっかりとした口調で言う簪の姿には強さすら感じられた。

 簪の気持ちは分かった。

 だとすると本音は一体何に怒っているんだろうか。やはり、断られたことで?

 

「それは……ほ、ほら、本音、いい加減機嫌直す。済んだことだから……いいでしょもう」

 

「よくないよ! あったまに来る! 先輩達が言った事許せない! かんちゃんのこと馬鹿にして、かんちゃんは別に彼のことを!」

 

「本音っ!」

 

「っ!」

 

 簪の語気の強い呼びかけに本音は押し黙った。

 具体的にどういうことを言われたのかは分からないが、間違いなく俺のことを言われて断られたんだ。

 悪いことをした。俺がいなければ、言われる必要もなかった。

 

「気にしないで……って言っても気にするだろうけど……むしろ、こんなこと聞かせてしまって私のほうこそごめんなさい」

 

 簪が謝ることはないだろうに。

 

「かんちゃん、お、怒ってる?」

 

「……当たり前でしょ。本音が私のことを思ってくれてるのは分かる。でも、あんなこと彼には聞かれたくなった」

 

「うっ~……ご、ごめんなさい」

 

「謝るのは私にじゃない」

 

「はいぃ……ごめんね」

 

 曖昧に頷くことしかできなかった。

 

「黛先輩にも改めて謝らないと」

 

 まさか大事になったのか。

 

「違う違う~言い返さない私達にガァーって言い続ける整備科の先輩達を何度も宥めてくれたの~」

 

「うん……黛先輩、板ばさみみたいになっちゃって……」

 

 それは一言言っておいた方がよさそうだ。

 

「……さて。気持ちの切り替え……これからどうするのか考えないと」

 

「これからって~?」

 

「これからはこれから。今以上の開発するにはどうしても人手がいるけど今回のこれじゃあ余計に難しくなっただろうね。今回のこと伝わるだろうし、元々夏休みで人が少ない。ダメもとで整備科の先生にも相談してみようかな」

 

 簪はもう前を見て動き出そうとしていた。

 凄いな。

 

「そんなことない……断られたからって私がやめる理由にはならないだけ。ダメならダメなりに他の方法模索、でしょ……?」

 

 微笑み混じりにそう簪は言った。 

 簪は確かに強くなった。変っていっている。

 そんな彼女に俺は何をしてあげられる。

 どうすれば力になれるのだろうか。それはまだ見えない。

 

 

 

 

 夜となると人の減りが目立つ寮食堂。

 賑やかな場所であるが、夏休み前と比べてしまうと随分静かになった。

 

「寂しくなったよな……」

 

「分かる~寂しいよね~」

 

 隣で飯食ってる一夏と前のほうで食べている本音は本気で寂しがっている。

 らしいと言えばらしいが、このぐらいの方が食べるのには丁度いい。

 

「かんちゃんもそう思うでしょ」

 

「……」

 

本音の呼びかけに簪の反応はない。

難しい顔しながら黙々と食べ進めている。

そんな様子を見て本音は心配そうにもう一度呼びかけた。

 

「かんちゃん、大丈夫?」

 

「あ……ごめん。私も、このぐらいほうがいい……」

 

 話は聞いていたようだ。

 隣で同じ様に食べている簪は同意してくれた。

 あの騒がしさは嫌じゃないが、結構うるさいものがある。

 

「更識さんまで。連れないな……」

 

 そういうものか、これは。

 

「だってそうだろ。明日からセシリア、イギリスに帰ってしまうし……」

 

「わ、私ですか!? 一夏さんは私が居なくなると寂しいと!?」

 

「そりゃもちろん。こうやって皆でワイワイ賑やかに過せなくなるからなぁ」

 

 一夏らしい無難な答え。

 怖かった周りの目も穏やかになったが、セシリアはガックリ落ち込んでいる。

 

「そ、そうですわわね……ま、まあ、私も一夏さんと同じく寂しい思いではありますが、イギリス代表候補、そしてオルコット家当主。夏休みとは言え、やらなければならないことは山済みですから」

 

「うへぇ~大変だな、やっぱ代表候補ってのは。他の皆は国に帰ったりしなくてもいいのか?」

 

「何度も言っているでしょ。この時期に国に帰ったらいろいろと大変なのよ。代表候補のことは日本にできるわけだし」

 

「僕も似た様な感じかな。帰る気しないってのもあるけど」

 

「だな。部隊のことは気になるが概ねのことは画面越しでどうにでもなる。何より、私の帰る場所は嫁のところだけだ」

 

 代表候補もいろいろとあるんだな。

 

「更識さんも夏休み帰らないんだよな?」

 

「……えっ? ああ……私……? まあ……その、いろいろ学園でやりたいことある、から……」

 

「そっか」

 

 そういう一夏もそろそろ地元に戻るとか言っていたのを思い出す。

 

「ああ。家の様子見ておきたいし、地元の友達とも遊びたいからさ。何より、箒……篠ノ之神社の夏祭りも行くから盆過ぎまでいるかな」

 

 結構長くいるんだな。

 まあ、一度帰ったら始業式の前の日まで帰って来ない生徒がほとんどらしいから一夏も例に洩れずか。

 といった感じで夏休みの話題で盛り上がる。というか、一夏に家に遊びに行く行かないの話題で騒がしい。

 けれど、俺が気になったのは簪のことだ。

 

「……」

 

 また難しい顔して食べている。

 いつもより反応が悪かったから、おそらく考え事でもしているんだろう。

 簪が今考えそうなことと言えば、弐式の開発についてだ。

 時間がおしいといったあたりなのだろうが、隣でそんな難しい顔をされては心配してしまう。

 

 一方で俺が心配しても仕方ない気もしてしまう。

 ご飯はちゃんと食べていて、受け答えも反応が遅いだけでしっかりしている。

 今は考えていたい時だろうし、そっとしておくべきなのか……。

 

 

 

 それは食べ終えた食器を簪と一緒にキッチンの方へ返した時だった。

 

「更識さん達、ちょっといいですか?」

 

 声をかけてきたのは先に部屋に戻った四十院さんだった。

 

「大丈夫ですけど……何かあったんですか?」

 

「いえ、そこで黛先輩と会って……お二人に用があるとかで今、玄関先の談話スペースで待っているんですけど」

 

「黛先輩が……」

 

 確かめるようにこちらを見てくる簪と目が合う。

 先輩がどちらか一方でなく二人に用があるのなら、間違いなく整備科のことなんだろう。

 それぐらいしか思いつかない。しかし、何の為に。

 

「分かりました。四十院さん、わざわざありがとうございます」

 

「いえ」

 

 四十院さんは軽く会釈すると友達の方へといった。

 待ってくれているのなら、行くしかないか。

 

「うん……行こう」

 

 簪は頷き、共に玄関先へと向かう。

 すると教えられた通り、、談話スペースに黛先輩がいた。

 

「こんばんは。ごめんなさいね、呼び出して」

 

「こんばんは……それはいいんですけど、あの……どうかしたんですか……?」

 

 早速簪が問いかけた。

 

「いや、その、ね……謝っておこうと思って、昼間のこと。大口叩いたわりにはあんなことなっちゃったばかりか、あの子達の暴言とめられなくて……本当、ごめんなさい」

 

「せ、先輩……!?」

 

 頭を下げて謝られ簪と俺はビックリする。

 表情を見るに本気で謝っている。

 悪気を感じているのは分かるが、こう頭を下げられるとこっちまで悪気を感じてくる。

 というか先輩、案外真面目な人なんだな。

 

「や、やめて下さい……黛先輩が謝るようなことじゃないです。ああなったのは私の態度が悪かっただけかもしれませんし……本当、大丈夫です。私の方こそすみませんでした。黛先輩には仲裁してもらうばかりか、板ばさみにしてしまって」

 

「あれは流石にいくらなんでも言いすぎだから止めないといけなかったしいいのよ、謝らなくても。本音ちゃんの機嫌はどう? あんな怒った本音ちゃん見たの始めてだったからビックリしたわよ」

 

「機嫌のほうはもうすっかり……すみません、ご心配おかけして」

 

「いいってば、謝らなくて」

 

 お互い謝りあって一応話はついたみたいだ。

 わざわざ直接顔を合わせてなんて大げさな気もするが、これでよかったんだろう。

 しかし、この流れなら俺いらなかったのでは。

 

「君にも謝っておきたくてね。期待しないでとは言ったけどこんなことになったわけだし、それにその……あんなこと言われたって知ったら、流石の男子でも気分悪くしちゃうだろうし」

 

 あんなことが具体的にどんなこかは知らない。

 だが、ここは知っている風な反応をして曖昧に頷いておいた。

 どんなことを言われたか大体想像つくが知らないことを知られれば、それはそれでまたややこいことになりかねない。

 横目でチラっと見えた暗く複雑そうな顔をする簪を見る限り、言った内容は知られたくないようだから。

 

「そろそろ私戻るわね」

 

「……はい。今日はいろいろとありがとうございました」

 

「まあ、私個人でも力貸すから何か困ったことがあったら言って遠慮なく頂戴。じゃあ、おやすみっ」

 

「おやすみなさい」

 

 俺も同じ様に先輩に言葉をかけ、簪と共に帰っていくのを見送った。

 

 俺達は談話スペースにぽつんと取り残された。

 どうしたものか。

 いや、ことは済んだのだからとっとと解散して、自室に戻るなりすればいい。

 

「……」

 

 でも、俯き沈んでいる簪が隣に居るのにそれを見てみぬ振りは出来ない。

 そっとしておくべきなのかもしれない。変に心配したところで仕方ない。何かできるわけじゃない。むしろ、何かすることで傷つけてしまうかもしれない。分かってる。

 分かっているけど、やはり簪をこのまま放っておけなかった。

 

 部屋へと誘うことにした。

 

「……」

 

 俯いていた簪が顔を上げ、俺の目を見る。

 

 何を言っているんだ、俺は。

 急すぎる。こんな夜に誘われても困らせるだけだろ。

 このままここにいても気分は変らないだろうから、場所を変えて気分転換でもと思ったがいくらなんでもこれは……。

 

「行く」

 

 はっきりと聞こえた。

 だが、そう言ってもらえるなんて思ってなかったから、聞き返してしまう。

 それでも簪の言葉は変らない。

 

「行く」

 

こうもはっきり言われては引き下がるに引き下がれない。

分かったと頷き、俺達は部屋へと向かった。

 

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