【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜   作:シート

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第三十七話―幕間ー彼への想い、私の思いはどこまでも……

「ほいじゃあ、電気消すよ~」

 

 本音の言葉と共に部屋の明かりは消え、暗くなる。

 布団に入ったのはいいけど眠くない。眠気がまったくない。

 けれど、明日も早いから布団の中でじっとして早く寝られるようにしないといけない。

 眠くないからってスマホ弄ったりなんてもってのほか。

 でも、眠くないものは眠くない。

 ぼーっとするしかなく。そうしていると頭の片隅に追いやっていたことが頭をよぎる。

 

 あれから……整備科の先輩達との話し合いが失敗に終わってから二日経った。

 一応整備科の先生に相談してみたけどいい反応はもらえなかった。

 夏休みの今は人手がなく、戻ってくるのを待っていたら二学期になる。けれど二学期からは新たな行事に向けて忙しくなってと人手がいても時間がない。

 ひとまず本音と二人で開発を進めることにした。本音のおかげで機体の状態はかなりよくなった。

 と言っても開発の進み具合自体は変わってない。現状調整が甘いところ全て洗いなおしただけ。

 それでも本音の力を借りて正解だった。自分の調整の甘さや発想の弱さを痛感させられた。

 本音も布仏の人間。例に漏れず優秀だ。

 

「ねぇ、かんちゃん」

 

 てっきり寝たと思っていた本音がまだ起きていて突然声をかけてきた。

 

「何……」

 

「あー……んー、やっぱりなんでもなーい。ごめんね~おやすみ~」

 

 その言葉の後、布団を深くかぶる音が聞こえた。

 何か言いたげだったけど、何を言いたかったんだろう。

 気にはなったけど、聞く気にはなれず、そっとしておいた。

 

 考え事に耽るのもよくない。私もさっさと寝てしまおう。

 でないと余計なこと考えしまいそうで。

 

「――」

 

 布団を頭の先でかぶってみたけど、苦しくてすぐ頭を出してしまう。

 そして、考えは振り払えない。

 どうしても彼のことが思い浮かぶ。

 二日経ったのは彼の部屋で泣いてしまった日からもそうだ。

 

 頑張ったね。

 そんな風に褒められるなんて思ってもみなかった。

 私は臆病で卑怯者で失敗ばかりでいいところなんて全然ないのに。それでも褒めてくれた。

 嬉しかった。でも、その嬉しさはただ褒められたからだけなんだろうか?

 褒められたこと自体はある。本音だって褒めてくれる。

 この嬉しさは彼が褒めてくれたからこそなんだ。はっきり言いきれる。

 だから、嬉しくて思わず泣いてしまった。

 

 正直、泣いていると自覚した瞬間すごく恥ずかしかった。

 泣いたら彼を困らせるだけで。泣いている姿なんて見られたくない。

 けれど、我慢しようとすればするほどどうしようもないくらい涙があふれてしまう。情けなくて仕方ない。

 けれど、泣くことを彼に許してもらえた時とても安心した。

 幻滅したりなんかしないと言ってもらえたどころか、言葉を示すように抱きしめてくれた時、すごく嬉しくて私は我慢することもなく泣いてしまった。

 あんなに泣いたのはいつぶりだろう。多分……初めて。人前で泣いたのだってそう。

 

「暖かかったな……」

 

 ぽつりとこぼれたそんな言葉。

 抱きしめられた時伝わってきた彼の温もりは暖かく心地よかった。

 

 返していかなきゃ。

 こんなにもたくさん想われて、してもらっているばかりじゃいられない。

 私も彼に何かしてあげたい。させてほしい。

 でも、私が彼にしてあげられることって何だろう? 彼の支えになる? 想い続ける?

 

「……はぁ」

 

 ため息をひとつ。

 わざとらしく考えるのはよさそう。

 分かっている。私が彼にしてあげられること。してあげなきゃいけないこと。

 私は彼の想いに答えてあげなければならない。

 

 『どうしてあなたはそこまで私にしてくれるの? 同情してくれてたから? 哀れんでくれた?』

 

 酷いことを聞いたと冷静になった今になって後悔ながらに思う。

 あの時は知りたかった。気になってしまった。

 こんな私に構ってもいいことなんてこれっぽっちもない。

 期待した答えがあったわけじゃない。いっそ同情でも哀れみでもいいから知っておきたかった。理由がないほうが怖い。

 

 そんな思いを超えて彼はまっすぐな視線を向け、はっきりと言ってくれた。

 私のことが好きだから、と。

 

「――っ」

 

 思い出しただけで熱が湧き上がってくる。

 耳が。顔が熱い。

 ちゃんと聞こえた。聞き間違えない。

 嬉しい。彼も私と同じ気持ちでいてくれてたなんてまるで夢みたい。

 でも、これは紛れもなく現実。

 私達の気持ちは同じところへと向いてる。

 

 嬉しすぎて思い出すたびにいても立ってもいられなくなる。

 実際今だって布団の中で寝返りを何度もうって嬉しさを誤魔化す。

 

「う~」

 

「あ……」

 

 わずらわしそうにする本音の声が聞こえ我に返る。

 夜遅くもう寝てるのに邪魔するのはよくない。

 堪えて静かにしなきゃ。

 

「はぁ……」

 

 またもや眠気が消えうせ、頭が冴えてしまった。

 それでも静かにしようと、ぼんやり天井を見つめているとまた一つ溜息が。

 

 彼が私を好きだと分かって嬉しい。

 私だって彼のことが好きだから。無論、それは一人の男の子として。きっと彼もそうなんだと思う。

 でも、私は逃げてしまった。

 あんな酷い問いかけ方をしたどころか、彼に想いに答えることもなく何も言わず誤魔化してしまった。

 酷い仕打ち。

 嫌だったわけでも、拒絶したわけでもない。ただ本当にあの時は嬉し過ぎてどうしたらいいのか分からなくて、逃げてしまった。

 

 それでもこの二日、彼と顔を合わせても気まずい感じにはならなかった。

 一度気まずくなったのを経験したから上手い対処の仕方を身につけたのと。

 ただ単に彼が気を使ってくれて、この話題に触れてくれなかったっていうのが大きい。

 

 いつまでもこのままではいちゃいけない。

 ちゃんと向かい合ってくれる彼の気持ちに私もちゃんと向かい合って答えないと。

 私も伝えるんだ。彼に好きだって。

 

「……でも……」

 

 肝心の一歩が踏み出せない。怖い。

 逃げたのに今更私の答えなんているんだろうか。

 それどころか、私が好きだって伝えてもいいのかな? 彼は喜んでくれる? 今更何をと嫌がられたりしないかな? 重荷になったりはしないのかな?

 まただ。こんなのはよくない。悪い癖。ありもしないことでマイナスに考えてしまう。

 

 臆病で意気地なしの私。

 不安は絶え間なく膨れ上がっていく。

 


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