【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜 作:シート
最近、輪にかけて自分の情けなさが嫌になる。
日数にして数日前、俺は簪に気持ちを伝えた。
経緯は整備科の件で落ち込んだ簪を励ましたことに始まる。
簪を励まし、抱きしめてしまった。
今振り返ってもとんでもないことをしてしまった。ちゃんとした考えはありはしたが、勢い任せだと言われれば否定できない。
だからこそ、簪はあんな問いかけをしてきたんだろうか。
『どうしてあなたはそこまで私にしてくれるの? 同情してくれてたから? 哀れんでくれた?』
そんな問いをしてきた簪に俺は、はっきりと自分の気持ちを伝えた。
俺は簪のことが好きだからと。
好きだから俺は簪の力になりたいと思った。好きだから何かしてあげたいと行動に移した。
好きな人のために何かしたくなるのは当然のこと。何もおかしくない。
本当に理由はそれだけ。
気持ちを伝えたこと。簪に気持ちが伝わったことに後悔はない。
この気持ちに嘘はつきたくはない。
だが、気持ちを伝えたところで今すぐ実るわけでもなければ、上手くもいかない。
結果から言うと、簪の答えとか聞く前に逃げられてしまった。
嬉しそうな顔をしていたのは確かに見たから断られもしなければ、拒絶されたわけでもないが何もないまま。
ならもう一度気持ちを伝えるなり、確認すればいいだけの話なのだがそうもいかない。
いや……違う。単純に肝心の一歩が踏み出せない。怖い。
俺が簪のことを好きだ思っていても向こうがどうなのかは分からない。
第一今改めて気持ちを伝えても、確認してもいいものなんだろうか。
今は彼女にとってIS開発期間という大事な時期。俺の好きという想いは重荷になってしまいかねない。
それはダメだ。なんにせよ、今は一旦時間を置くべきだろう。
もっとも、もう一度伝えたところでどうなるわけでもないだろうが。
そもそも想いを伝えはしたが、簪とどうなりたいんだ。
これはいつかにも考えはしたが、未だ答えは出せてない。
伝えた想いは関係すら大きく変えかねない。その自覚を持ち、今一度もっと真剣に考えなければ。
などとあれこれ考えがよぎっては考え込んでしまい二の足を踏み続ける。
勇気が持てない。肝心な時に限ってこうだ。情けない。
幸い好きだと伝えた翌日から気まずくなったということはなかった。
お互いこの話題に触れようとはしなかったからだ。
以前にも気まずくなった経験があるから、その経験が生きたのだろう。
おかげで今日も朝から簪と本音がいる整備室にいられている。
「う~んー! この案もダメかぁ~!」
両手を挙げながら作業服の本音が椅子に深く腰をかける。
まさにお手上げといった様子。
「相変わらず機体本体との火器管制システムが上手く連動しない。このパターンだと山嵐自体の内部処理エラーも多くなってる」
「でも、ようやく春雷の火器管制システムと連動させて撃ってもエラー吐かなくなったのはせめてもの救いじゃない?」
「それはそうだけどこれだと二門あわせて一発撃っただけで収束率安定しなくなったからそう簡単には喜べない。設計データでは左右あわせて一発を五発だからもっと改良しないと」
「だね~ただなぁ~もっと人手があれば~……――あ、ごめんなさい……」
「ううん……いい。その通り、二人だけじゃ人手も知恵も足りない」
ISスーツの上に作業着を羽織り、ディスプレイを見つめる簪の表情は険しい。
先ほどまで二人が考えた案を模擬戦形式で試していたが結果この通り。
今日も状況はよくない。ここのところずっとそうだ。
どこかよくなったと思えば、別のところが綻び中々先へ進まない。
簪と本音には閉塞感が漂い始めている。
人手の問題はいつも付きまとう。
簪もあれから整備科の先生方をあたっていたがあまりいい返事は貰えなかったとのことだった。
なまじ今は夏休み。生徒の大半が帰省中。海外の母国に帰っている人も多いからそう簡単には呼び戻せない。
戻ってくるのを待っていたら二学期になるだろうし、難しい問題だ。
俺も何かしら伝手があれば一番いいのだが、自分にそういうのはない。
しいて言う伝手らしい伝手と言えば、一夏になるのだがその一夏も今帰省中。盆終わりまで戻ってはいない。
今一夏に頼るのは申し訳ない気がして、結局人手なんてものはない状態。何もできないのが悔しい。
「いいよ……あんまり気にしないで。あなたには機体調整手伝ってもらってるじゃない。それだけで充分すぎるよ」
そうは言ってくれるが、それでももっと力になりたいと思ってしまう。
男のちっぽけなプライドだ。
俺に出来るのは機体を実際に動かす時にその練習相手になる以外ないと分かっていても。
「人手と言えば何かあったような~んー何だったけ~?」
本音が何か思い出そうとした丁度そのときだった。
この整備室の呼び鈴が鳴った。
「誰だろう……出てくる」
そう言って簪が扉のほうへと向かう。
簪は不思議そうな顔していたが、珍しいこともあるもんだ。
この部屋に俺達以外の来客が来た覚えはない。一体誰が。
「はい……えっ……!?」
大きめの驚いた声を簪が上げていた。
その声に釣られて扉のほうを見ると、そこには意外な人達がいた。
「やっほー更識さん、元気してる?」
「来たよ!」
いたのは同級生と思わしき制服姿の女子が二人。
それは整備科志望のあの子達。以前、一学期の期末テスト勉強を一緒にした子達だった。
予想してなかった相手に俺は勿論。簪が一番驚いていた。
「えっ、えっ……えっと……ど、どうしてここに……?」
「あれ? 本音から聞いてない?」
「私達、更識さんの専用機開発手伝いに来たんだけど」
それを聞いて本音を見ると本音は思い出した顔していた。
「そうだ~! 今日から二人が手伝いに来てくれるんだった~いらっしゃ~い」
こんな重大なことよく忘れていたな。
らしすぎて関心してしまう。
「えへへ~照れるな~」
「何のんきなこと言ってるの……こんな重要なことを……」
「話言ってなかったんだ。もしかしなくても迷惑だったりするかな?」
「私達は整備科志望なだけで二年生や三年生の先輩達みたいにできるわけじゃないけどこれでも予備校には通ってたし、少しぐらいは力になれると思うんだけどダメかな? どんなことでもするよ」
「えっと、その……力貸してくれるのは嬉しい。全然いいんだけど……でも、どうして……折角の夏休みなのに」
不安げな顔をする簪の気持ちは理解できなくはない。
確かに何故彼女達が夏休みをつぶしてまで協力してくれるのか。その意図が見えない。
「なんていうか私達、更識さんにあの時のお礼がしたくて」
「あの時……? お礼……?」
「ほら、期末テストの時に更識さんテスト勉強見てくれたでしょ? それのお礼させてほいんだ」
「そんな……お礼だなんて……別にそういうつもりでやったわけじゃ。その、お礼言ってもらったし」
「それはそうなんだけどお礼の言葉だけじゃ寂しいじゃん」
「私達、更識さんには凄い感謝してるんだ。あんな高い点IS学園で取れるなんて思ってもなかったからね。だからさ、何かしたいの」
そうは言われても簪はいまひとつ腑に落ちない様子。
簪にしてみれば、こんな風にお礼をされるほどのことではないという考えが拭えない感じだ。
簪のそんな様子に彼女達もまた気づいたようで、苦笑いしつつとあることを言った。
「あはは、更識さんが納得できない気持ちも分かるけどね。でも、本当私達は更識さんの力になりたいんだ」
「そうなの! 前々から更識さんのことは本音からいろいろ聞いて更識さんは本当に頑張ってて凄いってテスト勉強の時に凄く感じたから。それに夏休みならまた来年もあるしね」
彼女達の言葉を聞いて、俺は自分のことのように嬉しかった。
簪の頑張りを認めてくれる人は確かにいる。そして今、力を貸してくれようとする。
テスト勉強の時、確かに簪が踏み出し一歩は大きな意味を持っている。
ある種、これは簪の頑張りが一つ実った瞬間でもある。それが嬉しい。
しかし当の本人である簪はと言うと、嬉しさと驚き戸惑いが全てごちゃ混ぜになったような表情をしていた。
そんな簪を見て彼女達の表情も不安げなものになった。
「やっぱ、ダメかな……?」
「前もって話いってなかったみたいだし、無理しないで。私達は全然いいから……」
「大丈夫だよ~かんちゃん嬉しくて言葉失ってるだけだから。ね、かんちゃん」
周りを気遣うように本音が簪に助け舟を出す。
ここまで言われたら流石の簪も断るなんてことはしないだろう。
本音のフォローを受け、簪はようやく整理がついたようで口を開いた。
「うん。ありがとう、気持ち凄く嬉しい。元々人手は欲しかったから渡りに船。迷惑かけるかもしれないけど、私精一杯頑張るからよろしくお願いします」
生真面目に深々と頭を下げる簪の姿を見て、彼女達はまた苦笑いをした。
「そんな大げさ」
「そうそう。迷惑かけるのは私達のほうかもだし、こちらこそよろしく! 更識さん」
「こちらこそ。あの……よかったら、簪って呼んでほしい」
「おっ。じゃあ、私達も名前で呼んでよ。改めてよろしく簪!」
「よろしく」
皆が笑いあい手を取る。
これからようやく本当に全てが始まってが始まっていくんだろう。
その予感に俺はまた自分のことのように嬉しくなり、胸が熱くなる。
「じゃあ~皆で頑張ろう~! お~!」
「おー!」
「ほら、簪も! 手、突き上げて。はいっ、おー!」
「お、おー……っ!」
…