【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜   作:シート

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第四話 更識簪さんという女の子は

「あ、あの……!」

 

 五月も今日で終わり。

 けれど、俺は今日も今日とてすることは変わらない。放課後、整備室で予習復習中。

 一見代わり映えのしない日に見えるが確かに変化はある。

 最中、隣にいる更識さんが話しかけてきた。

 

「えっと、その……この前、おすすめしたあのアニメどうだった……?」

 

 更識さんと友達になって数日経ったが最近では今みたいに更識さんの方から話しかけてくれるようになった。少しは近づけた気がする。挨拶だって更識さんの方からもしてくれるようになったし。

 

 そして俺は先日更識さんに勧められた作品を思い出し、感想を伝える。

 言わずもがな、進めてくれた作品のジャンルはヒーローもの。名前こそは聞いたことあったが一度も見たことないと話すと更識さんがぜひ見るようにと勧めてくれた。

 先日勧められまだ六話までしか見れてないが、更識さんが勧められただけあっておもしろ作品だった。特に最後見た六話が気に入っている。

 

「……! わ、私も六話お気に入り。だってね……!」

 

また始まった。今日もまた更識さんによる熱い作品解説。

相変わらずマニアックだ。しかし、聞いているだけで楽しい。これだけ話せる知識量の多さに感服する。

本当にヒーロー物が好きなんだな。

というか、話してくる更識さんはボールでも取ってきて飼い主に嬉々として見せる犬みたいといえばいいのか……聞いて聞いてオーラが凄い。

 

 こんな風に話し相手から友達になってより話す様になって分かったことがある。

 更識さんはヒーロー作品が好きだが、ダークヒーローはあまり好きではないらしく、好きな正統派ヒーローでも拘りがあるらしい。

 彼女の思うヒーローとは『困ってる人は見捨てない頼りになる強い人』『救いを求めている人には笑顔で優しく救いの手を差し伸べる』『どんな悪意に晒され様とも己が正義の信念を貫き、悪から弱き者を守ってくれる存在』そんな完全無欠のヒーロー。

 熱く話してくれる言葉の端々からそう感じた。

 俺もそんなヒーローいれば確かにいいなとは思う。憧れもする。ただ更識さんに何か引っかかるのは何故だろう。

 

「あっ……ご、ごめんなさい。また私ばっかり話しちゃって……」

 

 申し訳なさそうに謝ってくるが、別に一々気にするほどのことでもない。

 俺の方こそ、ほとんど聞き手にまわってしまっていたし、まあお互い様ということにしておきたい。

 だから更識さんにはそんなに気にせず、どんどん喋ってほしいと思う。俺からもどんどん喋っていくつもりだ。

 

「う、うんっ! ありがとう……お、お友達っていいね。こういう趣味の話できるし」

 

 確かに。

 一夏とはアニメの話とか特撮の話とかしないけど、こういう趣味の話が出来る友達はいい。

 特に相手が女子だと趣味が共通の話題となって話しやすくもある。

 

「……前にも言ってたけど、リアルでこんな話できる人初めてだから私、凄く楽しい……。友達なんて生まれて初めて出来たから……」

 

 今凄い言葉聞いた。

 

「え? あっ! 嘘嘘! 忘れて……あ……無理、だよね……」

 

 聞かなかったことには出来るけどそれでは更識さんが納得できないだろう。そのぐらい今目の前で凹んでいる。

 ついとはいえ、自分で言ったからダメージが余計にデカそうだ。

 

「……うぅ~……おかしいのは自分でも分かってる……い、今までお友達いなかったなんて……へ、変だってことも……け、軽蔑した……よね。……ごめんなさい」

 

 なんでそうなるんだ。

 第一、布仏さんがいるだろうに。

 

「あの子は……その……うん、幼馴染だから……」

 

 言い方がひっかかる、今はそっとしておこう。

 聞くとややこしくなりそうだし、幼馴染だからって友達とは限らないと聞いたことがある。そういうものなんだろう。

 

「私今までずっとお勉強とお稽古ばかりで……根暗だから人付き合いが凄く苦手で……それで……」 

 

 友達いなかったと。

 根暗云々はさておき、こう言ってはなんだがそんな忙しい毎日だと中々友達を作るのは難しいだろう。

 それに更識さん、こう言っては何だがあまり社交的なタイプという感じではないだろうから、今まで自分から友達作ろうっての難しかったんだろうなあと何となく想像してしまう。

 

「やっぱり……引いたよね。こんな私と折角お友達になってくれたのに変なこと言って……ごめんなさい……」

 

 謝っては鬱屈とした表情をする更識さん。

 

 まただ。

 これも友達になってから分かったことだ。更識さんはことあるごとによく謝る。結構本気で。

 多分、謝るのが癖になっている。

 それから自分を凄い悲観視しすぎている。自分に自信がなくて不安なのが嫌でも伝わってくる。

 そのせいなのかは定かではないが、テンションの落差が結構激しい。

 

 更識さんに今まで友達がいなかったことを聞いて、驚きはしたがそれだけだ。

 軽蔑しなければ、引きもしない。今まで友達がいなかったのは変らない事実だろうが、昔は昔。今こうして友達になれたから充分なはずだ。

 我ながら臭いこと言っている気がしなくはないが、俺は更識さんと友達になれてよかったと思っている。

 

「わ、私だってそう思ってるけど……ふ、不安、なの。今まで友達いなかったからどう接したらいいのか全然分からなくて……私は今みたいにいつかまた貴方の気分を悪くすることを言ってしまって、私と友達でいるのが嫌だって言われたら……ど、どうしようって思うと不安で仕方ない」

 

 言いたいことは分かるが、それは今まで友達がいようがいまいが関係ないだろ。

 人付き合いなんて慣れるしかない。

 友達はいるが、だからって俺は人付き合いが上手いわけじゃない。むしろ、下手くそだ。

 

 相手の気分を悪くしたのなら謝ればいいし、直していけばいい。

 そりゃ当然、得意不得意はあるだろうが人付き合いってそういうもののはず。

 ゆっくりでもいいから人付き合いになれていけばいい。簡単なことじゃないだろうが、友達なのだから俺も下手くそなりに練習相手ぐらい喜んでなる。一緒に慣れていこう。

 そう更識さんに伝えた。

 

「そうだよね……うん、その通り。……が、頑張ってみるっ」

 

 更識さんが小さく意気込む。

 偉そうな事言ってしまったからには、俺ももっと頑張らねばならない。

 俺もまた意気込んで決意を新たにする。

 

 

 

 それからは特に会話もなく各々自分のすることをやっていた。

 俺は機体を弄りながら予習復習を。更識さんはディスプレイを真剣に見つめながら、何かをいろいろ試している様子。毎度のことながら無表情だが、何となく苦戦しているのが分かる。

 苦戦しながらも毎日この作業している。よく頑張ってる。凄い。

 

 でも、更識さんって何やってるんだろう?

 専用機関係のことをやっているのは作業している姿見れば分かるが、具体的にどんなことを知らない。聞いたこともない。

 後、頭の奴……ISのヘッドギアをつけているのも気になった。ここいると毎回ずっとつけているが、部屋を出る時は外していることのほうが多い。

 気になるから聞けばいいんだろうが、何か聞けない雰囲気があった。

 

 そもそも更識さんって本当によく俺の間借りを許してくれたものだ。

 人付き合い苦手なら尚更。俺でさえ女子なんてよく分からなくて怖いのに、女子の更識さんからしたら男なんてもっと怖いだろうに。

 

「なに……?」

 

 訝しげに更識さんが見てくる。

 

「いや、その……そんなに見られると困る」

 

 ハッとなって謝る。

 考え事しながらぼーっと見てしまっていた。

 

「別に謝られるほどじゃないからいいけど……考え事って何……?」

 

 この際はっきり聞いてみるか。

 よく間借りさせてくれる気になったものだと考えていたことをまず言った。

 

「えっと……それはその……」

 

 何だか気まずそうにする更識さん。

 そのマズい理由があるのか。怖くなってきた。

 エゲつないことを言われたらどうしよう。

 

「……はっきり言ってもいい……?」

 

 怖いがここで聞かないと後々気になってしまいそうだ。

 沸き上がる恐怖を感じつつ頷いた。

 

「……最初は間借りさせるつもりはまったくなかった……私はここを正式な権限に基づいて使っているのだから」

 

 それはそうだ。

 ならどうして。

 

「あの織斑先生に言われたら断れない。ブリュンヒルデ……元日本代表、私の先輩にも当たる人だから……いくら権限に基づいているとは言え、断ったら私が我が侭言っているみたいで……それでその……」

 

 だから間借りさせてくれたのか。

 そう聞かされると凄い申し訳ない気分になった。結局俺は織斑先生を使って無理やり間借りさせてしまったことになる。そんなつもりはなくてもこれはよくない。

 

「私の方が最低……だって、聞いたフリして適当な理由つけて後で貴方のこと追い出す気でいたから」

 

 まあ、ある意味当然だ。

 

「邪魔してきたり騒がしかったらすぐにでも追い出すつもりだったけど……貴方凄く真面目で邪魔なんてしてこなかったら、追い出すに追い出せなかった。むしろ、気を使われているのが分かったから余計に」

 

 自分の真面目さに感謝した。

 無駄じゃなかった。

 

「男の人だから怖かったけど……この人は大丈夫なのかなって思えて……話したら話合って悪い人じゃなさそうで……今は友達にもなれたから」

 

 そうだったのか。

 

「ごめんなさい……やっぱり、気悪くさせちゃったよね」

 

 何故更識さんが謝るんだ。

 更識さんの言い分は正しく、はっきり聞けてよかった。

 むしろ謝るのは俺の方だ。理由はどうあれ断りにくくさせてしまって気分を悪くさせてしまった。

 せめてもと頭を深々と下げた。

 

「い、いいよっ。頭上げてっ……もう済んだこと。むしろ、貴方でよかったと思う。もう一人の男の人だったら私どうしてたか……」

 

 一夏のことか。

 まあ一夏なら十中八九騒がしくなってただろう。一夏本人は悪くないんだが、あの三人がうるさくて仕方ない。一夏は被害者なんだがなあ……。

 でも、一夏は妙に馴れ馴れしいところもあるからそこも問題だ。取りようによっては親しみやすいとも言えなくはないし、女子相手には流石に気を使うだろうが。

 

「そういうことじゃなくて……う、ううん、やっぱりなんでもない……」

 

 何か言いかけたが更識さんは言うのを躊躇いやめた。

 

 そうだ。この機にまだ聞いておきたいことがあった。

 

「何……?」

 

 何故、ISのヘッドギアをつけているのかということだ。

 今、更識さんがしている作業に関係しているだろうことは分かってはいるが。

 

「ああ……これ。これは見ての通り、IS専用のヘッドギア。中に第三世代用の最新鋭サイパーセンサーが搭載されていて、これによって私の思考を機体に読み取らせることで私は少しでもISとの同調を高め維持してるの」

 

IS……更識さんにそう言われ、目が行くのが今俺達の前に展開待機状態でいる一機の機体。

 

「……私は今ね。専用機、第三世代型IS『打鉄弐式』の単独開発してるの」

 

 更識さんもそっと専用機へと目をやる。

 打鉄弐式……確かに所々打鉄と似ている気がする。授業で使い、そして俺が専用機として借りている打鉄の後継機か。

 けれど、パッと見は普通に待機状態のISにしか見えない。何処か悪いのかは素人の俺には分からない。

 

「装備や機体そのものは完成しているんだけど……機体のメインシステムと火器管制、機体の姿勢制御システムとかがまだ自力では中々上手く連動しなくて……ちゃんと動かない未完成品」

 

 更識さんがそれを動かせるようにしようとしているのは分かった。

 一人でなんて流石は専用機持ちというべきなんだろうか。

 本来、ISの開発は沢山の人手がいると授業で教わった。一人でやれるものなんだな。

 

「未完成と言ってもシステムだけで機体や武装の製造は済んでるから。けど、システムだけでも人手はいる。それを少しでも補おうとこのヘッドギアを使ったり、複数モニターを使うことでどうにかしてる」

 

 ヘッドギアのことは分かった。

 だが次に複数モニターというのが気になった。

 俺から見えるのは更識さんの手元にある空間投影型のディスプレイのみ。一つを指して複数とは言ってない様子だから、他がどこにあるのか分からない。

 

「これ」

 

 そう言って更識さんは、かけている眼鏡を指差した。

 まさか、それがモニターということなのか。

 

「そのまさか。ノートデスクトップ型の空間投影ディスプレイは高いから、この眼鏡タイプの携帯用ディスプレイ使ってるの。ARメガネって分かる? それと同じ感じ」

 

 何となくは分かった。

 ということは更識さん、別に視力が悪いというわけではなかったのか。

 

「視力は普通。目つき悪いから悪そうに見えるかもしれないけど」

 

 そういうわけで言ったつもりではない。

 

「ふふっ、分かってる。冗談」

 

 よかった。

 いろいろ教えてくれたおかげで気になっていたことは分かった。

 しかし、一つ知るとまた新たに気になることもできる。

 

 それはそもそも未完成品を代表候補に渡すかということだ。

 そこが気になった。

 一夏、オルコットや凰といった第三世代持ちは機体の特性上、試験機の意味合いが強くいろいろと改善点が多いとのことだが、それでも動かせないほどということはなかった。

 やはり、それ相応の事情があるということなのか。更識さんはこくりと頷いてから言った。

 

「……白式……知ってるよね。弐式と白式の開発元は一緒なの。倉持技術研究所」

 

 それは俺が今専用機として使ってる打鉄を借りているところでもあった。

 

「元々日本の第三世代として弐式と白式、二つのプランが考えられていて……私は弐式を受領することになっていた。そして先に白式のプランが技術不足などの理由で凍結された。でも、織斑一夏が現れたことで彼の専用機として再度開発が進められ、打鉄弐式の開発スタッフ全てもっていかれて、今度は弐式の開発が凍結になったの」

 

 淡々と事実を告げる更識さんだが言葉の端々に静かな怒りのようなものを微かに感じ取れた。

 開発されるものが開発されなかったことによる憤り、みたいなものだろうか。更識さんのこれは。

 でも、世界で二人しかいないISを使える男である一夏の専用機として開発する為に力を入れるのは分からなくはない。いろいろなデータがほしいんだろう。

 

「私だって事情は理解してる……でも」

 

 ギュッと更識さんが唇を噛みしめる。

 理解できていても、そう簡単には納得はいかないんだろう。

 一夏を恨んでいるんだろうか、更識さんは。

 

「分からない……でも、一発殴る権利はあると思う」

 

 急に何を言い出すんだ、更識さんは。

 言葉の綾だろうが、流石にそれは……

 政府や開発元の都合であって、一夏に非はないだろ。そんなことで実際に殴られたら堪ったものじゃない。

 

「――ッ! うるさい! 私だって分かってるっ、や、八つ当たりだってっ……!」

 

 更識さんがバッとこちらを睨みつけるように見て叫ぶ。

 俺は我に返った。いくらなんでもこれは出すぎたマネが過ぎた。関係ない部外者の俺が言えるべきことではない。すまないことを言ってしまった。

 

「……う、ううん……私のほうこそ……ごめんなさい。……貴方の言う通り。八つ当たり、だよね……」

 

 納得した様子だが更識さんは暗い顔をしていた。

 

 兎も角、未完成の理由はよく分かった。

 だが、更識さんが単独で開発している理由にはならない。

 白式が開発されちゃんと稼動している今なら、もう元々弐式の開発担当だった人員も戻ってきているはずだ。

 代表候補が使う予定の機体をいつまでも未完成にしておく訳はないと思うが。

 

「私が未完成の弐式を引き受けたの。一人で完成させたいって無理言って」

 

 何か更識さんを駆り立てる様なものがあるのを感じた。

 それは一体なんなのか。

 

「それは……」

 

 一瞬言い躊躇った様子だったが、俺を見てキュッと唇を噤み言ってくれた。

 

「私は一人で弐式を完成させないといけないの……姉がそうしたのに。じゃないと私はいつまでも」

 

 また何か言いかけて言うのをやめた。

 更識さんにお姉さんが居たんだ。そういえば、この学園の生徒会長が同じ苗字だった。

 あの生徒会長がもしかして更識さんのお姉さんなのか。

 

「うん、そう……更識楯無。私の姉……今家の仕事とかで学校休学してるけど」

 

 そうだったのか。道理でみかけないわけか。

 その人も代表候補だったりするんだろう。

 

「ううん、代表候補じゃない……ロシアの国家代表。多分、生徒の中じゃ一番に強い人、だよ」

 

 学生で国家代表。

 IS業界に一般的な知識しかない俺でもそれがどれだけ凄いことなのかは分かった。

 でも日本人だよな、生徒会長も。でも、どうしてロシアの国家代表なんて。

 

「もういい? ……作業に戻らせて」

 

 頷くと更識さんは作業に戻っていった。

 

 充分すぎるほどいろいろ聞けた。

 さらに更識さんのことを知ることができた。

 けれど、こんな話をするのはこれっきりだった。

 


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