【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜   作:シート

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第四十話ー幕間―彼の想いと自分の想いに向き合い始める午後のひと時

「よし。じゃあ、休憩にしよ」

 

「わ~い~!」

 

「賛成ー!」

 

「やったー!」

 

 皆に声をかけ、本日何度目かになる休憩を挟む。

 気づけば、もう昼のおやつ時。なので整備室のテーブルにはあらかじめ用意していたお菓子やジュースが広がっていた。

 

 お菓子を食べながら一息。

 開発は今までの停滞が嘘のように完成へと向かっている。

 機体の再構築。火器管制システム及び荷電粒子砲システムの完成。残るは山嵐、マルチロックオンシステムの構築のみ。

 

「この系統のロックオンシステムはやっぱり、時間無茶苦茶かかるね」

 

「終わりそうで終わらなさそうなのがまた大変だよ~マルチロックオンのまま進めてたらどうなってたことやら~」

 

「そうだね」

 

 と私は頷く。

 本音が冗談で言ってるのは分かるし、私もそこには同意見。

 恥ずかしながら弐式最大の特徴である高性能ミサイルのマルチロックオンシステムは一旦実装を見送り、ひとまず完成を優先して通常の単一ロックオンシステムを採用した。

 皆の力を借りてもこればっかりは構築は難しかった。

 でも、これで完全に諦めたわけじゃない。ISの自己進化と最適化を用いてマルチロックオンをキーボード入力で行い、ISに教え込みマルチロックオンシステムを構築していく方法を取る事にした。

 完成したシステムを導入するのと違って、膨大な稼動データと調整などが必要になってくるけど今はこの方法のほうが確実だという結論になった。

 

「この調子なら遅くてもお盆終わりにはひとまず完成しそうだね」

 

「それぐらいはまだかかるね」

 

 当然これからも毎日朝早くから夜遅くまで作業する前提の話。

 少人数だからこればっかりはどうしようも。

 けど、ゴールまでの道筋ははっきり見えてる。後は一つ一つきっちりこなしていくのみ。

 

「……」

 

 ペットボトルのミルクティーで喉を潤しながらしみじみ思う。

 ここまでこれてるのも全部皆、周りの人のおかげ。これは方便とかそういうんじゃなくて、本当に身をもって体感してる。

 本音や彼はもちろんのこと。今回から参加してくれたこの二人の力は大きい。

 まさか協力してくれるなんて思ってもいなかった。しかも、自分達の夏休みを削ってまで。

 期末テストの時、勉強を見てくれたお礼も兼ねてとのことだけど、正直今でも大げさだと思ってる。

 でも、おかげで今がある。

 あの時、踏み出してよかった。戸惑いや怖さはあったけど、踏み出す勇気を持つことができた。

 その理由は言わずもがな。彼の前向きさ、前に進むことへの意識の強さには我ながら影響されてる自覚はある。

 

 黛先輩達にも感謝しなくちゃならない。

 手の空いている友達を見つけて、わざわざアドバイスしにきてくれた。

 アドバイスがあったからこそ、少人数主体でもここまでこれた。

 私に関わることであの感じなら整備科での立場悪くなりそうなのに。

 

『ないない。それに頑張る後輩の力になるのは先輩として当然のことでしょ。気にせず、アドバイスされときなさい』

 

 なんて優しい言葉。

 今、毎日が本当に楽しい。

 成功体験を小さくても積みかさねてこれた。

 そして、私の周りにはこんなにも優しい人達がいる。

 大丈夫、私はもう止まったままではいない。道は広がっている。

 

「あ、そうだ~かんちゃん、あれ忘れてない?」

 

「……あれ……? あっ、ああ……あれ」

 

 思いふけっていたところを本音の声で我に返され、忘れていたことを思い出す。

 すっかり忘れてた。折角、今日の為に作ってきたんだった。

 バックの中からあるものを取り出し、皆の前に出した。

 

「なになに」

 

「どしたのこれ」

 

「これ、おやつの差し入れにっと思って。よかったら、食べてくれると嬉しいな」

 

 私が持ってきたのは抹茶味の小さなカップケーキ。

 

「わぁ~! ありがとう~!」

 

「すごっ、これもしかして手作り?」

 

「うん……昨日の外出禁止時間の後、眠れなかったからその時にちょこっと」

 

「へぇ~じゃあ、いただきまーす」

 

「ん~甘いしうまっ」

 

「本当? よかった」

 

 ほっと胸を撫で下ろす。

 味見をちゃんとしたとは言え、久しぶりに作ったからいろいろと心配だったけどよかった。

 差し入れとは別に今までのお礼も兼ねてるから喜んでもらえて嬉しい。

 

「ほんと美味しいよ。簪ってお菓子得意なんだ」

 

「昔から息抜きに作ってたから得意って言えば得意、かな。これぐらいしか作れないけど」

 

「それでもこんだけ美味しいなら凄いじゃん。私もお菓子久しぶりに作ろっかな」

 

「おもしろそう。あ、寮の調理室借りないといけないんだったけ。あれ申請めっちゃ面倒なんだよね」

 

「まあ、それはね……でも、借りなくても作れるよ。私も部屋のキッチンで作ったし」

 

「へぇ~」

 

 といった感じの話をしながら、休憩を過す。

 

 そう言えば、彼は今頃どうしてるんだろう。私達と同じように休憩中なんだろうか。

 今日みたいな稼動試験のない整備室に篭りっきりの日だと彼はお休みということになっている。

 こういう作業だとどうしても彼に頼めることは少ない。雑用でも彼は進んでしてくれるけど、そればっかりも悪い。だから、お休みということになった。

 きっと今日も勉強をしてから一人訓練しているんだろう。彼はそういう人だ。

 

 もし、休憩中ならこのカップケーキ、届けに行きたい。

 彼にも食べてもらいたくて、多めに作ってきたことだし。

 でも、突然こんな差し入れしたら引かれそうで怖い。というか、手作りとか重たい気がしてきた。

 けどやっぱり、食べてもらいたい。

 

「なーに難しい顔してるの」

 

「どうせ簪のことだから彼のことでも考えてたんでしょ~?」

 

「っ!?」

 

 ドキッと胸が跳ねた。

 もしかして、顔に出てた?

 しかも、どうせって。私、そんなに彼のことを考えているように思われているの?

 

「あ、図星なんだ」

 

「うぅっ……別に、そんなこと、ない……」

 

「強情だなーバレバレなのに」

 

「やっぱり、こんな時でも考えるぐらい簪は彼のこと好きなんだね」

 

「なっ!?」

 

 思わず大きな声が出てしまった。

 何で二人がこのこと知ってるんだろう? 私この二人には言ってないのに。

 咄嗟に私は本音を見た。

 

「酷い~! 違うよ~!」

 

 いつもの調子だけど、嘘ついてないのは分かった。

 でも、信用ならない。

 

「いや、教えられてなくても簪達の様子見てれば分かるよ」

 

「うんうん。ああ本当に好きなんだなって二人の様子見てれば思うもん。やっぱり二人は」

 

「あ~それはダメだよ~し~」

 

「あ、なるほど。そういう感じね。了解了解」

 

 意味の分からないことを理解しあって納得しているけど、今の私は気にする余裕はない。

 もう否定も誤魔化しようもない。

 私ってそんなに分かりやすいんだ。死ぬほど恥ずかしい。

 いろいろな恥ずかしさが込み上げてきて顔が熱い。顔真っ赤なのがよく分かって、俯いた顔を上げられない。

 

「……お願いだから言い触らしたりとかしないで。絶対に他言無用」

 

 前にもこんなことを言った気がする。

 人の口に戸は立てられないと分かってるけど、それでも言っておかなくちゃいけない。

 

「分かってるって。それは絶対約束するよ」

 

「大丈夫、そんな心配しなくても。それよりさ、簪は彼のどこが好きなの?」

 

「えっ……」

 

 突然の問いに私は言葉を失った。

 彼の好きなところ……。

 

「ほら、例えば優しいところが好きとか。頼りになるところとかいろいろあるじゃん?」

 

「そりゃある、けど……」

 

 言われたように優しいところや頼りになるところが好きなところの一つではあるけど何か違うというか。

 もっと別の好きなところが確かにあるはずなのに、言葉が喉につっかえてた感じがして声にならない。

 こうなのはきっと勇気が持てないから。

 こんな私が好きでいいんだろうかと。そんな堂々巡りな考えをいつになってもやめられない。

 

「簪……?」

 

「ぁ……ごめん。ちょっとぼーっとしちゃってた」

 

 心配そうに名前を呼ばれてしまった。

 いけない。しっかりしないと。

 でも、好きなところを口に出来たとしても人前でそんなこと言うのは恥ずかしいという気持ちもあって……。

 

「あ、呼び鈴」

 

 部屋に来客が訪れたことを告げる呼び鈴が鳴った。

 誰かは知らないけど助かった。

 来客の前でこんな話は流石に出来ない。

 

「私、出てくるね」

 

「あ、逃げたー!」

 

 何か後ろのほうから聞こえるけど知らない。

 私は、整備室の扉を開けた。

 そして、驚いた。

 

「な!? ……な、何で、あなたがここに……?」

 

 扉の向こうにいたのは彼だった。

 来るなんて思ってなかったからただただ驚くばかり。

 というか。

 

「な、なんでもないっ」

 

 彼に心配そうに見られ、私は慌てて誤魔化す。

 さっきまであんなこと聞かれていたから、恥ずかしくて彼の顔をまともに見れない。

 

「よーっす。もしかした本音が呼んだの?」

 

「そうだよ~ほら~かんちゃんがお菓子作ったことだし折角だから~って。かんちゃんも食べてもらいたかったでしょ?」

 

「それはまあ……」

 

「なら何も問題なーしっ。ほら、入って~」

 

 彼は部屋の中へと連れ込まれた。

 対する私は状況についていけず一歩遅れ気味。

 

 カップケーキを食べてもらい美味しいと言ってもらえて嬉しいのに晴れることはなく迷いが私の心を沈ませていく。

 でも、いつまでも後ろ向きじゃいかない。ゆっくりとでも彼の気持ち、自分の気持ちにもっと向き合っていかなきゃ。

 


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