【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜   作:シート

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第四十一話 簪達と迎えた打鉄弐式完成の時

 弐式の荷電粒子砲に捕らえられたことを告げるロックオンアラームが鳴り響く。

 射撃モーションを確認できた為、回避することが出来たが荷電粒子砲の命中範囲は広い。

 直撃こそは免れたものの打鉄。その追加装備(パッケージ)にある左右二本のサブアームに繋がれたシールドにダメージを受けた表記が出た。

 今はダメージ表記を用いた模擬戦の為、実際に火器を撃っているわけではないが実践なら今頃シールドの表面は溶けているはずだ。

 

「くっ……捉えたっ……!」

 

 すかさず手持ちのライフルで弐式へと牽制射撃を行う。

 簪はすぐさま反応に回避してから、すぐさま山嵐の高性能ミサイルで捉えようとしてきた。

 まずいここで捉えられてはひとたまりもない。

 スラスターを全開にして瞬間加速(イグニッションブースト)でロックオンを振り切る。

 

「まだまだ……!」

 

 瞬間加速(イグニッションブースト)は加速速度こそは高いが動きが直線的になる。

 おまけに制御がとても難しい。

 それを簪もよく理解していて、瞬間加速(イグニッションブースト)の先、そこへ荷電粒子砲を撃ってきた。

 すかさず防御体勢を取ったが、マズかった。

 動きが鈍ったのを簪が見逃すわけもなく、再び山嵐で捕らえようとしてくる。

 だが、今回は通常のロックオンではなくキーボード入力によるマルチロックオン。

 それに気づいた時にはもう既に放たれた後だった。少しでもダメージ減らそうと悪あがきを試みるが大ダメージを告げるダメージ表記。

 

「そこっ!」

 

 ミサイルの嵐を抜けた先では薙刀を構えた簪が迫りくる。

 間に合うか。シールドを構えようとするがそれよりも早くシールドの合間に縫って薙刀の刃が来ることをハイパーセンサーが告げてくる。

 

「……――、ふぅ……」

 

 喉元に突きつけられた薙刀の刃。

 ここまでか。俺は大人しく降参した。

 

「ありがとうございました」

 

 互いに武器を収め、礼をしてから機体解除。

 それから俺達は二人揃ってピットへと戻る。 

 

 機体テストの為の模擬戦とは言え、先ほどの試合を含めて全敗。

 悔しさは今日も募る。

 まあ、悔やんでばかりもいられない。やはり、もう少し瞬間加速(イグニッションブースト)の制御に気を配ったり、防御の動作ももっと丁寧にするべきか……などと頭の中で一人反省会。

 

「……」

 

 こちらを見る簪の視線に気づく。

 

「いや……また難しい顔してるなぁって。一人反省会?」

 

 見抜かれていたようだ。

 最近輪にかけて簪には筒抜けなことが多い。

 敵わないな。

 

「そんな気にしなくてもいいのに。動きよかったよ。おかげでマルチロックオンを使えたことだし、山嵐に狙われたあの状況でも上手くダメージコントロールして粘られちゃった。だから、自信持って」

 

 簪にそう言ってもらえるのなら、素直に言葉を受け取るほかない。

 少しは自信持てそうだ。

 次もそう言って貰える様に頑張ろう。

 

「ふふ、よかった。自信持てたみたいだね」

 

 そう言って笑う簪は、元気そうだ。

 

 前、詳しく言うならあの間抹茶味のカップケーキを食べさせてもらった日。

 あの時、簪は何処か沈んだ様子だったのが気になった。

 嫌なことがあったわけでもなさそうだし、今はもうそういう様子もない。

 そう沈んでもいられないか。なんせ。

 

「おっ! おかえりなさ~い~」

 

「お疲れー」

 

 ピット内に入ると本音や皆が出迎えてくれた。

 

「モニタリングはどうだった……?」

 

「バッチリっ! いいデータ取れたよ!」

 

「試射も稼動試験も模擬戦も全部バッチリだったね」

 

「ということは……」

 

 期待するような言葉と共に皆の視線が簪に集まる。

 手渡されたデータを一通り目を通して簪は頷いた。

 

「うん、よしっ……打鉄弐式、完成です……!」

 

「やったー!」

 

「よかったっ」

 

「わ~い!」

 

 簪の言葉に皆が歓喜に沸きあがる。

 今日ついにこの時を迎えられた。

 俺も自分のことのように嬉しい。本当によかった。

 

「本当だよ。いや~でも、何だかんだお盆終わりまでかかちゃったね」

 

 機体自体が完成したのは昨夜。

 今日は朝から武装と火器管制システムの試験。昼からは夕方の今まで模擬戦による稼動データ取りをしていた。

 当初の予定なら盆終わりには終わっていたが、ずれ込んで盆から少し経って今日になった。

 それでも大分早い。この人数なら尚更。

 

「荷電粒子砲、ロックオンシステム……いろいろと妥協はあったけどここまでこれて本当によかった。これなら倉持も必ず納得してくれる。先輩方もありがとうございました」

 

 簪は部屋の隅のほうで様子を見守ってくれていた黛先輩達に感謝した。

 ここまでこれたのは皆の力も当然あるが、先輩達のアドバイスもあったからこそのものだ。

 

「そんなお礼を言われるほどのことしてないのに。ね、薫子」

 

「そうそう。アドバイスなんて大層なものじゃなくて本当に口挟んでただけだから。でも、こんなにも優秀な後輩がいるってことを知れたのは私達にとって今夏一番の収穫だったわね」

 

 なんてことのないかのように言う先輩達の優しさは気持ちいいものであった。

 

「皆も今日まで本当にありがとっ……私なんかの為に夏休み削って毎日夜遅くまで一緒に作業してくれて本当に嬉しかったっ……本当に本当にありがと……!」

 

 精一杯の感謝の言葉を述べ簪は頭を深々と下げた。

 

「私なんかなんてそんな悲しいこと言わないでよ。私達はやりたいからやっただけ。普通にダラダラ夏休み過すより何倍もよかったよ」

 

「それに簪、何かこれで終わりみたいな感じにしてるけど違うでしょ? ひとまず完成しただけで細かい調整とかがあるんだからこれからだよ」

 

「うんうん。これからも皆で頑張っていこう~!」

 

「皆……本当にありがとっ……!」

 

 皆の言葉を聞いて簪は嬉しそうに涙ぐむ。

 ここまで短いようで長かった。ようやくここまでこれたんだ。

 今それをしみじみ実感している。

 ただひたすらにここまでこれてよかった。そう思う。

 

「あなたも本当にありがとう。ここまでこれたのはあなたがいてくれたからこそ。あなたが隣にいてくれて本当によかった。嬉しい」

 

 涙を拭った簪から送られた言葉に俺は思わず、ドキっとした。

 勘違いしてしまいそうになる真っ直ぐな言葉。真っ直ぐな視線。それだけ簪は俺のことを買ってくれているということなんだろう。簪の力に慣れた。嬉しい限りだ。

 けれど、他の子も言っていたがこれからだ。やることはまたまだ多いはず。変わらずこれからも頑張っていきたい。

 

「もちろん。これからも一緒に……!」

 


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