【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜   作:シート

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第四十二話ー幕間―私と妹

「――以上が簪お嬢様の一学期の動向。弐式完成の顛末になります……」

 

 八月の中頃。

 学園へと向かう車内で私は、妹である簪ちゃんの従者であり幼馴染でもある本音ちゃんから報告を受けていた。

 画面の向こうの本音ちゃんは浮かない表情。

 

「ありがとう。悪いわね、本音ちゃん」

 

「いえ……」

 

 普段のような明るくハイテンションな様子はない。

 それもそうか。この報告は簪ちゃんに内緒。ある意味、告げ口と変わらない。

 姉の私に自分の動向を事細かに報告されたと知ったら、あの子はきっと不愉快感を露にするのだろう。

 それを本音ちゃんも分かって引け目を感じているといった表情だ。

 でも、本音ちゃんは立場上私の命令には逆らえず、私も悪いとは思うけども簪ちゃんのことは把握しておかなければならない。

 更識家当主として。姉として。

 

「……」

 

 口頭での報告はもらったけど、改めてデータ上でも報告を確認する。

 

 予想外。その一言に尽きる。

 まさかこんなにも早く簪ちゃんの未完成だった専用機打鉄弐式が完成するなんて。

 私の予想ではどんなに早くても十月頃だと思っていた。

 完成したのは喜ばしいことで、当然簪ちゃんの努力があるのは理解している。

 でも、内気なあの簪ちゃんが自発的に動くとは思えない。

 原因はこの男か。

 

「……」

 

 手元のタブレットでは男の経歴と一学期の動向が表示されている。

 

 初代ブリュンヒルデ織斑千冬の弟であり、世界初男性IS操縦者である織斑一夏に続いて現れたのがこの男。

 家庭環境、経歴ともにごく一般的。実は……と隠された何かがある様子もない。そう、どこまでもありふれている。成績、生活態度についても同じ。特に目を見張るものはない。

 なのに、この男が確かに簪ちゃんを変えてしまった。

 

「……」

 

 この男と簪ちゃんが仲良くするのは別段構わない。むしろ、いいことだ。

 織斑一夏と比べて様々な優先度は低いが、同じ男性操縦者であることには変わりない。

 加えて日本人。下手に他国の女子生徒と仲を深められ国外へ出ていかれては日本、ひいては更識家の損失になりかねない。特異な存在は確保しておきたい。

 だから、更識家の人間である簪ちゃんと仲良くなることでより日本に留めやくなる。

 

「……本当、予想外、よね……」

 

「? いかがなさいましたか?」

 

「ううん、何でもないわ」

 

 思わず声になってしまい、すぐ隣の座席で控える私の専属従者であり本音ちゃんの姉である虚ちゃんにはいつもの調子で誤魔化す。

 

 近いうちにこの男との交流は簪ちゃんと共に作ろうと計画していた。

 だが、早すぎる。まずは織斑一夏との交流を深めてからのシナリオだった。

 打鉄弐式についてもそうだ。私が先に織斑君と深め、織斑君の協力を得て私がお膳立てをしてから打鉄弐式を完成させる。その計画が台無しだ。

 瞬き程度に目を離すと気づいたら私の知らないうちに仲良くなって、専用機を完成させている。

 いつだって私が簪ちゃんを一番に大切にして見守っていたのに。私のように茨の道を進まなくていいように、危険なものは全て取り除いて簪ちゃんが生きやすいようにしていたのに。

 どうして織斑君のように何かあるわけでもないポッと出の男なんかに。

 

「……あ、あの、楯無様」

 

「今後予定に変更はございますか?」

 

 妹と姉。その従者が主である私の考えを待つ。

 シナリオは狂わされたけど、これはあくまでも一部。物語で言う幕間の話が狂わされただけのこと。

 本筋は変わってない。なら、私楯無のやることは変わらない。

 

「いいえ、変わらないわ。予定通り動き出しましょう。虚ちゃんは私のサポート。本音ちゃんはサポート、これ以降は簪ちゃんに従うように」

 

「かしこまりました」

 

「わ、分かりましたっ……!」

 

 簪ちゃんのことは気がかりだけど、構ってばかりもいられない。

 男性操縦者の対応。例年とは比べ物にならない専用機持ち新入生の対応。その他諸々。

 やらなければならないことは多い。その為に仕事を全て終わらせ、こうして学園へと戻ってきた。

 

 それに学園にいれば、友人である京子ちゃんから聞いた以上も自然と分かる。

 この男とも一度接触を図るのもアリだろう。

 簪ちゃんにとってこの男が相応しいか見極めるためにも。早めに。 

 

「……」

 

 迅速果断。そう書かれた扇を開いて、心を落ち着ける。

 

 大丈夫。

 今は少し噛み合ってないだけで簪ちゃんとはすれ違っているけど、いつかはきっとまた仲良くなれる。

 だって、私と簪ちゃんはこの世でたった一人の姉妹で家族なのだから……。

 


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