【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜   作:シート

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第四十三話―幕間ー彼にまつわる私の悩み

 訓練の後、彼と織斑と別れた私達女子はアリーナの更衣室近くにある大きなシャワルームへと行くことになったけど、その前に一度更衣室に荷物を取りに来た。

 そこで気づいた。

 

「あ……」

 

「どうかしたのか? 更識」

 

「う、ううん……何でもない」

 

 篠ノ之さんに心配され、私はとっさに誤魔化す。

 しまった。着替え忘れてしまった。

 ついてない。というか、ちゃんと用意して出たのに。

 ようやく実機訓練を始められたから浮かれていたのか。こうして一緒にシャワーを誘ってもらえたから浮かれていたのか。はたまたその両方か。

 何にせよ、汗は流したいから着替えは必要。取りに行かないといけないけど、取りに行くならもう部屋のシャワーでいい。一々戻ってくるのは面倒。

 でも折角、誘ってもらったことだし……そう悩んでいた時だった。

 

「皆~お疲れ様~」

 

 気の抜けた声と共に本音が入ってきた。

 何やら荷物を待っている。

 

「あっ、のほほんさん」

 

「やっほ~でゅっちぃ~」

 

「どうしたの? 訓練なら終わったけど……あ、更識さんに用か」

 

「そうそう。かんちゃん、これ~」

 

 渡された荷物を見てみる。

 中には部屋に忘れていた着替え一式が全部入っていた。

 助かった。ベストタイミング。

 

「わざわざありがとう」

 

「ふふっ、どういたしまして~。ところで皆はこれからシャワー?」

 

「そうだよ」

 

「じゃあ~折角だから私もシャワー、一緒に行っていい~?」

 

 何が折角なの。

 付き合い長いのに、読めない動きが多いのは相変わらず。

 というか、忘れ物を届けに来たんじゃなくて、シャワー浴びるついでに忘れ物持ってきただけなんじゃ。

 自分の着替えもちゃんと持ってきてて用意がいいし。

 

「もちろん。いいよ」

 

「まあ、これだけ大勢なら今更一人増えたところで変わんしな」

 

「そうね。そうと決まったらさっさと行きましょ」

 

 デュノアさんや篠ノ之さん、凰さん達皆はあっさり許した。

 まあ、皆にしたら別に断る理由もないし。

 こうなると私も忘れ物を持ってきてもらった手前、意見しづらい。

 まあ、いいか。仕方ない……そう折れて、本音を混ぜてシャワールームへと向かった。

 

 

「はぁ~極楽極楽~」

 

「リンリン~おじさんくさ~い」

 

「まったくですわ。いいですか、鈴さん。淑女たるものお淑やかに優雅に振舞わなければなりません」

 

「うっさいわね。シャワーぐらい好きに浴びさせなさいよ」

 

 シャワーの音と皆の声で賑わうシャワールーム。

 何度かここを利用したことがあるけど広い。寮の大浴場よりも少し小さいかなぐらい。当然設備も最新鋭のものでかりで充実してる。

 ここには他のアリーナからも来れるようになっていて、私達以外にも人はいる。

 だから聞こえてくる周りの会話も聞こえてきて。

 

「代表候補生の人達、本当スタイルいいよね」

 

「本当っ、羨ましいな~!」

 

「何したらあんなに胸大きくなるんだろう」

 

 耳に入るそんな会話。

 やっぱり、見られてる。目立ってる。

 気にしてるのは私ぐらいなもので、他の皆は気にしてない。

 

 聞こえてきた会話に釣られるよう、私は両隣を見る。

 右隣には篠ノ之さん。左隣には本音。二人とも胸が大きい。

 視線をおろすと目に入る慎ましやかな胸の膨らみ。

 

「……」

 

 声にならない溜息がこぼれる。

 同い年なのにどうしてこんなにも違うんだろう。

 最近はしっかり食べるようにしてるし、ちゃんと寝るようにだってしてる。運動も忘れてない。

 なのに変化はない。……まあ、始めたのがここ一ヶ月の話だからそうすぐに結果がでるようなものじゃないけど。

 

「なーに辛気臭い顔してるのよ」

 

「あ……凰さん」

 

「鈴でいいってば。まったく汗と一緒に嫌なことなんて流してしまえばいいのに」

 

 振り返れば後ろには凰さんが呆れ顔でいた。

 溜息ついたのを気づかれたのかな。どうしよう。

 

「悩み事とかあるなら聞くわよ?」

 

「え……あー……そういうわけじゃないんだけど」

 

「? 歯切れ悪いわね」

 

 言えない。

 相手関係なくこんなこと恥ずかしいやら情けないやらで。

 言ったところでどうこうなるようなものでもないし、このことは胸のうちにそっと閉まっとこう。

 

「かんちゃんはね~胸の大きさで悩んでるんだよね~」

 

「なっ!? ば、ばかっ……!」

 

 本当、この子は突然何を言い出すの。

 もしかして、フラグ築いてたの。

 認めたわけじゃないけど図星をつかれたみたいになってしまった。

 

「そんなこと悩んでたのね」

 

 呆れられたような言葉。

 そうだよね。そうなるよね。知ってた。

 こんな悩みなんて呆れられるようなレベル。情けない。

 

「ちょっ、落ち込まないでよ。悩むほど?」

 

「そうだよ。更識さん、気にしなくてもいいのに」

 

「この通り、こんな充分なもの持ってるのにこれ以上を望むなんて」

 

「ひゃあああっ……!?」

 

 後ろの凰さんから確かめるように胸を揉まれた。

 突然のことに私は驚いて、ただ声を上げることしかできない。

 

「こら、鈴さん。やめて差し上げなさい。みっともないですわよ」

 

「りんり~ん~かんちゃん、泣いちゃいそうだからやめたあげて~」

 

「えっ……ご、ごめん、簪」

 

「……な、泣かないからっ……」

 

 でも、泣きたい気分。

 やめてくれたけど、こんな辱め。 

 しかも、皆に胸のことで悩んでいるのを知られてしまった。

 知られたのは皆だけで、周りの人は私達の騒がしさに気を取られて聞こえてないのがせめてもの救いだけど、それでも恥ずかしくて情けない。穴があったら全身埋めて消えてしまいたい。

 

「しかし、何でまた胸のサイズで悩んでいるんだ?」

 

「それは……」

 

 ボーデヴィッヒさんの問いに私は詰まる。

 

 私が胸のことで悩む理由。

 それはやっぱり、自分の胸が小さいことで劣等感を感じたり自信が持てなかったりするから。

 魅力的な周りの皆。例えば篠ノ之さんやオルコットさん達も胸が大きくて。私の身内、本音やその姉虚さんだって胸が大きい。そして、姉さんもまた。

 胸の大きさが全てじゃないと分かってるけど、自分の胸の小ささを思うと自信持てないし、これだけ胸が大きい人達が多いとつい比べちゃって劣等感を感じてしまう。

 だから、胸を大きくてして女として魅力をつけたいし、魅力的になれば少しは自信を持つことが出来て、劣等感も感じなくてすむようになる。

 そんな口にすると情けない理由だから、口にするのは躊躇う。

 何より――。

 

「まあ、この国では大は小をかねるというから胸が大きい利点もあるだろうし、魅力的な女性像の一つではあるな。だが所詮は脂肪の塊。箒やセシリアのようにただ大きくても仕方ないだろ」

 

「なっ!?」

 

「ラウラさんっ!」

 

「? おかしなこといったか? すまんが事実には変わらん。小さいと感じても小さいながら利点を生かすのが賢く強い兵士というもの。戦いは戦術一つで変えられるのだ、更識よ」

 

「ラウラは何でも軍人思考で例えすぎよ。ま、言いたいことは分かるけどね。いい? 簪、小ささはステータスなのよ!」

 

 励ましてくれてるのか力説は嬉しいけど、私は勢いに押されるように頷くことしかできない。

 

「更識さんが悩んでるのはそういうことだけじゃないよね」

 

「あ~流石でゅっちぃ~分かる~」

 

「恋する乙女なら通る道だよね。僕も考えたことあるもん」

 

「なるほどそういうことか」

 

 デュノアさんは鋭い。

 おかげで篠ノ之さんを始め皆に気づいてしまった。

 集まる暖かい視線が痛い。

 

 あ~もう~! 

 心の中で羞恥心をかき消すように叫んで髪を拭いていたバスタオルで顔を隠す。

 

 仕方ないじゃない。

 男の人はいつの時代も胸の大きな人が多いと聞いたことがあって、彼もそうなのかなって思うと今のサイズじゃ振り向いてもらえないような気もして……人はまず見た目が大事というし。

 私は人よりも劣って魅力なんてないから、スタイルからでもよくしていかないと私なんかじゃ……。

 

「――さん、――さん? 更識さん、大丈夫?」

 

 デュノアさんの声で我に返る。

 また変な方法に考えちゃってた。折角シャワー浴びたんだから気持ち切り替えないと。

 

「あっ……うん、大丈夫。ごめんなさい、ちょっとぼーっとしてた」

 

「そうなんだ。てっきり私達が弄りすぎたから怒らせたのかと」

 

「怒ってないよ……ただその……恥ずかしいから、内緒にしててね」

 

「もちろん。むしろ、力になることがあるなら協力するから。更識さんのこと応援しているし」

 

「ああっ! 私もだぞ。想い人は違えど同じ恋の道に生きる者同士、力を合わせようではないか!」

 

「そ、そうだね……」

 

 いろいろ思うことはあるけれど、焦った所でどうしようもない。

 地道にやっていこう。

 

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