【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜   作:シート

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第四十四話 簪によく似た

 気づけば、夏休みも後二週間ちょっとで終わる。

 勉強、訓練、そして開発の協力。毎日その繰り返し。

 それでもいろいろなことがあった。外せないのは未完成だった簪の専用機打鉄弐式の完成したことだ。

 そして、時期で言うと昨日。無事の完成度は弐式々の開発元である倉持技研に認められ、晴れて正式稼動となった。

 

『まあ……本当合格ラインギリギリだったけど嬉しいよ』

 

 なんて昨日帰ってきた時に言っていたがこれは喜ばしい。俺も自分のことのように嬉しい。

 これで簪が背負っているものが少しは軽くなっただろう。

 おかげでようやく実機を使った訓練に簪も今日から本格的に参加するようになった。

 

「ちよっと早いけど今日はこの辺にしとくか。今日も暑いから皆最後まで体調管理しっかりな」

 

 一夏の一声で今日一日の訓練は終わる。

 メンツはいつものメンツ。皆、夏の帰省から帰ってきた。

 騒がしい日々がまた戻ってくる。気が遠くなったのは暑さのせいか。

 

「まあ……騒、賑やかなのも悪くないと思う、よ? うん……」

 

 同情めいた簪のなんとも言えないといった感じの言葉がしみた。

 訓練中簪はいつになく嬉しそうだった。機体を動かせるのが嬉しくて仕方ないといった様子。

 

「そ、そうかな……? まあ、その……ようやく専用機持ちらしいことできたからだと思う。機体は良くても私の動きが全然だったけど……」

 

 簪にしたらあれで全然なのか。

 開発の最中にやった試験稼動の時よりも格段に動きがよくなっていた。

 簪の正確は知っているが初日からそう自嘲気味にならずとも。

 

「そうだぜ、更識さん。めっちゃ動きよかったのに。なぁ、シャル」

 

「うん。以前僕と一夏と試合した時、微調整の効かない訓練機でも僕達と互角に渡り合えていたし、今日だって数回目とは思えない動きだったから更識さん自信持って!」

 

「そうですわよ。持てるものなのですから自信を持って堂々といるべきですわ」

 

「ああ。謙遜は日本人と美徳と言うが謙遜もあまりしすぎるとな……」

 

 ボーデヴィッヒは言葉を濁した後に続く言葉を察したのか、簪は申し訳無さそうに両肩を縮めていた。

 まあ、この程度ならそこまで気にしなくてもいいだろ。

 簪にとってまだまだなら、ここから強くなっていく。

 ここから更に動きが洗礼されていくと思うとやはり簪は専用機持ちに選ばれた代表候補なんだと改めて思い知らされた。

 

「じゃあ、解散ってことで。また後でな」

 

「はーい」

 

「早く汗流したいわね。汗が気持ち悪い」

 

「そうだな。まずはシャワーだ」

 

 なんて会話を背中で聞き流しながら、まずは更衣室に向かった。

 

 

「いいよな、女子は。すぐシャワーが浴びれて」

 

 隣で着替える一夏が何かぼやいているが今更だろう。

 ここはそういうところだ。

 さっさと着替えて、部屋のシャワーを使う仕方ない。

 

「まあ、そうだな」

 

 着替えを済ませると寮へと戻ろうとする。

 今日も外は夏真っ盛りの暑さ。アリーナから寮までの道のりは室内を伝っていけるのが幸いだ。

 通路は適度に冷房が効いていて快適。金がかかった学校だけはある。

 

 夏休み後半だからか帰省から帰ってくる生徒もちらほらといるにはいてごく稀にすれ違う。

 何もないまますれ違うこともあれば、有名人の一夏に挨拶程度に声をかける人もいる。

 それは今までもあったことで、また前方から二人組みが歩いてくる。この時期にしては珍しく二人とも制服。基本私服の人か作業着の人ばかり見ていたから目に付いた。

 おかげで目が合い、何となく挨拶を交わしてすれ違おうとする。

 

「あら、こんにちは」

 

「ふふっ、こんにちは」

 

 そのまま何事もなくすれ違う。

 その言えば、今の二人……。

 

「ん? どうかしたのか?」

 

 俺の様子が気になったのか隣の一夏が訪ねてきた。

 どうもしてないが、今の二人組初めてみた気がした。

 声をかけられることがあってこの人前にも会ったなと感じることはあるが、こういう感じなのは初めて。本当に初めてみる人達だったんだろう。

 

「あー言われて見ればたらそうだ。胸元のリボンが黄色だったから二年生の人かな。眼鏡の人はつけてなかったからわからねぇけど」

 

 そうか。

 本当によく見てる。関心してしまった。

 上級生なら初対面だったと感じて当然か。俺自身、上級生と交流があるわけでもないし。

 ただ何ていえばいいんだ。

 

「気にでもなったか? 更識さんがいるのに隅に置けないな~……ってっ、鼻で笑うなよ!」

 

 馬鹿なこと言うからだ。

 何でもなかった。気にしない。

 

 

 寮に着くと一夏とは別れ、部屋へと帰る。

 そしてシャワーへ。ようやく一息つける。

 早めに切り上げたとは言え時間はもう夕方。この後は夕食ぐらいだが、それまで少し時間がある。

 一夏とはまた後でとは会話したが、このまま部屋でゆっくりしていたい。

 などとぼんやり考えながらシャワーを済ませ新しく着替え、風呂場から出ようとした時だった。違和感を感じた。

 何だ。風呂場の外、誰か居る気がする。物音を聞いたわけではない。第一部屋に呼んだ覚えもなければ、勝手に入ってくるような相手もいない。自動ロックだ。

 風呂場を出て玄関を確認した。あるのは自分の靴だけ。気のせいか。こういうのは気味が悪くて嫌だ。

 とりあえずベットのほうへと向かった。

 

「ふふっ、こんにちは。後輩君。ご機嫌いかが?」

 

 いつものベットに合わないおかしい人の姿。

 女の人のくつろいだ声。

 しかも、ワイシャツ1枚で生脚が見えている。

 ダメだ。ダメ過ぎる。頭がついていかないがこの状況がおかしいのは見た瞬間すぐ分かった。

 

「って……あら? ちょ、ちょっと……!」

 

 同時に俺は、すぐさま部屋を飛び出した。

 何か聞こえてきたが知らない。ついでに寮則も今は忘れた。

 部屋のドアが開いてよかった。こういう時大体閉じ込められるのがお約束。

 全力疾走で向かうは寮のコンシェルジュがいる管理人ルーム。あれは一人で関わってはいけない。ましてや、一人でなんてとてもじゃないが対処も出来ない。

 こういうのは大人に頼るのが一番。

 

「ど、どうかしました?」

 

 突然の訪問にコンシエルジュの人は戸惑っている。

 無理もない。とりあえず、中へと入れてもらいさっきあったことを説明する。

 

「えっ、部屋に知らない女の人が……薄着で……はぁ……」

 

 話は聞いてくれたがポカーンとしている。

 こうなるか。ここのセキュリティーは腐っても世界最高峰。最新技術が使われている。

 非常時でもない侵入者なんてありえないことを真面目に言っていたら、こういう反応しか出来ない。逆だったら自分もこうなるだろう。ましてや自分は男。何言ってるんだこいつ状態。

 だが、他にどう言えばいいんだ。今部屋に帰るの怖い。

 

「落ち着け。大丈夫だ」

 

 どうしようかこちらも向こうも悩んでいるとここでお茶していたらしき織斑先生が助け舟を出してくれた。

 ちなみにすぐ近くには山田先生の姿が。

 

「落ち着いてもう一度話してみろ」

 

 その言葉に一呼吸してから、もう一度状況を説明した。

 

「不審者ということか。山田先生方、悪いがこいつの部屋の巡回を頼む。見間違いという線もあるが織斑のことといい最近はいろいろと前例がある。一応非常時警戒で秘密裏にで」

 

「わ、分かりましたっ」

 

「了解です。コンシェルジュ用のマスターキー使いますね」

 

 山田先生とコンシェルジュの人達が部屋を後にする。

 何だか大事にしてしまった。それについて思うことがないわけではないが、今は安心のほうが勝る。

 

「それでその女の容姿、特徴は覚えてないか?」

 

 一瞬で部屋飛び出してきたからはっきりと顔を覚えてはない。

 知らない女の人だったということで確かなだけで……。

 いや、何かがひっかかる。それとしいて言うなら何処か簪に似ていたような気がしなくてもないような。

 

「そうか……分かった。まあ、茶でも飲んで気持ちを落ち着けろ」

 

 織斑先生も何かがひっかかっている様子だったが頷くとどまった。

 いただいた茶が染みる。気のせいだといいが……。

 それから数分後、巡回しに行ってくれた山田先生達が戻ってきた。

 

「室内の確認。辺りの巡回しましたがそれらしい人は見つかりませんでした」

 

「鍵の記録も見てみましたが、彼のルームキーカード以外の使用履歴はありませんでした」

 

「そうか。分かった」

 

 何事もなかったという結果。

 それはそれで安心であるが、やはり俺の見間違いだったか。

 ことを騒ぎにしただけだ。この場の皆さんに謝罪した。

 

「あ、謝らないでください。何もなかったっということが確認できて私達も安心ですからね」

 

「そうですよ。君が嘘を言うような人ではないということは私達コンシェルジュ一同もよく知っていますからあまり気になさらず」

 

「その通りだ。気に病むな。不安だろうがひとまずは安心しろ。お前に言う必要はないはないだろうが戸締りは改めてしっかりとするんだぞ」

 

 優しい言葉の数々に少しは申しわなさも和らいだ。

 今は見間違いでよかったと安心して納得するほかない。

 戻ったら一応シーツとかは変よう。

 

「そうしとけ。まあまた何かあれば我々教員なり、コンシェルジュの方々を頼るように。決して一人で解決しようとするな。頼んだぞ」

 

 念を押してくるような口ぶり。

 織斑先生の脳裏には今きっと一夏のことが思い浮かんでいるんだろうな。

 はいと頷いて、お礼を言うと管理人ルームを後にした。

 

「どったの~? なにかあった~?」

 

 気の抜けた聞きなれた声がきこえ、寮の玄関を見ると本音と簪がいた。

 シャワーから戻ってきたんだろう。それにしては篠ノ之達の姿は見えない。

 後、何で本音がいる。

 

「篠ノ之さん達なら先に戻ったよ。ゆっくりしてたから最後になっちゃって」

 

「かんちゃんにお着替えお届けに行ったついでに私もシャワー入ったから一緒なの~」

 

 なるほど、それでか。

 

「で、そっちは何でこんなところに~? トラブル~?」

 

 まあ、そんなところ。解決もしたし、大したことではない。

 そう適当に誤魔化しておいた。

 本当はことはとてもじゃないが言えない。

 

「本当に大丈夫……? 難しい顔してるけど……」

 

 簪から心配そうに言われ、ハッとなる。よくないな。

 だが、今部屋に一人で戻るのは情けないことに怖い。部屋の確認とシーツなどの交換をしておきたいが、さっきの今だと流石にまだ。

 

「一人で抱え込もうとしないで。私、力になるから。私一人じゃ頼りないなら本音もいるし」

 

「そうだよ~。お友達なんだから遠慮しないで~」

 

 そう言ってもらえるのは嬉しいが躊躇いは強い。

 しかし、ここで変な意地みたいなのを張っていても仕方ないか。怖いものは怖い。

 少しぐらいは甘えてもいいということだよな。

 

「もちろん。私はそうしてくれると嬉しい」

 

 なら、とここは素直に二人の好意に甘えることにした。

 

「それで一体何が……?」

 

 ここで話せるような話題ではない。

 誰か部屋にいてほしい。場所を変える為、部屋へと誘ってみた。

 

「部屋……? 分かった」

 

「いいよ~」

 


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