【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜 作:シート
更識会長から解放された後は無事訓練に参加することが出来た。
ことがことだったのでつい尾行の警戒をしてしまったが、そういう気配はない。
素人なのでそう簡単に気付けるものではないだろうがあっさり解放してくれたあたり、流石にもう大丈夫だろう。大丈夫だと信じたい。
何はともあれ、ひとまず一安心。
簪にも更識会長と話があったことは話した。正直、話すべきか迷ったが隠すようなことでもない。
一人で抱え込まないと約束したわけだし。
「……」
そして今は訓練の休憩時間。休憩所。
そこで更識会長ことを今ちょうど話終えたところ。
遅れてきた時、案の定心配されてしまったが、いざ話し出すと何も言わず静かに聞いてくれた。
更識会長の名前を出しても驚かなかった。もしかしなくても、気づいていたか。
「うん。まあ、あなたが遅れるって言ったから、もしかしてって。昨日の今日でも姉さんならやりかねないから……でも本当、無事でよかった。何もされてないんだよね……?」
信用ないな。
それはどちらに対してもなのかもしれないが。
見ての通り無事だ。何もない。本当にただ話をしただけだった。
「なら、とりあえず安心だけど……予想、外れてほしかった……」
簪は目に見えて落ち込んだ。
外れるどころか、全問正解。しかも、向こうから認めたから……。
実の姉が、ということもあってショックみたいなものは俺が思っている以上に大きいのだろう。
「……ごめんなさい」
ぽつりとそう言って簪はこちらを向き、深々と頭を下げてきた。
慌ててやめてもらう。
「いや、だって……姉、身内が迷惑かけたんだからせめて謝らないと。本当ごめんなさい」
謝りながらまた簪は頭を下げてきた。
簪が謝るようなことでもなければ、気にするようなことでもない。
と言われたところで簪は気が済まない。
だから頭を上げてもらい、謝罪を受け取った。
昨日のことは思い出しても得があるようなことではないし、これっきりで。
「……だね」
頭と気持ちを切り替える。
これからどうするか考えなければ。
「これから……?」
きょとんとするのは無理もない。
わさわざ考えるなんて大げさにするほどのことではないが更識会長とはこれから会う機会は増えていくだろう。
出会いが出会いだっただけに苦手意識はあるがそうに邪険にするわけにもいかない。
実際、向こうは仲良くしてくる気満々だった。それが本当なのかは計り知れないが心構えぐらいはしておきたい。
ああいう手合いの人相手に心構えなしは心もたない。
「それはそうだね……。仲良く……」
簪は俯き加減に考え込んでいた。
更識会長が一番仲良くしたい相手は簪。
しかし、そう簡単にはいかなさそうだな。
「まあ、それはね……姉さんがあなたにしたことは許せない。姉さんに対しても気持ちが整理できたわけじゃないけど心配しなくても大丈夫」
そう簪は言い。
「いきなりは難しいけど……少しは歩み寄ろうと思う。すれ違ったままじゃ、昔のままじゃもういたくないから」
簪の瞳には確かな光が宿っていた。
そこまで決意が固まっているのなら、これまでと変わらず俺がしゃしゃり出ていいことはない。
できるのは陰ながらの応援だ。二人が上手くいくように願うばかり。
「ありがとう……私も心構えしておかないと。姉さんって本当急な人だから」
それはよく分かる。
急な人相手だからこそ心構えはあることにことしたことはない。
「仲良くしたいって言うなら……あんな滅茶苦茶のことせずに初めから私に直接言ってくれればまだ……」
それはそうだが、やはり難しいのだろう。
更識会長は簪の姉でもあるが、生徒会長、国家代表、更識家の当主。
いろいろな立場がある人。そう素直にもいられないのかもしれない。二人のすれ違っている時間はそれ相応だろうし。何より、あの人を食った性格とか考えると尚更。
素直な人だったら今頃こんなことにはなってないはずだ。
そう言う簪だって……。
「何……?」
ジト目を向けられ、努めて冷静に言葉を呑む。
すると簪は少し拗ねた様子で口を開く。
「私だって素直じゃないって言いたいんでしょ? 分かってるもん……まずは私のほうから素直にならないとね」
そう簪が意を決したような表情をしていたのが印象的だった。
しかし、いつまでもこんな話をしていては休憩だというのに気は休まらない。
適当な話題を振って話を変えていく。
すると、気がそれたのか簪は次第に笑顔を見せてくれた。
そして、話はいつしか夏休みの残りについて。
後少しで夏休みも終わりだが夏休みらしいことはなかった。それについては今更だが、残り少しの夏休み。時間を作って以前言っていた特撮映画ぐらい見に行けたらいいが……。
「行けてないね、そう言えば。行きたいね……」
そうだな。
などと頷くと、訪れる沈黙。チラチラとこちらを見る簪。
これはそういうことなのか……? まあ、簪が一人で身に行くとは考えにくいし。
でも、俺は簪に告白した身。そういうのを絡めるのはよくないとは分かっているが、いろいろ考えてしまうものであって。
まあ、誘うだけならタダだ。だから誘ってみたが。
「更識さんー!」
遠くの方で簪を呼ぶ声。
「あ……よ、呼ばれる。ごめなさい……い、行ってくるねっ」
そう言って簪は出ていった。
うまく逃げられたな、これは。
いきなり過ぎたか。逃げられるのはなれてる。気長に確実にいこう。
・
・
・
干した洗濯物をしたりたりいろいろとしていると午後の訓練に遅れてしまった。
同じく遅れてきた簪と合流してアリーナに入る。
気持ちを切り替えたから、先ほどのことは頭の隅に追いやる。もうなれだなこれは。
一夏達はもう先に始めているはずだ。
午後からは午前とは違う訓練内容。頑張ろう。
「うん、頑張ろう……ってあれ……」
気合を入れた矢先、簪が何かに気づき目を奪われていた。
視線の先を追うと輪になっている一夏達の姿があった。
何なら疲れた様子だ。
そしてすぐ簪が目を奪われていた理由が分かった。
目を奪われるのも無理ない。なんせ輪の中心には更識会長がいるのだから。
「セシリアちゃんは型に入りすぎね。もっと意外性を持たせないと。箒ちゃんは焦らないこと。高性能機だからって過信してるのが動きに出てる。言われるまでもないでしょうけど、気を付けて。一夏君は……」
状況から察するに更識会長が一夏達に訓練をつけていたんだろう。
専用機らしき機体装甲を身にまとっている。
一体何故ここに……。急な人だとは思っていたが、本当に急すぎる。簪は……。
「――」
言葉なく驚いていた。
心なしか少しばかり顔色が悪くなっている。
明らか動揺している。俺は名前を呼び声をかけた。
「――っ、大丈夫。……まさか、今さっきあなたが会ったのにもう来るなんて。噂をすれば影がさすだね」
そう言った簪は冷静を務めているが動揺はまだ見て取れる。
噂をすれば影がさすとはまさしくだ。
急な人だとは思っていたがここまでとは。
一夏達を見に来た。それもあるだろうが、一番はやはり簪に会いに来たか。
「っと、こんなところね……あっ! 簪ちゃん達じゃない。やっと来た。待ちくたびれたわよ」
こちらに気づき、手招きしてくる。
行きたくはないが行くしかない。
行かないと訓練すら始められない。
「ん、行こ」
先に踏み出した簪に続いて更識会長のもとへ向かう。
簪の足取りは確かだ。決意が伝わってくる。
「ふふっ、久しぶりね。簪ちゃん」
「……うん。久しぶり……姉さん。復学したんだ」
「ええ、いろいろと落ち着けてきたから二学期から正式に復学よ。簪ちゃん、元気そうでよかったわ。お盆行事、顔出さなかったからお父様寂しがってたわ」
「……そう。この間電話入れたけど」
当たり障りのない会話。
特にこれといったことは話してないがお互い、特に簪が距離を図っているのが分かる。
「君もさっきぶりね。また会えて嬉しいわ」
これまた当たり障りのない挨拶。
しかし、今までが今までなので身構えそうになる。
と同時に簪が庇う様に俺の前へと出た。
「あら……ふふっ、大丈夫よ。そんな警戒しなくてもいきなり取って食ったりはしないわ」
「……」
楽しげに笑う更識会長をジッと見つめ返す簪。
そんな様子を皆はオロオロとした様子で眺め、耐えかねた一夏が話しかけてきた。
「なぁ、更識会長と更識さんって……やっぱり姉妹ってことでいいんだよな?」
答えようとすると耳に入っていたのか更識会長が代わりに答えた。
「ええ、そうよ。似てるでしょ? 簪ちゃんは私の大切な妹。皆、いつも仲良くしてくれてるみたいでお姉さん嬉しいわ。これからも妹と仲良くしてあげてね」
「それはもちろん」
「……」
皆一様に頷いていたが、簪は心なしかムッとしている。
まあ、突然来て今まで関わってこなかったのにこんな風に姉面されれば簪としたら内心複雑のなんだろう。
本当に何し来たんだか。一夏達に訓練つけてたのは間違いないが。
「おうっ! お前達が来るまで更識会長に六人一緒にこれまでの成果みたいなのを見てもらってたんだけど、強いのなんの」
「だね。僕達六人がかりでも全然歯が立たなかったよ」
「こんなにも一方的にやられたのは初めてですわ。正直、プライドが……」
「ふふ、IS学園の生徒会長は最強であれ。候補生達にはそう簡単に負けれません。それに皆一人一人目を見張るところがあるから自信もって! 後、私のことは楯無会長で」
一夏達六人息こそはもう落ち着いたがまだ疲れている。
対する更識会長は疲れた様子は一切なく、変わらず楽しげな表情を浮かべたままだ。
これだけでよほど腕が立つ人なのだということが分かった。学園で唯一の国家代表、最強と謳う生徒会長、それらの肩書は伊達ではないということか。
「私がここに来た理由はこうして一夏君達の成長具合を確認しに来たのともう一つ。簪ちゃんの様子を見に来たの」
「……私の……」
「専用機の開発、成功したんでしょ? まずはおめでとう」
「あ、ありがとう……」
更識会長が専用機完成のことを知らない訳ないか。
だとしたら、おそらく簪の今の成長具合も把握しているはずだ。
先の展開が読めてきた。
「完成したその成果。訓練を続けてる簪ちゃんがどれほど成長したのか、この私が一度試合して見てあげる。一夏君から聞いたけど簪ちゃん、訓練はしていても試合はまだやってないんでしょ?」
その言葉を聞いて簪は一夏を睨むように見ると一夏は申し訳なさそうに肩を縮めていた。
やはりこうなった。これは簪を試す気なのか? それとも妹のことを知りたい一心からなのか。
「相手にとって不足はないと思うのだけど、どうかしら?」
突然の申し出に簪はどうでるのかと見守っていると、意外にも簪は二つ返事で了承した
「うん……分かった。やろう」
「あら、即答。誰に似たのかしら……本当にいいの?」
「うん。やっぱり、しないとかなら別にいいけど」
「いいえ、やりましょう。嬉しいわ。そうね、時間は今日から三日後とかでどうかしたら? 細かい時間や場所はまた追って本音ちゃんあたりから連絡させるわね」
「分かった」
「じゃあ、私は仕事とかあるから今日はこの辺で失礼するわ。一夏君達はアドバイス参考にしてくれると嬉しいな。じゃあ、またね」
ひらひらと手を振りながら更識会長は、アリーナを後にした。
「嵐のような人だったな」
一夏の言う通りだな。
更識会長が去ったこの場はまるで嵐が過ぎ去った後のように静か。
ほとんど皆一様に呆気にとられた様子だ。
その中でも簪は一人、更識会長との試合に向け、意識を高めているようだった。
…