【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜   作:シート

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第四十八話 備える簪の傍で

 簪が更識会長と試合することなったのが一昨日。

 そして一日明けて今日になったのだが、前日にも関わらず簪はいつもと変わらない。

 至って冷静。試合を前にしても簪に取り乱した様子もなければ、焦った様子もなかった。

 早朝のランニングをし、朝食を一緒に食べ、日中訓練をやりといつも通り行う。

 杞憂だったようだ。簪なら心配されるまでもなくしっかり準備しているだろう。

 今もおそらく。

 

 時計を見れば、もう昼の三時過ぎ。

 今日の午後練は各自でということになっている。今日も実機訓練だったがアリーナが外にあり、外が猛暑で身の危険を感じる暑さを考慮して中止になった。

 なので一夏みたいに夏休みの宿題などをしていたり、室内のトレーニング施設でトレーニングをするデュノアやボーデヴィッヒなど代わりにやってることは皆いろいろ。

 俺は部屋で勉強をしていて、簪は室内施設で明日に向けた自主練をすると言っていた。

 いても邪魔になるだろうとついていかなかったが、正直簪の様子が気になる。

 こちらが気にしたところでどうしようもない。しかし、それで気になってしまう。

 

 差し入れでも持って様子を見に行こうか。

 邪魔になるなら帰ればいい。

 いや、先に一言断りをメッセなりで入れておかないと。

 すぐに返事は返ってこないだろうが。

 

《大丈夫だよ。今、第二武道館にいるから好きな時に来て》

 

 思ったよりも早く返事がきた。

 しかも、あっさり行くの了承された。

 まあ、そういうことなら気にせず行ってみよう。

 支度して部屋を出る。向かうは第二武道館。勿論、途中購買部で差し入を買っていくのも忘れない。

 第二武道館は学園の端の方にある。第一武道館が基本的に使われていて、第二武道館が使われるのは稀だ。

 だからこそ、一人になるにはちょうどいい。実際、第二武道館に着くと中で簪は一人だった。

 

「あ……いらっしゃい」

 

 出迎えてくれた簪は上は白の道着、下は紺色の袴に身を包んでいた。

 手には木製の薙刀。

 これだけで薙刀の稽古最中なのだと分かった。

 来ておいてなんだが邪魔してしまった気がする。

 

「ううん……大丈夫。気にしないで……丁度、今から休憩するところだったから」

 

 そうならいい。

 忘れないうちに差し入れを渡す。

 

「ありがとう。あ……チョコ。しかも、抹茶」

 

 とスポーツドリンク。

 水分補給と糖分補給。これがいるだろうと思った。

 抹茶味なのは適当に選んだわけではなく、この間簪が作ってきた小さなカップケーキが抹茶味だったので多分好きなんだろうと思い選んだ。

 

「うん。抹茶味、好き……覚えてくれてたんだ……」

 

 あのカップケーキは美味しかったからな。

 忘れられない。

 

「そう……嬉しい。い、いただくね」

 

 頷いて答える。

 端の方で腰を落ち着け休憩しながらチョコを食べる簪の隣でふと辺りを見渡す。

 当然、俺達以外は誰もいない。ただ一面に木の床が広がるだけ。

 ここで簪は一人薙刀の稽古をしていた。弐式の近接武器は薙刀だったな。

 

「うん。私元々、小さい頃から茶堂、華道、日本舞踊、薙刀術って仕込まれてて弐式を任されることになった時、弐式の近接武器を薙刀にしてもらったの」

 

 それでか。納得した。

 ということは稽古では型の確認とかだろうか。

 薙刀術の稽古は見たことないからそんなイメージしかつかないけど。

 

「大体はそんな感じ。本当は訓練するならするで明日に向けて実機関連のことするべきなんだろうけど、今はそんな気分じゃなくて。かといって明日のことを考えるといろいろ考えすぎちゃって。でも、何かしてないと不安で……だから型を確認しながら、気持ちを落ち着けてたの」

 

 前日だからそれもそうか。

 明日の準備はどうなんだろう。

 いや、あまりこういうのを聞くのはよくないか。

 

「ううん、大丈夫……準備はできてる。……あの、ね」

 

 ふと簪が問いかけきた。

 

「大したことじゃないんだけど正直、よく姉さんとの試合、受ける気になったなって思ったでしょう……?」

 

 まあそれは、少なからず思った。

 受けるにしてもあまりにも即答だったから。

 けれど、売り言葉に買い言葉で受けたわけではないことは分かる。

 

「それはもちろん。姉さんの前に立つの本当はまだ、怖い……でも、折角の機会。ちゃんと活かして私の成長をお姉ちゃんに見てもらう。私はもう昔の私じゃないんだって。訓練もして、姉さんの対策も考えた。何より、私には皆と皆と完成させた弐式がついてる。勝ってみせる」

 

 確かな声で簪は言った。

 心配は本当に杞憂だった。

 変わらず応援あるのみ。明日はちゃんと見届けよう。

 

「うんっ……心強い」

 

 それからもう少し簪と休憩を過ごした。

 少し長居してしまったかもしまった。

 そろそろ帰るか。そう思った時だった。

 

「まだ聞きたいことがあるんだけどいい……?」

 

 また簪が問いかけてくる。

 今度はなんだろう。

 

「本当、他意はないんだけど……姉さんのこと、どう思ってるの……?」

 

 凄いことを聞いてくるものだ。

 どうってどういう……。

 

「それはそうね。じゃあ……はっきり聞く。好き? 嫌い?」

 

 本当にはっきり聞いてきた。

 それもまた、極端な二択を。

 しかし、ふざけているわけではない。真剣な問い。

 

 好き、嫌い。

 はっきりさせてしまうのはいろいろありそうだが、どっちらか。しいて、どちらかと言えば、悪いが更識会長のことは嫌いだ。

 

「えっ……?」

 

 ついこの間、こんな風に驚かれたのを思い出す。

 似てる。姉妹なんだと感じさせられる。

 こんな驚かれるなんて、やはり言い方がよくなかった。いくらなんでもはっきり言い過ぎた。

 

「いや、はっきり言ってって言ったのはこっちだからそれはいいんだけど……そんな風にお姉ちゃんのことはっきり嫌いって言う人いなかったから驚いちゃって……」

 

 意外そうに簪は言う。

 そんなにだろうか。

 

「うん。勿論、姉さんのこと苦手な人はいるにはいるけど皆、何だかんだ好き。愛される人だから」

 

 分かるような気がする。

 愛想がよく、万人受けされる人だ。更識会長は。

 好きか嫌いかの二択で聞かれたからああ答えだけで、実際のところは苦手なだけで本当に嫌いというわけじゃない。

 というか簪こそ、どうなんだ。

 

「わ、私……? ……どっちかって言うと……私も嫌い、があってる……のかな。もちろん尊敬してるし、姉さんは私の憧れで目標の一つ。優しいところ、強いところ好きだけど……お姉ちゃんに対する気持ちは複雑なものもがいっぱいあって……好きだけじゃいられない……」

 

 複雑……俺もそうなのかもしれない。

 出会いがあんな出会いだったから、余計いい印象が持てない。

 話をして簪のことを思っていることを知れても、第一印象は中々簡単には拭えてない。

 

「それはそうだよね。あんなことあったら……で、でも、もしあんな出会い方じゃなければあなたもお姉ちゃんのこと好きに、なってりしてね……」

 

 どうだろう。微妙なことだ。

 あの出会い方をしなくても、更識会長は人を喰ったような性格。

 あの手の人、あまり得意ではないからなぁ。

 もっとも嫌いだとか苦手だとかそういうのはよくないだだろうし、先輩で簪のお姉さんなんだ。ゆっくりでもいいから上手く折り合いをつけて、上手くやっていくほかあるまい。

 

「それもそうか……うん、よし。ありがとう……頭すっきりできた。頑張れそう」

 

 ならよかった。

 少しでも簪の力になれるのならうれしい。

 明日の更識会長との試合、上手くいくように願う。

 

… 


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