【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜   作:シート

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第四十九話 簪が迎えた結末

 「……」

 

 アリーナへと繋がる通路を歩くその隣。

 更衣室まで付き添っているのだが寮を出てから簪は、ずっと緊張した顔をしたまま。

 無理もない。今日、後もう少しで更識会長との試合が始まる。

 覚悟は決まっていても緊張はどうしてもしてしまうものなんだろう。

 

「だ、大丈夫。これは武者震いだから」

 

 らしくない強がり。

 昨日の今日で今更心配なんて杞憂だと分かってはいるが、この様子を見せられると心配せずにはいられなくなる。

 最も簪なら自分の中で上手く折り合いつけるだろうが。

 

「……」

 

 簪の足が止まった。

 

「やっほー」

 

 俺達の行く先。

 そこに更識会長がいた。

 更識会長の隣……控えるようにいるあれは誰だ。眼鏡をかけた女性。

 

「ああ……先に紹介するわ。この子が私の従者、布仏虚ちゃん」

 

「初めまして、三年の布仏虚です。いつも妹の本音がお世話になってます」

 

 柔らかな笑みを浮かべ、軽く会釈される。

 この人が本音のお姉さん。美人系の人だ。

 それに整備科主席。確かに知的な雰囲気を感じる。

 

「……、……それで姉さん、どうしたの……何か用事?」

 

「ええ、試合の前に挨拶しとこうと思って。今日はよろしくね」

 

「……うん、こちらこそ。今日はよろしく……姉さん」

 

 挨拶を交わす二人。

 至って普通なやり取り。

 これなら大丈夫か……頃合いを見計らって、割り込む形にはなったが話を切り出した。更識会長へお願い事を。

 

「お願い事……ああ、アレ」

 

「? 何かしら。……ふんふん、なるほど。試合の撮影ね……」

 

 お願いとは試合の撮影。

 ただ見てることしかできない。けれど、何かしたくて……せめてこれぐらいはと思い撮ることを決めた。

 映像として残していれば、試合を終えた時よりはっきりと振り返れることもできるだろう。後々、いろいろなことに役立てるかもしれない。

 といっても勝手に撮るのはよくないのでこうして願い出た。

 

「いいでしょう。撮ってくれてかまわないわ」

 

 よかったと。一安心だ。

 これで少しぐらいは……。

 

 その後、更識会長達とは別れ、更衣室へと続く道に着いた。

 付き添いはここまで。この後は試合本番。

 俺はアリーナ観客席から見ることになる。次、顔を合わせられるのは試合後。

 

「……付き添いありがとう。そろそろ行くね」

 

 更衣室へと歩き出そうとする簪はどこか不安げ。

 こんな時何か声をかけて元気つけるべきだろうが、なんと声をかけたらいい。

 迷ってる時間はなく、何とか言えたのは『応援している』なんて言うありきたりな言葉だった。

 

「ふふ……ありがとう」

 

 微笑んで簪は踵を返し、歩いて行った。

 声をかけることはできた。でも、本当に声をかけただけ。

 結局、微笑んでいても最後まで不安げな表情を変えることはできなかった。

 もっと別に気の効いた言葉をかけれなかったのか? もっと勇気づけられなかったのか?

 

「どうかした……?」

 

 気持ちだけが先行してつい名前を呼んで呼び止めてしまったが、かける言葉は見つからない。

 何でもないと下手な誤魔化ししかできない自分が情けない。

 

「……そう……」

 

 簪は行ってしまう。

 何かやり残したそんな心残りが募るばかり……。

 

 

 

「凄い盛り上がりだな」

 

 今いる観客席の盛り上がりを見て隣の一夏がふと言った。

 おそらく更識会長が人を呼んだんだろう。

 このアリーナには多くの人が詰めかけている。まったく知らない上級生らしき人達もいれば、見知った人達もいる。

 

「き、緊張する~!」

 

「本音が緊張してどうするの」

 

「でも、分かるわ」

 

 本音は勿論、整備科の人達までもがこの場にいる。

 他にも篠ノ之やデュノア達いつもの面々が勢揃いだ。

 それだけ皆心配だったり、気になるということ。

 開始が待ち遠しい反面、心が落ちつかない。

 

「おっ、始まるみたいだ」

 

 場内に警報が一つ鳴り、皆の視線が左右それぞれのピットの方向へと向かう。

 そして静寂に包まれた後、左右それぞれから機体を身にまとった二人が現れ、試合は始まっていく。

 

 

 

 

 試合が始まってから大分時が経つ。

 試合状況のほうは……。

 

「簪さん、善戦していますけれど……これは……」

 

「簪は今、三戦一敗。正直、キツいわね。言っちゃ悪いけど、勝ち筋が見当たらないわ」

 

 凰のはっきりとした言葉に皆は言葉を詰まらせ、無言の肯定をしているかのよう。

 状況はよくない。善戦しているが、防戦一方。すでに一試合終わり、簪は一敗。

 二試合目の今、勝敗を決めるシールドエネルギーの減りは簪のほうが圧倒的に多く、更識会長は減りこそしてはいるが掠った程度。まだ健在。

 

「これが学園唯一の国家代表の実力」

 

「うむ。生徒会長は学園最強たれ……だったか、あの生徒会長が言ったのは。あの強さは本物だ」

 

 試合の様子を見てはデュノアや篠ノ之が口々に感想をこぼす。

 確かに更識会長の強さは本物だ。ああ名乗っただけのことはある。

 だからなのか、簪を見守り応援する自分達以外、ほとんどが更識会長の強さに感心し魅入られている。

 

「会長、素敵―!」

 

「楯無ちゃんそのまま押せー!」

 

「頑張れー先輩っ!」

 

 こんな声援がいつくも上がるほど。

 同級生、上級生、下級生問わず凄い人気だ。

 

「俺達が前楯無さんに見てもらった時戦ったけど、あの時とは大違いだな。それに……」

 

「気づいたか、嫁よ。あの女、一戦終えても凄まじい余裕がある。本気は本気だろうが……差は歴然。圧倒的だな……」

 

 ボーデヴィッヒの冷静な分析が刺さる。

 今も尚簪は必死に食らいついている。けれど、更識会長はそんな簪の健闘すら歯牙にもかけず軽々といなす。

 そして、圧倒的な実力で簪を追い詰めていく。

 

「……ッ!」

 

 試合の様子を撮影する機材の画面。

 そこには辛そうな顔をする簪が映る。

 消耗しきっているのが見ているだけで分かる。

 もう本当に後がない。それでも簪は諦めない。食らいつこうとし続ける。

 

「……ふふっ」

 

 笑っている。

 更識会長はそんな簪の姿を真剣な表情で受け止めてこそいるが、目が笑っている。まるで自分に食らいつてくる簪を愛で、楽しむかのように。もっと自分に食らいてくるのを期待するかのように。

 しかし、更識会長の攻める姿勢は自分に食らいつく気力すら根こそぎ奪いさろうとするかのように容赦なく。だからこそ――。

 

『試合終了。勝者――更識楯無』

 

 決着と勝者がアナウンスされ、試合終了を告げるサイレンが場内にけたたましく鳴り響いた。

 

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