【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜   作:シート

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第五十話 簪の傍へと

 簪と更識会長の試合があった日の夜。その夕食時。

 結局、簪は姿を現さなかった。

 本音が言うには疲れて眠っているとのことだが、最後に姿を見たのは試合が終わった直後。

 あれだけの試合をしたんだ。疲れて眠るのも無理ない。

 けれど同時に、気がかりだ。

 最後に見た簪はあからさまに沈んでいた。いろいろと察することはできるが、何といえばいいんだろうか。このまま会えないような気がして……考えすぎなのは分かっているが。

 

「う~ん心配なのは分かるけど、あんまり気にし過ぎないでね。かんちゃん、持ってった夜ご飯ちゃんとお部屋で食べてたし、大丈夫! 何かあったら必ず知らせるから安心して」

 

 夜ご飯食べられるぐらいにはなったのならひとまず安心だな。

 今は本音に任せ、信じるほかない。

 あの試合の後、簪にとって今は一人の時間。必要な時間なはず。

 いつもと変わらないのがそれだけに引っかかる所はあるけとも、今は待つべきか。

 少し時間が経てば、きっとまた顔ぐらいは見れる。会いたい。いや、会いに行こう。

 

 しかし、日付が変わり次の日となった朝。

 早朝トレーニングは兎も角、朝食、午前、昼飯、午後。簪と姿を一度も見ることはないまま今となった。

 

「簪、心配だね。大丈夫かな」

 

「大丈夫なはずだ。安静にしてるとは聞いたし……よっぼと疲れたんだろ。まあ、昨日あれだけの試合をしたんだ。無理もない」

 

 と同じく今一緒にロビーの談話スペースにいるデュノアや一夏も心配している。

 

「アンタは何か詳しいこと知らないの? 簪と仲いいから連絡の一つや二つしてるでしょ」

 

 凰の問いに俺は首を横に振った。

 連絡こそはしている。スマホでメッセを送る程度ではあるが。

 だが、返事はない。どころか、既読すらつかない。

 それほど疲れているということなのかもしれないが、心の引っ掛かりは益々強くなる。

 

「心配なのは分かるけどよ。お前までそんな暗い顔するなって。会いたいなら会いに行けばいいんだ」

 

 簡単に言ってくれる。

 けれど、一夏の軽口が不思議と心を軽くしてくれた。

 そうだな。簪に会いたい。待つだけ待った。見舞いがてらそろそろ会いに行ってもいいだろう。

 いつまでも待ってばかりではいられない。

 

「丁度いいタイミングかもしれんな」

 

「ですわね。のほほんさんいらっしゃいましたわね」

 

 ボーデヴィッヒとオルコットの視線の先を追えばそこには本音の姿があった。

 本音の姿を見るのは朝食の時以来だ。

 見たといっても本当に一瞬。俺が部屋に戻るときに食堂へ来たので挨拶を軽くかわした程度で本音から簪の様子は簡単にしか聞けてない。

 確かに丁度いいタイミングだ。ひとまず本音に声掛け、呼び止めた。

 

「……っ! おっすおっす、こんちは~どったの~?」

 

 今一瞬変な間があったような。

 でも、すぐにいつもの調子になった。ように見える。

 とりあえず早速、単刀直入に簪のお見舞いをしてもいいか尋ねた。

 流石にいきなり部屋に行くのはアウトだ。というか、いきなり行ったところでは会ってはくれないだろう。

 なので本音と間を取り持ってもらい会う可能性を高める。

 

「え……お、お見舞い……?」

 

 珍しく戸惑った様子の本音。

 

「もしかして簪の奴、そんなによくないのか?」

 

「別にそういうわけじゃないけど~……でも~……」

 

 本音がこんなにも歯切れが悪いのも珍しい。

 篠ノ之が言うようにそんなによくないのか。

 それとも別に何かあるのか。

 

「いや、そのね~……かんちゃん、今誰とも会いたくないって言うばかりで……」

 

 その言葉を聞いて皆の言葉を閉ざし、視線をそらした。

 皆、簪の気持ちは重々理解できるからだ。

 そう言われてしまうとこれ以上、踏み出せない。簪の気持ちは理解できるからこそ余計に。

 

「でも……」

 

 ぽつりと本音は言葉を続ける。

 

「このままじゃ、かんちゃん弱りきってしまいそうで……本当はね、試合終わってからかんちゃん何も口にしてなくてっ、昔のかんちゃんに戻ってそのうち消えちゃいそうなの……っ。お願い、かんちゃんを助けてあげて……っ」

 

 切実な声で言われてしまった。

 まさか昨日から何も口にしてなかったなんて。

 体調面での心配がまず第一。

 そして、食べることができないほど、もしくはしたくないほど今の簪は心身共に弱っていることの心配が次。

 行かなければ。簪に会いに。

 今だ二の足を踏む気持ちやあれこれ迷って考えてしまうけど、今は振り払う。

 

「行ってこい」

 

 短い一夏の一言。

 しかし、その言葉は頼もしく、勇気づけられた。

 そして俺は本音に連れられ、簪の元へと向かった。

 


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