【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜 作:シート
私……何、やっているんだろう。
どうしてこんなにも私は、ダメなんだろう。
明かりのない部屋。ベットの上で布団を被り丸くなっていると、そんな考えが頭の中を何度も何度も駆け巡る。
昨日、姉さんと試合をしてからもう何時間も経つ。
日にちにすれば、丸一日経過。
昨日の試合、私は姉さんに負けた。
三本試合二本先取で私はあっけなく負けた。
別に姉さんに勝てるなんて思って……いや、勝てると思っていた。なんという驕り。どれだけ甘い考えをしていたんだろう。
でも、これだけ頑張っているのだから全部勝つことが出来なくてもせめて一勝ぐらいきできると信じていた。必死に何度も何度も粘った。
こんなに頑張ったのだから、報われると信じて。頑張っても報われることは少ないと知りながらも。諦められず。
けど、結果はこの様。
この結果は誰にとっても当然の結果だろう。知らないうちに姉さんが集めた観客はやっぱりかという当然だと言わんばかりの反応。応援してくれた皆は同情の眼差し。
そして何より、負けた私を見る姉さんの静かな目が忘れられない。
あの試合、姉さんに乗せられていることは充分理解していた。
だとしても、折角のチャンスには変わらず、挑戦したけどもそれすらも姉さんの手の内だったのだろう。
勝つことはできなくてもせめて何か掴めたらと粘ってみたのも全部全部。乗せられて、馬鹿みたいにただ手の平で踊らされていた。
「……あ、そっ、か……」
だから、姉さんは目は笑っていたんだ。
粘る私の姿を見るのはさぞ愉快で、滑稽だったはず。
そして、目ざわりでもあったはず。だから姉さんは、誘いこんで粘らせては圧倒的な力でねじ伏せてきた。
実力差を、どちらが上なのかを、現実を私に突き付けるために。
姉さんはそういう人。圧倒的優位からいつも見ては接してくる。
私はそういう姉さんが……。
「……は、っ……」
息を吸い、息を吐く。頭を切り替える。
やめよう。こんな陰鬱な考えをするのは。自分を貶める振りして他人に責任転嫁してるだけだ。卑怯者。
今更振り返って反省するふりをしても、あれこれ考えても意味がない。
結果は変わらない。私は姉さんに完膚無きまでに負けた。
「……」
ため息がため息にすらならず消えていく。
このままじゃいられないのは分かっている。でも、気力が沸かない。体が重い。きっと試合の後から何も口にしてないからなんだろうけど、ご飯食べるのもしんどい。
そもそもお腹がこれっぽちも空いてない。ぷつりと糸が切れていく感覚。
何もかもがどうでもいい。こうしているほうが今は一番落ち着く。
けど、こうしているとあの子、本音に心配かけてることも分かってる。
皆にも……彼にだって。
「……」
彼からは心配してくれているメッセージが来てたっけ。
通知欄で見たから内容と来ているのは知っている。
でも、怖くて返事は勿論既読すらつけられないでいる。
あれだけ大口叩いたのに何もできなくて今更合わせる顔がない。
ううん……違う。皆とどんな風に向き合えばいいのか分からない。
皆と力合わせて弐式を完成させたのに。訓練だってたくさん力を貸したもらったのにあんな無様。きっと皆、私の情けない負け姿を見て失望したに決まってる。彼だって。
まだいろいろなことに整理もついてなくてこんな状態で皆に合ってしまったら、自分で何言うかも分からない。
本当に情けなさ過ぎる。こんなの恥ずかしくて見られたくない。こんな私は嫌われてしまう……どうしよう。
「……怖い」
布団を頭までかぶって丸くなる私は両肩を抱いて縮こまる。
少しでも全身に広がる恐怖が小さくなるように。
いつかは動き出さなくちゃいけない。でも、もう少し。落ち着くまでここのままでいなきゃ。本当に本当に卑怯だ。ごめんなさい。
何か変わったと思っていても所詮それは気のせい。私の根っこは変わらない。
無能で無力なまま。
「――」
息を呑んだ。
枕元に誰か立ってる。
気のせいに決まってる。だって、今同室の本音は部屋を出ていて部屋には私一人。
だから、気のせい。なのに、どうして。どうしてなの。
『大丈夫。怯えなくていいのよ、簪ちゃん』
ああ、私はどうしてこんなにも卑怯なんだろう。
ありもしない幻覚を、よりにもよってお姉ちゃんで心の声を代弁させる。そんな自分が一番嫌い。
幻覚だと分かっていても言葉は続く。
どころか、布団をかぶっていても。蹲って目を閉じ、耳を手で塞いでもはっきり聞こえてくるそれは恐ろしいほどリアルで私をかき乱す。
『実力差はよく分かったでしょ。ここまで本当によく頑張ったわ。あなたは私の自慢、とっても強い妹よ。だから、もう無理しなくて大丈夫。簪ちゃんはそのままの簪ちゃんでいいのよ』
一見それは耳障りのよいい言葉の数々。
でも、結局は幻。私が生んだ都合のいい言葉。
分かってる。私が生んだからこそ、私の心をかき乱し深く深くえぐる。他でもないお姉ちゃんの声で。
何より、私がやってきたことはお姉ちゃんの前では所詮取るに足りないことだとはっきり自覚してしまったから。
どうしようもない女。もうそのままでいい。どんなに頑張っても無能で無力で卑怯なままだから無駄だと。
「――ッ」
沈んでいく。何もかも。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
私は無力で無知な女。どうしようもなく馬鹿で、その癖プライドだけは人一倍高い愚か者。ごめんなさい。
ああ……けれど、例えばこんな私でも、もし許されるのならお願い私を――
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