【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜 作:シート
「さ、入って」
本音のその声と共に連れられ、簪達の部屋へと入った。
部屋に入るのは初めてになるのか。一瞬変な緊張を覚える。
中は電気もついておらず、カーテンも閉め切っているからか本当に暗い。
だが、奥に簪がいることははっきりと分かった。
「かんちゃん、今帰ったよ~」
まず本音はいつもの調子で声をかけながら、部屋の明かりをつける。
綺麗にしてある部屋。ベットが二つ並び、一番奥のベットでは人一人分布団が山形に盛り上がっている。
「……あのね、かんちゃん。ごめんなさい……実はお客さん連れてきてて……」
「……」
返事はない。
見て取れる反応もない。だがしかし、簪は俺の存在に気付いている。気づいているが、必死に気付かないふりをしている。そんな気がする。
とりあえず突っ立って黙ったままは何なので簪に声をかけた。
「……し……て……」
すると簪はぽりつと言った。
「どうして来たの……どうして連れてきたの本音」
「……うっ」
怒鳴ってはいない。
静かな声色だからこそ、怒鳴られた時よりも怒っているのが伝わってくる。
それに本音は怖気づきたじろぐ。
「出て行って……今は誰とも会う気ない。早く」
冷たい言葉で切り捨てられた。
取り付く島もない。
けれどだからといって、引き下がるわけにもいかない。
これは時間がいる。腰を据えて挑むべきか。だから本音には悪いけども、少し簪と二人っきりにさせてもらうことにした。
「う、うん、分かった。かんちゃんのこと、よろしくね」
本音はそう小さく言い残すと部屋を後にした。
そして部屋には簪と二人に。
どうするべきか……しばし悩んだがこれといっていい案は思い浮かばず、再び簪に声をかけた。
「来ないで。何で……まだいるの……出て行ってって言ったでしょ。だったら今すぐ早く……っ」
変わらない拒絶の言葉。
それでも従うわけにはいかない。
かといって取り付く島があるわけでもなく平行線を保つしかないままでいると簪が言ってきた。
「大体どうして来たの。本音から話聞かなかったっ? どうせ本音にお願いされたから来たんでしょッ。でなきゃこんなのおかしいっ。なんで、なんでほっといてくれないのっ。同情なんてやめてッ」
次第に語気を強めていく簪が布団の中でさらに小さく蹲るのが分かった。
確かに今ここに来たのは本音の言葉がきっかけだ。
また同情する気持ちがないわけでもないことも確か。
「もうそっとしておいてっ。お姉ちゃんに負けた私なんか情けなかったでしょ? 滑稽だったでしょ。もうそれでいいからッこれ以上……っ」
涙が滲んだ声。
今簪は布団の下で泣いている。
それでも。いやだからこそ、簪の元……違う、傍に行かなければならない。
簪を助ける助けないとかいう考えがあること自体思い上がった考えだが、俺にそんな力はないし、それではどこまでも一方的だ。それでも自分にだって寄り添い共に進むことはできる。
俺は簪の枕元へと行った。そしてまた、声をかけた。
「っ……」
蹲っていた簪がゆっくりと身体を起こし、こちらを向いた。
あいにく布団をかぶっていてどんな顔をしているかまでは確認できない。
「……っ、もう……もうどうしたらいいのか、分からない……あんなに頑張ったのに、たくさん皆に力貸してもらったのに何もできなかった。どうして、どうしてなの……!ふざけるな! ふざけるな! ふざけるなッ……!」
堪えていたものが崩れ、溢れ出す黒い気持ち。
「ようようやく一人で立てるようになったと思ったのに……一人じゃダメなの……一人じゃ私は全然進めない。恐い……っ」
簪の悲痛な胸の内を聞けた気がする。
そうだよな。一人立ちできるようになったと思ったら、あの結果。
傷つくのも無理もない。
でもだからこそ、簪に思い出してもらわないといけないことがある。
「えっ……」
簪は一人ではない。
一人で充分な時はそれでいいし、ダメな時は周りの人を頼ればいい。
何度目かになるが、ヒーローは助け合い。手を取り合える存在。
重荷とかそうのではないのだから。
「……ヒーローは助け合い……でも、そんな……ダメ。ダメ、だよ……」
かまわないとしっかり頷いてみせる。
一夏みたいに全てを照らして救い上げられるような力はないけれど、それでも簪がそう望んでくれさえすれば、単純だから物語のヒーローみたいに無敵のパワーを出せる。
助け合い、共に寄り添い共に進んで行きたい。だから、手を伸ばしてみてほしい。どうか――。
「……」
しばらく沈黙が訪れた。
そしてそれから簪はゆっくりと口を開いた。
「どうして……あなたはどうして、そこまで私にしてくれるの……?」
前にも聞かれたこの問いかけ。
あの時はダメだったけど、何度でも答えられる。
今答えたい。今伝えたい。
理由なんて本当に単純だ。
簪のことが好きだからに他ならない。
好きだから力になりたいと思う。
「へ……?」
見えなくても簪がきょとんした顔をしているだろうことは分かる。
こんな時に何言ってるんだって感じなんだろうが、これがまぎれもない真実。
だって、好きな女の子の力になりたいと思うのはとても当たり前のことなのだから。
「ま、また好きって。好きって……そんなっ……えっ……じょ、冗談だよね……?」
首を振ってきっぱり否定した。
冗談では言えない。というか、言いたくない。
想いは形にしないと伝わらない。俺は簪が好きだ。友達以上に。
これから進んで行く隣には簪がいてほしい。簪でないと嫌だ。本気でそう思ってる。
「……あ、ぁう、うぅ~……っ」
唸り声を小さく上げ、簪はこちらを向いたまま頭から布団をかぶってしまった。
こうなってしまったが別に簪が嫌がっているわけではないことだけは何となくだけどはっきり分かる。突然のこと過ぎた。
「……」
そして、またしばしの沈黙があった後、かぶった布団の隙間からそっと手が出てきた。
俺はその手を取って繋いだ。
「……っ」
繋いだ瞬間ビクッとなった簪は、かぶっていた布団を脱ぐ。
こちらを向く簪の瞳は不安な様子で微かに揺れているが、それでもこちらを捉えて外さない。
これはきっと何かを決意した様子だ。
「……実は、あの……私……私も、言いたいことがあって……」
静かに頷いて続きを待つ。
「私、あなたが好き。大好きっ。私とあなたは友達だけど友達以上に、一人の男の子としてあなたのことが好きですっ」
頬を赤く染めいっぱいはいっぱいの顔で簪はそう言ってくれた。
とてもシンプルな言葉。
それゆえに嬉しさは果てしない。
簪が俺のことをどう思っているのかとずっと不安だったのが嘘みたいだ。
温かい気持ちが心の奥底から湧いて、衝動に変わる。
今すごく簪を抱きしめたい。ダメ、だよな……。
「恥ずかしい……でも、いい、よ……? 私も今無性にあなたを抱きしめたい」
そっと差し伸べられた両手を取って抱きしめた。
手を繋いだ時よりも伝わってくる簪の体温とかいろいろなもの。
好きだ。何度でも伝えてしまう。
「嬉しい……私も好き。ああ……」
しみじみとした声をこぼす簪。
何かあったようだが。
「好きって凄いなって思って。好きって通じ合うとこんなにも力漲ってるんだ……なんだか無敵になった気分」
そう簪が嬉しそうに言う。
無敵か……ならそう、まだだ。ここから。共にここからまた始めて行こう。
「うん、まだだ、だね。もう一度立ち上がってみる。ここから、また始める。力貸してくれる?」
当然のように力強く頷いてみせた。
どうして自分ばかりこんなにも力がないだろうと思うことばかりで自分の力不足を自覚していけばいくほど、悔しいけど。
だからこそ、手を取って力を合わせよう。俺達はこんなにも近くにいるのだから。
「うんっ、これから一緒に」
…