【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜   作:シート

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第五十四話 簪は今後に向けて

 ちょっとしたひと騒動があった後、解散となり、各々食堂を後にした。

 動き出すのは明日から。今日はこのまま休みになった。

 さて、自分も……。

 

「待って……あの、少しあなたの時間貰えない……? 付き合ってほしいことがあって」

 

 部屋に戻ろうとした時、簪に呼び止められた。

 付き合ってほしいこと……何だろう。

 

「姉さん……お姉ちゃんに試合のお願い、電話でしようと思って……」

 

 そうか。試合の件はお願いしないといけないし、するなら早い方がいい。

 今はまだ自室からの外出禁止時間にはなってない。時間的にもまだそう遅い時間ではなく電話をするなら今がベストか。

 けれど、一人きりで電話する勇気はまだないと。

 

「流石だね。恥ずかしながらそういうことであなたさえよければなんだけど……」

 

 全然構わない。二つ返事で答えた。

 となると場所だ。近くだとロビーの談話スペースとかになりそうだが、あそこは人の行き来も多く、人目も気になる。落ち着いてとなると部屋だ。俺か簪、どちらかの。

 今更だけど簪の部屋に行くのは躊躇いみたいなものがあって、そうなると俺の部屋になるがいいのか……その、いろいろと。

 

「私は全然いいよ」

 

 返事はあっさりしたものだった。

 変に考えすぎか。何をするわけでもない。ただ部屋を貸すだけ。

 大丈夫。そう変に自分へ言い聞かせ、俺の部屋へと簪と共に場所を移した。

 

 

 簪を部屋の中に通すと適当なところへ腰を落ち着けてもらい、自分も近くに腰を下ろす。

 そして簪はポケットから自分のスマホを取り出した。

 

「っ……すぅ……はぁ……」

 

 画面を見つめながら簪は長めの深呼吸を一つ。

 おそらく画面には更識会長の連絡先でも表示されているのだろう。

 だから、強張った顔をしている。

 

「ぁ……手……」

 

 傍にいてただ見守るというのは嫌だから、少しでも気持ちが楽になればと俺は簪の手を握った。

 思ったよりもスムーズに手を取ることが出来た。

 一瞬こそ簪は驚いた様子だったが、小さく笑って手を握り返してくれた。

 

「ん……ふふっ、ありがとう。かけるね」

 

 決意を改め簪は通話ボタンを押し、スマホを耳元へとやる。

 数秒後、繋がったようで話始めた。

 

「……もしもし、お姉ちゃん……うん、私……簪。夜遅くにごめんなさい……その、今日は試合、ありがとう。それで今、時間いい……?」

 

 落ち着いた口調で話を切り出す。

 

「あのね、お姉ちゃんさえよければだけど……私とまた試合してほしいです。お願いします」

 

 落ち着いた声色、淀みのない口調で簪は言った。

 けれど、緊張その他諸々はしているようで繋いだ簪の手からは不安な思いが伝わってきた。

 だから、不安が和らぐようにとまた繋いだ手を握り直す。

 

 再戦を願い出るなんて流石の更識会長も思ってなかっただろう。

 電話口の向こうではどんな反応を、そして返事はいかに。

 

「うん……うん、その日で大丈夫。ありがとう、こちらこそよろしく……それじゃあ、おやすみなさい、お姉ちゃん」

 

 そう言って簪は耳元からスマホを離し、電話を切った。

 

「はぁぁ~」

 

 気が抜けた溜息をつきながら緊張の糸が切れたように脱力していた。

 無事試合をこぎつけた。本当によかった。お疲れ様だ。

 

「ありがとう、あなたがついてくれてたからだよ。手、繋いでくれて凄く勇気沸いた」

 

 そう言って簪は今だ繋いだままの手に目をやった。

 なら、少しは力になれれたんだ。よかった。

 で肝心の日時はどうなったんだろうか。

 

「今日から三日後」

 

 これはまた近いな。

 それでも試合までに時間はあるにはある。

 

「そうだね。その日しかお姉ちゃん空いてないらしいし、忙しい人だから……試合まで時間は短いけど、その分短期集中を心掛けられる」

 

 それもそうだ。

 訓練時間が多いことにことしたことはないが、限られた時間だからこそ効果的に使おうとする。頑張ろう。

 

 後、そうだった。手、そろそろ離さないと。電話が終わったんだからいつまでもこのままではいられない。名残惜しいけどもそっと手を離した。

 

「……何から何まで本当あなたには世話になりっぱなし。今までも今夜もこれからも。何かお返ししたい」

 

 そんな気にしなくてもいいのにと思うが、そう言われれば言われるほど気にてしまう。それが簪だ。

 しかし、お返し……そうはいわれも言われても特にこれといったものはない。

 

「そう、だよね……でも、私達のことだって」

 

 その先に言葉は続かなかった。けれど、言いたいことは分かった。

 告白をし合い両想いだと知ることはできたもののそれ止まり。今だ簪と俺の関係は変わらず友達のまま。

 寮の食堂で皆に言われたような関係にはなってない。正直、今すぐにでもそうなりたいと思わなくはないが簪は更識会長との再戦を控えており、こういうのはちゃんとした順序を踏みたい。順序と言うのは案外大事なものだから。

 順序……そうか、思いついた。簪にしてもらうお返し。

 

「えっ、何々」

 

 どこか前のめりに簪が聞いてくれる鵜とする。

 俺も時間をもらいたい。簪の時間を。一日、いや半日でいい。

 

「別にいいけど一日でも……それで時間もらいたいって何かするの?」

 

 その言葉に頷いて肯定した。

 二人で映画を見に行きたい。ずっと見たいと話していた特撮ライダーの今年夏映画になるけれど専用機完成とか更識会長との試合のお疲れ様会、お祝いも兼ねて。

 

「それって……つまり……」

 

 つまりはデート。

 どうだろうか。

 

「行く、行きたいっ。あなたとデ、デート……!」

 

 凄い乗り気。

 しかも、凄く嬉しそうだ。

 ここまで喜んでもらえるとこちらまで嬉しくなってくる。

 

「い、いつ行く……?」

 

 そうだな。

 とりあえずは目先にある更識会長との試合を終えてから。

 試合の次の日は疲れが残っているだろうし、一日置いた夏休み最後の日とかどうだ。

 

「大丈夫っ……わ、私楽しみにしてるっ」

 

 俺もだと頷いて同意する。

 その時、俺は簪にちゃんと交際を申し込む。

 我ながら回りくどい自覚はあるけれど、ちゃんと順序を踏んだの後、俺から簪に言いたい。

 夏休みは最後まで盛りだくさんだ。

 


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