【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜   作:シート

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第五十五話―幕間―私と簪ちゃんは……

 自室に帰宅するとまず先に制服の上着を従者の虚ちゃんに渡す。

 それから鞄とかの荷物をいつもの場所に置くと私はベットに腰かけ、ベットへと仰向けに寝転んだ。

 

「ふぅ……」

 

 小さくひと呼吸。ようやく一息つける。

 特段忙しいということはなかったけれど、普通に疲れた。

 けど今日はいつもより早く帰ってこれた。夜ご飯を食べてこの時間なのは久しぶりだ。

 普段なら授業の相談や生徒会の仕事とかでいつも外出禁止時刻前になるけど、今日は気を使われたんだろう。

 一昨日妹、簪ちゃんと試合があったから。

 

「……」

 

 試合は私から持ち掛けた。

 簪ちゃんの今の状態、完成した専用機の完成度合いを把握しておかなければならなかったから。

 冗談半分で誘ったけど、簪ちゃんは意外にも迷った様子なく二つ返事で誘いに乗ってくれた。

 渡りに船で断る大した理由がなかったということなんだろうけど本当、誰に似た……影響されたのかしらね。

 

 試合結果のほうは私の勝利。

 こういっては何だけど、ある意味当然の結果だった。

 簪ちゃんには才能があって、技術力も高い。周りには各国の優秀な代表候補筆頭が何人もいてその子達が力を貸してくれたみたいだけど、簪ちゃんが専用機を使い始めてからの時間はあまりにも少なすぎる。

 それは仕方のないことでどうしようもないけど、ISは稼働時間が長ければ長いほどいい。稼働時間の長さによる同調率が重要になってくるからだ。

 後は単純に経験の差。妹だからって手加減はもっての他で、私は学園最強である生徒会長かつ学園唯一の国家代表。そう簡単には負けられない。

 

「……ふっ」

 

 試合のこと思い出したら、思わず笑ってしまった。

 結果は兎も角、内容自体はとても満足いくものだった。

 最後の最後まで試行錯誤して、飽きられることなく必死に食らいついてくる。あんな簪ちゃんを見るのは初めて。直に成長を感じられて嬉しかった。

 

 嬉しい……はずなのに喜びきれてない部分があったのも確かだった。

 私の知らないところで変わっていく妹。そこには彼、あの男の影がある。

 簪ちゃんの成長が彼の影響なのは誰が見ても明らかだ。

 それが私は嫌だった。ずっと見守ってきた大切な妹が私の知らない人によって変わっていく。しかも、私が見知らぬ男だから尚更。

 私が用意した相手。こんな例えはあれだけど例えば、一夏君だったら私が手を回せるから気にもならなかっただろうけど。

 

 この思いは寂しさ……いや、嫉妬なんだろう。

 認めざるをえない。

 だから、私は上からねじ伏せるような真似をしてしまった。

 流石に大人げなかった。反省しないと。私は、更識楯無。楯無の名前を受け継いだ者として悠然と構えなければ。

 例え身内のことでも心を乱すものは未熟もの。

 

「ふぅ……」

 

 気持ちを静める。

 そう言えば……。

 

「虚ちゃん、簪ちゃんはまだ?」

 

「はい。そのようで」

 

「そう……」

 

 試合をした日から簪ちゃんは体調を崩して寝込んでいるとのこと。

 風邪とかじゃない様子。おそらく試合結果を気に病んで寝込んだ。

私が上からねじ伏せるようなことをしたから、心が折れてしまったか。

 これで折れるのならとてもじゃないけど国家代表なんて務まらないけど、姉としては心配。明日ぐらいにでも様子をそれとなく見に行こうかしら。

 

「……さてと」

 

 私は体を起こす。

 一息つくのはこのぐらいにしてそろそろ動き出さないと。

 部屋に帰って来たけど、やらないといけないことは多い。まずはお風呂済ませてから仕事を……。

 

「ん……えっ!?」

 

 プライベート用のスマホに電話が鳴り、画面に表示されていた名前を見て思わず声を上げるほど驚いてしまった。

 

 更識簪。

 

 そう画面には表示されている。見間違いということはない。でも、どうして簪ちゃんが私なんかに電話を……噂をしていてたからかしら。

 今までかかってきたことなかったから、あれこれ考えが浮かんでしまうけど、兎も角電話に出てみなければ。

 

『……もしもし、お姉ちゃん……』

 

 聞きなれた声。

 間違いなく簪ちゃんだった。

 

「……あ、簪ちゃん」

 

『うん、私……簪。夜遅くにごめんなさい……その、今日は試合、ありがとう。それで今、時間いい……?』

 

「ええ、構わないわ」

 

 こんな風に聞いてくるということは何か大事な話だろうことはすぐ想像ついた。

 

『あのね、お姉ちゃんさえよければだけど……私とまた試合してほしいです。お願いします』

 

 驚いて呆気に取られた。

 まさかあの簪ちゃんがこんなことを言い出すなんて。まったく想像してなかった。

 声は何処か震えた感じだけど、淀みのない口調。確かな決意が伝わってくる。

 ああ……そうなのね。この瞬間、私はすべてを察したような気がした。

 

 とりあえず今は返事をしないと。

 

「全然OKよ。試合しましょうか。ただ日程の方はまた私のほうが決めさせてもらってもいい?」

 

『うん』

 

 私は腰かけていたベットから立ち上がると鞄へと向かいタブレットを取り出す。

 そして、スケジュール帳で予定を確認する。

 相変わらずスケジュールはビッシリ。空いているとなるとこの日か。

 

「そうね……空いてるのはまた今日から三日後になるけどいいかしら? 近くになるけど次だと夏休み明けの九月半ば頃になりそうで。この日なら丸々一日空いてるから」

 

『その日で大丈夫。ありがとう』

 

「じゃあ、その日で。試合のアリーナとかはこっちで手配しておくからよろしくね」

 

『こちらこそよろしく……それじゃあ、おやすみなさい、お姉ちゃん』

 

「おやすみ、簪ちゃん」

 

 その言葉を最後に通話は終わった。

 

「……ふぅ」

 

 とりあえずまたベットに腰かけると、何故だか疲れたように一息ついてしまった。

 必要なことだけ話したというのに何か疲れた。突然の電話、それに加えて一対一で話からだろうけど、心を乱されてばかりだ。

 でも、電話できて……妹の声を聞けてよかったとは思う。元気そうだった。

 姉として妹の進む先が少しでも楽になればと気にかけていたけど、それはもう本当の意味で余計なお世話。

 簪ちゃんはもう自分自身でしっかり地に足つけて先へ進むことが出来、自分で行く先を楽にすることもできる。私が頼れる人を回さなくても、自分で頼りになる人を見つけ、力を借りられる。

 こんなにも簪ちゃんは成長してるのね。私が知っている簪ちゃんは本当にもう昔。

 

「――っ」

 

 簪ちゃんの成長は嬉しいこと。喜ばしいこと。

 なのに簪ちゃんが遠のいていく感じがしてたまらない。まるで胸が締め付けられたように痛む。ダメよ、楯無。ダメなのよ……刀奈。

 止まない。この気持ちはどうしてなの簪ちゃん。

 


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