【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜   作:シート

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第五十八話 実感の持てない私。あなたの言葉。

 薙刀を真横に薙ぎ払い私は、お姉ちゃんへと攻め込む。

 間合いも踏み込みも充分。

 なのにお姉ちゃんは当然のように反応し、軽々と避けてみせた。

 そして距離を取り、牽制の攻撃を放ってくる。

 

「ふっ!」

 

「っ……ッ! っッ!」

 

 お姉ちゃんの機体。ミステリアス・レイディが持つ蒼流旋と名付けられたランスから放たれる弾丸の数々。

 回避は成功。けれど、放たれた実弾達の中に仕込まれていた水の弾の回避に成功した後、すぐ後ろでそれは爆ぜた。

 ミステリアス・レイディが纏う特殊ナノマシンとISのエネルギーが合わさって出来た水の複合弾。これは操作可能範囲は狭く限られているけど、お姉ちゃんの意識一つでナノマシンを発熱させ、水蒸気爆発を起こすというもの。

 同じ能力で清き熱情(クリア・パッション)というのもあるけど、それとは違い威力は低くシールドエネルギーは削れたもののダメージ軽微。

お姉ちゃんは完全に捉えている。逃がさない。勢いそのままに私は攻め立てる。

 

「はぁぁあっ!」

 

 ミステリアス・レイディの間合いに入るのが危険なのは百も承知。

 清き熱情(クリア・パッション)に捉えられるとしてもミステリアス・レイディと弐式とでは機体相性は悪い。荷電粒子砲(春雷)は隙が大きく、誘導ミサイル(山嵐)では清き熱情(クリア・パッション)に掻き消される。

 なら弐式の特徴である機動性を活かした近接戦闘にかけてみる。考える暇どころか息をつく間もないぐらい速く。

 

「っアァッ!」

 

「――」

 

 私の攻撃は当然の如くお姉ちゃんへクリーンヒットにはならない。

 防がれ、捌かれ、流される。

 これは想定の範囲内。手を緩めず攻め続ける。

 クリーンヒットにはならなくてもエネルギーシールドを何度も掠め、シールドエネルギーは削れている。

 試合時間残り一分。このまま最後まで――。

 

『そこまで!』

 

 試合終了を告げるアナウンスが聞こえた。

 互いの首元に突き付けられた薙刀とランスの刃先。

 

「っ……ッ」

 

 そう苦悩の声を先にこぼしたのはお姉ちゃん。

 

『第一試合目勝者、更識楯無』

 

 そのアナウンスと共に会場は沸きあがり、私達は武器を収める。

 第一試合目はやっぱり、負けちゃった。

 でも、結果としては上々。前よりかはシールドエネルギーを削れた。半分ちょっとも。

 訓練の成果が生きてる。この調子ならいける。確信を掴めた。

 

 ISの展開を解き、私達は一礼する。

 今から約十五分のハーフタイム。ピットに戻って、小休憩。

 

「ただいま……あ、飲み物。ありがとう」

 

 中に入るとピットで見てくれる彼が出迎えてくれ、飲み物を渡してくれた。

 ひとまず座れるところに腰を落ち着ける。

 

「ふぅ……」

 

 一息。

 と言っても時間が時間なのでそんなガッツリ休めはしない。軽く水分補給をして、頭の中で先ほどの反省をする。

 室内はとても静か。けど、気にはならない。隣で彼が静かに寄り添ってくれているからかな。我ながら私は本当にどこまでも単純。

 

「時間だ」

 

 休憩はここまで。これから第二試合目。

 バッチリ集中を高められた。

 私は席を立つ。すると彼は頑張ってと言ってくれた。

 短いたった一言。でも、私にとって力を滾らせるには充分すぎるほどだった

 

「うん、頑張ってくる。行ってきます」

 

 彼に見送られながら、私は第二試合目へと向かった。

 

 

『そこまで! 第二試合目勝者、更識簪』

 

 アナウンスは聞こえているけど、右から左へ流れていく感じがする。

 第二試合がたった今おわった。今の気持ちをなんて言えばいいんだろう。そう……しいていうならば、あまりにもあっさりだった。

 楽勝だったとかそういうことじゃない。辛勝。

 

「はぁ……っ、はぁ……ッ」

 

 現に肩で息をするのがやっと。

 私は産れて初めてお姉ちゃんに勝った。なのに実感が持てない。

 

「……っ」

 

 お姉ちゃんまで呆気に取られた様子だから益々実感は沸かない。

 何はともあれ第二試合は終わったんだ。

 ISの展開を解き、私達は再び一礼する。

 今からまた約十五分のハーフタイム。ピットに戻って、二度目の小休憩をする。

 

「ん……」

 

 ピットに入ると彼がまた出迎えてくれたけど、疲れのあまり返事がままならない。

 返事かどうか微妙な返事を返すのが精一杯。

 彼は特に気にしないでくれ、飲み物を渡してくれる。

 そして、初勝利を労ってくれた。

 

「……そうだ。私、お姉ちゃんに初めて勝ったんだよね……」

 

 彼から言われて、そのことを再認識する。

 相変わらず実感は沸かない。一試合目の後、次こそはという確信はあったけども。だからか、飲み物を飲みながら天井を眺めぼんやりしてしまう。

 手加減されたとかそいうのは絶対にない。ましてやまぐれで勝てるような相手じゃ決してない。

 

「……」

 

 いつまでもぼーっとしてられない。もう数分後には第三試合。

 初勝利とは言え、まだ試合中。後一試合、最後の試合がある。

 そこでもう一度勝たないと試合に勝ったことにはならない。

 でも、もう一度私はお姉ちゃんに勝てるのかな……? 一度勝ってしまったことで二度目の勝利は難しくなるはず。戦ったからこそ、お姉ちゃんの強さを身をもって知った。

 それにお姉ちゃんだって次は負けられないはずだから。

 

「っ――!」

 

 考えいるうちに怖くなってきた。

 不安が胸の内から這い上がってくる。

 怖い。今更どうしようもないのに。どうしようもないほど怖い。

 

「……あっ」

 

 ふと彼に空いた手を握られた。

 優しい温もり。ただ握ってもらっているだけで安心する。

 そして彼は、勝ってこい。今日はその為の日だと言った。

 

「そうだ、ね……」

 

 負けたくない。勝ちたい。

 だったら、勝つ以外はありえない。

 恐さや不安はあるけども、それを乗り越えるために限られた時間の中でもできることをした。

 そして、実践して勝つための日が今日。

 

「ふ……」

 

 心が晴れていく。安堵の息が漏れた。

 答えは既に自分の中に。

 勝ちたいのならどうしたって前へ、勝利へと進むしかない。 

 単純なこと。

 

「よしっ」

 

 私は気合を入れ直す。

 まだだ。私達はまだまだ。これからなんだと言ってくれた彼の言葉が背中を押してくれる。

 

「うん、ここからまた始めるよ」

 

 そろそろ開始の時間だ。

 彼は私を見送ってくれる。

 

「行ってきます!」

 

 私は力強くそう返事をしてピットを後にする。

 足取りは笑っちゃうぐらい軽かった。

 


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