【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜   作:シート

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第六話 更識さんと仲直りをして

 今物凄く視線を感じている。

 熱い視線とかそういうものではなく、こちらの様子をおそるおそる伺うような視線。

 誰からの視線なのかは一々確かめるまでもなくはっきりと分かっている。今日も変わらずこの整備室には二人しかいない。

 

「……じー……」

 

 さっきからじっとこちらを伺うように見てくる更識さん。

 今日この整備室にやってきてからずっとこんな様子。何かが気になるらしく、更識さんは自分のことに集中できておらず、手が止まったまま。

 こちらからどうしたのかと様子を伺おうとすれば。

 

「……ッ」

 

 凄い勢いでバッとそっぽを向き、また少しすると。

 

「……じー……」

 

 またこちらの様子を伺うように見てくる。

 先ほどからこの繰り返し。

 更識さん、今日は一体どうしたんだろう。何がそんなに気になるのか、俺には皆目見当もつかない。

 どうしたのかと聞いても。

 

「ど、どうもしないけど……」

 

 と誤魔化される。

 これでは埒が明かない。どうすればいいんだ。いつも以上に更識さんが何考えてるのか分からない。

 最初は身だしなみでも変なのかと思ったが、そういうことじゃないらしいのはすぐ分かった。学園に来てから、今まで以上に身だしなみには気を使っているから大丈夫なはずだ。

 

 となるとやっぱり、俺が気づいてないだけで更識さんに何か……してしまったんだろう。思い当たることと言えば、この間いろいろと教えてもらった時のことぐらいしかない。

 友達とは言え、異性。多少なりにでも折り入って話してくれたのに、いくらなんでもズケズケと踏み込みすぎた。

 それどころか、八つ当たりだなんて失礼なことまで言って空気と気分を悪くさせてしまった。

 しかし、アレは済んだ話。そう思っているのは俺だけなのかもしれないが、下手に今更蒸し返すようなものでもない気がする。蒸し返せば余計に更識さんの気分を悪くしかねない。それだけは避けたい。

 

 それにあのことが関係して更識さんが今のような態度を取っているのかは分からない。

 ダメだ。あれこれ考えても憶測の域を出ない。

 ここは更識さんと腹を割って直接話すのが一番だ。何かあるのならちゃんと話してほしい。ちゃんと話は聞く。

 

「……じゃあ、お、怒って、ないの……?」

 

 恐る恐る更識さんは話してくれたが、どういう意味なんだろう。

 怒るってのは、俺が更識さんにってことだろうけど……怒るなら更識さんが俺に対してだろう。

 俺が怒るようなそんなことあったか。先日のこと以外で言い争いみたいなことなったことはないし。

 

「だ、だってっ……ほら、日曜日のこと」

 

 言われて、水曜日の今日から三日前、日曜日のことを思い出してみる。

 日曜日は一夏と一夏の親友の五反田弾という子の家に遊びに行った日だ。更識さんとは早朝、トレーニング終わりに会った。

 そう言えば、同じ寮で暮しているのに会うのは初めてだった。しかも更識さん、休日の早朝だからか、パジャマにカーディガンを羽織ってと、いかにも女の子らしい姿で正直凄く可愛らしかった。……それは今は関係ない。

 あの時、何かあったか。普通に話して、普通に別れたけど。

 

「えっ? だ、だって……折角、お話してくれてたのに……私、あの時逃げるように帰っちゃって凄い失礼なことしたって思ったから」

 

 まさかとは思うが、そんなこと気にしてたんだ。

 思わず、そう口にしてしまった。

 

「そ、そんなことって……! わっ、私ッ、凄い感じ悪いことしたって思って……ずっと、不安だったのに……!」

 

 言葉が過ぎた。声を荒げる更識さんを宥める。

 不安にさせてしまったのか……それはそれで申し訳ないことをした気がする。

 でも、別にそこまで気にするようなことを更識さんはしていないのだから気にする必要はない。そういうのは気にし始めるとずっと気になるのも勿論分かるが、怒ってない。

 むしろ、何で俺は怒っていると思われていたんだろうか。無愛想だから、そういう風に思われたとか。

 

「そうじゃなくて……ほら、月曜日。いつも来るのに……来なかったから、怒らせたんじゃないかって思って」

 

 そういうことか。合点がいった。

 その日は用事を済ませていたから来れなかったんだけど、何というかタイミング悪かった。そのせいで勘違いさせてしまった。

 

「……かん、ちがい……? じゃあ……私の考えすぎってこと……?」

 

 そういうことになる。

 よかった。特に何かあったわけじゃなかったんだ。

 そう俺は安心したが、更識さんの顔が見る見る青ざめていく。自分の失態に気づき深く反省するようなそんな感じだった。

 

「――ご、ごめんなさいっ! 私の考えすぎでまた失礼な態度を! ほっ、本当にごめんなさいっ!」

 

 何度も頭を下げて更識さんは必死に謝ってくる。

 別に謝ることじゃないし、誤解みたいなものは解けたんだからそれでいいだろう。

 更識さんもいろいろと自分の中で整理がついてみたいで落ち着きを取り戻しているし。

 

「よかった……その前のこともあったから余計に心配で……」

 

 そうだったのか。

 それは確かに不安にもなる。

 済んだ話とは言え、あの日のことを言われると俺もいろいろと思うことはある。

 やっぱり、いくらなんでも出すぎたマネが過ぎたとか、いろいろ。

 

「ううん……気にしないで。その……あんなこと言われたの始めたから……び、びっくりしたけど、はっきり言ってもらえて私……う、嬉しかったよ……」

 

 ならよかった。

 更識さんにそう言ってもらえただけで、安心できる。

 別に喧嘩していたわけじゃないが、誤解も解けたことだし、更識さんと仲直りしておきたい。そうお願いしてみた。

 

「そ、それはこっちの台詞。……仲直りさせてほしい……それから、これからも、お、お友達でいてくれる……?」

 

 もちろん、喜んで。

 俺から更識さんへの返事はそれ以外ありえなかった。

 

「よかった」

 

 更識さんは安堵の笑みを浮かべていた。

 

 これでこの話も済んだ話にしたい。あんまり続けてもいい話ではないだろう。

 

「そうだね……あっ、じゃあ……聞きたいことがあるんだけどいい……?」

 

 何かと尋ねる。

 

「月曜日用事で来れなかったって言ってたけど何してたの……? あ……こ、答えたくなければ無理に答えなくても大丈夫だから」

 

 そう遠慮気味に言われた。

 月曜日は急な引越しに追われていた。

 

「え!? 引越し!? も、もしかして転校?」

 

 転校なんて大げさなものではなく、ただ部屋の移動。

 引越しをしたせいでついに一夏とは別室になってしまった。一夏と同室だと篠ノ乃達あの三人が頻繁に部屋に来て五月蝿くて仕方なかったが、別れてみると寂しいものがあるのはここだけの話だ。

 それでも別室になってよかったと思うことのほうが多いが。

 

「そうなんだ……でも、どうして引越しを……? あの一組に来たっていう転校生が関係してたり……?」

 

 更識さんは察しがいい。

 俺が引越ししたのは更識さんが言う通り、転校生が原因だった。

 水曜日の今日から二日前の月曜日。六月最初の月曜、一組に転校生が二人突然やってきた。

 一人はいかにも女軍人って感じのドイツから来たラウラ・ボーデヴィッヒ。もう一人が貴公子という言葉がよく似合う男子、フランスからきたシャルル・デュノア。二人とも代表候補らしいとか。

 この時期に転校してくるのにも驚いたが、一番驚いたのはデュノアだ。一夏と俺以外にもまさか、男でありながらISを使える奴がいるなんて思ってもみなかった。

 二度あることは三度あるという言葉もあるし、ありえないことではないんだろう。それでも説明つかないことではあるが。

 

「ドイツのは知らないけど……フランスのはチラッと私も見た。何か凄い中性的で可愛い系の美男子だったね」

 

 更識さんもクラスの子達と同じ様な感想を言う。

 やっぱり、デュノアは女子からそう見えるのか。

 でも、その通りなので俺も同意見だ。デュノアは男子にしては凄い中性的で可愛い系に分類されるのは間違いない。しかも美形。

 デュノアといい一夏といい美形が多いな、俺の周りは。

 

「それで何で引越し……?」

 

 不思議そうに更識さんは首をかしげる。

 

 それは一夏とデュノアが同室になったからだ。

 一夏は『三人で仲良く暮そうぜ』なんてことを言っていたが、元々二人部屋である部屋を三人で使うというのはいろいろと窮屈になる。

 その辺は学校側というか大人もちゃんと考えてくれていたみたいで、部屋を追われた俺にもちゃんと新しい部屋を用意してくれていた。

 寮に空いてる部屋なんてないから、寮の横に隣接されたプレハブハウスだったが。

 

「あ、あの倉庫みたいなの部屋だったんだ」

 

 更識さんも知ってはいるんだ。まあ、目立つから知っていても無理ない。

 というか倉庫……そうとしか見えないか、やっぱり。本当に外見は四角い箱で俺も倉庫にしか見えない。

 だが、部屋はIS委員会と政府がわざわざ特注して用意してくれたらしく室内は広くて、防音性・通気性・断熱防寒に優れており、キッチンやトイレ、風呂まで完備。家電家具は高級品ばかり一通り揃っている。もちろん寮の中から出入りできる。

 元いた部屋よりよくて正直新しい部屋を用意してくれたことにいろいろ勘ぐって怖いものもあるが、いい部屋には変わりない。ありがたく使わせてもらうことにした。

 

「へぇ……至れり尽くせりなんだね」

 

 まさにそうだ。

 

「……新しいお部屋、か……」

 

 ぽつりと更識さんがそう言ったのが聞こえた。

 まだ何かあるのだろうか。

 

「……う、ううんっ! 何でもないっ……」

 

 何故か頬が少し赤い更識さんは慌てて言った。

 

 にしても、デュノアか……気になる。

 ボーデヴィッヒは一夏をいきなり殴った上にクラスに関わろうとしないから、しょっぱな一夏の頬を叩いた奴という以外の印象は特にない。

 でもデュノアは同性だからか一緒に行動することが多い。なので、行動一つ一つが不審に思えると気になることがいくつかあった。

 

「不審って……まあ、確かに男子でこの時期に転校してくるのはあきらかに怪しいけど……」

 

 そうデュノアは怪しい。それもいろいろと。

 クラスメイトでこの学園で数少ない同性を疑うのはよくないことなのは分かっているが、疑わずにはいられない。

 専用機持ちなのは自分そうだからそれは別に変じゃないが、デュノアはフランスの代表候補。男で代表候補になれるものなんだろうか。俺や一夏が日本の代表候補になろうとした場合、アラスカ協定に抵触するらしく、なれないとのこと。

 仮に協定上なれるとしても、女の競技の代表候補に男がなったらいろいろと言って来る人もいるだろうし、問題にもなる。デュノアとフランスはその辺上手くやっているのか。

 

 後、デュノアはISの操縦が上手い。出来ないやつの僻みになるが、俺や一夏では到底足元に及ばないほど。つい最近乗り始めてIS学園に来る為にもう特訓したからとデュノア本人は言っていたけど、素人目線ながら実力的に代表候補であるオルコットや凰に匹敵するだろう。

 

「そう言われるとそうだね……そう言えば、デュノアって名前、同じだけかもしれないけど……フランストップIS企業にデュノアって社名のIS企業がある」

 

 そう言えば、デュノアの父親は企業の社長をしていると、一夏達と更衣室で着替えている時、チラッと聞いたな。

 ということはデュノア社のお坊ちゃん。そして男性操縦者で、国家代表。いろいろとそろいすぎてる気がするのは俺だけか。

 

「揃ってはいるね。つけたすとね……デュノア社は第二世代のノウハウは世界トップクラスだけど、フランスとデュノア社が第三世代の開発に成功したって聞いたことはない」

 

 デュノアの専用機はそのデュノア社製の ラファール・リヴァイヴのカスタム機だった。

 第三世代機が完成していれば真っ先にデュノアに任せるだろうし、何かこうしてデュノアについて改めて考えてみると怪しさが増す。

 何より、あの容姿だ。

 

「まだ怪しいところがあるの……?」

 

 更識さんに今一度、デュノアを見てどう思ったのか聞いてみた。

 

「どうって……さっき言ったのと変らない。美形で凄い中性的……その変な言い方になるけど、女の子の姿させたら女の子でもいけそうな感じする。貴方こそ、どう思うの?」

 

 更識さんに聞かれて俺は答える。

 俺は正直同性なのか少しだけ疑っている。女みたいな顔ってのは男でも世の中たくさんいるが、デュノアの場合は失礼だろうが何だか女にしか見えない。

 実技の授業の時ISスーツに着替えるのだが、着替えてる姿を見られたくないのかあらかじめ着替えていたり、隠れてこそこそ急ぎながら着替えてることが多い。

 着替えなんて見せるものでもないし、見られてうれしいものじゃないが、デュノアの場合は何か露骨だ。

 後、一夏に馴れ馴れしくされると凄い恥ずかしがる。その姿は本当に女子みたいだ。その癖、一夏にはベッタリといろいろとチグハグな奴。

 だからこそ、余計に同性なのか疑ってしまう。

 

「仮に女子だとして……嘘つくのに何のメリットが……」

 

 う~んと考え込み更識さんと一緒になって思案する。

 

 間違いなく、一夏狙いだろうな。

 俺は同じ男でもただISを動かせることしか出来ない素人だが、一夏は違う。第三世代機持ちでメキメキ強くなって、ワンオフアビリティーなる特殊能力みたいなものまで開花させている。

 しかも、お姉さんはあの世界最強のIS競技者である織斑先生。お近づきになれていろいろと情報やらなんやら取ることが出来れば、それだけで他国と大きく差をつけられる。まあ、考えすぎな気もしなくはないが。

 

「まあ、可能性の話としてはそれが一番有力かも、ね……」

 

 更識さんも同意見のようだ。

 異性より同性の方がこの学園では近づきやすいし、実際一夏とデュノアは同室。今回の引越しもそのことが関係してたりしてな……。

 

「後、広告塔って意味もあるのかも……」

 

 どういう意味か分からず俺が首をかしげると更識さんは説明してくれた。

 

「デュノア社とフランスは第三世代の開発に成功してないみたいだから……デュノアって子を男子にすることで注目を集めて、そこから資金援助や技術援助を受けようとするってのもありえなくはない。実際、倉持が貴方と織斑で同じことしてるし……」

 

 そう言えば、そうだった。

 一夏はどうか知らないし大々的に広告塔として使われているわけじゃないが、倉持の打鉄を使っている俺にはたまに倉持から新型の武装や試作の武装のテストなんかも依頼される。報酬がかなりいいから、それ以上のことは気にしないようにしていたが。

 

「でも、仮に今まで私達が話していたことが全部真実だとしても……バレる可能性のほうが高い気がする。バレた時の損失がどれだけのものになるのか」

 

 やっぱり、リスクが高すぎる。

 世界有数の企業とは言え、一企業で出来ることなんだろうか。そういう知識も学もないからよく分からない。

 まあ多分、こういうのって大体国やIS委員会が関わっているんだろうな。そういう陰謀もののアニメや漫画によくあることだ。

 でも、これはここだけの話とするのが一番か。下手に正義感翳して真実かどうか確かめたり、詮索しているのがバレて危険な目にあうのはアホらしい。関わりたくもない。更識さんも巻き込むようなことは絶対に避けたい。

 

「私も何もしない。そんな暇ないし、お互いもう忘れよう……それが一番」

 

 言う通りだ。

 これはただの馬鹿話。

 子供の想像の域を出ていないだろうし、真実はこんな子供が思いつくような単純なものじゃない。

 

 けれど、これが事実なら一夏を見捨てることにもなるのか。

 まあ、一夏なら上手くやるだろう。何故だか分からないがそんな気が凄いする。一夏は何だかんだでいろいろとついている奴だ、上手くやるだろう。

 これ以外、言いようがないというのが本心だが。

 しかし、デュノアが本当に女子だった場合、一夏へのハニートラップだったりしてなあ。

 

「ふふっ、何それ……貴方アニメや漫画の見すぎだよ」

 

 笑って流されてしまった。

 更識さんに言われると少し思うものがあるが、それもそうか。現実にそんなことあるわけない。

 


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