【完結】IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜   作:シート

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第七話 更識さんとトーナメントに

 一礼告げて職員室を後にした時だった。

 

「お~い」

 

 聞き慣れた声が聞こえてくる。

 誰かと思えば。

 

「やっほ~」

 

 声をかけてきたのはクラスメイトの布仏さんだった。

 相変わらずのほほんとした雰囲気の子だ。

 そして今は一人。珍しい……この子はいつも仲のいい子複数人といる印象が強い。

 

「ねーねー」

 

 間延びして呼びかけられ、変なあだ名で呼ばれる。

 名前の頭文字一文字を伸ばして呼び、ちゃん付けで呼んでくる布仏さん。

 よくある普通のあだ名だが、犬猫につけるような感覚のあだ名でもある。なんともいえない気分だ。

 どうせならいっそのこと、一夏みたいに『おりむー』と変なあだ名で呼ばれるほうがまだマシな気がする。

 

「え~可愛いのに~」

 

 ぷくぅっと頬を膨らませて布仏さんが抗議してくる。

 確かに可愛い呼び方だが、それは女子や犬猫につけるからいいのであって、男子がちゃんづけで呼ばれるのはかなり辛い。

 

「じゃあ、私のことも本音ちゃんって呼んでいいんだよ~のほほんさんとすら呼んでくれないんだし~」

 

 それはそれでまた別の意味でレベルが高い。

 勘弁してくれ。

 

「まったく~仕方ないなぁ~」

 

 俺が悪いみたいになってしまった。

 

「というか、職員室に何か用事だったの~?」

 

 俺はつい先ほどまで個人的に貰った課題の提出をしていた。

 後、手伝いを少々。

 

「そういうの本当好きだね~」

 

 別に好きな訳じゃないが、課題貰ってたりしてるからこんな時にでも返していかないとと思っただけのこと。

 そういう布仏さんこそ何をしているんだろうか。

 

「私はさっきまで別クラスのお友達とお茶してんだよ~。整備科志望の~」

 

 別クラスの人達……この子、本当に交友範囲広いな。

 

「まあ、それだけが取り柄みたいなものだからね~。で、今から第二整備室に行こうと思ってるんだけど~」

 

 第二整備室は俺と更識さんが使っている整備室だ。

 

「そっちはこれからいつもの整備室~?」

 

 頷いて肯定する。

 今日は整備室を利用する日だ。

 丁度今から向かおうとしていたところ。

 

「じゃあさ~一緒に行こうよ~?」

 

 別に構わない。

 布仏さんは整備室、更識さん、何か用事なんだろうか。

 

「用事か~まあそんなところ~?」

 

 俺に聞かれても困る。

 まあ、大丈夫だろう。布仏さん一人みたいだし、布仏さんは更識さんの幼馴染。何も問題ないはずだ。

 

「じゃあ、決まりだね。れっごーごー!」

 

 布仏さんを連れて、整備室へと向かう。

 

「そうだ。かんちゃんと友達になったんだってね」

 

 そんな言葉を投げかけられる。

 その通りだ。一々言うようなことじゃないから俺から布仏さんに言ったわけじゃないけど、更識さんが言ったんだろうか。

 

「ううん、かんちゃんは何も言ってないよ。ただ最近かんちゃん見てると何となくそんな風に感じただけ。でも、そっかそっか~ふふっ」

 

 布仏さんは嬉しそうに笑った。

 そんな言わなくても分かるほど、更識さんに何か変化があったんだろうか。

 

「そりゃもちろんだよ~! まず雰囲気が柔らかくなったし、嬉しそうな顔してることが増えたんだから。私が気づいてるのに気づくとすぐ無愛想な顔するけど、とっても可愛いんだよ~」

 

 そう言われると気になる。見て見たい。

 でも、そうした変化があることはいいことなんだろう。よかった。

 

「だね~IS学園に入学していろいろとあってからかんちゃん、ずっとふさぎ込みがちだったから。でもまさか、かんちゃんに友達が出来て、しかも君だなんてね~私もビックリだよ~! もしかしておりむーに女の子の口説き方でもならった~?」

 

 習ってない。凄いこと言うなこの子。かなり酷い。

 でも、そう言われても仕方ないのかもしれない。

 相手は更識さんだし……そう思うと口説いたと疑われたことに我ながら納得してしまった。

 けれど実際のところ、話すようになったら趣味があって、それから友達になったというありきたりなきっかけだ。

 

「へぇ~そんなことが。まあ、きっといい機会だったんだよ」

 

 俺もそう思う。

 そんな話をしていると、いつもの第二整備室に到着した。

 

「……」

 

 中へ入ると今日も更識さんはいつものスタイル。

 展開待機状態の専用機の前でディスプレイに向かい、キーボードを叩きながら作業中。

 ただ最近は更に力を入れているようで、紙の資料や参考書らしき本が更識さんのあたりにはたくさん積まれていたりする。

 こちらに更識さんはまだ気づいてない様子。かなり集中しているんだな。

 邪魔しないよう様に気をつけながら、とりあえず挨拶の声をかけた。

 

「……ん? あっ! こんにち……――ッ!?」

 

 挨拶を返してくれようとしたみたいが、更識さんは固まってしまった。それはもう見事に。

 その訳は間違いなく。

 

「やっほ~かんちゃん。精が出るね~」

 

「な、なんで本音がここに……」

 

 驚いた様子で更識さんは布仏さんを見ている。

 

「いや~偶然彼と会ってね。折角だから一緒に来たんだよ~」

 

「……」

 

 何で連れてきたのと言わんばかりにじっと見つめられる。というか、睨まれる。

 そんな睨むほどダメだったのか。悪いことしてしまった。

 

「ダメってわけじゃないけど……」

 

「ほら、かんちゃん。そーんな怖い目してたら可愛い顔が台なしだよ~」

 

「うるさい……はぁ」

 

 いろいろと諦めたような溜息をつく更識さんの姿が印象的だ。

 とりあえず、俺と布仏さんは適当なところに腰を落ち着ける。

 

「で、本音……何か用……?」

 

「まずは~簪お嬢様の様子見に来たんだよ~。根つめすぎてないか心配だからね。なんたって、私は簪お嬢様の専属メイドだからね!」

 

 えっへんと胸を張りながら布仏さんは言う。

 言われた更識さんはただただ呆れた様子だった。

 

「取ってつけたように言って……後、その呼び方しないで。次、その呼び方したら追い出す」

 

「ふぇぇ~目が本気だよ~。でも、まだ大丈夫そうで安心したよ~」 

 

「うん……ありがとう。私は大丈夫だから……じゃあね、本音。出口あっちだよ」

 

「はいは~い~! って! まだ帰らないってば! どんだけ帰したいの!?」

 

 何だかコントを見せられている気分だ。

 ふと今気づいたけど、更識さんは満更でもない様子。

 幼馴染だから付き合いが長い分、遠慮なく言えるぐらい仲いいんだな二人って。

 

「次は何……?」

 

「いやね~ほら、そろそろ学年別トーナメントでしょ? かんちゃんどうするのかな~って」

 

 そう言えば、六月の下旬頃に一週間かけて学年別トーナメントと呼ばれる学校行事が行われる。

 この行事には各国政府関係者やIS開発関係の研究所員、企業エージェントが多く見に来て、一年は浅い訓練段階での先天的才能を披露し。続く二年は一年生から成長した成果を披露。

 そして三年はより具体的な実戦能力を披露して、国や企業からのスカウトを勝ち取ったりと言わば、生徒の発表会みたいなもの。 

 ちなみに生徒全員強制参加。更識さんとはこの話をしなかったし、普通に出ると思っていた。

 

「……」

 

 けれど、更識さんの表情が曇った。

 出ないつもりなのか。

 

「……出られる状態じゃない……」

 

 その通りではある。

 更識さんの機体はまだ開発中で実戦ではまともに動ける状態ではないと以前聞いた。

 でも、そういう人達が来る手前、出ないといろいろとマズい気はする。こういう事情は考慮してくれるだろうが、一個人としての実力は確かめられないわけだし。

 

「まあ……だよね~出ないとマズいんじゃない? かんちゃん、代表候補なんだしさ」

 

「……それは分かってる。万が一出ないといけないとなったら訓練機借りて出るのも考えてないわけじゃないけど……今年は個人戦じゃないらしいし、今更私と何か組んでくれる人はいない。出るとなったら、訓練機でも専用機持ちのブロックだろうし」

 

 専用機持ちが多い今年は例年通りの個人戦でなく、タッグマッチに変更になった。

 なんでも今年の新入生には第三世代型のテストモデルが多く、自衛の経験を詰むことを兼ねて集団戦闘を積ませる目的らしい。

 俺も一応専用機持ちなので専用機持ちのブロックに組み込まれている。

 

「本音が組んでくれるわけじゃないでしょう?」

 

「それを言われると辛いよ~。私の成績じゃかんちゃん達のブロックに参加できないよ~」

 

 専用機持ちのブロックにも専用機持ちではない一般の生徒も組みこまれている。

 ただし出られるのは実技の成績が高い生徒のみ。まあ、専用機を相手にするのだから当たり前だ。

 なんでも一般生徒が組み込まれている理由は、そうした成績優秀者が専用機相手にどこまで出来るのか確かめる狙いがあるとのこと。そうすることで一般生徒は将来の就職先である国や関連企業団体への自己アピールの場となり、例年と比べてスカウトの確率は上がるらしい。

 

「あ、でも~組んでくれる相手さえいればいいんだよね」

 

「いないってば」

 

「ちっちっち~いるんだよ、それが。ねー」

 

 と言って布仏さんは俺を見る。

 釣られるように更識さんを俺の方を見てきた。

 

「えっと……」

 

 言いにくそうにしている更識さんが何を聞きたいのかは分かっている。

 まだ俺のペアの相手は正式には決まっていない。

 デュノアが転校してくるまではずっと一夏と組むことになるんだろうなと思っていたが、一夏はデュノアと組むことにしたらしい。

 それは別にいい。予め約束していた訳ではないし。

 となると俺は絶賛あまり者状態。現在は専用機持ちのブロックに出る子にペアを組んでくれないかと交渉している最中。あまり良い手ごたえは感じない。

 最近ようやく実戦形式の試合をまともに成立できるようになった程度で一夏やデュノア達ほど動かせるわけではなく。

 何より、『学年別トーナメントで優勝すれば男子三人のうち一人と付き合える』というとんでもない噂をきっぱり否定してしまったから、俺と組むのは乗り気ではない様子。

 

「その噂聞いたことある……嘘だったんだ」

 

 何故か更識さんはほっとしていた。

 

「あれは凄かったよね~皆私と私とって言っていたのに、おりむーとでゅっちーが組むって決まって、君が噂否定したらぱったりお誘いなくなってさ」

 

 布仏さんは笑っていっているが、笑い事じゃない。

 皆のモチベーションを下げたのだからある意味自業自得なのだろうけど、ああも手の平返されると心にくる。女子って本当に怖い。

 俺は一夏とデュノアのオマケ程度だったんだと痛感させられたというか何と言うか。

 

「ということでここに空いてる専用機持ちブロックの選手さんが一人いますけどお客さんいかがでしょう~」

 

「お客さんって……でも……」

 

 迷った様子の更識さん。

 やっぱり、ダメか。そうだよな、俺と組んでも勝率は低い。組むなら、高い勝利を望める人のほうが言いに決まっている。これは学校行事ではあるが、今後を左右しかねない大切なことでもあるのだから。

 

「貴方が嫌とかそういうことじゃなくて……ただやっぱり、訓練機で出るのに抵抗があって……じ、自業自得なんだけど……」

 

 専用機持ちならではの葛藤、みたいなものなんだろうか、それは。

 専用機が未完成なことを日本の政府関係者や企業以外の他国の人達に大々的に公表するようなことにもなりかねないしな。更識さん一人で決められるような問題でもないのか。

 

「うん、それもある……貴方はどうしたい……? 私と組みたいの……?」

 

 それはもちろん。

 今交渉している子達はクラスメイトだったりするが、更識さんほど仲がいいわけじゃない。

 組むならよく知った相手のほうがいい。

 更識さんがトーナメントに出るのならぜひとも自分とペアを組んでほしい。そう素直に思う。

 

 それに更識さんとならきっといい結果が残せるかもしれない。いや、組むからには残したい。

 現実的に考えて優勝は無理だ。専用機相手に甘い考えが通用するとは思ってない。

 それでもやるからには、更識さんと組ませてもらうからには最善に最善を重ねた結果を残すつもりだ。綺麗事なのは重々承知の上、例え訓練機でもトーナメントに出れるのなら、できる限りのことをしよう。共に最善の結果を示せるように力を貸してほしい。共に頑張りたい。

 

「……」

 

 更識さんは考え込んだまま何も言わない。

 少しばかり言葉が過ぎただろうか。更識さんにも事情はあるのは理解しているが。

 

「ううん、そんなことないよ……そうだね。自業自得だとしても専用機持ちが訓練機で出るのは情けないってどうしても思ってしまうけど……欠席するよりかはマシだよね。出来る限りのことをする……私、やってみる」

 

 それは俺とペアを組んでくれると言うことなのかと確かめた。

 

「うん、こちらこそよろしくね……」

 

 更識さんは微笑みを浮かべながら了承してくれた。

 俺はほっとして、感謝を告げた。

 

「よかったね、二人とも。めでたし、めでたし~だね」

 

 布仏さんにも感謝しなければ。

 布仏さんがいなければ、ここまでスムーズに話は進まなかった。

 感謝の限りだ。

 

「えへへ~どういたしまして~。これは貸しにしとくね。おっきいよ~」

 

「もう、本音ったら……」

 

 これは随分と大きな借りが出来てしまったな。

 

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