ドラフ島列伝 ~The last page of baseball legends chronicle~   作:マリリンマンション

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「――5回裏、先頭の8番笠間が空振りの三振に終わりまして、菅野は今日7つ目の三振を奪いました。これでワンナウト。そして、9番龍ヶ崎がバッターボックスに入ります。昨日、リモーア港にて起こりましたセントラルバード号の座礁事故関連の臨時ニュースがありました都合で、中ノ鳥島アイランドリーグ東地区予選サンシャインモンキース対パラキフロッグスの模様は、この時間からの放送となります。どうか、ご了承ください。イーストタウン中央放送の制作でお送りしております。実況は私、荻窪譲二、解説は八回王子こと、炎のセットアッパー日野隆男さんでお送りしてまいります。日野さん、宜しくお願い致します」

「どうもぉ」

「さて、日野さん。東地区リーグの優勝はモンキースに既に決定していまして、今日は消化試合……と言いたいところなんですが、フロッグスが敗れますと2シーズン連続勝ち星なしという事になります。これは、リーグの規定で解散という事になってしまいますが、どうご覧になりますか?」

「東地区は元々球団数が少ないので、試合数も少ないですから、条件としましては他の地区よりも厳しいかも知れませんが……」

「初球、インコース外れてボール。菅野は、かなり厳しいところを突いてきました」

「ですが、ここまで7試合、全ての試合を棄権しているとなりますと、チーム存続自体が難しいというのが現状ではないでしょうかねぇ」

「ですが、今日のフロッグスは2人の新人選手が急遽エントリーされて、9人揃いました。そして、初回に早速、この新人2人の働きにより鮮やかに先制。えーと、デッドボールで3番大坂が出塁しますと、後に続きます、4番のガッテムが超特大の場外先制2ランで鮮やかな先取点。凄まじい飛距離でした」

「凄かったですねぇ。160mは飛んだんじゃないですか?」

「菅野の第2球は、またインコースボールッ、これで2ナッシング。あれだけのホームランはなかなかお目に掛かれませんよね」

「それほど広くないパラキ村営とはいえ、敷地の外まで飛んだ記憶はないですねぇ。暗黙の了解と言いますか、東地区では純粋に腕力と腕力の勝負を好みますので、魔道術をほとんど使いませんからねぇ。」

「守りましても、フロッグス先発は大坂。球速はここまで最速133㎞/hですから、力でねじ伏せるというよりは、巧くかわしている印象です」

「大坂君、コントロールは悪くありませんが、まだまだピッチャーの経験は浅いんじゃないですかね? フォームが安定しない分、球の出所がわかりにくいのかもしれません。このまま9回まで抑えるとなると決め手に欠きますが、上手いことモンキース打線を抑えているようですし、今のところはイイ調子ですねぇ」

「さあ、菅野の3球目、足が上がって……あっと! これは危ない! 龍ヶ崎の後頭部付近を投球が通過しました。間一髪です。今日も制球が定まりませんピッチャーの菅野、ボールが先行して3ボールナッシング」

「今のは危ないですねぇ」

「しかし、ゲームを組み立てる事の出来るピッチャー、試合を決める事が出来るバッター、この両者の補強は大きいのではないでしょうか?」

「でしょうねぇ。ヤソジさんのスカウティングには恐れ入りますよ」

「フロッグス監督の品野ヤソジさんは、打席に入ります龍ヶ崎夏苗さんのお祖父さんでもあります。かつては、中ノ鳥島野球リーグの黎明期の中心選手でした。伝説の風神打線の立役者でもあります。日野さんも対戦した経験があるとか」

「いやぁ、当時はハッキリ言って投げたくなかったですね。既に全盛期を過ぎていたとはいえ、神懸かり的なバットコントロールは健在でしたからねぇ。どこに投げても打たれる。本当に投げにくい打者でしたよ」

「さあ足が上がって、菅野の4球目は…ボール! ストレートのフォアボール。日野さん、中盤に差し掛かりまして菅野のピッチング如何でしょう? コントロールに苦しんでいますか?」

「昨季の本戦では制球難で自滅するケースが目立ちましたけれど、今日に限ってはフロッグスの打撃陣もタイミングが取れていませんからねぇ。それほど心配はないと思いますよ。逆に、フロッグスが付け入る隙があるとすれば、その辺りじゃないでしょうか。ボール球に手を出してピッチャーを助けない事です」

「さて、フロッグスの打順は先頭に返りまして1番鹿島。今日は三振と送りバント失敗。前の打席は送りバントに失敗していますが、ここも送りますでしょうか?」

「まぁ、1点差ですからねぇ。手堅く送りたいですねぇ」

「鹿島は送りバントの構えです。一塁へ牽制セーフ! ファースト外藤の厳しいタッチ。龍ヶ崎も頭から帰塁します。…どうでしょう、ここでスチールとかはありますか?」

「カウントによってはあると思います。ですが、フロッグスとしてはランナーを溜めてクリンナップに繋げたいですからね。あまり無理はしない方がいいと思いますよ」

「サインが決まりました。菅野の足が上がって、第一球…外角外れてボール! 一球外しました。簡単にはバントをさせませんね」

「次の筑波君もそれほど打撃がいいわけじゃないから、素直にアウトはもらっておいた方がいいですよ。変に駆け引きをして歩かせたら、それこそピンチが広がりかねません」

「ネクストバッターズサークルに控えます筑波は、今日2三振です。1番か2番のどちらかが塁に出れば、大坂、そしてガッテムへと打線がつながっていきますフロッグス打線。菅野の第二球…インサイド、膝元決まりました。152㎞/h。1ボール1ストライク。モンキースとしては消化試合ですが、フロッグスはチームの存続をかけた大一番。そんな一戦であります。フロッグスとしては、ここで追加点が欲しいところ」

「その通りです」

「何とかランナーを先の塁へ進めたい鹿島。依然としてバントの構え。菅野の第3球。足が上がった、投げました。送りバントはピッチャー正面!振り返ってセカンド送…あ~っ! 送球が後ろに逸れている! センター渡良瀬がカバーに入っています。ワンナウト1塁2塁。記録はショートのエラー。ショートのエラーが記録されました! 日野さんからアウト1つもらってという話もありましたが…」

「タイミングはねぇ。微妙なところですけどねぇ。焦る所じゃないですよぉ」

「フロッグスは思わぬ形でチャンスを広げました。打席には2番の筑波が入ります。ゲッツーだけは避けたいところ」

「そうですねぇ」

「2塁牽制、セーフ! あっと、足尾がボールをこぼしていますが、すぐに拾い直します」

「大事な場面ですからね。集中して欲しいですね」

「ショートの足尾が、マウンドに駆け寄って菅野に直接ボールを手渡し。何かを耳打ちしています。そして? サードの漁火にも何かを告げています。おやおや?タイムですか?」

「タイムですね」

「ここでタイムを取りますモンキース」

「いい判断だと思いますよ」

「牽制のサインが合いませんでしたかねぇ…? マウンドに内野陣が集まります。ショートの足尾は、白いマッシュルームカットです。セカンドの中禅寺は顔に大きな傷跡があります。ファーストの外藤は長ランにマスクの出で立ち。サード漁火は赤髪に青いバンダナを巻いています。こうして見ますと、モンキースの内野陣は人相悪いですねぇ」

「そうですね。でもまあ、一度試合が始まればプライベートで何をやっていようが関係ありませんからね」

「さて、マウンド上に内野陣が集まりまして試合が中断しております。一旦CMです――」

 

◆  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 東地区に入ると車内のカーステから聞こえる音声がクリアになってきた。ファミリータイプの軽乗用車に4人乗りをすれば、嫌でも山道のドライブはエンジンに負担がかかる。ドライバーの技量が乏しければ尚更だ。運転席の加藤京子も、慣れない長距離ドライブに苛立ちを募らせていた。

「東(地区)に行くって言ったのはあなた達よ!? 何なのこの体たらくは?」

 振り返れば、助手席の橘みずきも、後部座席の茅野と矢部もぐったりと車窓を眺めていた。

 

 

 ハミットヒルから南へ約80km、2時間ほど車を走らせると広大な田園風景が現れる。北地区の最南端、中ノ鳥島のほぼ中央に位置するヲヌマタウンは農業が盛んで、島内の稲作収量の約40%を占めている。一帯は周囲を山に囲まれた盆地地形で町を横断するように川が流れている。その川に沿うようにヲヌマの市街地が形成されていた。

 ヲヌマでは橘みずきの姿を容易に発見できた。

「あら、遅かったじゃない」

 野球帽にディアドロップのサングラス。田舎のカフェテラスにこんなに前衛的なファッションの女がくつろいでいたら、嫌でも目立つ。

「お前は何様のつもりだ」

「何様はお互い様。素直に上に報告すればいいものを、真相を暴く為に単身で組織から逃亡ですって。ドラマの見すぎじゃない?」

「世の中そんなに甘いものじゃないんでな。それより、こいつのPDAを返してもらおうか」

「いいわよ。はい」

 橘はそう言うとカバンからPDAを取り出して、矢部に手渡した。

「指紋くらい登録しておきなさいよね。はい。初期化は済んでるから」

 PDAの初期化が済んでいるという事は、中のデータがクリアされているということだ。もっとも、そうしなければ矢部の指紋を登録し直す事は出来ないのだが、つまり、そのPDAでは大坂の所在を知ることができない。事情を理解した茅野の表情が紅潮する。

「なんて事をしてくれたんだ」

「あら。そんなに簡単に情報にありつけるとでも思った? 悪いけど一緒に来てもらうわよ」

「何の話だ?」

「このままだと、雷神バットは遅かれ早かれ誰かの手に堕ちるわ。クインテットスターよ? いくら秘密にしたって、どこかから情報は漏れるものよ。漏れなくても勘のいい人間ならば気が付くでしょうね。そうなったら、我先にと鵜の目鷹の目の奪い合いが始まるわ。だから、そうなる前に取り戻すの。協力してくれるかしら?」

 確かに、筋は通っている。断れば雷神バットは戻らない。茅野には他に良い選択肢が思いつかなかった。

「ひとつ聞かせてくれ。『遅かった』と言ったな? 俺達が追って来るのは折り込み済みだったのか?」

「だいたい計画どおりね。2つ想定外だけど」

 橘はサングラスを外すと悪戯っぽい笑みを浮かべて続けた。

「あなた方とは、特急列車の中で合流する予定だった。だけど、それは叶わなかった。どうしてかしら?」

「うぅむ。それはだなぁ…」

 茅野が答えあぐねたが、矢部がここぞとばかりに割って入る。

「茅野さんが階段で転んだでやんす」

「……馬鹿野郎。余計な事を言うんじゃない」

「本当の事でやんす」

「ふふふ。面白い人たち。まあ、いいわ。もう1つの想定外は…」

 そして橘は、加藤京子を見やった。

「私はお邪魔かしら?」

「あらあら、とんでもない。あなたの、コーディネート割と気に入ってるんだから」

「そりゃどうも」

「それに、今となっては好都合よ。私と茅野さんの人相書が島中に出回ってしまったから、なるべく人目は避けたいの。車を出してもらえると有り難いんだけど」

「礼は、弾んでもらうからね」

 加藤は立ち上がると、テーブルの隅にある伝票を手に取り、茅野と矢部の間に突き出した。茅野と矢部は顔を見合わせると、間もなく矢部が首を横に振った。茅野は、あまり綺麗ではない捨て台詞を吐きながら伝票を奪い取ると、店のカウンターへと不機嫌な足取りで向かった。

「ところで、これからどこに行くんでやんすか?」

「パラキ村よ。実は、あまり時間が無いの」

 店員の通報を受けて警備部ヲヌマ支部の人間がカフェに到着したのは、4人が既に店を去った後だった。

 

◆  ◆  ◇  ◇  ◇

 

「――さて、CMの間にゲームは再開しまして、2番筑波は、早くも追い込まれております。5回の裏、1アウト一塁二塁と追加点のチャンスです。3番大坂、4番ガッテムを控えまして大事な局面ですが、送りバントが2度続けてファールとなってしまい、カウントは1ボール2ストライク」

「筑波君もバントが苦手なわけではありませんから、菅野君の球威が勝ってるんでしょうねぇ」

「次に控えます大坂は、今日はデッドボールとフォアボール。バッティングは、どうなんですか?」

「前の打席を見る限りでは、菅野の速球に喰らい付いてファールで粘りましたからねぇ。目は慣れてきていると思います。いい勝負が期待できるのではないでしょうか」

「ネクストバッターズサークルから、真剣な眼差しで戦況を見つめます大坂小波。菅野のサインが決まった。第4球を、投げました! スリーバントォ! 三塁線を転がる! 漁火前進、漁火前進! フェアです! 捕って一塁送球…アウト! 2アウトです。2アウト二塁三塁で左のバッターボックスには大坂が入ります――」




◆◇◆ 登場人物紹介 その2 ◆◇◆

名前:矢部明雄/年齢:大学2年(一浪)/身長:175cm/体重:中肉/血液型B型
投打:右投右打/守備位置:外野手/基本データ(ミパ走肩守):EDBCC
特殊能力:チャンス2、タイムリーエラー

元ネタは、主人公の相棒的存在で数多くのパワプロシリーズに出演(?)している。
俊足の外野手だが勝負どころに弱いパラメータになっている事が多い。
一人称の「オイラ」や語尾の「~やんす」など喋り方に特徴がある。
いわゆるオタク気質で、空気の読めない言動も多いが、それはご愛嬌w

本編では、都内の大学に通う大学生。瓶底メガネがトレードマーク。
かつては甲子園の土を踏んだ高校球児だったが、大学ではアニメ・漫画研究サークルに所属して野球とは無縁の生活を送っていた。
尊敬する選手:稲葉篤紀(日ハム)
好きな曲:PUSH(ももいろクローバーZ)
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