ドラフ島列伝 ~The last page of baseball legends chronicle~   作:マリリンマンション

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【ここまでのGATTEM外伝】
 太平洋に浮かぶ南の島で野球大会が開催されるという噂を聞きつけて、大会参加を決意した大坂と矢部。2人はセレクションをパスして集まった百余名と共に船で南の島へと向かうが、その道中、昨年のパリーグ三冠王チャド・ポートランドに遭遇する。大坂はポートランドとの接触を試みるが、結果としてピンク=パンサンという謎の組織の計略とポートランドの無茶に巻き込まれる形になり、航行中の船から飛び降りる破目になる。一方の矢部は、船中で出会った美少女、橘みずきに個人情報端末(PDA)を盗まれて途方に暮れてしまう。
 船を飛び降りた大坂とポートランドは、島の東の外れにあるパラキ村という小さな村に流れ着いた。大坂は村の令嬢である龍ヶ崎夏苗に一命を救われると、解散寸前の地元球団パラキフロッグスの試合に参加する事となった。成り行きでポートランドもそれに合流する事になるが、彼らを引き合わせたのは伝説のバット「雷神バット」だった。しかし、雷神バットを巡って様々な勢力がうごめき始めていたことを、彼らはまだ知らない。
 試合は2人の負傷退場者を出したが、概ねフロッグス優勢で展開し、最終回には橘みずき・矢部の合流もあって、辛くも大坂たちの所属するフロッグスが勝利した。しかし、試合終了後、橘みずきと雷神バットの姿が球場から消えていた――


第二章
Get Back the Treasure


「みずきちゃんがいないでやんす!」

 矢部が取り乱して喚いた。茅野は不愉快そうな舌打ちでそれに応えたが、ガッテムに対する怒りをぶつける事に気を取られ、そもそもの目的である雷神バットと橘みずきへの注意を怠った自分への憤りも感じていた。

「オカシイデ~ス ミスタチバナノゲンザイチガ ワカリマセ~ン」

 自分のPDAを操作しながらガッテムも困惑している。さしあたっての目的は茅野もガッテムも同じなのであろう。茅野はこの状況を悟ると、ガッテムに説明した。

「たとえチームメイト同士でも、先方が通知拒否に設定すれば現在位置はわからないようになっているんだ。くそっ。折角ここまで来たってのに……」

「マダソレホドトオクマデハイッテナイハズデ~ス サガシテミマショウ」

 荷物を抱えてベンチを出ようとするガッテムを菅野が呼び止めた。

「どうかな。実は球場の外に見慣れないバンが停車していたんだ。スモークを貼っていたから中の様子はわからなかったが、ちょっとヤバい雰囲気だったぜ。自分で言うのもなんだが、俺たちみたいなチンピラとはわけが違う。悪い事は言わない。深入りしない方がいいと思うぜ」

「刺青の兄ちゃんよぉ、これは『はい、そうですか』って引き下がれるような問題じゃねぇんだ」

 茅野が厳しい口調で菅野に告げた。菅野は少しばつが悪そうだ。しばらくの沈黙に、ベンチの中の空気が重くなる。

 

「……お2人さん、なにか当てはあるのかね?」

 状況を見かねて、ヤソジが口を開いた。この問いかけに茅野が応じる。

「監督さん、ピンク=パンサンという人物、あるいは組織をご存じありませんか?」

「はて、聞かない名前じゃが…」

「では、東地区で5つ星レアアイテムを闇に流せるようなコネクションのあるチームとか……」

「そんな物騒なチームはこんな田舎にはないよ。しいて言えば、さっきまで戦っていたモンキースじゃが、彼らは今日で解散じゃ。雷神バットを手に入れたところで一銭の得にもならない。そうじゃろ?」

 ヤソジが佐賀と菅野の方を見る。今度は佐賀が答えた。

「あぁ。地区予選で1敗でもすれば解散という状況だったから、ただでさえ本部からのアイテムの監視は厳しかったんだ。非正規のルートで仕入れようものなら、ゲートのルコフスクが黙っちゃいないだろうな」

 普段は寡黙な佐賀が、珍しく冗談を交えて弁を振るう様をみて、菅野は少しだけホッとしていた。このチームならば、案外早く馴染めるかも知れない。そう感じる事が出来た。そして、ハハハと苦笑して合いの手を入れた。

 

 話に置いていかれそうな大坂が矢部に囁き尋ねる。

「矢部君、ゲートって何?」

「東西南北各地区の境界にある関所みたいなものでやんす。通過するときにIDと手荷物のチェックが行われるでやんす」

 

「どうやらお困りのようね」

 医務室の扉が開いた。加藤京子が出てきて、ベンチの中の視線が集まる。

「あぁ、夏苗ちゃんの傷口は塞がったわ。しばらく安静にしていれば、今夜には元通りよ。あと、茅野さん、矢部君、橘みずきに服を売ったのは誰だと思ってるの?」

「どういうことだ?」

「あ~っ! でやんす!」

「さすが矢部君。察しがいいのね」

 京子はにっこりと微笑んだ。

「全然わからないでやんす!」

 ズコーン!! 吉本新喜劇にも劣らないリアクションをとった後で京子は続けた。

「実は、彼女の服のボタンに発信機を仕込んでおいたの」

「一体、何だってそんな……?」

「茅野さん、今知りたいのは私が発信機を仕込んだ理由かしら?」

 薄々感じていたが食えない女だ。茅野は愛らしく微笑む京子への評価を改めた。暖かい春の昼下がりに公園のベンチで同じ事をされたら、妙な感情を抱きかねないが、今はそんな甘いシチュエーションではない。

「彼女は海岸沿いの道路を西へ進んでいるわ。この速さだと、車での移動と考えて良さそうね。それに、このルートだと途中に大きな町はないから、直接ヴォクスルトのゲートに到着する事になりそう」

「それはおかしいな。運営本部は雷神バットの盗難は公表していないが、未登録のレアアイテムを持ったままゲートを通過することは出来ないはずだ」

「なにか有りそうね……」

「トニカクオイカケマショウ!」

 みずきの行動を訝る茅野と京子だったが、ガッテムの意見には異存はないようだ。それぞれが荷物をまとめ始める。

 

「オイラ達はどうするでやんすか?」

「う~ん、行ってみようかな……」

 少しだけ考えて、大坂も同行する事を決めた。夏苗の容態も心配だが、島を出る為には大会に出場して優勝しなければならない。優勝するためには、強力なアイテムがあるに越したことはないだろう。火を吹くボールや、視覚上でボールの軌道を歪める様を目の当たりにして、底の知れない大会のレベルに期待と不安が大坂の中を交錯していた。

「オイラ達も行くでやんす!」

「遊びに行くんじゃないぞ。わかってるな」

「はい、もちろん」

 茅野の問いかけに答える大坂の表情は、今まで以上に引き締まったものだった。

「待ってよ、私の車は4人しか乗れないわ」

「じゃあ、そこのメガネ! お前は走ってついて来い!」

「それは、あんまりでやんす~」

 

「良かったら、俺たちの車を使ってください」

 菅野が車のキーを差し出した。

「これから、遠征も増えるだろうからって、漁火さんが…」

「でも、これ誰が運転するの? 私は無理よ」

「それならご心配なく。俺と佐賀が交代で運転します。荷台を改造してありますんで、皆さんはそちらでくつろいでいて下さい。あ、シャワー室もありますんで遠慮なく使ってくださいね」

「すごいでやんす! 秘密基地みたいでやんす!!」

 矢部が両手を上げて子供のようにはしゃぎ喜んだ。他の面々もお互いに顔を見合わせて、これから始まるであろう奪還劇に備えてベンチを後にした。

 

◆  ◆  ◇  ◇  ◇

 

 ビュオン! ビュオン! ビュオン!

 

「フンッ! フンッ! フンッ!」

 

 トレーニングルームに素振りの音が響く。半裸の男が、黙々と素振りを続けている。額、首筋、肩、二の腕、胸筋、腹筋、背筋……露出する肌という肌から噴き出す汗が雫となって飛散し、上気した男の体温を周囲に拡散させていく。

「大佐! ちょっと、大佐! もうやめて下さい!」

 四路智美が勢いよく扉を開け放つと、トレーニングルームに飽和していた熱気が彼女に襲いかかる。むせ返るような男の汗の臭いは、年頃の女の子にはそうそう許容できるものではない。利発そうな大きな瞳を横に逸らすと、彼女はゲホゲホとむせ込んだ。彼女の赤みがかったブラウンに染めたミディアムショートが揺れている。

「計器が…、げほっ、計器がっ……!!」

「何だね。3時のおやつならもう済んだであろう」

「違う! ケーキじゃありません! 計器です! それ、オヤジギャグですよ!」

「すまん。だが、そんなに怒る事もなかろう」

「……こ、これは失礼いたしました」

「それで何だね」

「実は、大佐が素振りをするたびに、敷地内の観測機器の測定値が異常値を示しているんです。見てください」

 智美は携えていたバインダーを差し出した。

「ほう。これは素晴らしい! さすが、クインテットスターだ! ガハハハハ!」

「笑ってる場合ですか! こんな事してたら施設内の電気系統に負荷が掛かってブレーカーが落ちちゃいますよ?」

「うむ。すまなかった。報告ご苦労である。ところで四路君」

「はい、なんでしょう?」

「この雷神バットは、誰が、どうして手に入れるつもりだったんだろうなぁ」

「そりゃ、もちろん大佐がタダで手に入れるつもりだったんでしょ?」

「うむ。そうに違いない。ガハハハハ!」

 ルコフスクは笑いながら握りしめたバットを誇らしげに眺めた。

 

「大佐ァ~! 大佐ァ~!」

 2人のもとに金が駆け込んできた。深刻な表情だが、訛ったイントネーションは少し間が抜けて聞こえる。

「おやおや、金君ではないか。血相を変えてどうしたのだね」

「ゲートに、フロッグスの連中が集まってきていルネ」

「何!? もう気づいたのか。さすが、信濃ヤソジは侮れん男よ。適当にあしらっておいてくれたまえ」

「フロッグスだけじゃないアル。警備部の茅野もいるアル」

「…何と、それは厄介だな。要求は何だ?」

「恐れながら申し上げるネ、盗んだ雷神バットを返せと言ってるアルヨ」

「ムムッ! 橘みずきについては?」

「不思議なコトに、それにはあまり触れてこないネ」

「なるほどな。金君、これはおかしい事だと思わないかね?」

「そうアルカ?」

「四路君はどう思う?」

「人質の安否よりも雷神バットの返還を優先するのは気に入らないですね…」

「そうだな。ならば、ここは一興設けようではないか。雷神バットを賭けてフロッグスとの試合を行う。それで勝てなければ、奴らも納得して帰るだろう。久しぶりの試合だ。腕が鳴るな金君。波水出君にもそのように伝えてきてくれたまえ。ガッハハハ!」

 

 ルコフスクは豪快に笑いながら金を見送ると、智美の方へ向き直った。そして、声のトーンを低く抑えて彼女に告げた。

「四路君。時間がある時でいいんだが、雷神バットの正規ルート…つまり盗まれなかった場合に、本当は誰の手に渡るはずのものだったのか調べておいてくれないか。くれぐれも、慎重にな」

「承知しました、大佐」

「ところで四路君。これからシャワーを浴びようと思うのだが、一緒に来るかね?」

「丁重にお断りします」

 

◆  ◆  ◆  ◇  ◇

 

 東地区と南地区の境界にある2つのゲートのうち、沿岸部側にあるヴォクスルトゲートは中世ヨーロッパ建築を彷彿とさせる尖塔がシンボルだ。塔を囲むように平屋の官舎が並んでいて、その一端が道を塞ぐように建ち、敷地全体が巨大な門のような構造になっている。

 道路に面している赤いレンガ造りの巨大な門は2階ほどの高さがある。その一角にある窓が開いて一人の人物が顔を出した。

「あらやだ~! 色男がいっぱ~い♪」

 甲高い声だが、それは紛れもなく男の声だ。どうやら窓辺の人物は女装している男らしい。少々濃いめだがメイクもばっちりだ。茅野が一歩前に歩み出ると、イラッとする表情を微塵も隠すことなく女装の門番に告げた。

「ここに、橘みずきがいるな」

「やだ~! 怒ってる~! でもそれも魅力的よ♪ 橘みずきって誰かしら? アタシ女には興味ないの」

 茅野の眉間のしわが深くなり、こめかみに青筋が浮かぶ。

「雷神バットはどこだと聞いてるんだ」

「そんなに怒らないで。雷神バットなら、アタシ達が預かってるわよ。だけど、持ち主がわからなくて困ってるのよね~」

 窓辺の女装男は、特別中性的な魅力を備えている訳ではない。メイクで上手く誤魔化しているが、元々は年相応のオジサン顔である事が窺える。唇に人差し指を当てて、上目遣いで考え事をする仕草に、茅野の苛立ちゲージが上昇していく。

「それは俺たちのものだ。返してもらいたい」

「それは出来ないわね。アナタ達のものだって言うなら、許可証を見せてみなさいよ。カルテットスター以上のレアアイテムの所有には運営委員会への登録と許可が必要なの。アナタ達も知ってるでしょう?」

「あぁ、確かにそうだ。だが、そいつは運営にすら登録されていない超がつくレアアイテムだ。まだ許可証なんて誰にも発行されていない」

「そんなの信じられる訳ないでしょう?」

 浮気した男の釈明に取り合わない女ようなテンションの男に、再び茅野の苛々が募る。

 

 しばらく窓辺の女装男と茅野の間の均衡は破れなかった。しびれを切らせた菅野がトラックの運転席から叫んだ。

「茅野さ~ん。トラックで突っ込んじゃいましょうか?」

「それも悪くないかもな」

「ちょっと、乱暴は嫌よ~」

「話し合いで解決しないんだ。仕方ないだろう」

 取り乱すそぶりを見せる女装男の背後に、グレーのチャイナ服姿の背の高い男が現れて、女装男に何やら耳打ちをはじめた。

「やだ♪ それ、いいわね」

 女装男は頬の横でポンと両手を合わせ、嬉々としてチャイナ服姿の男を見送った。

「ちょっと、アナタ達聞きなさい。今夜、一戦交えましょう♪ お互いの言葉で解決できない時は、お互いのカラダで理解するの。勝った方が雷神バットをもらうの。恨みっこなし。どうかしら?」

「ひとつ確認するが、勝負は野球でするんだよな?」

「あらやだ♪ ナニを想像してるの?」

 

「お~い、菅野。肩は大丈夫なのか?」

「えぇ。京子さんのおかげでダブルヘッダーでも完投出来ますよ」

「おい、ガッテム。ヴォクスルトフットレイクスは大会にこそエントリーしていないが精鋭揃いだ。簡単に勝てる相手じゃないが、勝機はあるだろう。やるか?」

「オフコースデス! ベースボールノウラミハ ベースボールデリベンジシマス!」

 茅野は再び門番の女装男の方に向き直った。

「約束は守ってくれるんだろうな?」

「女に二言はなくてよ。場所はレイクサイドスタジアム。時間は18時からでいいかしら」

「わかった」

 女装男は愛想をいっぱいに振り撒いて手を振り、やがては窓際から投げキッスを投下すると、あどけなさが逆に毒々しい笑顔のまま窓を閉めた。夕暮れ時とはいえ、ゾクッと背後に感じる悪寒を残された一同は禁じえなかった。




名前:佐賀タケオ/年齢:24歳/身長:185cm/体重:筋肉質/血液型AB型
投打:右投右打/守備位置:外野手/基本データ(ミパ走肩守):AABAB
特殊能力:アベレージヒッター、レーザービーム

元ネタは冥球島編に登場する鬼が島分校のキャプテン。
目つきが悪い強打者のイメージですが、最近の作品ではあまり見かけません。
能力、ビジュアル的にももっと出番があってもいいと思いますがw
フルネームでの登場はなく名字のみなので、名前はオリジナルです。

本編でも強肩強打の外野手として登場。魔道術を使わずに地力だけで大会に挑みます。
尊敬する選手:秋山幸二(元西武)
好きな曲:Living Dead(SiM)
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