ドラフ島列伝 ~The last page of baseball legends chronicle~   作:マリリンマンション

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パワプロ2014出ましたね。作者は未プレイです。
書けば書くほどパワプロ味が薄らいでいっている気がします。
そんな、エセパワプロ小説でよろしかったらどうぞ。


Don’t think, Feel

「――現在、一塁々上にいます矢部はサードへの内野安打で出塁。ドン詰まりの当たりが功を奏しました。闘志溢れるヘッドスライディングも印象的でしたね」

「そうですね。あのようなプレイがあると、チームの士気も高まりますからね」

「さて6回表のフロッグスの攻撃は、先頭の矢部が出塁しまして、ノーアウトランナー一塁。そして、打席には2番の永瀬。今夜の永瀬は2打数の1安打です。前の打席はセーフティーバントで出塁していますが、この打席は既にバットを横に寝かせて送りバントの構え。2点差ありますが、セオリー通り送ってきますでしょうか?」

「今のところ、ルコフスク選手のグラヴィティーボールとまともに勝負できているのは4番のガッテム選手だけですからね。ランナーを進めて、彼まで繋ぎたいですね」

「そのガッテムですが、今夜は2打数の2安打。ソロホームランとタイムリーヒットで2打点と当たっております。打席の永瀬も、ここは奇を衒わずに、きっちり決めたい場面です。ルコフスクがセットポジションから、第1球を……投げました! バントしましたが、ファール! 送れません。カウントはノーボール1ストライクです。やはり、グラヴィティーボールですと、簡単には送らせてもらえませんか?」

「そうですね。当てるだけでは球威に押し負けてしまいますから、感覚的にはプッシュバントの近いものがあるのではないでしょうか」

「永瀬はもう一度バントの構えを見せています。その永瀬をちらりと一瞥しましたキャッチャーの波水出。ルコフスクがセットポジションに入る。さぁ、足が上がって第2球を……投げました! バントしたが? これはピッチャーへの小フライになる! ルコフスクは前に…!? 出てきません! ワンバウンドさせてから打球を処理。落ち着いて二塁へ送球、アウト。そして一塁にも転送……ダブルプレイ!! 1-6-3と渡りまして2アウトランナーなしと変わりました。いやぁ、奈加乃さん、勿体ないですねぇ」

「ルコフスク選手は、あえてグラヴィティーボールを投げませんでしたね」

「普通のストレートという事ですか?」

「えぇ。永瀬選手がボールの勢いに負けないようにと強くバットを出した分だけ、打球の勢いを殺せませんでした」

「それで、中途半端な小フライになったわけですね。この辺りも、駆け引きがあったのかどうか……」

「ルコフスク選手の打球処理もしたたかでした」

「さぁ、試合の流れが、フロッグスサイドに傾きかけていたところではありましたが、ぐっとまたここでイーブンに、あるいはフットレイクスサイドに傾くのではないか、そんなプレイでした。2アウト、ランナーが無くなりまして、打席には3番大坂が入ります。回は6回の表です。スコアは2-4でフロッグスが2点のビハインド。今夜の大坂はキャッチャーへのファールフライと三振です。ルコフスク相手に少し分が悪いでしょうか」

「グラヴィティーボールとは言っても、完全無欠な黒魔術ではありませんから、何とか糸口を見つけ……」

 

カキンッ!

 

「――初球打ちぃぃっ!! ライトへ打球が上がっている!! 風に乗って打球がぐんぐん伸びていくぞ! 伸びて!? 伸びて!? ……これはどうだ??」

 

 

◆  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 情報というものはいつも正しいとは限らない。嘘の情報に惑わされ、踊らされ、時には騙され、大きな損害を被る事もある。だからと言って、耳を塞いでいては、何も得ることはできないだろう。知らない事に居直って努力を怠れば、いつか痛い目を見るだろう。与えられた、あるいは得た情報の真偽を確かめる方法は一様ではないが、最も確かな方法は、自分の目で確かめる事だ。百聞は一見に如かずとは古よりの諺である。

 7つあると予言されていたクインテットスターレアアイテムの最後の1つ「雷神バット」が発見され、第8次招待選手団と一緒に島に移送される。それは田舎町の酒場の口が達者な常連客の与太話でしかなかったが、信じるに足る根拠がないわけではなかった。常連客は虚実交えて語り、酒の席を楽しんでいるようだが、その嘘を覆うリアリティーがあまりにも緻密で巧妙で辻褄の合うものであれば、それを嘘と決めつけるのはいささか野暮というものだ。信じてみるのが男のロマンだろう。周りの人間も面白がって尾ひれを付けるものだから、話はいつの間にか膨らんでいく。

 さて、第8次招待選手団を乗せた豪華客船セントラルバード号が制御不能に陥り港に衝突・座礁したのは昨日の事だ。これにはクインテットスターレアアイテムが乗っていたという。だとすれば、一部の礼儀知らずな者どもは鵜の目鷹の目で群がり、物盗りに走ったことだろう。そして、警察はこれを根こそぎ検挙して回っただろう。しかし、検挙されるのは下っ端のチンピラどもだ。クインテットスターレアを狙う大物に、そんな迂闊な末路は似合わない。彼らは、もっと用意周到な計画を立て、抜かりのない準備をして、慎重かつ大胆に事を運ぶはずだ。

 翌日、それはつまり今日の事だが、船の警備責任者の男と、乗客の女が一人行方をくらましている事が公表された。さあ、与太話の現実味が加速していく。オセロゲームのように、さっきまでの嘘が現実に塗り替えられていく。今朝方、ヲヌマのカフェテラスで茅野と橘が同席している姿が目撃されたようだ。彼らの目的は一体何だろうか。いや、考えるのはやめよう。それは彼らにしか分からないことだ。しかし、想像してみよう。想像といっても、ジョン・レノンみたいに、理想郷を想像するわけではない。どちらかと言えば、ブルース・リーの到達した境地に近いだろうか。まあ、それは兎も角、彼らは混乱するリモーア港を尻目に、南へと進路を取った。これはつまり南地区、あるいはそれを通り越して東地区に用事があるということが想像できる。

 今日は南地区では大きなニュースが無かったのに対して、東地区では少々の、しかし多くの島民にしてみれば取るに足らない事件が起きていた。いままでメンバーすら揃わなかったパラキ村の弱小球団が、5年間土付かずのモンキースに勝利したのである。これによってフロッグスは解散を免れたが、反対にモンキースは突然の解散を宣告された。モンキースが負ければその時点で解散というのは、その筋では良く知られた話だったので、事情通であれば事情通である程、この結果には驚かなかったであろう。だが、今日は違う。雷神バットの移送に大会運営本部が失敗したらしい今日は、些細な変化に敏感でいなければならない。

 そんな中で、フロッグスとフットレイクスのナイトゲームが突如決行された。フロッグスはダブルヘッダーの強行日程だ。さあ、そろそろ核心に迫っているのではないかという手応えを感じるのではないだろうか。その手応えを胸に秘めた一人の男が今、レイクサイドスタジアムに到着した。

 

 

 ピチピチに身体に張り付いた派手なサイクルジャージに、これまたよく目立つ赤いヘルメットの男は彼の愛車であるロードバイクにまたがって球場の正門に到着した。急遽決まったエキシビジョンマッチ、バスも鉄道もないど田舎の球場に観客などいない……男はそう考えていたが、どうやらその考えは甘かったらしい。敷地内の駐車場の端に一人の少女がたたずんでいる。男はロードバイクから降りると、一人で立ちすくむその少女の前へと歩みを進めた。

 少女は心ここにあらずで、ただぼんやりとそこに立ち尽くしていたが、自転車を押しながら歩いてくる派手な格好の男に気がつくと、二人の視線が自ずと交錯した。

 やがて、少女のかぶる緑色の野球帽が突然の風に飛ばされて、アスファルトの地面を転がっていくが、彼女はそれを拾おうとはしなかった。かなり明るい金色のショートヘアーが風にあおられて、美しく乱れた。男は地面に転がるその野球帽を拾い上げた。緑地の野球帽には白色でFの刺繍が施されていた。それは男にとっても見慣れたロゴマークだった。そのロゴを冠するチームは今日、解散の危機を乗り越えたばかりであった。

 

「お嬢さん…!」

 

 赤いヘルメットを外しながら男が呼びかけた。ヘルメットの中から汗にびっしょり濡れている赤茶色の癖っ毛が現れて、長い前髪が彼の目元のあたりまでうねうねと降りてくる。男は我ながらキザな呼びかけだったなと自嘲的に笑ったが、少女はその笑顔に少し安堵しているようだった。やがて、彼女も微笑んだ。

 派手なデザインのサイクルジャージはオシャレとは言い難いが、かといって奇抜だったり野暮ったい印象もない。目の前に現れた男は悪い人間ではないのだろうと少女は感じていた。

 

「ありがとう……」

 

 少女は礼を述べながら帽子を受け取ったが、警戒心を解いたわけではないようだ。大きな瞳が男の人物像を見極めようとして、遠慮がちに上下する。色白で華奢な首筋はネイビーのタートルネックで包まれている。アンダーシャツのコントラストが暗闇に浮かびあがって、彼女の美しい容姿が際立った。

 男もまた慎重な対応を心がけたが、事情通の彼は先手を打つ事ができた。

 

「あなたは、橘みずきさんですね。こんな所で何をしているんですか? 試合はもうとっくに始まっていますよ?」

「そうね、まったく私ったら何をしているのでしょう……」

 

 彼女は否定しなかった。しかし、橘みずきの様子が少しおかしい。ひどく落ち込んでいるように見える。確かに、彼女は先発メンバーからは外れている。何か事情があるのだろうが、あまり触れて欲しくないのだろう。彼女は話題を変えるように質問を返してきた。

 

「あなたこそ何をしに来たの? こんな地の果てまで野球観戦?」

「そうですね。当たらずとも、遠からずといったところでしょうか」

 

 橘の境遇が芳しくない事を知ってか知らずか、男は意地の悪そうな笑みをへらへら浮かべて曖昧に答えた。橘がここで取り乱せば男の思う壺であったが、橘もまたポーカーフェイスで目の前のサイクルジャージの男との会話に挑むことにした。事あるごとにうねうねの前髪をいじる仕草が気が散って仕方ないが、今はそれどころではない。

 

「とても、試合に興味があるようには見えませんが」

「ご明察です。ですが、あなたには少し興味があるかも知れないですね」

 

 男が握手を求めてきたが、咄嗟に橘は手を払いのけた。

 

「この状況でナンパ? 馴れ馴れしく触らないでよ!」

「これは失敬。申し遅れましたが、私は元イーストタウンタワーズの保谷掟と言います」

「イーストタウンタワーズ……?」

「ご存じないのも無理はありませんね。イーストタウンタワーズは東地区で最も歴史のあったチームでしたが、残念ながら一昨年の大会を最後に解散していて、今は存在しないチームです」

 

 保谷と名乗った男は饒舌に喋ったが、橘にはあまり関心がない事だった。この男を無視して橘は立ち去りたかったが、だからと言って、こんな夜中に行くあてなどなかった。橘は黙って男の言葉に耳を傾ける事にした。

 

「私の事は興味ありませんか。まあ、仕方ありませんね」

 

 いちいちカンに触る喋り方をする男だと橘は思った。こちらの事はお見通しで、反応を伺いながら話を紡いでいく態度がハナにつく。

 

「では、こんなお話はご存知でしょうか。昨日、島の外からこの夏の本大会に向けて何人もの選手が招待されています。外地とは縁の薄いこの島ではとても珍しいことですが、前例がないわけではありません」

「それがどうかしたの?」

「私も含めて、島の人間は皆歓迎していますよ」

 

 保谷は暖かい笑みで答えたが、橘の作り笑顔は凍りついたままだ。しかし、保谷は構わずに核心へと話しを続けた。

 

「それから、ご存知かはわかりませんが、1本のバットがこの島に持ち込まれました」

「……」

「島の噂好きな人間はもうこの話題で持ちきりです。そのバットはとても価値のある物で値段はとてもじゃないがつけられないでしょう。そして、運営本部の不手際でそのバットは現在行方不明のようです。まあ、そんなヤバい事を表沙汰になんてできませんが、運営本部を巻き込んでの争奪戦が始まるのは時間の問題でしょうね」

「何を……知ってるの?」

「何も知りませんよ。あくまでも、根拠のない噂話です」

「そうなの……」

 

 橘は小声で相槌を打った。そして不安そうな表情でうつむき、自分の慎ましい胸元から、程良く引き締まったヒップまでのラインを目で追いかけた。やがて、彼女は視線を上げて保谷を見上げる。よく見れば、そこまで顔立ちは悪くない男だった。性格は悪そうだったが、頭は悪くないのだろう。少しだけなら頼ってもいいかもしれない。

 

「……ピンク=パンサンという男を知っていますか?」

「……!? 知らないな」

「船の上で、彼に声を掛けられたんです。彼の指示で私は行動していました。甘い言葉に誘われて、我ながら浅はかだったなと後悔しています。それから、もう一人病弱そうな人と行動を共にしていました。名前はわかりません。その人は、ピンク=パンサンに『オーさん』と呼ばれていました」

「オーさん?」

 

 保谷の表情がにわかに歪んだが、球場入口の自販機の明かりが逆光線となり、橘はその表情を上手く確認できなかった。保谷のわずかな疑念は、橘に悟られることがなかった。

 

「どこかの国の王様なんですかね? だったら『さん』付けは変ですね」

「そうだな……」

 

 オーという名前は有り触れてはいないが、名前やニックネームとしてあっても不思議ではない。しかし、オーという名前は、この島では禁忌に等しい。迂闊に口に出すことすら憚られる名前だ。島の外から来て知らなかった可能性もあるが、周到な準備を進めていたであろう彼らが島の事情に疎いとは考え難い。

 

「その、オーという男、何才ぐらいだった?」

「えっ? 顔はほとんど包帯で覆われていてよく見えなかったけど、声の感じからすると30代から40代といったところかしら」

 

 世の中には知らない方が良い情報もある。知らぬが仏。知りすぎた男がトラブルに巻き込まれていく悲劇は古今東西尽きることはない。過ぎたるは及ばざるが如し。保谷はこれ以上は関わらない方が良いと直感した。とても、一端の情報屋が抱え込んでいい事案ではない。

 

「そうか。時に橘さん、こんなところで立ち話もなんだから試合見ながら話しませんか」

「げっ!! オヤジギャグ……そういうの流行らないですよ」

 

 一陣の冷たい風が二人の間を通り過ぎた。保谷は後ろにあった自販機のホットコーヒーをおごって許しを請うことにした。

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