ドラフ島列伝 ~The last page of baseball legends chronicle~   作:マリリンマンション

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Purple "O"

「大坂君、ちょっといいかね?」

 6回表の攻撃前の円陣が解けると大坂は監督のヤソジに呼ばれた。フットレイクスの3番打者、波水出の打球はレフト前に本来なら抜ける当たりだったが、大坂は楽々回り込んでショートゴロに仕留めたのだ。彼のファインプレイをチームメイトは口を揃えて称えたが、ヤソジだけは厳しい表情のまま大坂を迎えた。

「実はですね――」

 

 

 5回ウラ、波水出の第3打席。菅野の投球に対して波水出はセンターから右方向を意識しているスイングだった。力任せにバットを振り回せば長打も十分狙える大柄な体つきだが、そのバッティングスタイルは本人のポリシーに反するらしく、彼は頑なに右打ちに徹していた。その事には、大坂も薄々感付いていたから、どちらかと言えば二遊間に意識が行っていた局面だ。

 夏苗のサインは内へ切れ込むスライダー。これは、次の投球を活かすためのインサイドワークだったと思われるが、まあバッテリーの意図はともかく、結果は外角から甘く入る投球となってしまった。

 波水出はこれを見逃すような打者ではない。力強い波水出のスウィングに、深く腰を落とす大坂の緊張感が一気に高まる。当初の予想に反して三遊間を強い打球が襲い、大坂が打球を追うのに見切りを付けたその時だった。

 

 大坂を取り巻く、すべての時間が止まったのだ!

 

 

 ◆  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 ダメ元でグラブを出す井伏さんも、捕球態勢に入る鹿島さんも、立ち上がり指示を出す夏苗も、打球の行方を確認してスタートを切る波水出さんも、みんなの動きが一斉に止まった。

 

 打球は……!?

 

 打球も三塁アンツーカーの少し後ろ、地面から30センチほど跳ね上がったところで停止している。あの時、あの場で視線を巡らせて、動いているのはオレだけだった。今思えば、色々見ておくべきものはあったはずだが、あの時のオレは純粋な野球少年でしかなかった。いや、もう少年なんて歳じゃないから、野球バカといったところか。誰が見ても内野の間を抜けたであろうヒット性の当たりを止める達成感は何度味わっても心地の良いものだし、かつて身体に刷り込まされていたノックにより、打球は追いかけるものだと、この足が、身体が考えずとも動いていた。あと数瞬、ボールが止まってくれれば! 球際でその経験を何度した事かわからない。その数瞬が、いま、ここに降りてきた。その誘惑に、ただただ乗せられただけのオレは、やっぱり馬鹿だったと思う。

 

 

 ◆  ◆  ◇  ◇  ◇

 

 

 大坂は、素手でボールを掴んだが、それは空中に浮かんでいるにも関わらず、万力で固定されているかのようにピクリとも動かなかった。

 突いても叩いても動かない。停止した時間の中で、動く事を許されているのは自分だけらしい。まさかこのまま世界が永遠に凍りついてしまうのではないかという不安に大坂は襲われたが、同時に、これが程なく終わってしまうかもしれないという疑念も湧き起こった。あるいはコンマ1秒後には、世界は急に動きを取り戻すかもしれない。そして、波水出の打球速度を脳内で反芻する。とても素手でキャッチできる打球ではなかったはずだ。慌てて一時停止しているボールから手を離し、思い立った大坂は打球の正面に回り込んで、しっかりと腰を落として基本の捕球姿勢を取った。

 間もなく、時間が戻って来た。どれだけの時間が経過したのだろうか。そもそも、止まっている時間を計測することは可能なのだろうか。体感的には数分の出来事だったが、今となっては、その時間を計測する術は無い。

 ミットの中に、確かな重みを感じた大坂は大きくステップを踏んで一塁ベースに入ったガッテムのもとへと送球した。

 

 

 ヤソジは黙ってベンチに腰をかけて、腕組みをしたまま大坂の説明を聞いていた。すべて聞き終えたヤソジは、直立不動の大坂に座るように促すと、ぽつりぽつりと独り言のように喋りはじめた。

「……そうか。実は、時間を止める魔術は禁忌とされていての。他の一般的な黒魔術と区別するために暗黒魔術と呼ばれているんじゃ。周りに与える影響が大きすぎるからの。しかしまぁ、今は能書きを並べても仕方あるまい。暗黒魔術の話はひとまず置いておくとして、時に大坂君、覚悟はいいかね?」

 ヤソジは改めて大坂の方へと向き直った。黒々とした瞳を宿した目を細めると、目じりの細かい皺が深く刻み込まれていく。才気ある若者を見出した時というのは、その潜在能力を何とか引き出して、彼の将来性を期待してしまうものだ。

 

 

 ◆  ◆  ◆  ◇  ◇

 

 

 この回先頭の矢部はサードに緩いゴロを転がした。フットレイクスの三塁手が猛ダッシュで前進してくる。しかし、捕手と三塁手の中間のあの近辺は、実は矢部のヒットゾーンでもある。バッティングの調子が戻らない時も、超高校級のエースと対峙した時も、あのエリアに転がった打球がたびたび内野安打となった。高校時代、特別打撃に秀でているわけではない矢部がレギュラーとして定着できたのは、泥臭いながらも、ここぞという局面では結果を残してきたからだ。

 打った直後のスタートは衰えていなかった。少し緩くなっているウエストに、かつての韋駄天の面影は無いが、1番打者としては及第点のスピードを維持したまま一塁ベースへと矢部は飛び込んだ。

 

「セーフ!」

 

 間一髪の内野安打でも、教科書通りのクリーンヒットでも出塁は出塁である。むくりと起き上がった矢部は、トレードマークの分厚いメガネをかけ直すと、三塁側ベンチへ自分の功績をアピールした。中盤の6回、2点差を追いかける場面。言うまでもなく、このランナーは大事に進めたい。

 

 ポコン!

 

 しかし、2番打者永瀬の送りバントはピッチャーへの中途半端な小フライになった。スタートを躊躇した矢部の動きを視界に捉えたルコフスクは、ショートバウンドでこれを捌くと、すぐに二塁へ転送して流れるようなダブルプレーが完成した。これは、仕事の合間で野球をやっている人達がにわかに出来るようなプレイではない。日頃から、様々な状況を想定した練習を重ねていなければ、咄嗟の連携プレイは叶わないだろう。

 大坂が打席に入ったのは、そんな局面だ。2死走者なし。

 

 ランナーがいなくなってしまったのは惜しいが、ここで手を拱(こまね)くわけにはいかない。大坂が現在の状況を優位に進めるためには、キャッチャーの波水出に何かを悟られる前に事を起こさなければならない。狙うは初球だ。

 ヤソジに覚悟を問われて、答えに窮した大坂だったが、後戻りすることは考えていなかった。そうなれば、自ずと答えはYESである。大坂の答えを聞いたヤソジは以下のように続けた。

「大坂君の能力は言ってみれば終生免疫のようなものじゃ。おたふく風邪とか、麻疹とか、子供の時に一度かかってしまえば大人になってからもかかる心配はない病気と似ているかもしれないな。はじめの一撃は、人よりも過敏にアレルギーのような反応をしてしまうが、一方で、二撃目以降は打ち消してしまう能力である可能性が高い。あくまでも、ここまでの結果を踏まえての仮説じゃが、さっきは確かに暗黒魔術を打ち消したんじゃ。次の打席で、試してみるといい」

 

 

 一度経験した魔道術は、二度目は効かないようだ。大坂にも心当たりがないわけではない。

 では、グラヴィティーボールが打ち消されたルコフスクの投球が如何なるものなのか。考えるまでもない。140Km/h台中盤の何の変哲もないストレートである。高速スライダーやSFFも意識しながら打つ150km/h台のストレートよりも余程打ちやすい。

 大坂は球種に狙いを絞って左の打席に立つ。目の前でチャンスを潰された後で、集中力を維持することは容易ではないが、大坂は新鮮な気持ちで打席に立つ事ができていた。

 ルコフスクの初球は膝元へのストレート。このコースを打つコツは脇を締めてコンパクトに振り抜くこと!

 

 カキィィーン!

 

 スタジアムに乾いた金属音が響いた。ライト方向に高く舞い上がった打球が、レフトからの風に煽られて伸びていく。

 白球はライトフェンスを直撃すると、大きくクッションして外野グランドを転々とした、ボールが内野に戻る間に大坂は三塁まで到達していた。

 予想外の長打にフットレイクスの野手たちがざわついている中、マウンド上の男は一切の動揺を見せなかった。

「お主、なかなかやるではないか! ガハハハハ!」

 ベースオンストップの大坂にグローブをかざして、豪快に笑って見せた。

「ちょっと! 笑い事じゃないわよ!」

 タイムを取った波水出が、大きな身体を揺らしながらマウンドへ駆けていく。

 

「何で、グラヴィティーボールを投げなかったの?」

「投げたさ。でも、あいつは何かコツを得たように見える。底の知れん男よ」

「褒めてる場合!? 次はガッテムよ。どうするの?」

「波水出君。まだ我々が2点リードしているが、このゲーム、次の1点を取った方が制するとは思わんかね?」

「勝負したくないなら、はっきり言いなさいよ」

「別に、逃げる訳じゃないんだがな……」

「何ツンデレみたいな事言ってるのよ! ここは勝負に決まってるじゃない。周りを良く見て。今の三塁打でチームに動揺が広がってるわ。ここでガッテムを敬遠すれば、傷口を広げるわよ。3倍と5倍でカウントを整えて、10倍でケリをつけましょう。きっちり引導を渡すのよ」

「それも一興だな。しかし、波水出君はそれで大丈夫なのかね?」

「アタシは平気よ。丈夫なだけが取り柄なんだから」

「うむ。ならば安心だ。どうやら、吾輩は部下に恵まれているようだ。ガハハ!」

「アタシへの気遣いなんて無用よ。後できっちり返してもらうんだから」

 

 波水出はミットをパクパクさせてルコフスクの分厚い胸板を揉みほぐす仕草を見せてからホームへと踵を返した。ルコフスクは波水出に余計な気を回した事を後悔しながらロジンバックを拾い上げ、掌の上で弾ませながら波水出の後ろ姿を見送った。確かに、力を出し惜しみをするような展開ではない。この局面で勝負を提案してきた波水出はやはり漢だとルコフスクは思った。

 

 

 ◆  ◆  ◆  ◆  ◇

 

 

「――さっき、時間が止まったとか言っていませんでした?」

 スコアブックに三塁打を記録した加藤がヤソジに尋ねた。

「いかにも」

「時間を止める術者なんて、私は1人しか知りませんが……」

「奇遇じゃのう。ワシも1人だけ心当たりがある」

「……パープル=オーですよね?」

「ほほぅ、ご存知かね?」

「野球超人伝の最後の1ページの解釈を巡り大会運営本部と争いになって、最後は登録抹消(この島では極刑に相当)となった反逆者だと教わりました」

「うむ。概ねその通りじゃ。野球超人伝最後の1ページの解釈は、今も意見が分かれるところじゃが、彼の見解は異端じゃったからの」

「異端?」

「あぁ、パープル=オーの導いた結論は運営本部の転覆じゃよ。そんな物騒な解釈を運営側が認めるわけにはいかないじゃろう。彼も誤りを認めて、意見を取り下げれば良かったものを、彼は自分の意志を貫き通した。半分意固地になっていただけじゃろうが、一方で、それは彼の絶対の自信の裏返しとも受け取れた。とにかく、そんな愚かしい解釈は日の目を見ることもないまま、闇に葬り去られたんじゃよ」

「ヤソジさんは、パープル=オーの解釈は正しいと思いますか?」

「どうじゃろうな。直接見たり聞いたりした訳ではないからの。ただ、簡単にペテン師と決めつけてしまうのは、ちと惜しいとは思わないかね?」

「そうですね……」

 

 メキャッ!

 

 またしてもバットが折れる音が響く。ボールは勢いよくファールグラウンドを転がって、ヤソジ達が陣取る三塁側ベンチへと飛び込んだ。「危ない!」チームメイトの叫び声に、加藤の言葉が掻き消されて、ベンチの中を硬球が弾んだ。

 佐賀がのしのしとベンチに戻ってくると、バットケースから残り少なくなった木製バットを引き抜いて、ガッテムへと手渡した。

 

「今のが3倍か?」

「タブンソウデース サンバイヲフェアーグランドニ飛バスノハ シナンノワザデース」

 

 打席の外で2回素振りをして新しいバットの感触を確認してから、ガッテムは打席に入った。2死ながらも走者三塁。3倍のグラヴィティーボールに対応しつつある男の打撃センスに期待を寄せて、ベンチの中が静まり返る。ヒット1本出れば、それでいい。

 ルコフスクの第2球目が指先から放たれると、それは確かに黒い尾のようなものを引いていた。

 

 パキャン!

 

 聞いた事もない怪音を残して、バットが木端微塵に砕け散る。

「ストライーク!」

 しかし、ボールは波水出が確かにキャッチしていた。パーンと皮が張り裂けるような捕球音が響く。

「あふん♪」

 波水出は今まで通り奇妙な喘ぎ声をあげて捕球していたが、切羽詰まった表情だ。彼の頬を冷たい汗が伝っていく。これまでの饒舌は影を潜めて口数も少ない。この変化を打席のガッテムは見逃さなかった。グラヴィティーボールは投げるルコフスクよりも、受ける波水出の方に負担が大きいのだ。今のがおそらく5倍のグラヴィティーボールだ。そして、次の決め球が10倍のグラヴィティーボール。

「グラヴィティーボールノタマカズセイゲンハ ルコフスクノマジックポイントニイゾンシテルワケデハナイノデスネ?」

 ガッテムはそう言い残して打席を外すと、次のバットを取りにネクストバッターズサークルに座る佐賀の元へと向かった。しかし、佐賀からは木製のバットを受け取らずに、佐賀が愛用している黒い金属バットを受け取る。佐賀のバットを一振りしたガッテムは、黒く光るバットの重さを確かめるように、じっくりと眺めた。

 一般的に長距離打者はバットの遠心力を利用してボールを遠くまで飛ばせるように、先端に重心のあるトップバランス仕様のバットを好んで使う事が多いと言われている。しかし、意外にもそのバットはバットコントロールを重視するミドルバランス仕様となっていた。これは、次のガッテムの考えにぴったりの仕様だった。

 

「コレヲ オカリシマース!」

「おい、何の真似だ?」

「次ハ タブン10バイノグラヴィティーボールガキマース」

 

 釈然としない佐賀を尻目に、ガッテムは打席に入る。この刹那に、10倍グラヴィティーボールの攻略法を思い付いたというのだろうか。それとも、木製バットでは太刀打ちできないがための苦し紛れの選択なのか、佐賀には分からなかった。

 

 カウントはノーボール2ストライクだが、絶対的なウィニングショットがあれば遊び球は不要だ。そして、チームの得点源である4番打者は、そのウィニングショットを確実に仕留めなければならない。

 いつもよりやや広いオープンスタンスを取ると、ガッテムは黒く光るチタン合金のバットを下段に構えた。構えたというよりは、ただバットを持っているだけだ。ぶらぶらとバットを揺らしてタイミングを計っている。

「何を考えているか知らないけど、10倍はそんな思い付きで打てるほど甘くはないわよ」

「ヤッテミナケレバワカリマセーン」

「うふふ、無駄よ♪」

 波水出は不敵に笑うと、ミットをポンと叩いて中腰になりベルトの高さでミットを構えた。

 第3球のモーションをルコフスクが起こす。右手に握るボールから魔力が溢れて黒い煙に覆われる。弓のように全身を大きく撓(しな)らせて、鞭のように腕を振り降ろす頃には、黒い煙の間から赤い火花がバチバチと迸(ほとばし)り、ボールの威力が増幅されていく。

 やがて、砲弾のような直球がルコフスクの右腕から放たれた。

 

 ガッテムは、向かってくる黒い揺らめきと赤い火花の中に潜む白球を見定めながら、バットを担ぎあげると、そのまま真下に向けて一気に振り降ろした。

 

 バゴォーンッ!

 

 ホームやや前方。爆発音が響いて大量の砂礫が舞い上がった。舞い上がった砂礫が爆風に乗って飛散し、三塁から二次リードを拡げる大坂にも襲いかかる。右腕で顔を覆いながら前方を確認するが、ホームの様子は土煙に霞んでわからない。ルコフスクがマウンドを駆け降りる影が本塁方向に消えていく。

 ルコフスクがホームへ走るという事は!? いやいや、考えるまでもない。2アウトなのだから、打ったらゴーだ。大坂も三塁アンツーカーの土を蹴った。

 

 

 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆

 

 

 人影のないバックネット裏のスタンドに保谷が入ると、グランドからバゴンッという爆発音が響いて、思わず耳に手を当て表情を歪めた。

「無茶な打ち方をしやがる。しかし、それでいて、理に叶ってもいる……」

 保谷が感心しているところに、やや遅れて橘も到着した。

「何があったの!?」

 

 鉈で薪を叩き割るようにガッテムがバットを振り降ろすと、ホーム前方の地面がクレーターのように円く抉れて、大小の砂礫とともに土煙が舞い上がった。グランドレベルでは視界が遮られているだろうが、上からは選手たちの動きが良く見える。バットを地面に叩きつけたガッテムは一塁へ走りだした。三塁走者の大坂もするするとベースを離れてホームを目指す。

 物体に働く力は速度と重さに比例するから、それらを最小限にとどめるためにボールの真上から叩きつけるのは理屈の上では正しい選択だ。

 しかし、それを生きたボールでやるとなれば別の話だ。真上からバットを振り降ろすという事は、バットの軌道とボールの軌道の交差するポイントは一点でしかない。このポイントを見誤ればボールはバットに当たらないし、当たったとしても、少しでもポイントが外れていれば、ボールの勢いにバットが弾き飛ばされてしまうだけだ。

 ホームベースの前で波水出がきょろきょろと周囲をうかがっている。どうやら、ボールを見失っているらしい。

 

「下だ! 下っ!」

 

 ルコフスクが大声で叫んでいる。言われるがままに、波水出は抉れた地面に両手と両膝を突いてまさぐり始める。よく耕された赤土の中に波水出がボールを発見するのと、彼の視界に大坂の姿が現れるのはほとんど同時だった。

 地面深くに突き刺さったボールを波水出は掴み揚げると、そのまま体を大きく捻って大坂の背中にタッチした。

 大坂もまた、ボールを拾い上げる波水出の姿を捉えていた。咄嗟に体を捻って、ベースの大外を指先が掠めるように本塁に滑り込めば、追いタッチの形になる。

 本塁上に折り重なる大坂と波水出が主審の茅野を見上げる。大坂のスライディングで再び舞い上がっていた土埃が晴れると、茅野の右腕がすっと横に広げられた。

 

「セーフ」

 

 茅野が短くコールした。

 6回表、フロッグスが1点を返してスコアは3-4。なおもフロッグスの攻撃中――

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