ドラフ島列伝 ~The last page of baseball legends chronicle~   作:マリリンマンション

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前半は以前読みづらいと指摘を頂いた矢部視点です。
大坂の打席を上手く描写出来なかったので逃げました。すいません。
とはいえ、矢部の能力の伏線も散りばめてありますw


Can you play PAWAPURO without Akio Yabe ?

「先頭出るでやんす!」

 オイラは三塁コーチズボックスから左打席の大坂君に声援を送るでやんす。試合は大詰めでやんす。9回表の最終回の攻撃はオイラの親友、大坂君からの攻撃でやんす。スコアは3-5で2点負けているでやんす。この状況でオイラの足を絡めた機動力野球が展開できないのは心の底から悔しいでやんすけど、オイラはチームメイトを信じて出来る事をやるだけでやんす。

 相手投手のルコフスクの初球は外角低めに外れてボールでやんす。前の打席に長打を打たれているからバッテリーも慎重に入ったみたいでやんす。ずっしりと重そうなグラヴィティーボールがキャッチャー波水出のミットに収まって、白い煙が一筋ゆらりと立ち昇ったでやんす。

 聞くところによれば、大坂君にはもう魔道術が覚醒しつつあるみたいでやんす。羨ましい限りでやんす。オイラはそんなのゲームや小説の中の2次元の話だけだと思っていたでやんすから、もうドキドキわくわくが止まらないでやんす! 夢のような世界でやんす!

 大坂君の能力はどんな魔道術も打ち消すカウンターマジックでやんす。どっかで聞いたことある能力でやんすけど、その強さは某ライトノベルで実証済みでやんす。話が逸れたでやんすけど、とにかく、大坂君にはもうグラヴィティーボールは通用しないでやんす。

 

「ピッチャービビってるでやんす!」

 ルコフスクの2球目も外に外れてボールでやんす。とても投げづらそうでやんす。前の打席で内角球を打たれているから外角中心のリードになっているみたいでやんすけど、大坂君には内も外も関係ないでやんす。

 どんな強打者にでもクセはあるでやんすから、好きなコースや苦手なコースは付いて回るものでやんすけど、大坂君にはそれがほとんど無かったでやんす。高校時代にコースや球種別にデータを取った事があるでやんすけど、ここまで偏りのない選手は他にいなかったでやんす。

 大坂君は本当にバランスのとれた良いバッターでやんす。大学で野球をやっていなかったのが不思議なくらいでやんす。大学の4年間があれば、オイラの身内贔屓を差し引いたとしても、プロからの声が掛かっていてもおかしくないくらいの実力は備えていたはずでやんす。その証拠に、2年の秋大会であの猪狩守からサヨナラヒットを打っているでやんす。猪狩守は今や押しも押されぬジャイアンツのエースでやんす。オイラは大坂君が猪狩守と同じ舞台に立っていない事がとっても悔しいでやんす。野球を続けていれば、今頃きっとライオンズで一軍半くらいの活躍はしていたと思うでやんす。

 

“カキーン!”

 

“ビュオーン!”

 

「矢部君! ぼさっと立ってると危ないよ!」

 

 強烈なライナーがオイラに襲いかかってきたでやんす。オイラの抜群の反射神経がなければ、きっと無様な姿を晒していたでやんす。大坂君も人が悪いでやんす。きっとオイラの顔がニヤけていたのを見逃さなかったでやんす。

「ちゃんと前に飛ばすでやんすよ!」

 ごめんごめんと謝る大坂君はとても楽しそうでやんす。オイラもまたこうやって野球ができる事が嬉しいでやんす。嫌な思いや辛い思いもしてきたでやんすけど、オイラはまたこうして野球を始めたでやんす。

 

“カキーン!”

 

 さっきのファールが振り遅れたわけでも、押し負けたわけでもない証拠に、すぐに快音が響いたでやんす。ルコフスクの4球目を大坂君のバットが真芯で捉えたでやんす。左中間に上がった打球はフェンスダイレクトの当たりとなって、大坂君は悠々二塁到達でやんす。

「ナイバッチでやんす!」

 

 

 ノーアウト二塁となって、右の打席にはガッテムさんが入ったでやんす。ホームランが出れば同点でやんすけど、きっとそれは難しいでやんす。

 ガッテムさんは第1打席でライトポール際にホームランを打っているでやんす。木製バットの“しなり”を利用してボールの勢いを吸収した上で力ずくでスタンドまで運んだでやんす。アーティストの名に相応しい芸術的なホームランだったでやんす。

 第2打席はボール球を叩いての二塁打でやんす。ストライクには普通のグラヴィティーボールよりも更に重い3倍グラヴィティーボールしか来なかったでやんすから、リードを逆手に取った頭脳的なバッティングだったでやんす。そうは言っても、ボール球は本来打てないからボール球なんでやんす。それを打ち返したガッテムさんのバッティング技術は流石でやんす。ボール球とはいえ普通のグラヴィティーボールは2倍の重さがある事も忘れてはいけないでやんす。

 そんなガッテムさんの閃きが冴えたのが第3打席でやんす。ルコフスクの奥の手である10倍グラヴィティーボールを攻略したでやんす。あんなむちゃくちゃなピッチングされたらゲームバランスが崩壊してしまうでやんすけど、ガッテムさんは喰らい付いたでやんす。佐賀さんの金属バットが原形を留めていなかったでやんすから、その衝撃は推して知るべしでやんす。キャッチャー波水出の野選の間に大坂君が生還したでやんす。この試合のオイラ達の得点は、すべてガッテムさんのバットから生まれているでやんす。

 そんな唯一の頼りであるガッテムさんのバットにも、今回は頼れそうにないでやんす。波水出が立ち上がって、大きくベースから離れているでやんす。仕方ないでやんす。一塁が空いているでやんす。

「ちゃんと勝負するでやんす! 卑怯でやんす! ムキー!!」

 オイラがコーチズボックスで喚いたところで戦況は変わらないでやんす。

 

 

◆  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

「――ボール。フォアボール。ガッテムを一塁へと歩かせましたバッテリー。ここはセオリー通りと言いますか、仕方ないでしょうか」

「そうですね。この後のバッターにはヒットがありませんから、ある意味当然の策でしょうね」

「ECBの制作でお伝えしておりますフロッグス対フットレイクスの試合もいよいよ大詰めです。実況は私、荻窪譲二。解説は球界のアイドル、高円寺奈加乃さんをお迎えしております。9回表フロッグスの攻撃はノーアウト一塁、二塁と変わります。そして、右の打席には佐賀が入りました。かつては、と言いますか今朝までは、モンキース不動の4番だったわけですが、今夜はルコフスク相手にいい所がありません。ここまでレフトフライ、ショートゴロ、ピッチャーライナー……」

「決して悪い当たりではありませんでしたけどね」

「では、ここまでのグラヴィティーボールの球数をおさらいしておきましょう。前にも申し上げた通り、3倍以上のグラヴィティーボールには球数制限があります。手元の資料では、3倍は10球、5倍は3球、そして10倍は1球までという公式発表。これは、魔力の消耗が限界を超えないようにという配慮から設定されているものです」

「はい、そうですね。魔力の総量を数値化したものをマジックポイント、イニシャルを取ってMPと言ったりしますが、このMP消費量がルコフスク選手のキャパシティーを超えない範囲で球数制限が設けられているんだと考えられます」

「ここまで、3倍は3球、5倍と10倍はそれぞれ1球ずつ投げていますから、理屈の上ではルコフスクは持ち球として3倍を7球と、5倍を2球を残している事になります。残り3人で必要なストライクは9つです。このすべてを3倍と5倍で取る事も可能です。現時点でのルコフスク有利は揺るがないと考えていいでしょうか?」

「そうですね。更に申し上げますと、佐賀選手と比べて後の橘選手、井伏選手は大きく打力は落ちますから、バッテリーとしては、ここを切り抜けてしまえば何とかなるという思いはあるでしょう」

「手元の資料によると佐賀のパワーはA判定ですが、後に続きます橘と井伏はE判定です。フロッグスとしては、佐賀のバットで同点あるいは逆転を狙いたい所ですね」

「そうなんですけどね、荻窪さん……」

「はい、何か気になりますか?」

「佐賀選手の第1打席は真芯の当たりを思い切り引っ張ったにも関わらずスタンドまで届きませんでした。ですから、ホームランで逆転というのは考え難いんです」

「では、長打で同点というのは如何でしょう。第1打席はフェンス際まで飛ばしていますよね……?」

「外野の守備位置を見てください。長打警戒でかなり深く守っています。あの布陣では間を抜く事はまず不可能でしょう。そして、一塁ランナーのガッテム選手はあまり足が速くありません。フットレイクスの外野陣も守備には定評がありますから、この走力では残念ですが本塁生還は期待できません」

「ガッテム選手を敬遠した時点で決着がついた……という結論でしょうか?」

「野球は筋書きのないドラマと言いますから、あまり断言はしたくありませんが、フットレイクスの対応も抜け目がありません……」

「ノーアウト一塁、二塁。同点、あるいは逆転の可能性が見えていてもおかしくない状況ではありますが、奈加乃さんからは厳しいご指摘。2点差が、フロッグスに重く圧し掛かっています。果たして、この状況を打ち破る術はあるのでしょうか? まずは佐賀のバッティングに期待しましょう――」

 

 

◆  ◆  ◇  ◇  ◇

 

 

「高円寺の野郎、好き勝手言いやがって!」

 漁火はカウンターテーブルを叩いた。ダンッと穏やかならぬ音が響いて、店内の視線が漁火に集まる。隣に座る外藤が両手を合わせて周囲に申し訳なさそうに振る舞うと、彼らの視線が各々に散っていく。その様子を見て、ホッと一安心した外藤が赤髪の男に語りかけた。

「そういえば、高円寺とは一昨年対戦したもんな。えげつないバッターだったよな」

「あぁ。でも、もう昔の話だ」

「プリティーガールズの3番打者だもんな。泣く子も黙るサンプラザ打法」

 そう言いながら外藤は彼女の現役時代の独特のフォームを真似して見せた。

 

 ここはサンシャインタウンの外れにある小さなバーである。モンキース解散後の打ち上げが終わり、二次会、三次会と若手選手を連れまわした後、最後に残った漁火と外藤の2人は行きつけのバーに足を延ばしていた。5人分の小さなカウンター席と、奥に4人掛けの小さなテーブル席があるだけの小さな店だ。

 普段は懐かしいグラムロックが静かに流れている店内だが、今日は常連客のリクエストに応えて地元のラジオECBにチューニングを合わせている。

 

「でもまぁ、ルコフスクといえばグラヴィティーボールの使い手だ。佐賀ちゃんだって簡単には打てないだろうさ」

 外藤は席に座り直しながら、再び漁火に語りかけた。

「いいや、俺は佐賀をそんなヤワな男に育てた覚えはない」

「……なに熱くなってるんだよ? 酔っぱらってるのか?」

「……そうかもな」

 漁火はロックグラスに残ったウィスキーを一気に飲み干すと、バーテンダーに次の一杯を求めた。バーテンダーの取りだしたボトルには南地区の特産品である事を証明するラベルが貼ってある。漁火は新しいロックグラスを受け取ると、それをごくりと飲み込んでから続けた。

「佐賀はなぁ、こんな田舎で野球やって満足するような器じゃねぇんだ。もっと、高い所で揉まれて、磨かれて、それでこそ輝く打者なんだ」

 漁火の目が据わり始めている。外藤は聞き役に回る事にした。

「あいつにはなぁ、魔道術なんか無くたって余所と渡り合えるだけの実力が備わってたんだ。それを、誰にもらったか知らねぇが、あんな物に頼りやがって!」

「漁火。5年前の事を言ってるのか? あれはもう済んだ事だろ……」

「いいや、終わっちゃいねぇよ。20歳に満たない若造がどこでどうやってあんな物を手に入れるんだよ?」

「それは……」

「あの真面目な佐賀が、簡単に誘惑に流されると思うか?」

「知らねぇよ。そんなの。若いうちは色々あるだろ」

「色々って何だよ。若い時は誰だって壁にぶち当たって真剣に悩むもんだろ?」

「あー、わかったわかった。そうだな。何か辛い事があったのかもな」

「俺も辛かったんだ。特にガキの頃はな……」

 外藤は何度かこの話を聞いた事があったが、今回も黙って話を聞く事にした。少なからず伝統あるチームの歴史が今日途絶えたのだ。漁火にも思う所はあるはずだ。

 

 漁火が幼い頃の東地区はまだ魔力暴走事故の傷が癒えていなかったから、今以上に魔道術への拒絶反応が強く残っていた。そんな中で、漁火に顕れた能力ファイヤースターターは、彼にとってはコンプレックス以外の何物でもなかった。今でこそ、彼は火力を意のままにコントロールできているが、当時の彼は能力を持て余し制御できずに悩んでいた。

 周囲からはもちろん、時には親からも異端扱いされた幼少期の彼の心の傷は深く大きかった。しかし、そんな彼を救ったのが野球だった。決して楽な道のりではなかったが、彼は魔力を制御する術を会得して、コンプレックスを克服したのだ。

 

「――だからと言って、すぐに俺の存在が認められた訳じゃない。誰かに迷惑を掛けた訳じゃないのに、相変わらず東地区じゃ魔道術は異端者の成すものだ。当時の俺は腐っていたよ。だが、そんな俺を迎えてくれたのがモンキースだよ。その恩があったから、俺はどんな奴の、どんな境遇でも受け入れる事ができるチームにしてきたつもりだ」

「裏切られた事もあったけどな」

「そうだな。でも、そうだとしても、救われる人間がいればそれで構わないんだ」

「その吹き溜まりのチームも今日で解散……なんだな」

「あぁ。今日で、おしまいだ」

 漁火はロックグラスを再び一気に飲み干した。いつもより明らかにペースの速い漁火を外藤は諌めたが、漁火は既にカウンターテーブルに突っ伏して穏やかな寝息を立て始めていた。

「ったく、言いたい事だけ言ったら寝るのかよ……」

 外藤は静かな店内でラジオの実況に耳を傾けた。カウントはノーボール2ストライク。どうやら佐賀は追い込まれているようだ。彼はロックグラスを傾け、かつてのチームメイトの武運を祈った。

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