ようこそ実力至上主義の教室へ~もしも坂柳有栖に幼馴染がいたら?   作:ソラたん

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再会の幼馴染

 高度育成高等学校に向かうバスの中、一人の少年が大きなあくびをこぼす。

  彼の名前は葉桜晶(はざくらあきら)。今年から高度育成高等学校に通う事になった生徒の一人だ。

  そんな彼はバスに揺られながら頬杖をつき外を見ていた。

 

「やっと、あの場所からおさらばできたな」

 

 誰に言う訳でもなく呟いていた。

  晶を縛っていた場所から解放され、幸せに満ちた気持ちを胸に秘め目的地に着くまで、のんびりとしようと思っていた矢先――少し騒ぎがあった。

 

「席を譲ってあげようって思わないの?」

 

 そんな声が耳に届いた。

  そして視線を外から車内に戻すと、一人のOL風の女性とガタイの良い金髪の男がもめていた。

  一瞬なんの騒ぎだ? と疑問に思ったが、その答えはすぐに導きだされる。

  女性の隣に老婆が居るのだ。そして男が座っているのは優先席。

  ここまで言えば馬鹿でもわかる。ようはあの男が優先席に座っていて、女性が隣にいる老婆に譲ってあげて欲しいと言っているのだ。

 

「あの感じだと、譲る気はなさそうだな」

 

 男の態度は実に堂々としていて。譲る気配は全くない。

  正直、あの男にお願いするくらいなら、他の人にお願いした方がまだ譲ってもらえる可能性は高いだろう。

  まぁ……僕には関係ないけど。

  そう思い再び視線を外に戻そうとした時――

 

「あの……私も、お姉さんの言う通りだと思うな」

 

 若い女の子の声が聞こえてきた。

  僕は目線を動かすのを止めて、その声の主を見る。

  どうやらその声の主は先ほどからOLの女性の隣に立っていた少女だったようだ。

 

「制服……」

 

 その少女が身に着けている制服は高度育成高等学校の物だった。

  そして良く見ると、優先席に座っている男も僕と同じ制服を着ていた。

  マジかっと。内心思う。

  同じバスに乗っているという事は、おそらく僕と同じで今年入学する生徒だろう。

 

「同じクラスじゃない事を祈るしかないな」

 

 もし彼と同じクラスになったら、きっとめんどくさいことになる。

  あんな唯我独尊を体現したような存在は、学校行事で皆に迷惑かける事になること間違いない。

  アニメやラノベでもそうだったしな。間違いないだろう。

  視線を男から少女に向ける。

  あの子とてもかわいい子だな。

  制服の上からでもわかるが、スタイルが良い。

  一度でも良いから、あの大きさの胸とか揉んでみたいな。

 

「ん?」

 

 誰かの視線を感じて、辺りに視線をめぐらす。すると、一人の男と目が合った。

  その男も僕と同じ制服を着ていた。そしてその隣に非常に顔が整った少女がいる。

 凄い無表情だなあの子――

 

「皆さん、少しだけ私の話を聞いて下さい。どなたかお婆さんに席を譲ってあげて貰えないでしょうか? 誰でもいいんです、お願いします」

 

 立っている少女がバスの中全体に聞こえるようにそう言い放った。

  ほう、あの子結構勇気あるな。

  少し溜息を吐きながらも、僕は手を挙げた。

  流石にあのお婆さんも可哀想だし。名も知らない少女の勇気に敬意を表し、席を譲ろうと思った。

 

「あの。良かったらどうぞ」

 

 少女と目が合う。そして笑顔を向けて頭を下げてきた。

 

「ありがとうございますっ!」

 

 そう言って老婆を先ほど僕が座っていた席まで導いていく。

  老婆は少女に何度もお礼を言い。そして、僕にもお礼を言って来た。

  悪い気はしないな。

  しかし、あの二人の男女全く譲る気配無かったな。他の客はどうしようって悩んでいる風だったのに……。

  あ。また男と目が合った。

  なんか良く目が合うよな。アイツも周りを観察してるのか?

  そんな事を思っていると、バスが次の停車する場所を告げる。

  そこは――高度育成高等学校。

 

 ☆☆☆

 

  バスから降りると大きく伸びをする。

  混雑していたため窮屈だったのだ。

 

「あのっ!」

 

 唐突に後ろから声を掛けられる。振り返ると、先ほど老婆に席を譲ってあげてくれませんか。と言って老婆を助けていた少女が立っていた。

  あの時も思ったが、胸でかっ! こんな風に制服って押しあがるものだったんだな。

 

「あ……あの」

「あ。あぁごめん何かな?」

 

 僕は日々の日常で培った笑顔を少女に向ける。

 

「えっと。さっきは席を譲ってくれてありがとうっ!」

 

 どうやら、老婆に席を譲ったことのお礼を再度してきたみたいだ。

  律儀だなと思いながらも、僕は口を開く。

 

「大した事ないよ。それにちょっと譲るか悩んでしまったから」

「それでも、席を譲ってくれたよね?」

「まぁ……そうだね。あのお婆ちゃんも可哀想だったし」

「優しいんだね、えっと」

 

 少女が少し困った顔になる。

  そしてすぐに口を開いた。

 

「名前、教えてくれないかな?」

 

 あー、なるほど。別に隠すつもりもないし。これからも同じ学校に通うんだ、教えても良いかな。

 

「葉桜晶」

「はざくら君?」

「そう、葉っぱの葉にあそこに咲いている桜で葉桜」

「あきらはなんて書くの?」

「水晶の晶であきらだよ」

「ふーん。結構珍しい漢字だね!」

「よく言われる」

 

 お互いに笑い合う。

  そして僕は答えたんだから、この子の名前も教えて貰わないとな。

 

「君の名前は?」

「私? 私は櫛田桔梗」

 

 ききょうちゃんか。なんか桔梗って言うと犬の妖怪が出てくる作品のキャラを思い出すな。

  確かあのキャラは桔梗だったかな?

 

「櫛田の櫛は……これ」

 

 そう言いながら、鞄の中から一つのくしが出てきた。

  確か……くしを漢字にすると『櫛』になるな。

 

「田は田んぼの田!」

「桔梗は、花のあの桔梗で良いのかな?」

「うん! そうだよ、良く分かったね」

「何となくね。そんな気がした」

「あははっ。そうなんだ、名前教えてくれてありがとうね! じゃあまた学校で!」

「こっちこそ教えてくれてありがとう。また学校でな」

 

 お互いに手を挙げて別れの言葉を言う。

  僕もそろそろ行こうかと思った矢先、視界の端に男女が映り込み足を止めた。

  アイツらは……。

  先程バスにいた二人だ。

  何かを話しているようだけど、何を話しているかは全く聞こえない。

  まぁ盗み聞きする趣味は無いし。今はする必要は無いのだから、さっさと行こう。

 

 ☆☆☆

 

 

  自分に割り当てられたクラスを目指す。

  確か……Dクラスだったかな?

  Dクラス、Dクラスと小さく呟きながら、自分のクラスに向かう。

  到着――

  教室に入ると、何人かの生徒が既に来ていた。教室の扉を潜りながら、教室全体を見渡す。

  今日からこの人たちが僕のクラスメイトか……あれ? あの男は――

  僕が視線を向けてた先には、先程のバスにも、そして降りた時にも見かけた男がいた。

  アイツも同じクラスなのか。それと……隣の席の少女も見たことあるな。

  なんだかあのバスにいた生徒が、このクラスに集まっているような気がするのは気のせいだろうか? まぁ気のせいだと思っておこう。

  とりあえず、あの男子の前が僕の席みたいだな。席に座る。

  すると、後ろから声が聞こえる。誰と話しているのか気になり、窓の外を見るふりをして薄っすら反射している部分を見る。

  すると後ろの男は隣の女子と話しているようだった。

 

  あの二人は前から知り合いだったのか?

  そう思っていると、次に聞こえた言葉に僕は耳を疑った。

 

「オレは綾小路清隆。よろしくな」

 

 あやの……こうじ、きよたか?

  同姓同名なだけか? それとも、僕の知っている、『あの』綾小路清隆なのか?

  僕は視線を窓から自らの机に移し、口に手を当てて考える。

  もし、『あの』綾小路なら何故こんなところにいる? 彼はあそこから出られないはずだ……それとも彼もまた、逃げてきたのだろうか?

 

  そんな考えを巡らせている間も、後ろの二人は会話を続けている。

 

 そしてなんとなく視線を上げると、教室の入り口に一人の男子が立っていた。

  げっ!

 

「……なるほど。確かに不運ね」

 

 後ろから女子の声が聞こえる。

  僕も会話に参加してないが内心で同意しておく。まさしく不運だ。

  なんでよりにもよってあの男子もこのクラスなんだよ……。

 

「はぁ……」

 

 小さく溜息を吐く。

  そう、その人物とは、先程バスで櫛田桔梗とひと悶着起こしていた男だ。

  あまり関わりたくはないが、少しだけ観察してみるか。

  高円寺と記された席に向かっていくな。高円寺っていうんだな。

 

「え?」

 

 高円寺は席に座ったかと思うと両足を机に乗せて、鼻歌を歌いながら爪とぎを始めた。

  ダメだ。あの高円寺とかいうやつ。僕の予想通りの人物かもしれない。

  はぁ……本読むか。

  僕は時間が来るまで読みかけだった『罪と罰』を読むことにした。

  数分後、始業を告げるチャイムが鳴る。

  ほぼ、同時にスーツを着た一人の女性が教室に入って来た。

  ふむ……結構厳しそうな人だな。あの人がこのクラスの担任か?

  年齢は……予想でしかないが30くらいかな? でも、美人ではある。

  スーツでぴっちりしているから、スタイルも悪くないのは見て取れるな。

 

「えー新入生諸君。私はDクラスを担当することになった茶柱佐枝だ。普段は日本史を担当している。この学校は学年ごとのクラス替えは存在しない。卒業までの3年間、私が担任としてお前たち全員と学ぶことになると思う。よろしく。今から一時間後に入学式が体育館で行られるが、その前にこの学校の特殊なルールについて書かれた資料を配らせてもらう。以前入学案内と一緒に配布はしてあるがな」

 

 前から見覚えのある資料が回って来た。

  まぁもうほとんど覚えているから、もう一度見る事はないとは思うけどな……。

  そんな事より、3年間このクラスでやっていくのか。

  チラリと、高円寺の方を見る。そして小さく溜息。

  憂鬱だ……。

  そして次に学生証カードという物が配られてきた。

  学生証カード――この学校の敷地内にある全ての施設、売店で商品を購入できたりする、クレジットカードの様な物。と茶柱先生が説明してくれている。ただ、ポイント制のため使い過ぎには注意がいるとか。

  学校内でポイントで買えないものは無い……ね。ちょっとだけそれが引っかかりを覚えたが、今は深く考えることをせず、茶柱先生の説明に耳を傾ける。

 

「施設では機械にこの学生証を通すか、提示することで利用可能だ。使い方はシンプルだから迷うことはないだろう。それからポイントは毎月1日に自動的に振り込まれることになっている。お前たち全員、平等に10万ポイントが支給されているはずだ。なお、1ポイントにつき1円の価値がある。それ以上の説明は不要だろう」

 

 教室が一瞬ざわつく。

  まぁそうだろうな。今の説明を聞く限り、10万のお金が手持ちにあるのと変わらない。

  普通の学生なら本来持つことができない大金だ。

  僕は自分の学生証でポイントを確認する。確かに10万ポイント入っていた。

  毎月1日……ね。

  色々と気になることも多いけど。

  今はこの10万をどう使っていくか考えないとな。

  その後、茶柱先生の説明が続き最後に「良い学生ライフを送ってくれたまえ」と言って教室を出て行った。

 

  先生が居なくなった教室から話声が聞こえ始める。

  浮足立っている。するとそこに一人の男子が手を挙げた。

 

「皆、少し話を聞いて貰ってもいいかな?」

 

 その人物は好青年の雰囲気を漂わせている。

 

「僕らは今日から同じクラスで過ごすことになる。だから今から自発的に自己紹介を行って、一日も早く皆が友達になれたらと思うんだ。入学式まで時間あるし、どうかな?」

 

 ほう。櫛田さんもそうだったが、この生徒も中々すごいことする。

  みんな……まぁ一部違うかもしれないが、思っていたことを簡単に言ってのけた。

 

 そして一人が賛成! と言い口火を切る。それから、他の生徒達も後に続き賛成していく。

  最初に言い出した生徒が自らの自己紹介をする。

  名前は平田洋介というらしい。スポーツ全般好きだけど特にサッカーが好きらしい、そしてこの学校でもサッカーをするみたいだ。

  あの見た目でサッカーと来たか。これは女子からモテるだろうな。ほら、隣の女子とか見惚れちゃってるよ。

 

「もし良ければ、端から自己紹介始めて貰いたいんだけど……いいかな?」

 

 その端の女子生徒は戸惑ってはいたが、意を決して立ち上がる。

 

「わ、私は、井の頭、こ、こ――――っ」

 

 あらら。詰まっちゃか。

  まぁ仕方ないな。突然だったし、見た感じ平田君に対応しようとした感じだったからな。

  まだ自己紹介の言葉をまとめてなかったのだろう。

  傍からみて、わかりやすいほど青ざめていっているな。

  これだとちょっと難しいか?

 

「がんばれ~」

「慌てなくても大丈夫だよ~」

 

 それじゃあダメなんだよな、あのタイプは……。

  頑張れや大丈夫は一見優しい言葉だけど、余計にプレッシャーになってしまう時がある。まさに今がそのプレッシャーになってしまう状況だ。

  少し助け船を出そうと思っていた時、一人の女子が井の頭さんに声をかける。

 

「ゆっくりでいいよ、慌てないで」

 

 お。それはすごく今の彼女に適切な言葉だ。

  今の言葉で少し落ち着きを取り戻したみたいだな。ゆっくりと深呼吸をしている。

  これなら、大丈夫だな。

 

「私は、井の頭……心と言います。えと、趣味は裁縫とか、編み物が得意です。よ、よろしくお願いします」

 

 ホッとしたような表情をして、少し恥ずかしがりながら席に座った。

  そして次の生徒が立ち上がる。

  山内春樹。小学では卓球で全国にいき、中学は野球部でエースで背番号4番だったらしくインターハイで怪我をしてリハビリ中らしい。

  なんだか色々矛盾がある自己紹介だが、まぁ本人はウケ狙いだったのだろう。

  まったく何もウケては無いがな。

  そして次に、先ほど井の頭さんに助け舟を出した生徒――櫛田桔梗が自己紹介を始める。

  ずっと気が付いていたが、彼女もDクラスだったんだな。本当にあのバスにはクラスメイトがたくさん乗っていたんだな。

  高円寺、綾小路、そして黒髪の少女と櫛田さん。

  というか、彼女の目標すごいな。ここにいる全員と仲良くなりたいとは。

  パッとみ、難しそうなのが何人かいるんだが。それ以外なら、櫛田さんは打ち解けるだろうな。コミュニケーション能力は僕より上だ。

  さて……と、あと少ししたら僕の自己紹介だな。

  なんて言おうかな?

  普通にやるのもいいだろうし、少しウケを狙うのもありだな。

  そんな思考を巡らせている間に自己紹介が進んでいく。

  そして、自分の番が来た。

 

「皆さん初めまして。葉桜晶と言います。趣味は読書です。先ほどの櫛田さんじゃないですけど、自己紹介終わったら僕とも連絡先交換してくれると嬉しいです。よろしく」

 

 精一杯の笑顔を僕は作る。

  何人かが僕をみて頬を朱くしているのが見受けられた。

  まぁ色々考えてはみたが、やっぱり普通が一番だな。変にウケ狙うと滑る。

 

  それから赤髪が少し場を乱し、教室を出ていき、それを合図に自己紹介を乗り気じゃなかった生徒達が出て行った。その中には綾小路の隣にいた女子も含まれている。

  そして、高円寺の自己紹介が終わり、最後に綾小路の自己紹介の番が来た。

 

  まぁ……結果は、うん。可もなく不可もなくと言った感じだった。

 

  ☆☆☆

 

  偉い人のありがたいお言葉を聞き入学式が終わる。

  現在、僕はコンビニにいる。するとどういう事だろうか? 黒髪の少女と綾小路がいるではないか。あの二人よく一緒に居るよな。見た感じだと、前からの知り合いって雰囲気では無いし。

  とういうか、今気が付いたけど、僕あの黒髪の生徒の名前知らないな。

  接触してみるか。

 

「やぁ二人とも偶然だね」

 

 僕は二人に声をかける、綾小路は特に警戒した様子もなく、軽く手を挙げてくれた。

  しかしもう一人は警戒している……というよりは、僕に無関心なのか、テキパキと日用品などを籠に入れている。

 

「えっと確か……」

「葉桜だよ」

「葉桜。お前こそこんな所で何しているんだ?」

「ちょっと買い物をね。そっちもそうでしょ?」

「あぁ」

「……」

 

 僕と綾小路が話している間も、少女は籠に品物を入れている。

 

「えっと、確か、Dクラスにいたよね? 名前教えてくれないかな?」

「何で私があなたに名前を言わないといけないのかしら?」

 

 その辛辣な言葉に思わず苦笑いを浮かべてしまった。

 

「悪いな」

 

 そして何故か綾小路が謝る。

  さて、どうしたものか。

 

「別に綾小路君が謝ることはないと思うよ? うーん。そっかぁ名前教えて貰えないか。残念、じゃあこれから何かの行事で君を呼ばないといけなくなった時は、綾小路君と仲が良い女子って言って呼んでもらうしかないんだね……」

「…………堀北鈴音」

「え?」

「だから、堀北鈴音。私の名前よ」

「そうか、堀北さんって言うんだね。教室でも自己紹介したけど、僕の名前は葉桜晶。これから三年間よろしく」

 

 またスルーされた。

  この子スルースキル高いな。

  小さな溜息を吐きながら僕は気になったことを言った。

 

「ねぇ、君たち高円寺君が乗ってたバスに乗ってたよね?」

「あぁそうだな。それは葉桜も乗ってたよな? 何回か目が合ったし」

「あ。やっぱり気のせいじゃなかったんだ。なんか綾小路君とよく目が合うなって思ってた」

「オレも同じこと思ってた。さらに教室でも見かけたからな、なおさらびっくりした」

「僕もびっくりしたよー、そういえば、堀北さんと綾小路君って幼馴染とかそんな感じなの?」

「は?」

 

 僕の言葉に綾小路君ではなく堀北さんが反応する。

  しかも少しこちらを睨んでいる。

  え? 何か僕不味い事言っちゃった?

 

「私と綾小路君が幼馴染? 寝言は寝てから言うのね」

 

 よくはわからないが、綾小路君と幼馴染ってことが気に障ってしまったようだ。

 

「え? 違うの? だって二人ともバスに下りてから、何か話していたし」

「それは、彼が私の方を見ていたから理由を問いただしていたのよ」

 

 確かに、綾小路君はチラチラと堀北さんの方を見ていた気がするな。

  確かに筋は通ってるね。

 

「そ、そうなんだ。綾小路君はなんで堀北さんを見ていたの? やっぱり全く席を譲る気が無かったから?」

「あ、ああ。まぁそうだな。しかしよくわかったな」

 

 綾小路君が少し驚いた顔をする。

 

「まぁ僕も二人を見ていたからね。あの二人譲る気なさそーって」

 

 そう言うと、綾小路君と堀北さんは僕の顔をジッと見てくる。

  それを僕は笑顔で首を傾げる。

  ちょっと警戒させてしまったかな? でもまぁこのくらいは大丈夫だと思う。

 

 

「あなたも私を見ていたのね」

「正しくは綾小路君も見ていたけどね」

「そっちの趣味があるのかしら?」

「うーん。残念ながら、そっちの趣味は無いな」

「二人とも、そっちとか何の話をしているんだ?」

 

 どうやら、綾小路君は僕と堀北さんの会話についていけてないようだ。

 

  まぁそっちとか普通はわからないよね。

  むしろ、堀北さんが知っていることに驚きだった。

 

「うーん。今は秘密って事で。そのうち教えてあげるよ」

「そ、そうか」

 

 ふと、辺りから話声が聞こえてきた。

  カップ麺の話をしているようだ。

  そして綾小路君が少し挙動不審だ。僕と堀北さんは同時に顔を覗き込む。

  誤魔化すためか、近くにあったやたら目立つカップ麺を一つ取った。

 

「これ、凄いサイズだよな。Gカップって」

 

  同じカップ麺を手に取る。

 

「本当だね。なんかすごい」

 

 とりあえず、同意しておく。

  ふむ、どうやらギガカップという意味らしいなこれ。

  何となく自然の流れで堀北の胸を見てしまう。

  制服の上からでしかわからないが、堀北さんの胸って貧乳っていう訳でもないよな。かといって巨乳って程でもない。おそらく、その中間くらいの大きさだと予想する。

  ウエストとかも見ても結構細いから、無駄な脂肪が無いんだろうな。運動はちゃんとしている証だ。

 

「二人とも、今くだらないことを考えなかった?」

「……考えてないぞ」

「考えたよ?」

 

 綾小路君と僕が同時に発言する。

  そして、僕たちの中だけ一瞬の静寂が訪れた。

  そんな中でもニコニコと笑顔を崩さない。しばらくして、堀北さんが溜息を吐きながら「そう」と言って買い物を続けた。

  それからは他愛無い会話をしながらも、必要な物を籠に入れていった。

  あ、それと綾小路君はもう少し言葉を選んだ方がいいと思う。

  流石にストレートに言葉を放って来るからと、女子に髭剃りを持ちながら、顎とか脇とか、下の処理の事を言うのはダメだよ。

  まぁ正しくは下のっで汚物を見るような目で凄まれて止めたんだけど。

  そして無料の品物があることに気が付く。一ヶ月3点までと但し書きもされていた。

 

「無料……ね」

 

 その小さなつぶやきを聞き、堀北さんと綾小路くんはこちらの顔を覗き込む。

  僕は「なんでもないよ」っと言った。

  無料の品物か。ポイントを使い過ぎた人への配慮だと考えるのが妥当だろうな。

 

 

「っせえな、ちょっと待てよ今探してんだよ」

 

 そんな声が聞こえ、そちらに向くと一人の赤髪の男子がごそごそと何かを探しているのが見えた。

  あれ? あの男子は確か……同じDクラスだった人だ。名前はまだ知らないけど。

  見た所会計で揉めているようだな。そして、おそらくだが彼は学生証を忘れてきたのだろう。

  まだ、学生証がお金の代わりになる実感が湧いていないからこそ、起きた問題だろうな。

  普通の生徒ならここで「取りに戻ります」の一言を言ってすぐ解決するのだが、あの男子は見た感じ不良だ。それに周りからも「早くしろ」と言葉を投げかけられているから、なおさら怒りのボルテージも溜まっているのだろう。彼は見るからにイライラしている風だからね。

 

「何かあったのか?」

 

 綾小路くんが赤髪の生徒に声をかける。

 

「あ? なんだお前」

 

 綾小路くんは友好的に話しかけていたのだが、どうやら相手の方は敵が増えたと思ったのだろう。強気な態度で綾小路くんを睨んでいた。

  それから、綾小路くんは、自分は困ってそうだから声を掛けたんだと誤解を解き、そして代わりにポイントを払う事になった。

  ちなみにこの時の会話で、赤髪の名前が須藤だと判明。

  一応彼もクラスメイトだし覚えておこう。

  その後も、堀北さんとも揉め、コンビニから出てきた2年生にも絡んでいた。

  それを見た僕は少し呆れていた。いくらなんでも怒り過ぎだと思う。

  しかし、先輩も先輩だ。須藤がDクラスだとわかると態度を急変させていた。

  それに気になることも言っていた。

  不良品――

  一体それはどういう意味なのだろう?

  それから、須藤は怒りをあらわにさせながら、歩いて行った。

  いや――自分がまき散らした物の後片付けしなよ。

  そしてチラリと、コンビニの外壁を見る。

  監視カメラがある。この学校よく見るとあちこちに監視カメラが設置されているのだ。

  安全のためにしても少し多すぎる気がする。

  まぁ今はそれより、須藤がまき散らした物を片付けるか。

  僕がそう思い動き出すと綾小路くんも同じことを思っていたのだろう。片づけをしようとしていた。

 

「二人で片付けようか?」

「そうだな」

 

 こうして、二人で後片付けをした。

 

 ☆☆☆

 

 

 午後2時頃、その辺を探検しながら、我が家となる寮を目指す。

  そして寮の建物が見えたあたりで、後ろから声を掛けられる。

 

「あの、ちょっとよろしいですか?」

 

  そしてその声を聞き僕は嫌な予感がした。

  ゆっくりと後ろを振り向くと、そこには身長150くらいでベレー帽を被り片手に杖を持つ銀色の髪の少女。

  僕はこの少女を知っている。何故か? その理由は実に単純。

  彼女――坂柳有栖は僕の幼馴染だ。

 

 

「……有栖」

「お久しぶりですね。晶くん」

 

  彼女はとても笑顔だ。しかし、今の僕の顔は傍から見てもわかってしまうほどに引きつっていることだろう。

 

「な、なんで君がここに?」

「あら? 私が居てはダメなのですか?」

「いや、そこまで言ってないよ……」

 

 そうある程度は心構えはしていた。もしかしたら有栖がいるのでは、と。

  しかし実際に目の当たりすると。なんというかうまいこと感情のコントロールができないな。

 

「フフフ。私は会えて嬉しいです」

 

 そして一拍間を開けると。

 

「やっと晶くんとの決着を付けられそうですので」

 

 ほらやっぱりな!

  そうだと思ったよ。僕が彼女が苦手な理由。

  容姿は非常に可愛らしく。有栖という名にふさわしいほどの見た目だ。

  本当に不思議の国から抜けてきたのではないかと思わせるほどにね。

  でも、そんな彼女は非常にプライドが高く、そして好戦的で冷酷。

  昔から僕はそんな彼女の標的にされていたのだ。

 

「晶さん」

「何?」

「1年と150日前の勝負の結果覚えていますか?」

 

 しばらく無言でいる。

  しかし、有栖はそんな僕が喋るのを待っているようだった。というか、1年前でもいいのではないか? なんで150日まで言う。

  本日本当に何度目かの溜息を吐くと口を動かした。

 

「忘れた」

 

 僕がそう言うと、笑顔のまま杖を地面にたたきつけ、カンッと鳴らす。

  その音に思わず肩を震わせてしまった。

  その杖で威嚇する癖やめて欲しい。

 

「嘘はダメですよ?」

「…………100戦中。10勝90敗だよね」

「やっぱり覚えているではないですか」

「でも、決着って言うけど。有栖が90勝したんじゃないか。だから、正直もう決着はついている気がするんだけど?」

 

 すると、有栖は瞑目する。そして静かに目を開けると、上目使いでこちらを見つめてくる。その瞳は少し怒りがこもっている様に思えた。

 

「それは。本気で言ってますか?」

「本気で言っているけど……」

 

 カンっと本日2度目の杖での威嚇。

  今度はびっくりしなかった。

 

「晶くんは私に10連勝しました」

「そうだね」

「私が気が付かないと思ってました?」

「何が?」

「晶くんが11戦目からワザと負けていることにです」

 

 僕は何も答えない。否定もしないし肯定もしない。

  僕と有栖はお互いに見つめ合う。それは1分、もしかしたら10分、もしかしたら、10秒だったのかもしれない、と思わせるほど短く、長い時間だった。

  そして、折れたのは有栖の方だった。

  有栖は溜息を吐き、笑顔を向けてくる。

 

「わかりました。今回はここまでにしておきます」

「今回だけじゃなくて、これからも止めて欲しいんだけど……」

「それは約束しかねます」

「そうか……」

「でも――」

「ん?」

「晶くん。本当にお久しぶりです。また会えて心の底から嬉しく思います」

 

 彼女の笑顔に思わず見とれてしまった。

  先程から作っていた笑顔とは違う。本当に彼女の心が籠った笑顔だった。

  そしてその笑顔が僕に向けられていることにちょっと気恥ずかかしさがあるため、目線を逸らす。

 

「まぁ、なんだ。僕も久しぶりに会えて嬉しいよ有栖」

「両想いですね」

「そうだね」

「それでは、私はお先に失礼しますね?」

「あぁ、また会おう」

「はい」

 

 そしてゆっくりと杖を突きながら有栖は寮の中へ消えていった。

 

「あ。有栖の連絡先聞くの忘れてた」

 

 そんなことを呟きながら、僕も寮の中へと入っていく。

 

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