ようこそ実力至上主義の教室へ~もしも坂柳有栖に幼馴染がいたら?   作:ソラたん

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とある昼休みの出来事

「へぇー」

 

 寮の自分の部屋に入ると、自然とそんな呟きが出てきた。

  もちろん特別豪華ではない。しかし、僕にとっては『普通』の部屋とは新鮮な物なのだ。

  これからここで、寝て、起きて、学校に行く支度をするんだよな。

  そう思うだけで胸が高ぶる。僕が普通の生活できるなんて夢にも思わなかった分。その高まりは計り知れない。

 

 

「確か電気代やガス代は、特に制限はなかったよな」

 

 そんなことを口にだし。マニュアルを開く。うん。記憶通りだ。

  男女共用の寮なのは最初驚いたな。そして、有栖が居たことも。

  共用という事は、有栖と出会うこともあるんだよな。

 毎回、今回みたいに決着がどうのと言われたらたまったもんじゃないぞ。

 まぁ、それは置いておいて、ふむ。高校生にそぐわない恋愛は禁止……か。

  これってつまり、表向きの性的行為を禁止ってことを遠回しにいっているのだろうな。

  恋愛自体は禁止しているわけではないみたいだが。

 それは当然か、どこかのアイドルってわけでもないんだし。恋愛禁止にしても、隠れて付き合う人とか出てくるだろうから。

  それなら、境界線を引いてあげて、それを越えなければいいと言ってあげた方が、まだ健全な恋愛をする生徒が多いだろう。

 

「ヤル人はヤルと思うけど」

 

 再びマニュアルに視線を落とす。

  この学校は高い就職率を誇り、その施設や待遇も他校との追随を許さない日本屈指の高校。

  と、言われてはいるが、そんなものは僕には関係ない。

 僕がこの高校を選んだ最大の理由――それは、友人であれ肉親であれ、許可なく在校生との接触を禁止する。これが一番の理由だ。

  僕は自由が欲しかった。自分の好きな事に打ち込める時間が。それこそアニメやゲーム、ショッピング、料理。または心を許せる友人と遊びに行くでもいい。とにかく、何でもできる時間が欲しかった。

  常に他者の目を気にして過ごさなければいけない日々――

  常に自分がトップであり続けなければいけない日々――

 

「今思い出してもくだらない日々だな」

 

 そう吐き捨てる様に呟く。

  本当に良かった。この高校に受かるかどうかわからなかったから。

  でも、受かった。これで僕は自由を手に入れたんだな。

  少し気になることも多いが、それでもそれは僕の自分の意思で判断して動いていけばいい。誰かに強要されることはないんだ。

  それだけでも、受けた甲斐があるという物だ。

  ベッドに飛び込む。その僕が飛び込んだ衝撃で数回大きく弾むが、次第に小さくなっていく。

  ジッと天井を見る。そして小さく「やった」と呟き、今まで生きてきた人生を忘れるためのように、少しだけ仮眠をとることにした。

 

 ☆☆☆

 

 学校二日目、授業初日だったためか、大半が勉強方針の説明だけだった。

  先生達もフレンドリーで好印象だった。表向きは……ね。

  なんか引っかかる。いくら何でも、須藤くんの居眠りを見逃すだろうか? というか、須藤くんも結構な大物ぶりを見せてくれたものだ。

  こういう生徒が一人くらい居ても悪くないかもしれないな。短気なのはどうかと思うが。

 

  昼休みに入ると後ろから話し声が聞こえてきた。

 

「哀れね」

 

 この声は堀北鈴音の声だろう。

 

「……何だよ? 何が哀れなんだ?」

 

 こっちは綾小路清隆の声だな。

  僕は静かにごく自然な流れで、昨日交換した連絡先を確認するそこには『綾小路清隆』と書かれている。

  漢字も一緒か。

  やっぱり、僕の後ろにいる綾小路清隆は、『あの』綾小路清隆なんだろう。

  どういう経由でここに来たのか、どうやってあの『場所』から抜け出せたのかわからないが……。

  僕とは違うが、僕とほぼ同じ境遇の人物。

  人間好奇心には勝てないな。綾小路くんの事がすごく気になる。彼がどんな人物なのか、どんな考えで、どんな欲求を持っているのか。

  僕個人で興味がある。

 

「何の話しているの?」

 

 僕は体を後ろに向けて二人に話かける。

  すると二人は同時にこちらに顔を向けてきた。

  君たち仲良いね。堀北さんに言ったら怒られそうだけど。

 

「あぁ、葉桜か」

「あら、葉桜くんの席って、綾小路くんの前だったのね」

「そうだよ?」

 

 今まで気が付いていなかったのか……周りの事に関して全く眼中にないって事なんだろうな。

  でも、それだと色々とダメなんだけどな……。

  まぁそれは置いておいて。

 

「お前……それは酷すぎるだろ」

「あら? 何が酷いのかしら?」

 

 綾小路くんが苦笑いしている。そして僕も苦笑いする。

 

「と、とりあえず。何の話してたの?」

「あぁ、それは――」

「綾小路くんがあまりにも、誰かに誘って貰いたい、誰かと一緒にご飯を食べたい。という考えが透けて見えていて、哀れだって話しをしていたの」

「お前も一人だろ。同じように考えているんじゃないのか? それとも三年間友達も作らず一人でいるつもりか?」

「そうよ。私は一人の方が好きだもの」

 

 うわぁ……ここまで間髪入れず、しかも迷いすら感じさせないとなると、本心で言っているなこれ。

 

「で、でも友達の一人でも作らないと。いざって時に困るよ?」

「葉桜の言う通りだ」

「そのいざって時は来ないわ。それより、綾小路くんは私に構ってないで、自分の状況をどうにかしたら?」

「まあ、な」

 

 正論を言われてしまったな、綾小路くん。

  確かに綾小路くんは今のところ周りに溶け込めてないからね。

  見た感じだと、本人はそれをどうにかしたいとは思っているみたいだけど。

 孤立はそれはそれで、目立つ存在になる。それなら少しでも誰かの輪の中に溶け込んでいたほうが、まだ目立たないだろう。

  というより、孤立が原因でいじめでも起こったら目も当てられない。綾小路くんがいじめられる事はないと思うけど。

  本人はそれを避けたいんだろうね。

  綾小路くんの目がクラス全体を見ている事に気が付き、僕も少し見渡す。

  授業が終わって1分近く経過しているが、クラスの半分の生徒が姿を消しているのがうかがえた。

  残っているのは、誰かとどこかに行きたい人や、一人を好む人くらいだろうか? あ、あとは僕の様に特に気にしてない人とかかな。

 

「えーっと、これから食堂行こうと思うんだけど、誰か一緒に行かない?」

 

 平田くんは立ち上がると、そんなことを言った。

 お、さすが平田くんだね。自ら率先してきっかけを作りに行ったみたいだ。

  これなら迷っている人も安心して、手を挙げることができる。

  その証拠に綾小路くんが手を上げようとしている。頑張れ綾小路くん。

 

「私も行く~!」「私も私も!」

 平田くんの周りに女子が集まっていく。それを見ていた綾小路くんは上げかけていた手を下げた。

  あー残念。でも、イケメンの宿命でもあるよねアレ。

  平田くんの考え的には、一人でいる男子に向かって発言していたんだろうが、クラス全体に向かって言ったことが裏目に出てしまった。

 どんまい、綾小路くん

 

「悲惨ね」

 

 堀北さんが綾小路くんに向かって、冷笑、侮蔑の視線を向けていた。

 

「そんなこと言っちゃダメだよ? 堀北さん」

「そう言うってことは、あなたも同じこと思ったってことよね?」

 

 そう言われると苦笑するしかなかった。

 

「二人とも。勝手に心中察するなっ」

「他に居ないかな?」

 

 平田くんが辺りを見渡す。まぁあれだけ女子が多いと男子が欲しくなるよね。さすがにあれは寂しい。

  お。視線が僕の後ろの席で止まった。ということは、綾小路くんと目が合ったということだ。

 まだ二日目だけど、平田くんなら綾小路くんの訴えに気が付いてくれるはず。

 

「えーっと。綾小――――」

 

 平田くんが『あやのこ』まで言った時だ。

 

「早く行こ、平田くん」

 

 ギャルっぽい子が平田くんの腕を掴んだ。

  残念。今ので平田くんの視線が女子に戻された。そして和気藹々(わきあいあい)と平田くんと女の子たちが教室の外へ出て行った。

 そして、僕は視線を綾小路くんに戻すと、手と腰が中途半端に上げられていた。なんかここまで来ると可哀想だな。

  その状態が恥ずかしかったのか、手を頭の上に持っていき掻くふりをしていた。

 

「それじゃ」

 

 憐れむような視線を残して、堀北さんは教室を出て行った。

 

「虚しい……」

「どんまい」

「その言葉で、さらに虚しさが込み上げてきた」

 

 ここまで来ると本当に可哀想だ。仕方ない。助け船をだそうかな。

 

「良かったら。僕と一緒に学食に行く?」

「……」

 

 僕がそういうと、何故かポカーンと口を開けて間抜けな顔をこちらに向けてきた。

 

「いいのか?」

「うん。綾小路くんが嫌じゃなければ」

「あぁ、じゃあ是非一緒に行こう」

 

 そんな言葉と同時に、彼は立ち上がった。

  どうやら僕が誘ったのが相当嬉しかったようだ。

  僕も後に続くように立ち上がる。

 

「綾小路くん……だよね?」

 

 僕と綾小路くんが学食に向かおうとしていると、突如一人の美少女に声を掛けられる。綾小路くんが。

  その女子は短いショートの茶髪でストレート。

  その人物を僕は知っている。何故なら彼女とは一度自己紹介をしているから。そう――櫛田桔梗だ。

 

「同じクラスの櫛田だよ。覚えてくれてるかな?」

 

 僕はもちろん覚えているが、綾小路くんはどうなんだろうか? 櫛田さんと話すのは初めてだよな。この感じだと。

 

「何となく、だけどな。オレに何か用か?」

「うん……綾小路くんと葉桜くんに聞きたいことがあって。ちょっとしたことなんだけど葉桜くんと綾小路くんって、もしかして堀北さんと仲がいいの?」

 

 綾小路くんや僕が目的ではなくて、堀北さん目当てだったか。

  少し綾小路くんが残念そうにしてるな。

 

「僕は普通かな。向こうからは話しかけてくれないし。綾小路くんは仲良さそうには見えたけど?」

 

 僕が顔を向けると、綾小路くんは首を横に振った。

 

「別に仲良くないぞ。普通だ普通。あいつがどうかしたのか?」

「あ。もしかしてあれ? クラスのみんなと友達になりたいってやつ」

「うん。そうなの。それで一人一人連絡先聞いて回ってたんだけど……堀北さんには断られちゃって」

 

 なるほど。それで僕や綾小路くんに話しかけてきたわけか。

  特に綾小路くんは、結構話しているところを見かけるし、なおさら仲良いように見えたのかも。

 

「入学式の日も、綾小路くんは学校の前で二人で話してたよね?」

 

 あぁ櫛田さんも会話しているの見てたんだね。まぁ見ていてもおかしくはないけど。

 

「堀北さんってどういう性格の人なのかな。友達の前だと色んなこと喋ったりする人?」

 

 随分と堀北さんにこだわるね。それほど仲良くなりたいのかな?

  僕は櫛田さんをジッと見つめる、するとこちらに視線を向けてきてにっこりと笑いかけてくる。

  少し気になる。ちょっと彼女は警戒しておいた方がいいかもしれない。せめてこちらのプライベートをペラペラと喋らなようにはしないと。

 

「人付き合いが少し苦手なタイプだと思うけど。でも。どうして堀北のことを?」

「ほら、自己紹介の時、堀北さん教室出て行っちゃったでしょ? まだ誰ともお話ししてないみたいだし、ちょっと心配になっちゃって」

「話は分かったけど、オレも昨日出会ったばっかりだからな、助けにはなれない」

「僕も同じようなものだし、ごめんね。助けになれなくて」

「いいよ、いいよ。気にしないで。でも、ふぅん……そうだったんだ。葉桜くんはともかく、綾小路くんは同じ学校の出身か昔からのお友達だと思っちゃった。ごめんね、いきなり変なことを聞いて」

「いや、いいよ。ただ、なんでオレの名前を知ってたんだ?」

 

 自己紹介してたから、それで覚えていただけだろうけど。

 確かに大半の生徒はあれだけで名前は覚えられてないかもしてないが、覚えている人は覚えているものだ。そしてそういう人はクラスの中心になることが多い。

 

「なんでって、自己紹介してたじゃない? ちゃんと覚えているよ」

 

 そしてこの櫛田さんも。このDクラスの中心となる人物になるとは思う。見る限りどこかのグループに属するとかはしない感じには見えるが。

  ふと、綾小路くんの方を見るとちょっと嬉しそうだった。良かったね。あんな微妙な自己紹介でも聞いてくれていた人いてくれて。というか、平田くんも覚えていたんだけどね。

 

「改めてよろしくね、綾小路くん」

 

 櫛田さんは綾小路くんに手を伸ばしている。

  その行動に一瞬戸惑ったような反応をするが、すぐにズボンで手を拭いて手を握り返していた。

 

「よろしく……」

「はい。葉桜くんも」

「え? 僕も?」

「うんっ!」

「じゃあ。改めてよろしく。櫛田さん」

「よろしくね。葉桜くん」

 

 僕とも握手を交わす。

 

「それじゃあ、僕は綾小路くんと学食行ってくるね」

「あ。そうなんだ。邪魔しちゃってごめんね」

「気にしてないよ。ね、綾小路くん」

「あぁ、全然気にしてない」

 

 それだけ言って、僕は櫛田さんに「またね」と言って綾小路くんと一緒に学食に向かう。

 

 




初めましてソラたんです。自分で考えたとはいえ、この名前恥ずかしいですね。

とりあえず、今回も読んでくださってありがとうございます! それと、沢山のお気に入り登録と感想ありがとうございます。

基本的にはこの物語は原作沿いで進んでいきます。なのでちょっとしばらくは坂柳有栖の出番はないかもしれないです。でも、出せそうな場所があればしっかり出しますので、楽しみにしていてください。

それではまた次回もよろしくお願いします。
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