ようこそ実力至上主義の教室へ~もしも坂柳有栖に幼馴染がいたら? 作:ソラたん
入学してから三週間が経過した。有栖とお茶してからその後は有栖からのお誘いは無くなった。もちろんメッセージのやり取りはある。
そして、椎名さんとも定期的にメッセージのやり取りをしている。僕がおすすめあったら教えてと言ったためか、初めて出会った日の夜に初のメッセージのやり取りをしたのだ。その内容が――数々のおすすめの本のタイトルで埋め尽くされていた。
流石の僕でも一瞬引いてしまった。だけど、折角、僕の為におすすめの本を教えてくれたので、次の日に図書室に行き借りることにした。もちろんおすすめに書いてあった気になるタイトルだけだ(三冊くらい)。もしあれを全部借りようとしたら大変な事になる。何故ならあのメッセージに掛かれていたタイトルはちゃんと数えてはいないが、10冊以上はあった。
「綾小路くんも、随分友達が増えたんじゃないの?」
「まあぼちぼちと」
そんな声が後ろから聞こえて来る。確かに綾小路くんはこの三週間で友達が増えたと思う。池くんに山内くんに須藤くんだ。まぁこの三人は3バカトリオなんて呼ばれているが……。これは他人の評価だし気にしなくてもいい。誰が誰と仲よくしようが本人の自由なのだから。
「うーっす」
授業も後半に差し掛かろうとした時、そんな声と共に教室の扉が開かれた。須藤くんが登校してきたのだ。眠そうに欠伸をしながら自分の席に着く。
やっぱり注意はしないのか……。ここの学校は本当に不思議だ。遅刻、居眠り、私語。これらをしていても先生たちは何一つ注意をしない。放任主義だと言われればそれまでだが、それにしても不自然だ。
普通の学校なら言うことを聞く聞かないは置いておいても、何かしら注意をするもの、でもこの学校は全くそれをしない。
それを僕は疑問でしかたがない。
そんなことを考えていると、ポケットに入れていた携帯が振動する。そしてちらっと画面を見ると、一部の男子で作られているグループにチャットが入ったようだ。そして内容を見てみると、今日は食堂で食べるという話をしているようだった。
「なあ堀北。昼、一緒に食わないか?」
「遠慮しておくわ。あなたたちのグループには品がないから」
「……それは否定しない」
いや、そこは否定しておこうよ。でも僕も否定はできないな。だって彼らはいつも下ネタを言っていたり、誰々が可愛いや、誰と誰が付き合っていてとかそんな話題ばかり。
もっと他に話題がありそうなものだなのだが、どうしてかそんな話題ばかりになる。
といっても、僕はあまり関わってはいないんだけどね。平田くんたちといる事が多いからなのか。僕を誘う事は少ない。一応このグループチャットにはいれて貰えたけど。
再びグループにメッセージが入る。内容を確認すると、平田くんと軽井沢さんの二人が付き合っているという話題だった。
少し前から知っていたので驚きはないが、初めて知った時は驚いた。平田くんの性格なら告白されても断ると思っていた。
だからこそ、軽井沢さんと付き合う事になったと聞いたとき、一瞬だが何か理由があるのでは? なんて無粋な考えが思い浮かんだ。
まあ流石にそれは無いだろうと思い。すぐに頭の端っこに追いやったけどね。
しかし軽井沢さんか。チラリとクラスメイトの軽井沢恵を盗み見る。平田くんはあんな感じの子が好きなのかな? ギャルっぽい見た目のためか、近寄りがたいと思っている男子が何人かいるようだ。僕もちょっと苦手とする見た目だからあまり話したことはない。一応平田くんと一緒にいること多いから話しかけられたりはするんだけどね。
☆☆☆
次の3時間目の授業は社会。そしてその担当の先生はこのDクラスの担任の茶柱先生だ。
「ちょっと静かにしろー。今日はちょっと真面目に授業を受けて貰うぞ」
「どういうことっすかー。佐枝ちゃんセンセー」
誰が最初に言い出したのかわからないが、佐枝ちゃん先生という愛称で呼ばれるようになっていた。先生にたしてその呼び方はどうかとは思うだ。個人的に可愛いので本人を前では呼んでいないが、心の中でたまに呼んでいる。
「月末だからな。小テストを行う事になった。後ろに配ってくれ」
前からプリントが配られてくる。僕はそれを受け取ると1枚だけ残して後ろの綾小路くんに回す。
そして視線をプリントに落とす。主要5科目の問題がまとめて載っていた。
「えぇ~、聞いてないよ~。ずる~い」
「そう言うな。今回のテストはあくまでも今後の参考用だ。成績表には反映されることはない。ノーリスクだから安心しろ。ただしカンニングは当然厳禁だぞ」
なんだか引っかかる言い方をしたな。成績表に『は』反映されない、ね。
まぁ成績表には反映されないけど、一応今後の参考用とは言っているから真剣に問題解くのを頑張ろうかな。
突然小テストが始まり、僕は問題に目を通す。1科目4問で全部で20問、そして各5点の配当の100満点だ。
しかし随分と問題が簡単だな。これならケアミスとかしない限り満点取れるんじゃないかな? と思っていると最後の3問だけが桁違いの難しさだった。
なんとなく茶柱先生の方を見ると、教室をゆっくりと巡回を始めていた。一応カンニングの監視をしているのだろう。
「ふむ。問題解いていこうかな」
そんな独り言を言いながらプリントの問題を解いていく。
☆☆☆
お昼を食べ終えるタイミングで携帯がメッセージを受信する。そして携帯を開くと、そこには送り主の名前が書いてあった――坂柳有栖。
『こんにちは、晶くん。先ほどの小テストでお話がしたいので、会えませんか?』
そんな短い文だった。
「小テスト……ね」
とりあえず、『わかったよ。じゃあどこで待ち合わせする?』とメッセージを送信する。そしてそれと同時にメッセージを受信した。もう返信が来たのかな? と思ったが送り主が違った。
送り主は椎名さんだった。
『こんにちは。先程の小テスト最後の3問だけすごく難しかったですよね。葉桜くんは最後の問題解けましたか?』
こちらも小テストについての話題だった。
すぐさま指を動かし文字を打つ。
『こんにちは! めちゃくちゃ難しかった(´;ω;`) 全然わからなかったよ』
と、返信しておいた。
「ねえ、葉桜くん」
僕の隣で一緒にご飯を食べていた平田くんから声をかけられる。僕は「何?」と言って返事をした。
「一緒に教室に戻らない?」
うーん。いつもならOKを出すんだけど生憎と今日は有栖に呼ばれているからな。
「ごめん。ちょっと昼休み終わる前に行きたいところがあるから」
「そうなんだ。なら仕方ないね、ごめんね」
「いいよ。気にしなくて。こっちこそごめんね」
「うん。じゃあまた教室で」
軽く手を挙げて返事をする。その時ふと視線を感じてそちらに向く。すると軽井沢さんが何故かこっちをジッと見ていた。僕は首を傾げて軽井沢さんに話しかける事にする。
「どうかした? 軽井沢さん」
「別になんでもない。教室に戻ろ! 平田くん」
そう言って平田くんの腕を引っ張り連れて行ってしまった。
何だったのか良くはわからないけど、気にしない方がいいだろう。それよりも有栖だ。遅れると何言われるかわからないからね。
待ち合わせ場所はお決まりのコンビニ前。ここ以外に他にないのかな? そんなどうでもいいようなことを考えながら、コンビニ前まで行くと、有栖の他にもう一人女子生徒がいた。その女子生徒はどこかで見たことある気がする。
「お待ちしておりました」
「待たせてごめんね。それで、その人は?」
「……」
女子生徒はこちらと目を合わせようとせず横をずっと見ている。
「この方は神室真澄さんです。私の最初のお友達です」
神室真澄と呼ばれた女子に目を向ける。あの態度見る限り、向こうは友達だと思ってないように見えるのは僕の気のせいだろうか? というかなんで鞄持っているんだろう? まぁ……それは置いておこう。
しかし、彼女が最初の友達ね。彼女確か前に有栖と『お遊び』したときに有栖に目を付けられていた人だよね。ついに弱みでも握られちゃったんだろうか? 御愁傷様としか言えないな。
「ふーん。それでそのお友達を僕に紹介するために今回呼び出したの?」
「いいえ。メッセージで送りましたよね? 小テストについて話がしたい、と」
「うん。それは覚えているよ。でもなんでその話をするのに神室真澄さんも必要なの?」
「彼女は私の『お友達』なのでぜひ話し合いに参加してほしかったんですよ」
「お友達、ねぇ」
「なんですか?」
ニコニコと笑みをこちらに向けてくる。何かを期待するように……。
「本当に神室さんは友達なのかな? この人、万引きしようとしていた人だよね?」
その言葉に神室真澄は
「ちょっと坂柳! あんたこいつに言ったの!?」
「いいえ、何も言ってませんよ? ただ、前に神室さんがコンビニで偵察していた時に万引きを成功させるかどうか、軽いお遊びで賭け事をしていただけです」
「な!?」
神室さんは何かを言おうとしたが、すぐに言葉を飲み込んだ。
「まぁ今はそれは置いておいて、小テストの話だよね?」
「はい。どうでしたか?」
「そっちと同じかはわからないけど、結構簡単だったよ。最後の三問以外」
「はい。こちらも同じです。それで、問題は解けましたか?」
僕は手を上にあげて首を振る。
「全然わからなかったよ」
「そうですか。晶くんなら三問全部解けると思っていましたが……」
「それは買いかぶり過ぎじゃないかな?」
「そうですか? このぐらいでも全然足りないと思いますけど」
そこまで買われると結構プレッシャーになるんだけど。というか、それがわかってて言っているよね? これ。
「ねぇ」
「なんですか?」
「何?」
「あなた達ってどういう関係なの? こいつは坂柳の名前を呼び捨てにしているし、坂柳も親しそうに話しているけど」
有栖まだ僕と幼馴染だってこと話して無かったんだね。何も知らないのに僕と坂柳が親しそうに話しをしていたらびっくりするよね。
「そういえば、まだ晶くんの紹介はしていませんでしたね。では、改めて。こちらはは葉桜晶くん。私の幼馴染です」
「よろしく」
「幼馴染?」
そんなことを呟きながら怪訝そうな顔をする。
「坂柳に幼馴染が居たなんてね。意外」
「それはどういう意味ですか?」
「別に深い意味はない」
まぁ言いたいことはわかる。有栖の性格を考えれば友達なんて居るのか? と思ってしまうからね。その考えは正しいとは思う。だって彼女にと友達は必要ない、必要なのは『駒』なのだから。
その駒を手に入れるためなら友達のフリくらいはしてみせるだろうが。
「そうですか……ところでお二人とも喉が渇きませんか?」
「そうね。私はちょっと飲み物欲しい」
「晶くんは?」
「そうだなー今はそんなにだけど、一応何か買っておこうかな」
「では、ちょうどコンビニの近くですから、何か買いましょう」
そう言って中に入っていく。そして僕と神室さんもコンビニへと入る。
コンビニに入ると真っ先にドリンクが置いてある棚へと向かう。神室さんが。
僕はその姿をジッと眺めていると、ちょっと違和感を覚える。神室さんの動きが何か変なのだ。さらに良く観察してみると、一個のドリンクに
辺りを見渡す。店員はレジにいて、監視カメラもしっかりと配置されて死角が無いように思える。
「神室さん」
「何?」
僕は神室さんの後を追い後ろから声を掛ける。そして神室さんは
「神室さんは何を買うの?」
「そうね、やっぱりいいかなって思えてきてた。ポイントもったいないし」
「そう……でも、さっき何か飲み物取ってたよね?」
「あー、アレね。やっぱり棚に返してくる。だから、あんたもさっさと買って来たら?」
「そうだね。でもその前に――」
そして神室さんに一歩近づく、近づいて来て僕に怪訝そうな顔を向けてくるが、それを無視して神室さんにしか聞こえない程の小声でしゃべる。
「万引きは良くないよ?」
「……」
「気が付かないと思った? 今の僕の位置からだと、鞄が邪魔で飲み物を取った右手が見えないけど。ちょっと挙動がおかしかったよ?」
その言葉に神室さんは僕の目を見てくる。それに答えるように僕もジッと見つめた。お互い数秒無言で見つめ合ったあと、神室さんは一つ息を吐き鞄から飲み物を取り出す。
「坂柳の言うとおりだったわけか。じゃあ買ってくる」
それだけ言ってレジに向かっていった。
これも有栖の命令でやったってことかな。なんとなくは予想してたけど。僕を呼んだのは、神室さん僕を見せるためだったのか。
それなら万引きするのを止めなければ良かったかな……でも気が付いちゃってら止めないわけにもいかないしな。
しかしあの神室真澄って女子すごいな。命令されたからって普通万引きを実行するかな? しかもまるで当り前の様に平然としていた。普通の人なら全く気が付かなかっただろうな。その冷静さと度胸に賞賛を送りたくなる。万引きは悪い事だけど。
しかし有栖良い駒を手にいれたみたいだな。ちょっと僕も『欲しい』と思ってしまった。
「……やめておこう」
独り言を言い飲み物を持ってレジへと向かった。
そしてコンビニから出てくると。有栖と神室さんが入り口の近くで待っていた。
「どうでしたか?」
「どう、と言われてもな……まぁ神室さんがすごい人っていうのはわかったかな?」
「そうですか。それは紹介したかいがありました」
ニコリと笑った。その時風が吹く。有栖はベレー帽が飛ばされないように手で押さえる。
そして隣に居た神室さんも風で揺れているサイドテールの髪を押さえている。
「しかし二人とも随分と回りくどいことしたね」
「……なんのこと?」
神室さんが怪訝そうな顔をする。どうやら本当に理解していないようだ。そして対称的に有栖は表情一つ変えず、こちらを見つめてくる。
「だってこれ単なる自己紹介でしょ?」
「自己紹介?」
「そう。有栖は僕に神室さんを紹介したかったんだよ。そして神室さんにも僕を紹介したかった。違う?」
「はい。その通りです」
いまだ理解ができてないのか、神室さんが首を傾げる。
「普通の自己紹介って名前とか趣味とかいうだけでしょ?」
「そうね」
「じゃあちょっと話がそれるけど、今回神室さんは僕に対してどんな印象を抱いた?」
「どんなって……すごい目ざといやつ」
その辛辣な言葉に思わず苦笑いするが、そのまま話しを進める。
「そ、そうなんだ。とりあえず神室さんはそう思った。そして僕も神室さんのことを冷静ですごい人だと思った。これが有栖が仕組んだ自己紹介だよ」
「どういうこと?」
「有栖が何を考えて行動しているのかわからないけど、神室さんの能力を僕に見せたかったんだろうね。そして、神室さんに僕の能力を見せたかった」
有栖の方に顔を向ける。
「はい。その通りです。早めに神室さんには、晶くんがどんな人なのか知ってもらっておかなければならないと思いまして」
だから万引きで試したわけだ。
「それでもう満足した?」
「ええ、十分です」
「じゃあもう帰っていいかな? そろそろ昼休み終わりそうだし」
「はい。では私たちも戻りましょうか神室さん?」
「……わかった」
二人は歩き出そうとする。しかし僕は一人の名前を呼び止める。
「あ。待って神室さん」
「何?」
「連絡先教えてくれないかな?」
「なんで私が――」
「良いではないですか? 教えてさしあげては?」
「……はぁ」
大きな溜息を吐きながら、携帯を出してくる。そしてこちらも携帯を出して連絡先を交換した。
その後、次の授業を準備をした。