ようこそ実力至上主義の教室へ~もしも坂柳有栖に幼馴染がいたら?   作:ソラたん

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今回も坂柳は出ません。ごめんなさい。


指導室に呼ばれる。

「ポイントが入らないって、これからどうするんだよ」

「私昨日、残りのポイント全部使っちゃったよぉ」

 

 茶柱先生がいなくなった休み時間、教室の中は騒然、いや、酷く荒れていた。

 自分たちが招いたこととはいえ、はい。そうですかっと納得できるものではないよな。

 しかし、流石にこれは失敗した。別に他の人がどうなろうと関係はないんだが、クラス全体が連帯責任を取らされるとは……。しかも、配布されるポイントは0というとんでもない結果のおまけ付きだ。

 

「ポイントよりもクラスの問題だ……ふざけんなよ。なんで俺がDクラスなんだよ……!」

 

 そう言い。憤慨するように声を荒げているのは、幸村くんだ。

 確か彼はクラスの小テストの結果は上位だったはずだ。彼なりに何かしらプライドがあるのだろう。しかし、Dクラスが不良品の集まりだと言われ、そのプライドが傷付けられてしまった。冷静さを失うのも無理はない。

 その後、平田くんが落ち着かせようとするが、逆に怒りを買ってしまい、今にも胸倉を掴みそうな勢いだった。しかし、間に櫛田さんが割って入ったためいひと先ずは自体は一応収拾した。

 堀北さんが何かをやっているのが気になり声を掛けようと思ったが、喉から声を出すよりも早く、ポケットの携帯にメッセージが届く。

 

「……このタイミングでメッセージを送ってくる人といえば」

 

 誰が送って来たのかはなんとなく予想はできているが、一応をする。差し出し人はやはり有栖だった。

 

『こんにちは晶くん。そちらのクラスは確かDクラスでしたよね? どうやら0ポイントの様ですが、晶くん個人のポイントの方は大丈夫ですか?』

 

 どやら他のクラスも各クラスのクラスポイントが載っている紙が張り出されていたようだ。

 とりあえず有栖に返事をする。

 

『一応。まだ、8万ポイントは残っているから大丈夫』

 

 そうメッセージを送ると、しばらくして返事が返って来た。

『そうですか。それは良かったです。もしポイントを枯渇させていたら、私のを分けてあげようと思いまして。もちろん、ちょっとしたゲームの相手をしてもらいますが』

 

 珍しく心配してくれてると思って感動していた矢先これである。彼女は僕と戦う事で頭が一杯のようだ。

 返事を返そうと文字を打っていると、別の人からメッセージが届いた。差出人は――椎名ひより。

 

『葉桜くん。Dクラスでしたよね? 0ポイントになっていますが葉桜くん自身のポイントは大丈夫ですか? もしよかったら私のポイントを少し差し上げます』

 

 どうやら心配してメッセージを送ってきてくれたようだ。思わず笑みを零してしまう。有栖の返事を後回しにして、椎名さんに返事を返すことを優先する。

 

 

『ありがとう。でも大丈夫だよ。これでも結構節約家で、まだ8万くらい残っているから』

 

 そう送ると、すぐに返事が返ってきた。

 

『それはよかったです。でも、もし足りなくなったら言ってください』

『わかった。その時はお世話になります』

 

 そこまで打ち終わると一人の男子の声が教室に響く。

 

「皆、授業が始まる前に少し真剣に聞いて欲しい。特に須藤くん」

 

 まだ騒然としている教室の教壇に一人の男子が立っていた。平田くんだ。

 

「チッ、なんだよ」

「今月僕たちはポイントを貰えなかった。これは、今後の学校生活において非常に大きく付きまとう問題だ。まさか卒業まで0ポイントで過ごすわけにはいかないだろう?」

「そんなの絶対に嫌!」

 

 一人の女子が悲鳴にも似た声を上げる。誰だってこのこのまま卒業まで過ごしたいなんて思っている人はいないだろう。

 

「もちろんだよ。だからこそ、来月は必ずポイントを獲得しなければならない。そしてそのためにはクラス全体で協力しなきゃならない。遅刻や授業中の私語はやめるようにお互いに注意するんだ。もちろん、携帯を触るのも禁止だね」

 

 当り前のことを言っているだけだが、このクラスにとって大切ことだ。これが守れなければ、折角、ポイントを増やせてもすぐに0に戻してしまう。まぁそのポイントの増やし方がわからないんだが。それでもやらないよりはマシだろう。

 

「は? なんでそんなことお前に指示されなきゃならねえんだ。ポイントが増えるならともかく、変わらないなら意味ないだろ」

「でも、遅刻や私語を続ける限り僕たちのポイントは増えない。0から下がらないだけで、マイナス要素であることには間違いないんだから」

「納得いかねーな。真面目に授業受けてもポイントが増えないなんてよ」

 

 須藤くんは鼻を鳴らし、腕を組む。そんな様子を見ていた櫛田さんが発言する。

 

「学校側からすれば、遅刻や私語をしないのは当たり前の話ってことなのかな?」

「うん、櫛田さんの言う通りだと思う。出来て当り前のことなんだよ」

「それはお前らの勝手な解釈だろ。それにポイントの増やし方がわからねーんじゃやるだけ無駄だろ。増やし方を見つけてから言えよ」

「僕は、何も須藤くんが憎くて言っているんじゃないんだ。不快にさせたなら謝りたい」

 

 平田くんは不満を漏らしている須藤くんにも頭を下げる。 本当に彼は誠実な人だ。このクラスに平田くんのような人が居て本当に良かった。彼が居なければもっとクラスは荒れていたかもしれない。

 

「だけど、須藤くん、いや皆の協力がなければポイントを得ることが出来ないのは事実だ」

「……お前がなにやろうが勝手だけどよ。俺を巻き込むな。わかったな」

 

 この場にいる事に居心地の悪さを感じたのか、それだけ言うと須藤くんは教室を出て行った。

 その姿を僕は目で追っていた。クラス一丸となってこの逆境を乗り越えようとは言わないが、流石にあそこまで反発をする人が現れるとは思わなった。典型的な目の前しか見えていないタイプだな。目の前じゃなく先の損得を見なければいけない。それは社会に出ても同じだ。一時の得よりも、継続して得られる得を見据えなければいけない。

 ふと、辺りに耳を傾けると須藤くんの悪口を言っている声が聞こえて来る。確かに彼の行動は目立つ。しかし、クラスのポイントが0になったのを彼一人のせいにするのはどうかと思う。これはクラス全体が招いた結果なのだから。それから、気が付くと平田くんが僕たちの席の前まで来る。珍しい。

 

「堀北さん、それに綾小路くんと葉桜くんも少しいいかな。放課後、ポイントを増やすためにどうしていくべきか話し合いたいんだ。是非君たちにも参加してもらいたい。どうかな?」

「どうしてオレたちなんだ?」

「全員に声をかけるつもりだよ。だけど一度に全員に声をかけても、きっと半数以上は話半分に聞いて真剣に耳を傾けてくれないと思うんだ」

 

 だから個別にお願いしていくことにしたのか。何か良案が浮かぶとは思えないけど。それでも、彼なりに真剣にクラスの為に考えて行動しているんだろうな。

 別に参加しても良いかな?

 

「ごめんなさい。他を当たって貰える? 話し合いは得意じゃないの」

「無理に発言しなくてもいいよ。思いつくことがあったらで構わないし、その場にいてくれるだけでも、十分だから」

「申し訳ないけど、私は意味のないことに付き合うつもりはないから」

「これは、僕たちにとって最初の試練だと思う。だから――」

「断ったはずよ。私は参加しない」

 

 強く冷静な一言。平田くんの立場を斟酌しつつも堀北さんは再度拒絶を示した。

 

「そ、そうか。ごめん……もし気が変わったら、参加して欲しい」

 

 残念そうに引き下がる平田くん。少し可哀想になる。

 

「綾小路くんは、どうかな?」

「あー……パスで。悪いな」

 

 そんなことを綾小路くんは言い放つ。

 もしかしたら、堀北さんだけ不在になったら、先ほどの須藤くんのように異物扱いを受ける可能性があるから、綾小路くんも参加を拒否したのかもしれない。

 

「……いや、僕こそ急にごめん。でも、気が変わったらいつでも言ってよ」

 

 そして平田くんはこちらに顔を向けてくる。チラリと斜め後ろを見ると、堀北さんが次の授業の準備をしている。

 

「葉桜くんは……どうかな?」

 

 少し弱々しく言葉を発した。堀北さんと綾小路くんに断られて、僕にも断られると思っているのかもしれない。どうするかな……別にどっちでもいいわけなんだけど。

 

「そうだね。じゃあ参加しようかな? 力になれるかわからないけど」

「うん。大丈夫だよ。参加してくれるだけでも助かる」

 

 笑顔でそう言ってくる。

 その後は次の授業の準備をした。

 

☆☆☆

 

 

 放課後になり、平田くんは教壇に立ち、黒板を使って対策会議の準備を始める。

 周りを見渡すと意外と参加率が高く。須藤くんと堀北さん、数人の男女を除きほぼ満席になっている。不参加の人は綾小路くんを除き、誰もこの教室には残っていなかった。

 本格的に始まる前に教室を出ようと思ったのか、綾小路くんは鞄を持とうとしたその時に、一人の男子がそれを遮った。山内くんだ。

 手にはゲーム機が握られており、綾小路くんに20000で売りつけようとしている。

 しばらく会話したあと、博士と呼ばれている生徒に向かって歩いていき、綾小路くんにしたように売りつけようとしていた。22000で。さっきより金額が上がっている。

 それを見ながら櫛田さんが綾小路くんに近づいて話しかけている。そしてしばらくすると、軽井沢さんが櫛田さんに話しかけていた。

 話に聞き耳をたてていると。軽井沢さんはポイントを使い過ぎたため一人2000ポイントを貸してもらっているみたいだ。頼み込むような態度ではなかった。普通なら即断られそうなものだが……。櫛田さんは了承した。

 そろそろ、平田くんのところに向かおうと思った矢先、穏やかな効果音が響き渡る。

 

『1年Dクラスの綾小路くん。同じく1年Dクラスの葉桜くん。担任の茶柱先生がお呼びです。職員室まで来てください』

 

「え?」

 

 綾小路くんと僕が呼ばれた? なんだろう? 

 しかしどうしたものか、と思い。チラリと平田くんの方を見ると、同じタイミングで彼もこちらも見ていた。そして、軽く顎を引く。

 どうやら行っていいようだ。軽く両手を合わせて頭を下げると、綾小路くんの元へ向かう。

 

「綾小路くんも呼ばれていたよね? 一緒にいこう」

「そうだな」

 

 何か悪いことしたつもりはなんだけど……。とりあえず、僕たちは教室を抜け出した。

 職員室の前まで来ると、そっと扉を開き辺りを見渡す。茶柱先生の姿は見当たらなかった。仕方がないので鏡の前で自分の顔をチェックしている先生に話しかけようとすると。先に綾小路くんがその先生に話しかけた。

 

「あの、茶柱先生居ます?」

「え? サエちゃん? えーっとね、さっきまでいたんだけど」

 

 振り返った先生はセミロングで軽くウェーブのかかった髪型をしている。先ほど茶柱先生にのことを『サエちゃん』と呼んでいたので親しい間柄なのかもしれない。

 

「ちょっと席をはずしているみたい。中に入って待ってたら?」

 

 僕はチラリと綾小路くんの顔を見る。すると向こうも同じ様にこちらを見ていた。僕は軽く顎を引くことで、綾小路くんの判断に任せることを伝える。

 

「いえ、じゃあ廊下で待っています」

 

 それを言い終わると、こちらに「それでいいか?」と目線で訴えかけてくる。先ほどと同じ様に顎を引き、返事をして。廊下で待つことにした。

 すると何故か若い先生がひょっこりと廊下に出てきた。

 

「私は星之宮知恵っていうの。佐枝とは、高校の時からの親友でね。サエちゃんチエちゃんって呼び合う仲なのよ~」

 

 聞いてもいないのに、何故かそんな情報を提供してもらった。そんなことを知っても何も使い道なさそうなんだけど……。

 

「ねえ、サエちゃんにはどういう理由で呼び出されたの? ねえねえ、どうして?」

「さあ。それはオレにもさっぱり……葉桜は?」

「僕も呼び出された理由はわからないな」

「分かってないんだ。理由も告げずに呼び出したの? ふーん? 君たちの名前は?」

 

 怒涛の質問攻め。僕たちをまるで観察するかのように、上から下を見回してくる。

 

「綾小路、ですけど」

「葉桜……です」

「綾小路くんと葉桜くんかぁ。何ていうか、かなり格好いいじゃない~。二人ともモテるでしょ?」

 

 随分と軽いノリの先生だな。うちの茶柱先生と違い、教師というより学生に近い。そのため親しみやすいだろう。男子だけの学校なら生徒の心を鷲掴みしていただろう。

 

「ねえねえ、二人とも、もう彼女とか出来た?」

「いえ……あの、別にオレ、モテないっすから」

「僕も彼女は居ないです。あと、モテてるとかはよくわからないです」

 

 関わると火傷すると思ったのか、綾小路くんは嫌そうにしていた。もちろん僕もこの手の類はちょっと苦手だ。何考えているのかわからない。

 しかし僕たちの反応を楽しむ様に積極的に近づいてきた。そして、するりと細く綺麗な手が綾小路くんの腕を掴む。

 

「ふーん? 意外ね、私が同じクラスなに居たら絶対に放っておかないのに~。ウブってわけじゃないでしょ? つんつんっと」

 

 綾小路くんの頬を人差し指で突っついている。綾小路くんがどんどん困った表情に変わっていく。しかし、彼には申し訳ないが、対象が僕じゃなくて良かったと思っている。

 

「何をやっているんだ、星之宮」

 

 突然、現れた茶柱先生が手に持っていたクリップボードでスパン、と響きのいい音をさせて星之宮先生の頭をしばいた。痛そうに頭を押さえて蹲る星之宮先生。

 

「いったぁ。何するの!」

「うちの生徒に絡んでいるからだろ」

「サエちゃんに会いに来たって言ったから、不在の間相手していただけじゃない」

「放っとけばいいだろう。待たせたな綾小路と葉桜。ここじゃ何だ、生徒指導室まで来て貰おうか」

「いえ、別に大丈夫ですけど、それより指導って……オレ何かしました? これでも一応目立たないように学校生活を送って来たつもりなんですが」

「僕も何か指導されるような事はしてない……と、思うんですけど」

「口答えはいい。ついてこい」

 

 なんだかよくはわからないが、有無を言わせない雰囲気なのでおとなしく付いていく。すると、綾小路くんと横並びに笑顔の星之宮先生もついてきた。すぐにそれに気が付き、茶柱先生は鬼の形相で振り返る。

 

「お前はついてくるな」

「冷たい事いわないでよ~。聞いても減るものでもないでしょ?だって、サエちゃんって個人指導とか絶対にしないタイプじゃない?なのに、新入生の綾小路くんと葉桜くんをいきなり指導室に呼び出すなんて……何か狙いがあるのかなぁ? って」

 

 ニコニコと茶柱先生に答えた後、僕と綾小路くんの背後に回ると片方の肩に手を置いた、綾小路くんの肩にも手を置いている。

 背後の星之宮先生の顔は見えないが、ビリビリとした気配がぶつかり合うのがわかる。

 ほらね。こういうタイプの人は色々と厄介なんだ。

 

「もしかしてサエちゃん、下克上でも狙っているんじゃないのぉ?」

 

 ぴくり、と眉を動かす。下克上? どういうことだろうか?

 

「バカを言うな。そんなこと無理に決まっているだろ」

「ふふっ、確かに、サエちゃんにはそんなこと無理よね~」

 

 含みのある台詞を呟き、星之宮先生は僕たちの後を追ってくる。

 この先生は本当にどこまでついてくる気なんだろうか?

 

「どこまで着いてくる気だ? これはDクラスの問題だ」

「え? 一緒に指導室だけど? ダメなの? ほら、私もアドバイスするし~」

 

 無理やり星之宮先生がついて来ようとした時、一人の女子生徒が僕たちの前に立ちはだかる。どこかで見たことがある、薄ピンク色の髪をした美人の生徒だ。

 あれ? あの子は確か……一之瀬さん?

 一之瀬帆波――Bクラスをまとめている生徒だ。僕もちゃんと見るのは初めてで、彼女の名前もBクラスの知り合いから聞いただけだ。

 

「星之宮先生。少しお時間よろしいでしょうか? 生徒会の件でお話があります」

 

 一瞬、僕と綾小路くんに視線を向けたが、すぐに視線を逸らし星之宮先生に向き直った。

 

「ほら、お前にも客だ。さっさと行け」

 

 パンっとクリップボードで星之宮先生のお尻を叩く。こういうのを見ていると、あながち親友だったというのは嘘ではないのかもしれない。

 

「もう~。これ以上からかっていると怒られそうだから、またね、綾小路くんに葉桜くんっ。じゃあ職員室にでも行きましょうか、一之瀬さん」

 

 そう言い、踵を返して一之瀬さんと職員室に入っていった。

 星之宮先生を見送り、頭を掻いた後、茶柱先生は指導室に向かって歩き出した。程なくして職員室の近くにあった指導室へと入る。

 

「それで先生、僕たちを呼び出した理由ってなんですか?」

「うむ。それなんだが……話をする前にちょっとこっちに来てくれ」

 

 指導室の壁に掛けられている丸時計をちらりと確認して、指導室の中にある扉を開いた。そこは給湯室になっていて、コンロの上にヤカンが置いてある。

 

「お茶でも沸かせばいんですかね。ほうじ茶でいいですか?」

 

 そんなことを言いながら、綾小路くんは近くにあった粉末のほうじ茶が入った容器を手に取った。

 

「余計なことはしなくていい。黙ってここに入っていろ。いいか、私が出てきて良いと言うまでここで物音を立てず静かにしているんだ。破ったら退学にする」

 

「え? 言っている意味が全く――」

 

 説明を求めようとしたが、扉を閉められてしまう。茶柱先生は一体何を企んでいるのか……。

 綾小路くんと目を合わせて二人で小さく息を吐いた。とりあえず、おとなしく待つことにした。退学にさせられたくないから。

 程なくして指導室の扉が開く音が開く音が聞こえた。

 

「まあ入ってくれ。それで、私に話とは何だ? 堀北」

 

 どうやら指導室に入って来たのは堀北さんだったようだ。

 

「率直にお聞きします。何故私がDクラスに配属されたのでしょうか」

「本当に率直だな」

「先生は本日、クラスは優秀な人間から順にAクラスに選ばれたと仰いました。そしてDクラスは学校の落ちこぼれが集まる最後の砦だと」

「私が言ったことは事実だ。どうやらお前は自分が優秀な人間だと思っているようだな」

「なあ葉桜」

 

 突然聞こえるか聞こえないくらいの声で横に居た綾小路くんから声が掛けられる。

 

「何?」

 

 僕も同じくらいの声で返事を返す。

 

「堀北はどう返すつもりだと思う? オレは強気に反論する方にベットする」

「それ……賭けになってないよね?」

「そう言うってことは。お前もそう思っているということだな?」

「否定はしない」

 

 苦笑いしながら答える。

 

「入学試験の問題は殆ど解けたと自負していますし、面接でも大きなミスをした記憶はありません。少なくともDクラスになるとは思えないんです」

 

 どうやら予想通りだったようだ。彼女は自分が優秀な人間だと思っているタイプだ。もちろんそれが自意識過剰という訳ではない。実際彼女は優秀だ。先日のテストでも同率1位になっていたのだから。

 

「入試問題は殆ど解けた、か。本来なら入試の問題の結果など個人に見せないが、お前には特別に見せてやろう。そう、偶然ここにお前の解答用紙がある」

 

 偶然と言っているが、彼女が抗議に来ると踏んで、あらかじめ用意していたのだろう。

 

「随分と用意周到ですね。……まるで私が抗議のために来る、と分かっていたようです」

「これでも教師だ。生徒の性格はある程度理解しているつもりなんでな。堀北鈴音。お前の入試結果は自分の見立て通り、今年の一年の中で同率で3位の成績を収めている。一位二位ともとも僅差。十分すぎる出来だな。面接でも、確かに特別注視される問題は見つかっていない。むしろ高評価だったと思われる」

 

 一位は一体誰なんだろう? 有栖か? それとも別の生徒なのか。

 

「ありがとうございます。では――――何故?」

「その前に、お前はどうしてDクラスであることが不服なんだ?」

「正当に評価されていない状況を喜ぶ者などいません。ましてこの学校はクラスの差によって将来が大きく左右されます。当然のことです」

 

 正当な評価か……。僕から見れば正当な評価に思える。彼女――堀北鈴音は確かに優秀だ。だけど、それはあくまでも成績で見た時の話。おそらくこの学校はそこだけを見ていない。

 おそらく彼女がDクラスに配属された理由それは――いや、やめておこう。

 また悪い癖が出てしまったようだ。今まで自重していたが、気を抜くと他人に評価を付けてしまう。

 意識を堀北さんと茶柱先生に戻す。そしてその後は世襲制のことだったり、成績が良いだけではAクラスになれないこと、この学校は本当の意味での優秀な生徒を生み出す学校だと言っていた。

 そして、正当な評価をされないことをよしとする者がいると言った時に、綾小路くんが少しだけ反応した。おそらく、これは彼に向けて発言したものだろう。

 

「残念だが堀北。お前がDクラスに配属されたことはこちらのミスではない。お前はDクラスになるべくしてなった。それだけの生徒だ」

「……そうですか。改めて学校側に聞くことにします」

 

 諦めが悪いね。上から目線だけど、嫌いじゃないよ。

 

「上に掛け合っても結果は同じだ。それに悲観する必要はない。朝も話したが、出来不出来で上下する。卒業までにAクラスへと上がれる可能性は残されている」

「簡単な道のりとは思えません。未熟者が集まるDクラスがどうやってAクラスよりも優れたポイントを取れるというのですか。どう考えても不可能じゃないでしょうか」

 

 堀北さんの言う事ももっともな話だ。流石にこれだけのポイントの差を見せつけられたら、誰でも無理だ不可能だと言ってしまう。

 

「それは私の知ったことではない。その無謀な道のりを目指すか目指さないかは個人の自由だ。それとも堀北、Aクラスに上がらなければならない特別な理由でもあるのか?」

「それは……今日のところは、失礼します。ですが私は納得していなことだけは覚えておいてください」

「分かった、覚えておこう」

 

 椅子のギッと音が聞こえる、どうやら話し合いは終わったようだ。

 

「あぁそうだった。もう二人指導室に呼んでいたんだった。お前にも関係のある人物だぞ?」

「関係ある人物って……? まさか……兄さ――」

「出てこい綾小路と葉桜」

 

 このタイミングで呼ぶとは…これは出ないでおこう。あと、綾小路くんは初日から関わりがあるし、教室でも話しているの何回も見たことはあるから不思議ではないけど、僕とは他の人より話したことがあるだけで、綾小路くんに比べれば関係殆どないと思うんだけど。

 

「出てこないと退学にするぞ」

 

 ひ、酷い。聖職者とは思えない言動だ。退学を武器にするとは卑怯な。

 

「いつまで待たせれば気が済むんスかね?」

「あはは……」

 

 綾小路くんは溜息をつきながら、僕は苦笑いをしながら指導室へ入っていく。

 

「私の話を……聞いていたの?」

「話? 何か話しているのは分かったがよく聞こえなかったな。意外と壁が厚いんだ。な? 葉桜」

「うん。僕も内容までは聞こえなかった」

「そんなことはない。給湯室はこの部屋の声が良く通るぞ?」

 

 折角、綾小路くんに合わせたのに! 僕たちをそんなに同じ土俵に立たせたいみたいだ。

 

「……先生、何故このようなことを?」

 

 流石にこれが仕組まれていたことだとわかるよね。そしてかなりご立腹のご様子。これは誰でも怒るよね……。

 

「必要なことと判断したからだ。さて、綾小路と葉桜。お前たちを指導室に呼んだワケを話そう」

「私はこれで失礼します……」

「待て堀北。最後まで聞いておいた方がお前のためにもなる。それがAクラスに上がるためのヒントになるかもしれないぞ」

 

 指導室を出て行こうとしていた堀北さんの動きが止まる。そして椅子に座り直した。どうやらAクラスに上がるためのヒントになると聞いて、興味が沸いたようだ。結構ちょろい。

 

「手短にお願いします」

「まずは、綾小路、お前だ。随分と面白い生徒だな?」

「茶柱、なんて奇特な苗字を持った先生ほどオモシロイ男じゃないですよ、オレは」

 

 その言葉に思わず吹き出しそうになった。だが、それを何とか堪える。傍から見たら笑いをこらえているのは一目でわかるとは思うけど。

 

「全国の茶柱さんに土下座してみるか? んん?」

 

 茶柱なんて苗字はアナタだけな気がします。

 

「入試の結果を元に、個別の指導方法を思案していたんだが、お前のテスト結果をみて興味深いことに気が付いたんだ。最初は心底驚いたぞ」

 

 そう言いながらクリップボードから入試の解答用紙を並べていった。

 そしてその解答用紙を見ると。すべての教科が50点だった。

 流石の堀北さんも驚きの表情をして、テスト用紙を食い入るように見ている。

 

「偶然って怖いっスね」

 

 いやいや。流石にこれが全て偶然で押し通すのは無理があると思うよ。綾小路くん。

 茶柱先生も意図的にやっただろ? って言っているし。おどけてはいるが……。

 

「お前は実に憎たらしい生徒のようだな。いいか? この数学の問5、この問題の正解率は学年で3%だった。が、お前は問の複雑な証明式も含めて完璧に解いている。一方、こっちの問10は正解率は76%。それを間違うか? 普通」

「世間の普通なんて知りませんよ。偶然です、偶然」

 

 あ。その3%のやつ僕も解いたやつだ。同じ証明式だし合ってたんだな。

 

「全く。その割り切った態度には敬服を覚えるが、将来苦労することになるぞ」

「当分先ですし、その時になって考えます」

 

 茶柱先生はどうだ? と言いたそうに、堀北さんの方を見る。

 

「あなたは……どうしてこんなわけのわからないことをしたの?」

「いや、だから偶然だっての、隠れて天才とか、そんな設定はないぞ」

「どうかなぁ。ひょっとしたらお前よりも頭脳明晰かも知れないぞ堀北」

 ピクリと堀北さんが反応する。息を少し吐き瞑目する。くだらないちょっかいだな。

 

「さて、次は葉桜お前だ」

 

 この流れなら僕にも来るとは思っていたが、やっぱり来たようだ。

 

「僕は流石に綾小路くんみたいな不思議なことはないと思いますよ?」

「そうだな……お前は入試の点数は、綾小路みたいに驚くところはなかった。点数も一年だと四位と堀北より下だ」

「だったら――」

「だけどだ」

 

 僕の言葉を遮り、茶柱先生は言葉を続ける。

 

「ここにお前の小テストの結果がある」

 

 僕は眉を少し動かす。

 綾小路くんと堀北さんが用紙を除きこむ。

 

「お前の小テストはの点数は85点だ」

「そうですね。最後の三問が難し過ぎて、100点とまでいきませんでした」

「本当にそうか?」

「何が言いたいんですか?」

「ここに、答えを書いて消した後がある」

 

 確かに小テストの最後の三問の部分に消した後が残っている。それがどうしたというのか。

 

「それが何か? 一度、何か書こうと思って書いたけど。やっぱりわからなかったんですよ」

「そうか……では、ここにうっすらと文字が見えるのがわかるか?」

「確かに、うっすらと消し残しで何か書かれていますね」

 

 堀北さんがそう言う。

 

「あぁ、そして、少し気になってな。それをよく見てみると、解答欄に掛かれていた答えは、全て正解しているんだ」

「え――」

 

 堀北さんが驚きの声をだす。

 

「葉桜。お前は本当はこの問題を解けたんじゃないか?」

「あー、それ正解だったんですね。書いてみたんですけど、やっぱり違う気がして消しちゃいました。もったいない事しましたね」

「ワザと消したんじゃないか?」

「そんなことしませんよー?」

 

 おどけてみせる。

 

「堀北どうだ? お前はこの問題の三問全部答えられたか?」

「……不服ですが。一問しか解けませんでした」

「ということは、葉桜はお前より頭脳明晰ということになるな」

「待ってください。本当に偶然なんですよ。答えなんて適当に書いただけですから」

「今はそういう事にしておこう」

 

 それって偶然だと思っていないってことだと思うんだけどな。

 

「しかしお前ら、二人そろってわけのわからないことをするやつらだ。もっとも、お前たちの場合、高円寺のように、、AでもDでも良いと思えるような、他の生徒と異なる理由があるのかもしれないが」

 

 この学校は生徒だけでなく、教師を普通ではないようだ。堀北さんとの会話の時も動揺させる言動をしていた。在校生徒全員の『秘密』でも握っているのだろうか?

 

「何ですか。その異なる理由って」

「詳しく聞きたいか?」

 

 綾小路くんの質問にそう答える茶柱先生。その眼光の奥の方に鋭い光がある。どうやら誘導されていたようだ。

 

「僕はやめておきます」

「オレも遠慮します。聞くと発狂してしまうかもしれないので」

「そうか。なら私はそろそろ行く。職員会議の始まる時間が近いからな。ここは閉めるから三人とも出ろ」

 

 背中を押されながら僕たち三人は廊下に放り出される。なんで僕と綾小路くんと呼び出したのか。そして何故堀北さんと鉢合わせたのか。理由はわからないけど、あの人は意味の無いことはしないと思う。

 

「どうする?」

「とりあえず……帰るか」

「そうだね」

 

 そう言って歩き出す。

 

「待って」

 

 堀北さんが僕たちを呼び止める。僕は一瞬足を止めようとしたが、綾小路くんが足を止めなかったので、ついていくことにした。たぶん寮まで逃げ切れればゴールとでも考えているんだろうな。

 

「さっきの点数……本当に偶然なの?」

「当事者がそう言っているだろ。それとも意図的だって証拠でもあるのか?」

「根拠はないけれど……じゃあ葉桜くんはどうなの? 答えが本当にわかっていたの?」

「僕のも偶然だよ。それより、堀北さんは何かAクラスに並々ならない思いがあるみたいだね」

「……いけない? 進学や就職を有利にするために頑張ろうとすることが」

「別にいけないことじゃないよ。むしろ普通のことだよ。ね? 綾小路くん」

「あぁそうだな」

「私はこの学校に入学して、ただ卒業すれば、それがゴールだと思っていた。でも、実際は違った。まだスタートラインにも立っていなかったのよ」

 

 堀北さんは歩く速度を上げて気が付くと隣に並んでいる。

「じゃあ堀北さんは、本気でAクラス目指すんだね」

「まずは学校側に真意を確かめる。私が何故Dクラスに配属されたのか。もしかしたら茶柱先生の言うように私がDだと判断されたのだとしたら……。その時はAを目指す。いいえ、必ずAに上がってみせる」

「相当大変だぞ、それは。問題児たちを更生させなきゃならない。須藤の遅刻やサボり癖、授業中の私語、テストの点数。それだけやって、やっと±0だ」

 

 綾小路くんの言う通りだ。Aを目指すのは大変だ。今のこのクラスは色々問題が多すぎる。

 

「そうね――とりあえず、すぐに改善しなければいけないことは大きく分けて3つ。遅刻と私語。それから中間テストの点数で全員が、赤点を取らないこと」

「前者の2つはある程度何とかなるだろう。けど、中間テストはなぁ」

「言っちゃ悪いけど。難しいだろうね」

「そこで――あなたち二人にも協力をお願いしたいの」

「協力ぅ?」

「綾小路くんそんな嫌そうな顔しなくても」

 

 露骨に嫌な顔をしている綾小路くんを見て苦笑いを浮かべる。

 

「今朝平田に断りを入れるお前を見たし、同じような理由で断ってもいいんだよな?」

「断りたいの?」

「あのな、オレが喜んで協力するとでも?」

「喜んで協力する、とまでは思っていなかったけれど、断られると思っていなかったわ。もしも本気で断ると言うのなら、その時は……いえよしましょう。今その先を考えても仕方のないこと。それで、協力して貰えるのか貰えないのか、どっちなの?」

 

 僕的にはさっきの黙り込んだ先の台詞が気になるな。

 それよりどうしたものか。堀北さんが何故かやる気を出しているし、僕には特別断る理由もないからな。協力してあげようかな。

 

「断る」

「いいよ」

 

 僕と同時に声を出す。

 

「葉桜くんと綾小路くんなら協力する、そう言ってくれると信じていた。感謝するわ」

「オレは言ってねーし! 見事に断っただろ!」

「いいえ、私には心の声が聞こえたもの。協力するって言ってた」

 

 僕は確かに協力するとは言ったが、何? その電波的なもの。ちょっと怖い。

 

「でも協力って何をしたらいいの? 僕たちにできることなさそうだけど」

「ああ。オレも同じことを言おうとしていた」

 

 堀北さんは頭の回転も速いし、テストの成績もいいから。僕や綾小路くんが力を貸す必要はないと思うんだよね。

 

「心配することはないわ。綾小路くんと葉桜くんが頭を使う必要は欠片もないから。作戦は私に任せて、あなたたちは身体を動かしてくれればいい」

「は? なんだよ、身体を動かすって」

「うん。何をするの?」

「あなたたちは私の指示に従っていればいいわ。必ずプラスポイントまで持っていくと約束する。悪い話ではないはずよ」

「まぁそうなってくれたら嬉しんだけど……他の人とかには頼まないの?」

「残念だけど。Dクラスにはあなたたち以上に扱いやすそうな人材が思い当たらないわ」

「いやいや、山ほどいるって。ほら例えば平田とか。あいつならクラスメイトにも顔がきくし、頭もいい、完璧だ。おまけに堀北が孤立していることを気にかけてくれている」

 

 確かに平田くんなら喜んで協力してくれそうだ。

 

「彼ではダメね。確かに一定の才能は持っているけれど、私はそれを受け入れられない。そもそも葉桜くんで事足りているわ。残りは将棋で言いうところの歩が欲しいだけ」

 

 えぇ……確かに僕もクラスメイトに顔はきくけど。平田くん程じゃなんだけど……。

 あと、それって綾小路くんが歩だと言っているように聞こえるよ。

 ほら、当の本人が変な顔している。

 

「なぁ悪いが。堀北やっぱり協力はできない。オレ向きじゃないよ」

「じゃあ、考えがまとまったら連絡するから。その時はよろしく」

 

 堀北さんはそう言って去っていった。残された僕たちは顔を見合わせる。そして、綾小路くんは大きく溜息を吐いて肩を落とす。

 

「そのー、思い伝わらなくて残念だったね」

「あぁ……本当に残念だよ。でもお前はよかったのか?」

「何が?」

「堀北に協力して」

「あー。別にいいよ。彼女がどう行動するのか興味があったから」

「……そうか。ところで。お前は平田の対策会議に参加するんじゃなかったか?」

「あ」

「もしかして忘れていたのか?」

 

 その通りである。すっかり忘れていた。

 

「あはは。うん」

「まぁ呼び出されていたから。まだそれほど時間が経っていないから。戻ったらどうだ?」

「そうする。じゃあね綾小路くん」

「ああ」

 

 こうして僕は綾小路くんと別れて、平田くんの元へ戻っていった。

 




日間ランキング53位ありがとうございます! これも皆様の応援のおかげです。いつもありがとうございます!

これからも頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします!
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