姫柊 雪菜は困惑していた。
事前に渡された資料を読んで、暁古城のことを知ったが、彼は本当に第四真祖なのか、と疑ってしまった。
まず、高校生でありながら、ここ数年で農業・医薬品で業績を伸ばした会社の社長であり、超一流の錬金術師であり、空中艦ドロスという巨大な船を自費で製作できる、超一流の技術者でもある。と書かれていた。
二つほど、難病の特効薬を作り出し、錬金術で品種改良した作物で、絃神島の自給率を大幅に上昇させ、個人の戦闘力も眷獣なしでもかなりのものだと記されていた。
「あまり、表には顔を出してはいないけれど、一般人に混じって生活しているなんて」
姫柊も最初は、第四真祖も他の真祖達のように、豪華な城の奥で玉座にでも座っているのかと思っていた。
もちろん、眷属が居ないのだから、孤高な感じで玉座に座っているイメージだったが、今では農家のようなイメージになっている。というのも。
「ご、ご自身を使って、自社製品をピーアールですか」
「そうなのニャ。ちなみに、他のモデルは彩海学園のアルバイトの子達だニャ」
姫柊が困惑する理由の一つになっている、猫のような人語を喋る生物、アイルー。迎えの車の中で、信号待ちの時に彼女が何気なく車の窓から外を見ると、目に入ってきた看板(男女八人が野菜や果物を持って笑顔で製品をアピールしている)に本人が笑顔で野菜を持っているのが見えて、姫柊が驚くと向かいの席に座っていたアイルーが看板ついて説明してくれた。
「農業アイドルみたいで、結構人気があるのニャ」
「えっと、かなり昔にTVでやっていた番組の?」
「そうニャ、とあるアイドル事務所の社長さんの娘さんがウチのご主人様のフルーツが好きでニャ、娘さんがフルーツを作っている農家を調べたら、小学生の頃の友達で、お互いにビックリしていたニャ。その繋がりでのお陰でニャ、次の看板はイケメンのアイドル達がやることになっているニャ」
「・・・・・・本当に、第四真祖なのですか?」
空港出迎えにきた執事服姿のアイルー、最初は可愛くて思わず抱き締めそうになった。
けれど、直ぐに姫柊の体に緊張が走った。
若いといっても獅子王機関の剣巫の彼女だ。
目の前にいる小さな二足歩行の猫が、ただ者ではないことに気づいたのだ。
それもそのはず、姫柊を出迎えたアイルーは暁古城となった男が前世で遊び倒した。モンスターハンターポータブル2Gの最初のお供アイルーであり、ゲーム内での戦闘経験が蓄積されているチートお供アイルーだ。
推定ウカムルバス三十八匹、その他にG級モンスター多数を倒した経験を持っているアイルーが現実の世界に合わせた力を持って降臨する(装備・スキル・絶対に死なないゲームでの設定付きの不死の超一流のドラゴンスレイヤー)。
各国にとって悪夢だが、幸いアイルーの容姿と暁古城がアイルーをあまり戦闘(揉め事)に出さないので、アイルー達の実力はアイランドガードの精鋭くらいだと認識されている。
手加減した状態でも十分強いので、数名のアイルーが南宮那月の要請でアイランドガードでバイトをしていたりする。
「ご主人様ニャは、優しい人ニャ。にゃから、そんなに緊張せずにするニャよ」
「は、はいそうですね」
迎えの車は結構な車だった。
セバスニャンは「たいしたグレードではないニャ」といっていたが、姫柊にとっては高級車で出迎えが来ること事態が驚きだった。
ただ、運転手が普通の人間だったのは、心から安堵していたが。
「ここが、ご主人様がいるビルだニャ」
出迎えの車が停まったのは、他の大企業が集まっているエリアより、大分離れた場所にあるビルだった。
ここ数年で、業績が上がったとはいえ、暁古城が経営している会社はまだ若い、それ故にビルも二流とも言える場所だ。
とはいえ、暁古城は完全な商人になるつもりもなく、またなれるとも思っていないので、その辺りのことは気にしていない。
なにより、現在。暁古城が絃神島の自給率をあげたお陰で、本土では食料品で儲けていた企業とそのバックについていた政治家と敵対関係となっているため、荒事が起きる(既に色んな理由で揉め事は起きているが)ことを考えると、大企業が集まっている場所にビルを構えるのはよろしくない。
暁古城が、外れた場所にビルを構えたのはそういう意味合いもあったりする。
「こちらでございますニャ」
姫柊が案内されたのは、ビルの最上階。
その階の社長室で、暁古城と姫柊雪菜が初めて顔を会わせることになった。
グレンダを越えるドラゴンを討伐できるアイルーが大量にいる暁古城の会社。
三聖がアイルー達の真の実力を知ったら、泣くどころではない。
最近は胃薬の量が増えた三聖さん達です。