「ふん、こんなものか」
南宮那月が港湾地区の古い倉庫を襲撃したのは、その日の深夜のことだった。
古城の占いに出た密入国の犯罪集団が武器の闇取引の裏付けをとり、アスタルテと二匹のアイルーと共に突入した。結果、倉庫内にいた八人の男達はサクッと無力化された。
「ここを潰したところで、たいした意味はないのだろうがな」
とはいえ、大人の女性として仕事をしないわけにはいかない。
古城の口振りでは、ナラクヴェーラと古城が戦うのは間違いない。
間違いないが、
「少しでも、クリストフ・ガルドシュの戦力を削っておけば古城も動きやすいだろ。奴のことだ、ナラクヴェーラを倒した後は黒死皇派の残党を始末するために動くつもりだろう」
その手間を省いてやろう。
もちろん、打算はある。
「アスタルテ、スワニルダとナタナエルに明日の授業の支度をさせておけ」
「命令受諾」
「先日の一日執事の時は、時間の都合で背中のマッサージはできなかったからな」
頬を少しだけ紅く染めながら、前々回のマッサージを思い出す。
あれは、悪くなかった。
那月はこのあとも黒死皇派に関係していそうな犯罪集団をしらみ潰しに襲撃し、その全てを完膚なきまでに叩き潰した。
▼△▼△▼△▼△
「へぇ、なかなか可愛らしいお菓子じゃないか」
「お気に召したのであれ二ャ、幸いです二ャ~」
オシアナス・グレイブの屋上のデッキで、二人と一匹が顔を会わせていた。
一人は金髪碧眼の美しい男。彼は愛船にテロリストと古代兵器を乗せて遊びに来た、傍迷惑男だ。
アルデアル公ディミトリエ・ヴァトラーである。
彼は第四真祖になってしまった暁古城の配下のコックアイルーが作った、古城の贈り物であるチョコバナナを味わっている。
なぜ、ここにコックアイルーがいるかと言うと、記憶が曖昧な古城が「そう言えば、ヴァトラーはチョコバナナ好きだった気がする」と唐突に思いだし、
機嫌取っておくかー、という軽い気持ちで最高級のチョコとバナナをアイルーに持たせて、ヴァトラーの元へ送ったからだ。
突然、穴も開けずにデッキの床から出てきたアイルーに驚きながらも、第四真祖から送られてきた物にヴァトラーは興味を持ち、想像を遥かに越える美味しさに機嫌が良くなった。
「来たかい? それで、僕の要望は叶えられたのかな?」
「日本政府からの回答をお持ちしました」
「聞かせてくれるかな?」
ヴァトラーに近づいてきた黒髪のポニーテールの美少女。煌坂紗矢華はチョコバナナをゆっくり味わう(意味深)ヴァトラーの姿に微かに眉をひそめるが、淡々と日本政府からの回答を伝える。
「本日午前零時をもって、閣下の絃神島魔族特区への訪問を認証。以後は閣下を聖域条約に基づく戦王領域からの外交特使として扱う――とのことです」
「分かった。それで、君が第四真祖の手紙に書いてあったお目付け役かい?」
ヴァトラーの言葉に煌坂紗矢華は驚く。
第四真祖がアルデアル公に手紙を出していた!? いつの間に!?
獅子王機関から、第四真祖がアルデアル公に手紙を渡したとは聞いていない煌坂は一瞬動揺したが、直ぐに平静を装う。
「安心しなよ。大人しくはしているよ」
――だって、愛しの第四真祖が僕をしっかりと認識してくれているのだから。
乙女を蕩けさせる笑みを浮かべるヴァトラーだったが、煌坂はそれに嫌悪感を覚えた。
煌坂は淡々とヴァトラーに釘を指しておく。
「私は六式重装降魔弓の所持を許された攻魔師です。私の判断で閣下を討ち滅ぼす権利が与えられていることをお忘れなきよう」
「あははははは、手紙に書いてあった通りだね。面白い気に入ったよ、よろしくね。第四真祖の三人目の花嫁」
「………………………………え?」
煌坂は言われた意味をようやく理解して、間抜けな声をだした。
「閣下、それはどういう意味でしょうか」
「ふふふ、本人に聞くと良いよ」
煌坂の問いを流して、ヴァトラーはコックアイルーが作ったイチゴチョコを使ったチョコバナナを味わう。
「甘酸っぱいね。それがまた良い」
煌坂に見せつけるように、ねっとりとチョコバナナを食べるヴァトラーにげんなりしながら、これ以上は無駄だと思い、口をつぐんだ。
そして、煌坂は一枚の写真を取り出した。
その写真には学生服を着ている暁古城が写っていた。
「第四真祖、暁古城。アンタはやっぱり全部知ってて私に……」
煌坂は呟き、決意を新たにして胸に写真をしまった。