姫柊のネコミミ姿が学校で話題になっていた。
うん、俺が原因だ。
「鬼だな」
「古城、アンタってば、酷いわね」
「あははは」
翌日の昼休み、俺は朝葱と矢瀬の三人で、教室で昼食を食べながら世間話をしていた。
その時に話題になったのが、姫柊のネコミミ姿の写真が出回っているという話だ。
一応、朝那月ちゃんが来る前にも多少話は出たのだが、時間がなかったので流れていた。
「まったく、ネコミミカチューシャが付いているなら教えてあげなさいよ。まったく」
「俺も最初は教えようと思ったけど、姫柊は生真面目だからさ。これからのことを考えて、ちょっと肩の力を抜かせるために教えなかったんだよ」
「本人からしてみれば、黒歴史だと思うぞ古城」
今朝、学校に登校している途中、姫柊がやたらと学園の生徒達に見られていた。
実は俺もちょっと不思議に思っていると、矢瀬が合流。
昨日の姫柊の可愛いネコミミカチューシャ姿が掲示板やSNSで話題になっていると教えてくれた。
どうやら、いつの間にか盗撮されていたらしい。
姫柊が真っ赤な顔をして俺を睨み付けてきたので、「顔を真っ赤にして、本当に可愛いな姫柊は」とイケメンだから許される返しをしてみると、姫柊はさらに顔を真っ赤にしながら「何を馬鹿なことを言っているんですか!」と怒りながら足早に学園へ向かってしまった。
俺と矢瀬は姫柊の後を追いかけ、宥めながら三人で学園へ登校した。
その途中で、ネットにアップされた画像を消せないか俺と矢瀬に聞いてきたが、無理だろうと答えておいた。
ガックリと肩を落として中等部へ向かう姫柊に、ちょっと悪いことをしたなと思いながらも、これからも色々やっていこうと心に決めた。
「そういえばさ、古城。今度五番目の空中艦を浮かべるって、本当?」
「本当だぞ、既に島側との話はついている。次は海水を真水にする浄水施設だな」
「相変わらず、とんでもない物を作るなぁ。海水を真水に変える技術ってかなり大変だって聞いたことがあるぞ」
「科学だけなら、難しいぞ。オカルト技術を使っているから大分楽になる。それでも結構な技術だからな。警備のことも今から考えると頭が痛い」
「また、警備システム組む? そろそろ新しいの作ろうか?」
「ああ、今度のは高度が低いし、注水するからその辺にも警備システムがほしいな」
「分かったわ」
「しかし、金が飛んでいく」と呟くと二人に「それ以上に特許とかで稼いでいるだろう」と言われた。
確かに、いくつかの特許は持っているし、資金の足しにもなっている。
だが、ギリ黒字といったところだ。
ドロスの建造費などが無くてこれなので、それを考えるとやはり赤字経営だ。
後、資金集めにマクロス(初代)の中に作ったモンハンの集会場でクエストを受けて、モンハン世界の鉱物などを売り払っている。
植物の種は生態系への影響力が高すぎるので売っていないが、モンスターの素材と鉱物はなかなか良い売り上げだ。
一時期、未知の鉱物と生物の素材が市場に流れて各国が大騒ぎになったが、裏に俺がいるとわかってすぐに大人しくなった。
やはり、大半の指導者はどこでもドアからの鉄拳制裁コンボが怖いらしい。
真祖などは様子見だったが、中堅吸血鬼はちょっかいをかけてきたので光や聖属性魔法で炙ってやったら大人しくなった。
うっかり集会場で酔った勢いのまま、ちょっかいをかけてきた中堅吸血鬼の所へ行って「吸血鬼の丸焼き!」とか言って封じ状態(世界樹の迷宮の技で)逃げられないようにして、ゲラゲラ笑いながら吸血鬼に制裁を加えたのは良い思い出だ。
中堅吸血鬼を助けに来た部下達がドン引きしていたけど。
「実際のところ。古城、アンタ後何隻作るつもりなの?」
「うーん、気がすむまでかな?」
「アンタねぇ」
「ま、島にとっては浄水施設ができるのは良いことだと思うぞ、島の浄水施設で賄えているけれど、何かあったときのことを考えると、余剰分はほしいし」
「ま、島の人口に対してドロス級だけだと、限界があるけどな。俺だから、問題はないけど」
「アレ浮かせているだけでも結構なコストかかっているんでしょう? 海に浮かべたら?」
「海中から侵入されそうでさ」
「防犯面か。あのドロス級の技術を欲しがっている奴等は多いしな。空に浮かせたい気持ちも分かるけども」
「一度、水深三百メートルくらいの場所に、とも思ったんだけど、内部からの破壊に弱いからさ。それなら空に浮かべていた方が良いと思ったんだよ」
「難しいなぁ」
「でも、空に浮かべていても同じじゃない?」
「まぁな」
それから、俺達は空中艦ドロスの警備体制と島の自給率、経済について話し合った。
素人だけれど、浅葱と矢瀬は将来の島の中心人物だ。俺も素人で政治方面の才能はないが、最低限覚えておかないと困る可能性が高い。
今から島の未来について話し合うのは、意義があると思っている。
「ま、学生の俺達がこれ以上話しても意味はないか」
「そうねぇ」
「ま、時間もきたからこの辺にしよう」
昼休みの終了を知らせるチャイムがなったので、俺達は午後の授業の為に支度を始めた。
放課後、今日は補修など無いので姫柊と合流して車を呼び、会社へ向かった。
それから、ずっと社長としての仕事である書類仕事を行う。
まあ、俺がやるのは書類にサインをするだけなのだが、何の書類なのか知らずにサインするのはまずいので秘書達に書類内容を読み上げてもらい、理解してから書類にサインをしている。
「しれい、じゃなかったのです。社長、次はこの書類にサインをお願いするのです」
「ああ、分かったよ」
「………………」(<●><●>)
視線が痛い。姫柊が来客用のソファに座りながら、微動だにせずに俺をジッと見つめている。
まあ、あんな表情をする理由はわかっている。
「てい、社長。サインがおっそーい」
「急かすな」
「しれいか、ではありませんえしたわね。社長、今週の」
「ああ、分かっている」
「……………………」(<●><●>)
うん、監視対象が美少女、美女に囲まれているのだから、年頃の姫柊に冷たい目で見られるのは当然のことだろう。
だから俺は冷たい視線に耐えながら仕事を続けようとしていたのだが、黒い兎のようなカチューシャをしている秘書の少女が俺の腕に抱きついた瞬間、空気が凍りついた。
ギリッと奥歯を噛み締める音とともに強まった姫柊の眼力にも負けて、俺はソファに座る彼女に声をかけた。
「……姫柊、言いたいことがあるなら言ってくれないか?」
「なら、言わせてもらいますが、先輩。先輩の秘書の方々は美形が沢山いらっしゃいますね」
「あ、ああ。人手が足りなくてな」
「そうですか。小学生にも手伝ってもらえっているんですね」
「いや、彼女達は小学生ではなくて」
「それに、その方」
「え、誰だ?」
「そのスカートの短い方です」
「 私?」
「ぁあ、うん、なんだい?」
姫柊は、速度に拘りのあるロングヘアで紺色のミニスカートを履いた子を見ながら、俺に質問をした。
「そのいやらしい制服は、先輩の趣味ですか?」
「違います」
「……………………」(<●><●>)
「本当だよ!!」
「いやらしいっ」
俺は即答した。だが、ダメだった。
いや、大好きだよ! この制服大好きだよ! 一時期、秘書の制服にしようかと真剣に考えたもの。でも、俺にベタベタする秘書達でも反対運動が起こったので断念したのだ。
ちなみに、落ち込んでいる俺を見た叶瀬がこっそり着てくれた。その時の写真は家宝としている。
すっかりむくれてしまった姫柊に、どうしたものかと考えながら仕事をしていると、少し遅れてやってきた金髪のバランスのとれた重武装ボディ秘書のパンパカパーン的な人柄のお陰で、機嫌がある程度回復した。
それと、それをきっかけに他の秘書達とも仲良くなった。
彼女達を召喚したきっかけは、秘書と言えば彼女達しかいない! と考えたからなのだが、予想以上に秘書としての仕事も優秀で戦力にもなるので、本当に助かっている。
人間サイズではあり得ないほどの火力を持っているので、安心感がすごい。
「皆さん、すごく強い方達でしたね」
「ああ、さすがに気づくか」
「ええ、立ち居振舞いで」
仕事が終わり俺と姫柊が地下の駐車場へ移動中、姫柊が秘書達について聞いてきた。
「彼女達が本気で戦えば、単独でイージス艦にも勝てるよ」
「そ、それは」
「報告していいよ、こちらとしては問題ないし。まあ、戦闘は状況にもよるけれどね」
「大丈夫なんですか?」
「三聖は、ああ、またか。くらいの気分ではないかな? 政府関係者は頭抱えるだろうけど」
姫柊はちょっと涙目になっていた。
仕事の後は車で一緒に家に帰り、夕食を俺の家で姫柊も交えて食べることが当たり前になりつつある。
今日の夕食は凪沙が作ったオムライス(ケチャップのチキンライス)だ。
妹が作ったオムライス(お兄ちゃん大好き。と書かせようとしてキモがられた)を「美味い、美味い」といいながら食べると凪沙は「古城くんはそれしか言わないから、雪菜ちゃんは遠慮なく味の感想教えてね」と兄を無視して姫柊と和気あいあいといていた。
その結果、明日の夕食は姫柊と凪沙が作ることになった。
夕食後に十五分くらい凪沙と姫柊は話していたようだが、色々としなくてはならないことがあるのでと姫柊は家に帰った。
そして、姫柊が帰ってちょっと時間が過ぎた頃に、俺のスマホにジリオラから連絡が入った。
どうやら殲教師が旧き世代の吸血鬼を襲撃するようだ。
ついに原作の戦闘イベントだ、と俺は気合いを入れた。