「先輩、こんな時間にどこへ行くんですか?」
「姫柊か。今夜はちょっと特殊な調合をするから、今のうちに夜食の買い物に行っておこうかと思ってな。 時々ジャンキーな物が食べたくなるんだよ」
俺が家から出ると直ぐに姫柊が隣の家から出て来る。
姫柊は原作通りシャワー中だったようで、かなり水分多めだ。
セーラー服を着ているので、透けてしまいかねない危ない感じだ。
でも、俺はそれをスルーして姫柊について来るか? と問いかける。
「行きます。でも、特殊な調合とは?」
「錬金釜は見せたよな?」
「はい、あの非常識の塊ですね」
「あの釜を使って、ちょっと作りたいものがあってな。あ、秘術関連だから、流石に調合の見学は駄目だぞ。一応、作る時は声かける。いきなり監視が出来なくなることはないから安心しろ」
初日みたいにいきなり監視が出来なくなると、姫柊が不機嫌になる可能があるので予め教えておく。
少し不満げだが、錬金術の秘術を無条件で教えろとは、真面目な姫柊では言えないだろう。
「そうですか。それは仕方がないですね」
「調合する時は部屋の外で待てば良いさ。ところで、一緒にいくか?」
「勿論です。私は先輩の監視役ですから」
俺は「そっか」と呟き、姫柊と共にコンビニへ歩きだす。マンションの一階のエントランスにたどり着いたところで、イベントリからバスタオルを取り出して姫柊の頭を拭いてやる。
「わっ、ちょっと、先輩何を?!」
「途中で、自分から言い出すと思っていたけど、姫柊は無防備だな」
「え?」
「姫柊の今の格好、かなりセクシーだぞ」
俺に指摘されて、姫柊は顔を真っ赤にしながら慌てて部屋に戻った。
そして戻ってきた姫柊は、俺にボソッとこう言った。
「先輩はいやらしい人です!」
「あははは、姫柊は可愛いな」
「茶化さないで下さい」
拗ねた様子の姫柊の機嫌を取りながら、俺達はコンビニへ向かう。
その途中でチェックポイントとも言える場所。
ネコマたんのクレーンゲームがあるゲームセンターの前にたどり着いた。
俺は然り気無く、クレーンゲームを見ながら姫柊に聞こえるように言った。
「あ、ネコマたんだ」
「え、あ、本当です。けれど、あれは?」
「姫柊はやったことがないのか? あれはクレーンゲームというゲームで、金を入れてクレーンを操作して、景品をあの穴に入れると景品が貰えるんだよ」
「景品……」
「あれなら取れそうだし、やってみるか」
「え、あの先輩?」
俺は原作通り、ネコマたんを取る為にクレーンゲームに硬貨を入れた。
「あれ?」
「あ、残念です」
「まだ、4回あるから大丈夫だ」
「頑張ってください、先輩」
「おう、任せろ」
しかし、なかなか取れない。
「む、小銭が無くなったか。ちょっと両替してくる」
「あ、あの先輩?」
俺は少し纏めて両替する。
「ぐあ、また失敗だ」
「せ、先輩?」
「あ、でも、この位置ならこっちの色のネコマたんが取れるな」
「あぁ、惜しいです」
ぐっ、取れない。アームが弱い訳ではない。
ほんの少しのかけ違えだ。
「せ、先輩、流石にそろそろ」
「大丈夫、そろそろ取れるから、両替してくる!」
ここから、俺は徐々に白熱していき。
「先輩! それ以上は駄目です!」
「いや、駄目だ、姫柊! ここで引いたら負けだ!」
「だ、だってもう一万円も」
「問題ない! まだ、二万円も残っている!」
「いえ、先輩、そう言う問題では」
おっかしいなぁ。何故か取れない。何故か取れない。
それからも、俺は失敗を重ねていき。
「お、お客様、沢山遊んでいただきましたので、景品は差し「ちょっと、ATM行ってくる、」」
「駄目です先輩! もう三万円も使っているじゃないですか!? 店長さんもこう言っていますし、今日のところは」
「だが!」
と、ゲームセンター前で、俺と姫柊。ゲームセンターの店長さんで話し合っていると、
「おい、そこの馬鹿。こんな時間に何をしている?」
「あ、那月ちゃん」
「教師をちゃん付けで呼ぶな」
「あだっ」
反射的に那月ちゃんと呼ぶと、黒い扇が顔面に飛んできた。
俺が痛みで動けないうちに、姫柊が素早く事情を那月ちゃんに説明。
ゲームセンターの店長は、那月ちゃんの教師発言に首を傾げていたが、那月ちゃんが身分証を提示したら低い腰が更に低くなった。
冷静に考えると、ゲームセンターの店長的には肝が冷えただろう。
補導されるギリギリで、クレーンゲームで三万円も使わせている。
クレームを入れられると結構まずい。
俺が下手なだけだが、三万円も使わないと景品が取れない。みたいな噂が流されるとゲームセンターとしてはかなり困るだろう。
結局、クレーンゲームはここで終了。
ネコマたん(全三種類)は、ゲームセンターの店長さんから貰った。
「馬鹿な上にアホだな」
「そ、そう言わないてでくれよ。那月ちゃん。結果的に三種類全部手に入ったんだから、――あ痛っ!!」
「教師をちゃん付けで呼ぶな! クレーンゲームの景品一つに一万円か、稼いでいるとはいえ無駄遣いするな馬鹿たれ」
扇で脇腹を小突かれた。地味に痛い。
「まあ、流石に今回は反省しているよ。あ、姫柊」
「は、はい」
「その三匹大事にしてくれよ」
「も、もちろんです! 大事にします」
那月ちゃんのおかげで、ネコマたんが三匹も手に入った。
那月ちゃんにもお礼に一つあげようとしたのだが、「趣味ではない」とやんわり断られたのでネコマたん三匹は姫柊のものになった。
「お前達、早く帰れ。古城は本当に無駄遣いするなよ」
「ああ、分かっている。それと明日改めて時間をくれ。姫柊のことも紹介したい」
「……分かった」(<●><●>)
那月ちゃん、おめめ怖いから止めて。
嫉妬してくれるのは嬉しいけど。
俺達はまだそう言う関係ではないし、姫柊には(まだ)やましいことはしてないからね!?
「お互いのことは知っているだろろうけど、今後のためにな」
これから起こる事件のことを考えれば、顔合わせは必須だ。
「明日の放課後、私の執務室へ来い」
那月ちゃんはそう言うとその場を去り、俺達はコンビニへ向かった。
コンビニに入るとまずはATMで金を下ろす。
それから、唐揚げや姫柊が食べたことのないお菓子などを購入。
凪沙や叶瀬にも何か買おうか迷ったが、流石に散財した直後なので自重した。
コンビニでの買い物を終えそこから出た俺は、スマホで時間を確認する。
すると俺が思っていたよりも、多くの時間が経っていた。
おかしい、襲撃イベントはまだか? そう思いながら俺は歩き出す。
うーん、事が起きるまで少し遠回りするか。
そう考えながら、事が起こった時のために姫柊が持っているネコマたんの入った袋を預かることにする。
「あ、姫柊。ネコマたんの袋落として汚すのもアレだし、家まで俺のイベントリにいれるぞ」
「あ、ありがとうございます。先輩」
俺がコンビニの袋をイベントリに入れながらそう言うと、姫柊は素直にネコマたんが入った袋を俺に渡してくる。
俺がネコマたんの袋をイベントリに入れた直後、爆発音と共に地面が盛大に揺れた。
「な、これは!?」
姫柊の驚く声を聞きながら、更に連続して聞こえてくる爆発音と地面の揺れを感じる。
俺は表情が変わった姫柊の横顔を眺めながら、心の中でようやくお出ましか。クソ坊主! と呟いた。
お久し振りです