GS横島 Step by step   作:カシム0

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この話はもっと前に投稿しておくはずだったのですが、すっかり忘れていまして。
そんなわけで、どうぞ。


ロイター3 6月

 

 古来より、英雄と呼ばれる者たちがいる。

現代にはヒーローと呼ばれる者たちがいる。

 少々ニュアンスが違うが、日本で通じるヒーローと言えば、悪の組織に改造された改造人間であったり、遥か彼方の宇宙から来訪した宇宙人であったり、色とりどりの全身タイツに身を包んだ集団であったりする。

 彼らに通じるものは何か。

 燃える正義の心? 洗練された技? 悪を挫く鋼の肉体? 不屈の魂? 

 むろんそれらもあるだろう。

ヒーローと呼ばれるために必要なもの。これなくしてはヒーローと呼べないもの。ヒーローの物語を終わらせるために必要なものであり、お約束ともいわれる代名詞。

 人それを、必殺技と呼ぶ。

 

 

 

 

 

 ある休日の昼下がり。早朝に出没する集団霊の除霊依頼を総出で終わらせた美神所霊事務所の面々がのんびりとしていたときのこと。

 

「美神さん」

「ん、何?」

 

 美神はデスクでおキヌの用意した紅茶を一口含み、おキヌは他のメンバーの世話を終わらせ自らのティーカップに紅茶を注ぎ、シロはお茶請けのクッキーを口に放り込み、タマモがテレビのリモコンを手にしたとき、横島がソファに腰を下ろしながら言った。

 

「必殺技って、ないですかね?」

 

 停止した。横島の一言に全員が停止した。

 

「な、何この空気!?」

 

 一瞬にして発生した呆れ、困惑の視線にさらされる横島。

 

「何って、あんたに呆れてるんだけど」

「……あほらし」

「ああっ、蔑みの視線が痛いっ!」

 

 美神とタマモの低温の視線を受ける横島。おキヌとシロは必殺技と言う言葉にピンと来ていない様子だ。

 美神がカップを置き、おキヌがソファに腰掛けて、シロとタマモが体勢をただす。改めて皆の視線が横島に集中し、美神が口を開いた。

 

「で、ホントに何いきなり呆れたこと言い出すのよ」

「うわ、また呆れたっていった」

「当たり前じゃない。せっかく梅雨の晴れ間のアフタヌーンティーなのに、気分が吹っ飛んじゃったわよ」

 

 ため息と共に紅茶を一啜り。美味しいのは確かだが気分が乗らない。その原因であるアルバイトを一睨み。

 

「え、えっとですね……GSのやってることってまるきり漫画じゃないですか」

「まあ、肯定してあげないこともないわね」

 

 美神自身、前世は魔族であり、時間移動能力まで持ち合わせている。

 

「そうですよね……」

 

 おキヌが300年間幽霊であったし、彼女の学校の友人は手から光線を出したり、変身スーツを着込んだりする。

 

「まんが……でござるか」

「私あまり漫画読まないし」

 

 存在自体が漫画といえる人狼と妖孤の少女たちは、人界の知識が少ないためかピンとこないようだ。

 

「これだけ特殊能力を持ってるんだから、それを利用した必殺技の一つもあっていいんじゃないかと」

「しょせん漫画の世界じゃないの現実はそんなに甘くないわあんたも今年で高校を卒業するんだからいつまでも夢見たいなこと言ってるんじゃないの」

 

 と、一息で言い切った美神は紅茶をまた一啜り。横島は子供心を忘れた大人の意見に打ちのめされた。まーまーと肩をたたくおキヌの優しさに心洗われるも、

 

「そもそも、あんた文珠っていう反則技持ってるでしょうに」

 

 ロマンを解さない女の発言に穢された。

 

「ちがああああうっ!」

 

 気落ちしていた態度から一転、燃え上がる男、いや漢の気合い。呆気に取られるその他四人。

 

「違う違う! 確かに文珠は便利で何でもできる! それこそここから美神さんのシャワーシーンを覗くことも可能!」

「やっとったんかっ!」

 

 手近にあったバインダーを横島に投げつける美神の形相はまさに鬼そのもの。そして角が顔面に突き刺さり倒れる横島を見下ろすおキヌとタマモの形相はゴミを見るかのよう。

 

「い、いややってませんけど、できるってだけで……」

 

 鼻血は出たものの一瞬にして止まり、復活する横島の不死身っぷりはいつものこと。

 

「ともかく、かっこよさを追求したいんですよ! 依頼人のねーちゃんが俺に惚れちまうような!」

「だから、それをやめろってんでしょ!」

「ぶっ!!」

 

 とうとう美神の突っ込みは神通棍による一撃となった。しかも高出力によって神通鞭となった一撃は、横島の顔面を直撃しリビングの壁に人型をめり込ませた。

 

《美神オーナー……敵の襲撃ではないのに力を裂きたくはないのですが》

「文句があるんならそこのギガバカに言いなさいっ!」

 

 事務所である人工幽霊壱号の懇願はあっさりと棄却されたのだった。

 

 

 

 

 

 

「つまりですね。俺って自分の霊能を使いこなしていないんじゃないかなって思ったわけですよ」

「えーと、<サイキック・ソーサー>と<栄光の手>と<文珠>ですか?」

 

 横島の霊能はおキヌが挙げた三つ。

 霊力を集中して六角形の盾を作り出す<サイキック・ソーサー>。

 霊波刀にもなる伸縮自在の篭手<栄光の手>。

 文字を込めることで効果を発揮する〈文珠〉。

 

「どれも絶体絶命な状況で気がついたら出来てたもんで、使いこなしてるって感じがしなくて」

 

 道具として使っているのであって、自分で編み出した技という実感がないと横島は続ける。横島の言い分は理解できるが、贅沢な悩みというものだと美神は思う。

 霊能は基本的に個々の才能や資質に細分される。古来より引き継がれてきた流派で学んだ者らも少なからず個人差がある。だが、業界の中でも横島ほど特殊な能力の持ち主は少ない。いないと言ってもいい。

 <サイキック・ソーサー>や<栄光の手>のように何の触媒も用いず霊力を具現させることは並のGSにはできない。同じことができるのは魔装術の使い手くらいだろう。

そして、〈文珠〉は現在、人界でただ一人横島だけが作ることができる万能具だ。

横島は、戦闘に関しては美神のように道具を使わずとも同等の戦果を生み、アフターケアでも文珠を使えば除霊現場を霊的に安定させることまで可能なのである。

 これだけコストパフォーマンスに優れたことができてまだ不安があるとは贅沢な話であるが、歩みを止めれば成長は止まるのだし、向上心の現われということだろうか。

 

「で、自分で編み出した必殺技を会得して自信を付けたい、とかそういうこと?」

 

 最初はただの馬鹿話だと思っていたが、その実横島は意外にもよく考えていたようだった。まあ、考えた結果が必殺技に行き当たるあたり馬鹿な話に変わりはないが。

 

「おお、たゆまぬ努力を惜しまぬとは! さすが先生でござる!」

「めちゃくちゃ好意的な見方よね、それ」

 

 横島への尊敬に目を輝かせるシロに、クッキーに手を伸ばしながらタマモは呆れた視線を隣へ向ける。

 

「横島のいう必殺技ってどんなものなの?」

「えーと……………………必殺?」

 

 馬鹿話に付き合うのもいいかなとティーセットをテーブルへ移していた美神は、やっぱりやめようかなとか思ったり。

 

「どうせあんたの頭じゃ、漫画みたいに『ナントカ流奥義』だの『スーパーなんちゃら』程度しか思い浮かばないでしょうに」

「ひでえ! でもその通りだししかも否定できないのが悔しい!」

 

 〈サイキックソーサー〉の正式名称は『スペシャル・ファイヤー・サンダー・ヨコシマ・サイキック・ソーサー』だったりする。もっとも、今となっては当の横島ですら覚えていないのだが。

 

「そもそも実戦でそんな技名叫んでる暇ないと思うけど?」

 

 タマモの意見は冷静なものだが、意外にも反論は美神だった。

 

「あー、でも技名叫ぶってのはそれなりに意味があるわね」

「美神さんって、そういうの子供っぽいって嫌がる方だと思ってましたけど」

 

 おキヌの問いに美神は苦笑する。実は結構のりのりで適当な技名を叫んだりすることが間々あったりする。

 

「簡単に言うとスイッチよ」

「すいっち?」

 

 つまみをひねるような仕草をする美神におキヌが首をかしげる。どことなく子供っぽい仕草である。

 

「そうね……例えばタマモ。あんたの狐火って形を変えられるわよね」

「うん。あ、そういうこと」

「今のでわかったのでござるか?」

「馬鹿犬にもわかるように簡単に説明してあげるとね」

「……狼でござると言いたいが、今は聞いてやるでござる」

 

 ふふんと笑うタマモに悔しそうなシロだが、ふてくされた表情をしながらも目をそらさない。

 

「例えば狐火は、出ろって念じれば出てくるわけだけど、このとき特に具体的なイメージをしていないから人魂みたいな適当な形になっているわ。そうね……鳥の形にして出そうとすると、その形をイメージする時間が必要になる。ま、微々たるもんだけどね」

 

 立てた人差し指の上に生み出した狐火が、タマモの説明に沿って姿を変える。人魂から翼を広げた鳥類の姿になり、止まり木のように指に降り立った。

 

「んー、まあ適当に<科学○法火の鳥>とか技名を付けるでしょ?」

「ちょっと待て! 科学でも忍法でもないし、あんた実はアニメよく見てるでしょ!」

「しかもチョイスがかなり古いぞ」

「適当に言っただけよ。何度も続ければ頭で勝手にイメージをして、変形までスムーズになるって訳よ。これが美神さんの言ったスイッチ。術式を組み立てる速度を早めることができるのが効果の一つ」

「一つに、と言うとまだ意味があるのでござるか?」

 

 シロ自身は術の類を使うことはないが、興味が出たのだろう。しっぽを振って早く早くとせがんでいる。

 

「神官、僧侶、魔術師、陰陽師、と色々いるわけだけど、使う術はみんな大本は精神力とかそういったものを使うんだから、気合いが入っていれば効果も違ってくるわね」

「ほおー、剣を振るう時に掛け声のあるなしでは力の入りようが違うでござるが、それと似たようなものでござるか?」

「ん、まあそれは肉体の構造的な話だけど、似てるっちゃ似てるかもね」

 

 と、美神の説明が終わり、ふとおキヌは今回の話の元でありながらも、一向に話に入ってこない横島を見た。

 

「横島さん? さっきからお話に参加されていないみたいですけど」

「ん? ああ、なんかすげえ納得してたところ。漫画で盛り上がりのためにやってるんだと思ってたことにも意味があるんだなって」

「漫画家がそんなこと考えてるわけないでしょ。言ってしまえばこじつけよ、今のは」

「そうね。第一鳥の形にする意味が無いし」

 

 やはり、美神は身も蓋もなくタマモもクールである。感心し納得していた横島は、またもや打ちのめされたのだった。

 

 

 

 

 

 その翌日。

 

「必殺技……か」

 

 梅雨に入り天候が不安定な時期になった。今日も朝方は晴れていたものの、昼休みになってから急に空が曇り始め、今にも雨が降り出しそうである。

 そんな空をぼうっと見つめながら、横島は呟いた。対応に困るのは級友達である。

昼食を取り終え、雑談や読書や持ち込んだゲームを楽しんでいた気持ちが一気に引きつけられてしまった。

 横島はクラスの微妙な空気に気づかず、まだ空を見上げている。

 そんな横島に声をかけたのは、いつも一緒に昼食をとり(といってもピートに届けられた弁当を奪い取っているわけであるが)今もまた机を近づけ雑談に興じていた除霊委員会の面々であった。

 

「よ、横島さん? どうしたんです」

「ん? 何が?」

「何がって、横島クン。今のセリフよ」

「今のセリフって、何だよ」

「横島サン、必殺技がどーのとか言っておりましたけえ」

 

 タイガーの言葉に、横島はぎょっとした表情になる。

 

「え、俺口に出しちゃってた?」

「はっきりと」

「クラス中のみんなが聞いてたわよ」

「ですのー」

 

 教室内を見渡せばクラスメイトの微妙な表情。一部は可哀そうな人を見る目だ。眞子と金井だったが。恵はどことなく面白そうな表情だ。

 あちゃーとばかりに顔を覆う。よくよく考えていたことを口に出してしまい美神にしばかれていたが、肉体的な攻撃ではないにしろ白い目で見られるのは精神的に堪える。

 

「ああ、いや。何でもねえ。何でもねえから俺をそんな目で見てくれるな」

 

 手を振りおどけたように言うと、注目は波が引くように消えていった。多少はまだ様子をうかがっているようであるが、ともあれ。

 

「この癖は本気で直さんとな。美神さんにしばかれ、おキヌちゃんに怒られ、碌なことがねえや」

「おキヌちゃんに怒られるって、何やらかしたんです? たいしたことですよ、それ」

「そうよね。おキヌちゃんが怒ってるのなんて見たことないわ」

「……まあ、それはともかくだ」

「横島サンは何を考えていたんですかいノー?」

「何を、ってまんま必殺技のことだよ」

 

 椅子にかけなおし、三人に向きなおる。

 この場では愛子を除いた三人の男のみが知っていることなのだが。

 

「ほれ、例の件でまたぞろきな臭くなってきただろ?」

「例のって、ああ、あれですか」

「中心になっているのは美神さんの事務所ですけえ、横島サンも大変ですジャー」

「んーと、よくわからないんだけどお仕事の話なの?」

「ああ、また厄介事のど真ん中にな」

 

 ことがことだけに人目のある場所で話せる内容ではないので、横島も言葉を選んでいる。だがそもそも愛子の興味はそちらにはなかったようだ。

 

「ふーん。大変なのはわかったけど、なんで必殺技?」

「そりゃお前、逃げるためだよ」

「「「……はい?」」」

 

 横島の言葉に三人が首をかしげる。聞き耳を立てていたクラスメイトの数名も同様だったりする。

 

「俺さ、仕事だと前衛になるわけだ」

 

 以前にも述べたが、他のメンバーの能力との兼ね合いから、横島はシロと共に前衛になることが多い。

 

「前衛いうたら最前線、敵の真正面、いっちゃん攻撃が集中する場所だ。俺は死にたなかい」

 

 つまるところ、横島は自分の実力に自信が持てていないのだろうと、ピートとタイガーはわかった。出会った当時は霊能のかけらも見せなかった横島が、階段を数段飛ばしで駆け上るかのように成長していく様を2人は近くで見ていた。

 認めづらいところはあるが、今の横島の実力は2人よりも上かもしれない。いや、世界有数とも言える美神令子とも互角以上に戦えることから、すでに追い越されているだろう。

 しかし、横島のコンプレックスなのか、この世で一番信じられないのが自分であると言い、どんな相手でも腰が引けている。逃げられないとならば結局は立ち向かうのだが。

 

「もしどうしようもなくやばい状況になった時のために、最低限逃げられるように意表を突く必殺技を考えとかんといかんのだ」

「に、逃げるための必殺技ですか……」

「横島さんらしいですノー」

 

 前向きなのだか後ろ向きなのだか。この意気込みをどうとったものか、考えものである。

 

「まあ、ここ最近色々考えててさ。新技っちゅーか応用技みたいのは何個かできたんだけど、どうもピンとこなくてな」

「へえ、どんなのです?」

 

 ピートの問いに横島は技を披露しようとし、教室であることから諦めた。無闇に人目を引くのはよろしくない。

 <サイキックソーサー>を複数展開する<マルチソーサー>、ソーサーを離れた場所で接触爆破させる<遠隔猫だまし>、両手に<栄光の手>を展開するのは元が複数形であるから省き、<栄光の指>と〈栄光の足〉を言葉だけで説明した。

 

「でも、なんか俺の考えてる必殺技とは違っててな」

「それだけのことができて納得いってないんですかいノー」

「私、人間の術には詳しくないけど、それでも横島クンが器用なことしてるっていうのはわかるわよ」

「器用って、そんなことねえだろ?」

「何言ってるんですか」

 

 横島の言葉にはあと溜息をつく三人。妙に息が合っている。

 

「そもそも僕やタイガーが、いや普通のGSが霊気を集中させたところで横島さんみたいなことはできないんですよ」

「え、なんで? 雪之丞とかあっという間に真似してきやがったけど」

「雪之丞は魔装術っていう下地があったからです」

 

 この場にいないが、かつて魔族の手下として横島やピートとGS資格試験で激戦を繰り広げ、最終的には魔族を裏切り人類側に味方した背の低い三白眼の少年がいる。

 名を伊達雪之丞といい、試験で互角の闘いをしたピートや相打ちとなった横島を高く評価し、ライバルとまで呼んでいるある意味勘違い男である。

 

「魔装術は霊波を集束して鎧をつくりますが、本来人間一人の力ではそんなこと簡単にはいかないんです。契約した魔物の霊格あってこそできるんですよ」

「じゃけえ、魔装術を使えない横島サンがそういった術を使えるっていうのは、器用だと言っておるんですじゃ」

「へー、そういうもんかねえ」

 

 横島にしてみれば、自分ほど不器用なGSはいないと思っている。何せ、横島の霊能はただ一つ、『力を一点に集中し、一気に放出する』ということだけだ。最初の師匠である心眼に教えられた、基本しかできていないのだ。

 

「とにかく、俺はもっとこう……必殺技! ってのが欲しいんだ。てなわけで、ヴァンパイア昇竜拳とかヴァンパイアオーバーヘッドキックなんて技を持ってるピート。何かアドバイスよこせ」

「それを今言いますか……」

「なんですかい、それは」

「テレパシーっていう必殺技に不向きな能力をもったお前には関係のない話だ」

 

 横島の心を抉る言葉にさめざめと涙を流すタイガー。とは言え、大男の涙を見ても誰も慰めようとは思わなかった。

 

「そうですね。行き詰っているのなら、これまでの除霊からヒントを得てはどうです?」

「これまでのって言うと、どんなんだ?」

「わかった。つまり横島クンが今まで経験した、手ごわい敵を倒したときの方法を参考にすればいいのよ」

「ああ、そういうことか」

 

 言って思い返す。

手ごわい敵、というのは様々だ。力がけた外れに強い敵、特殊な能力を持っている敵、頭がよくしつこい敵。

 霊能に目覚める前、目覚めてからを思い起こし、最も印象が強い敵と言えば、

 

「メドーサ、かな」

 

 メドーサ。本来は神族に属する竜神であったが、魔族と通じ美神事務所の面々と幾度となく激闘を繰り広げてきた。“大霊障”前までの最大の強敵と言っていい。

 

「でも、あいつを倒したときってーとな……」

 

 メドーサは都合二度復活し、三度滅んでいる。

一度目は月面での戦いでの折り、美神の放った銃弾に撃ち貫かれた。

 二度目は横島の腹を経て月面で復活したが、戦いを終え地球に帰る際の横島の機転で大気圏に消えた。

 三度目は“大霊障”の最中コスモプロセッサによって復活したが、やはり横島の文珠により斃された。

 

「特殊な技とか使ったわけじゃないし」

「というか、やっぱり文珠が必殺技でいいんじゃないですか?」

「ですノー。汎用性もあってかつ強力なら、十分じゃと思いますけえ」

 

 改めて思い返してみれば、他にも強敵と呼べる存在はたくさんいる。しかし一番力の桁が並外れていた究極の魔体も、三姉妹最初の手下である亀の魔物も、いくら切っても突いても平気な顔をしていたゲチョグロの魔物も、暴走した式神も、最後は全て弱点に全力の一撃だ。

 

「つまり、勉強と同じで基本が大事ってことじゃない?」

 

 愛子のセリフは、納得がいかないながらも理解できてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 放課後、バイトに向かう横島は物思いに耽りながら歩いていた。思う内容は変わらず必殺技のこと。

 

(結局、何も思いつかないってのも寂しい話だ)

 

 必殺技を会得したいという横島の想いは、美神らに話したこともピートらに話したことも、どちらもが本音である。

 そして、誰にも語っていないもう一つの本音も。

 

「あ、くそ。雨降ってきやがった」

 

 鞄から折りたたみ傘を出し掲げる。雨になると美神は外に出る気を無くす。下手すれば依頼をキャンセルしかねない。待機時間だけでもバイト料は出るが、依頼をこなすときとは大幅に差が出る。懐事情のためにもやる気を出してほしいものだ。

 

(やる気、か。美神さんは今回の事件にどんだけやる気なんかな)

 

 思い、考えるまでもないと結論が出る。

 毎度のことながら、事件の中心に位置する美神除霊事務所。経過がどうあれ魔界から依頼料と貸しを得られるのだから、仕事となれば積極的に関わっていくだろう。そうなれば事務所のメンバーも同様だろう。

 事件解決のために動いているワルキューレらは言うまでもない。疑いを持たれているベスパだって疑いを晴らすというよりは、黒幕をぶんなぐるためにがんばるだろう。

 知り合いのGS連中もそれぞれの理由で絡んでくるだろうし、オカルトGメンは霊障解決が仕事だ。

 これまでの事件から危険度はかなり高いと言える。だからと言って危険から遠ざかろうとする連中ではない。欲やら任務やら義務感やら何やかやで、進んで渦中に飛び込むだろう。

 横島は痛いのも怖いのも嫌だと、常日頃から言っているし思っている。厄介事も誰かが代わって解決してくれるならそれでいいと思っている。

 思わないでもないが、

 

(俺みたいなちっぽけな奴でも、関わっちまったからにはできることをしないとな)

 

 世界を救うなどと英雄願望はない。平和を守るのは警察に任せる。ノリで言うならともかく正義を語るつもりはない。

 ただ、自分や知り合いが傷ついたり悲しい想いをしたりするような、後味の悪いことがなければいいと思う。

 

(もう、あんなことは、一回きりで十分だし)

 

 そこまで考え、夕焼けを見たわけでもなく、東京タワーにいるわけでもないのに、妙にセンチメンタルになっている自分に気づく。

 梅雨の空が物憂げな気分にさせたのだろうか。

 シリアスな考えをリセットしようと自らの頬を強く叩き、

 

「いってぇ……」

 

 強く叩きすぎて、通行人に変な目で見られてしまったのだった。

 

 

 

 

 

「必殺技っていったら、何を思い浮かべる?」

 

 ふと思いつき、霊能とは関わりのない面子に質問してみる。

 一様に、「は? 何バカなこと言ってるんだ」という顔つきになりながらも、応えてくれるあたりノリのいい連中である。

 

「そりゃお前、キックとか腕から光線とか合体武器バズーカだろ」

 

 昔から連綿と続く特撮ヒーローを語る金井。今でも日曜に早起きした時は何となく見ているという。

 

「ステッキから魔法、かな?」

 

 対してこちらは女の子向けのお約束番組魔法少女を持ち出した眞子は、似合わねえなあという横島のセリフに、赤面しつつ肘鉄を横島の脇腹に突き刺した。

 

「ドリルは必須だよね。でも必殺技って言ったら、やっぱり拘束ビームからの必殺剣の必殺斬りじゃない?」

 

 意外なことに勇者を語ったのは恵である。横島は友人の新しい一面を知った。

 

 

 




必殺技は少年マンガには必須です。でも、GS美神にはないんですよね。
ってなわけで書いた話でした。
ちなみの私は必殺技とか、大好きです。
じゃあまた。
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