年始は少し間を開けます。
この話は若干ややこしいと思いますが、ニュアンスがわかれば大丈夫です。なんか変なことが起こってんだなーくらいで。
じゃあどうぞ。
明けて翌日。オカルトGメン日本支部の一室に、日本GS業界のトップクラスのメンバーが勢ぞろいしていた。
職場である西条と顧問である美神美智恵、その娘である美神令子。美神親娘の師匠である唐巣神父、自他ともに美神令子のライバルである小笠原エミ、名門六道家の後継者六道冥子である。
唐巣とエミは弟子のピートやタイガーと同行していたが、弟子の二人は隣のオフィスビルにある美神除霊事務所で待機していた。場にいることを拒否されたわけではなく、二人は自身の意志で事務所へと向かっていた。正確には、事務所にいる横島のもとへであるが。
座る面々に対し音頭をとるのはやはり美智恵と西条の二人。つい昨日に起こった遺産の関わる事件についての説明をする。
「……と駆け足でしたが、以上が作戦の概要です。これまで皆さんには通常の業務に絡んでくる遺産に関しての協力をお願いしていましたが、今回を機に改めて現状の再確認の必要があると思い場を設けました」
事の起こり、つまりシロとタマモが遭遇した狂った山の獣たちに始まり、隊員たちの収集した資料とワルキューレら魔族との共同作戦の展開、メドーサの復活と作戦の終結。
勘九郎の存在を聞いたエミや唐巣は、自身が退治した餓鬼やアセトアルデヒドなどは、異世界の食べ物を食べるとその世界の住人とされコスモプロセッサの崩壊に関係なくこの世に残ったという勘九郎の推測から合点がいった様子だ。弱りながらも復活したという事実にもあてはまる。
過不足なく、要点をまとめた非常にわかりやすい説明だった。現場を経験しているのは美神ただ一人であるが、その美神自身が説明してもこれ以上に上手く説明はできないだろうと思える。
だが、美智恵の言う通りに事態は異常なのである。元々悪霊など異常を相手にするGSであり、春から続く遺産が絡む事件も群を抜けていたが、彼らから見ても今回の一件はさらに頭一つ抜けて異常に過ぎた。
「昨夜、魔族の対策チームからの第一次報告書が届きました。回収された遺産は“合成”。本来、複数のエネルギーを合成するだけの能力を持っていた鬼械でしたが、対象の霊基構造を書き換えるように手を加えられていたとのことです。そしてそれは、“変質”の鬼械の能力のはず」
「突出した霊能を持っていない動物へ霊能を与えたり、霊気構造を魔へ傾け凶暴性を増したり、ということかな?」
「ええ、そうです。そうして霊基構造を書き換えられた動物は共食いを繰り返し、それぞれの霊基を合成されキマイラへとなった、とのことです。
ただ、件の山へ調査部隊を派遣したのですが、遺産が山を離れたからか、動物たちは平穏を取り戻したようです。汚染深度が深かった動物たちは軒並みキマイラへと変じたのか、危険なレベルの動物は発見されませんでした」
今回の異変で人間や人里に被害は出なかったことは喜ばしいことではある。規模が一つの山だけで済んだことは不幸中の幸いと言えた。
「ちょっといい、隊長さん? その遺産、“合成”の能力はわかったけど、それとメドーサの復活とは関係あるワケ?」
資料を眺めていたエミが口を出す。メドーサほどの大物ではなくとも、妖怪の復活と思われる同様の事態に直面していたのだから、気にはなっていたのだろう。
「その点については、西条君お願い」
「はい」
これまで美智恵の補助をしていた西条が資料を手に席を立つ。
「僕自身、メドーサを見たのはコスモプロセッサで復活したあの時の一回きりですが、まず、今回令子ちゃんたちが相対したキマイラ、そこから生まれた蛇の魔獣。こいつは、我々の知るあのメドーサで間違いないようですね」
神魔は調和ある対立を継続する方針であるため、強大な力を持つ神魔は滅んだとしても強制的に同じ存在として復活させられる。だが、メドーサは上級魔族ではあるが、そのくくりには入っていない。にも拘らず魔族の復活は幾度も上級魔族と矛を交えている面々には経験のあることだった。メドーサは横島の腹に潜み若返って復活したことがあり、ベスパもバラバラになった霊基を集めて復活したことがある。完全に滅んでいなければ霊基を集め同じ存在として蘇ることができる。逆に言えば霊基が足りなければ自我も記憶も失い、少し似ているだけの別人となるであろうと言われている。
さらにコスモプロセッサによる復活は、厳密にはコスモプロセッサが内包する平行世界の存在が召喚されたというのが正しい。その存在はコスモプロセッサの崩壊により消滅しており、メドーサは横島により撃退されている。ならば、キマイラと化して現れたメドーサに、いったい何が起こったのか。
「回収されたメドーサの霊基構造は不純物が混じっていたそうですが、魔族のデータベースに保存されていたものと配列が一致したそうです。
さらに、ワルキューレがメドーサの復活を魔界に報告したところ、メドーサの霊基は回収するなどしておらず、しかしながらメドーサが滅びた地点での調査に残渣が確認できなかった。よって、何者かがメドーサの霊基を回収、保管している可能性は少なからず考えられる。との回答を得たようです」
「回りくどい言い方だけど、それはメドーサの手先か何かがメドーサの復活を企んでいるということ?」
「あくまでも可能性は否定できないレベルの話だけどね。実際、メドーサは薄くとも自我があり、記憶も持っていた。そうだね、令子ちゃん?」
「そうね。私と横島クンに執着していたようだし、恨まれる覚えもあるし」
キマイラからメドーサが生えてきてからの言動は、美神と横島への恨みを晴らさんとしていた。つまり、恨みの記憶とそれを実行する自我を持っていたものとして間違いないだろう。
西条は続けて資料の遺産の項目を指示する。能力として様々な数値が記載されているが、機械にも鬼械にも精通していない面々には理解のできない数値の羅列にしか見えない。
「″変質″の遺産であればエネルギーの質を劇的に変えることができるようだけれど、“合成”の遺産に追加された機能は不十分。先程、先生や唐巣神父が言ったように、霊能を持たない者へ霊能を与えるなどといったことが出来るようですが、それぐらいしかできない。個々に芽生える霊能には人間と同じく差異があるようです」
西条が指示したのは資料の下部、遺産を分析した土偶羅魔具羅が例として記載した遺産によってできる事柄だった。
曰く、霊力の増大による身体能力の向上、テレパシーによる相互理解の促進、霊波を身に纏い武装化する。どれも事前の調査により判明していた能力である。
「以上の情報から、先生と僕で二つの推論を立てました。
一つ。遺産関連の事件を引き起こしている一派とメドーサの霊基を回収する一派がいるとして、それらが協力関係にある場合。“変質”させた山の動物を共食いで“合成”させ、蟲毒の要領でメドーサの復活を目論んだ。
二つ。関係がない場合。遺産による騒動に便乗し、やはりメドーサの復活を狙った。
どちらも確実性にはかけますが、実際メドーサには薄くとも自我があり、記憶が戻っていた。しかし時間がかかる上博打のようなもの。山一つをほぼ全滅させながらも、それだけの成果しか出せていない。
エミくんが気にしている様な、今回のメドーサレベルの魔族ないし魔獣が量産されることは低い、もしくは選択肢から排除しても構わないでしょうね」
「あら、私そんなこと言ったかしら?」
「違ったなら失礼」
とエミは言うものの、優れた洞察力を見せた西条に感心すると同時に、悪魔と対峙することの多い呪術師として簡単に心中を察知されてしまった自分に呆れ小さく舌打ちをする。最も、興味を隠すというのも無理な話ではあるが。
「あの~、メドーサは~何か言っていたんですか~」
「昏睡状態で尋問はまだできていないそうです。回復したところで話してくれるとも思えないのですけれど」
資料と睨めっこをしていた冥子への質問に、西条と交代した美智恵が答える。本日の会議前に六道先代から電話を受け、会議で冥子が全くの空気であったならば再修業、とのことであるので表情は真剣だった。
とはいえ、本日の会議は現状の再確認と報告であるので、終わるのも早いのだった。
「さて、皆さんを呼んだもののお話しできるのはこれぐらいなんです。相変わらず、誰が何故何の目的で騒動を巻き起こしているのか判明していません。魔族側からもこちらで対処する、の一点張りです」
「Need to knowとでも言いたいのかしら? あいつらも目星付けてるんだから、いい加減教えてくれればいいのに」
「今回は“大霊障”時と違って冥界への妨害がなく魔族が動けるのだから、自分たちの不始末は自分たちでやる、ってところなんだろうね」
「せめて目的だけでもわかれば対応もしようがあるのだろうけれど」
ワルキューレら魔族からの情報提供は“合成”の遺産の解析結果とメドーサの状態のみの一方通行なものだった。
実行犯は誰か、盗んだ遺産を放置していくのは何故か、何がしたいのか、といった質問を直接間接問わずしても、答えられないと返されるのみであった。軍人であるのだから情報管制は当たり前であるが、もどかしいことに変わりはない。
「ところで、今さらなんだけどドクター・カオスは呼ばなかったの? ボケたおっさんだけど、こういう技術関係では少しは役に立つんじゃない?」
「ああ、電話がないから直接会いに行ったんだけど、マリアからドクター・カオスは作業中とだけ聞いたよ。資料は置いていったから、何かわかったら連絡が来ると思うんだけど」
「ったく、あのおっさんが役に立つのはこういう場面だけでしょうに」
会議が終了し、場はお茶会へと転じていた。結局のところ、今まで通り通常業務を行い、遺産が関わると判断されたならオカGへ連絡する、という結果に落ち着いたのだった。
事態が変わったわけでもないので仕方のないことではある。
「そうそう、ママ、西条さん。私八月になったら精霊石のオークションで一週間ザンスに行ってくるから。冥子とエミも行くでしょ?」
「もちろんよ~、令子ちゃん」
「行くけど、あんた今回は自重しなさいよ。この間みたいに値釣りあげられたらたまったもんじゃないワケ」
神妙な顔をして唐巣と話していた美智恵が顔を上げる。
「ええ、そちらの都合を優先してかまわないけれど。事務所はどうするの?」
「おキヌちゃんも来年のGS試験に向けて修業しておきたいんだって。妙神山で時間かけた修業できるらしいし、ついでにシロとタマモも小竜姫たちに紹介しておこうと思って」
「本来妙神山は、成長が頭打ちになった霊能者が向かうところなんだがね」
「かと言って、おキヌちゃんレベルのネクロマンサーが恐山に行っても今さらでしょう?」
「それで令子、引率は彼が?」
「うん、まあ不安はあるけどね」
「俺がっスか!?」
「そう、横島クンがよ」
会議が終了し事務所へと戻った美神は、おキヌの給仕を受け何やら広間で横島と話し込んでいたピート、タイガーを帰らせ、事務所のメンツを広間へと呼び寄せる。
そして、おキヌ、シロ、タマモの妙神山での修業に同行することを横島に命じたのだった。
「三人を妙神山まで連れていって、残ってもいいし戻ってきても構わないけど、ちゃんと迎えに行くこと。出張扱いだから報告書もしっかりと提出しなさいね」
「それって交通手段とか旅費とか含めってことスか?」
「これぐらいできるだろうから任せるのよ。やってみせなさい」
「う、うっス。……ん?」
美神の口調はそっけないものだが、命じられた職務は一バイトに任せるレベルのものではない。
つまり美神の横島への信頼の深さを表しているといえる。
つまりつまり、
「それは美神&横島除霊事務所にしようって誘いのお言葉でブッ!」
横島の妄想と跳躍は美神の無言の一撃により、人体から発する音とは思えない鈍い音と共に鎮静化した。
紅茶を一啜り、ジト汗をかく残る三人に目を向ける。
「そんなわけで、八月に入ったら妙神山ね。別に私が戻るころに合わせなくてもいいけど、六道は今年も臨海学校あるんだっけ?」
「え、ええ。半ばになりますけど」
「じゃおキヌちゃんはそれに合わせて戻ってくるとして。シロとタマモは事後承諾になっちゃったけど、もし嫌ならママに面倒見てもらうよう頼むわよ」
倒れこんだ横島を抱き起こすシロと、クッキーをかじるタマモは妖怪であるため街の滞在にはGSの管理下にある必要がある。もしくは以前にも捜査に協力したオカルトGメンの世話になるか、だが。
「妙神山というのは神剣の使い手小竜姫殿がおられる場所でござったな。願ってもないことでござる」
「ん、そうね。神族ってのはまだ見たことないし。いいわよ」
経験を積むという視点で見れば修業として日々を過ごすほうが格段である。未だ横島との賭けに勝てていない二人としては、実力の底上げを図りたいという気持ちがあるのだろう。迷う必要もなかった。
今年もお世話になりました。
来年もよろしくお願いします。
じゃあまた。