GS横島 Step by step   作:カシム0

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パピリオの口調を勘違いしてました。
ヨコチマとかワタチって言ってるイメージがあったんですけど、実は結構ちゃんとした口調なんですね。
じゃあどうぞ。


第十三話 私にも意地があるんです

 パピリオ。

 “大霊障”において魔神アシュタロスの尖兵として人界で暴れまわった三人娘の末、蝶の化身。

 その身に秘める力は凄まじく人間とは文字通り桁が違うが、外見通りに口調も幼く精神年齢もまた同様に幼い。

 そんな彼女であるから、生みの親と姉の死、残ったもう一人の姉と離れ離れになっているという状況は辛く厳しいものであっただろう。

 しかし、幼いと同時に彼女はとても聡くもあった。

 戦犯として処断されるのを回避できたのは、情状を酌量されたが故の特例であること。現状を不服とした態度や行動を示せば、自身のみならず魔界の軍に籍を置く姉にも迷惑をかけること。彼女はそれらを理解していたのである。

 故にかつて自身を含む姉妹で侵攻し壊滅せしめた神族の拠点での生活、優しく迎えてはくれたが見ず知らずの上敵対していた神族との修行の日々。彼女はそれらを受け入れねばならなかった。

 心を許せる者は身近におらず、新たに作るには周囲の神族の立ち位置が特殊すぎた。監督と言えば聞こえはいいが、実質は監視である。自身や当人がそうと思っていなくとも、その一面があるというだけで聡い彼女は心を許しきれずにいたのであった。

 だから、鬱屈した気持ちが爆発するのも時間の問題に過ぎなかったのである。

 

 

 

 食後、パピリオは自室で横島が来るのを待っていた。夕飯の後片付けの最中、横島に後で部屋に行くから待っていろ、と言われたのだ。

 待ち遠しかった。久しぶりに会うヨコシマとどんな話をしよう、何をして遊ぼうか。明日には帰ってしまうのだから、今日はずっと一緒に寝てもらおうか。

 

「あ、そうか……ヨコシマ、明日には帰っちゃうんだ」

 

 自身が呟いた言葉にパピリオは、心のどこかがざわつくのを感じた。そして同時にそれを押さえ込まなければと思った。

 ヨコシマにはヨコシマの生活があるのだから邪魔をしちゃいけない。いつかのようにずっと一緒にいたいなどと考えてはいけない。

 

「パピリオが我儘を言えばヨコシマが困っちゃう。誰かを困らせるようなことしちゃいけないでちゅ」

 

 膝を抱え込んで座り、膝頭に顔を埋め、パピリオは横島が来るのを待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 横島は小竜姫の部屋を訪れ用事を済ませ、パピリオの部屋へと向かっていた。久しぶりに会うパピリオとの交流に心弾ませる、というわけにはいかなかった。

 彼女が抱える問題について頭を悩ませていたからだ。それほど入り組んだ話ではない。何作かテレビドラマを見れば似たような話はいくつか見つかるだろう。言ってしまえば使い古された設定ともいえる。

 だが、実際問題として解決できるかというと、また別の話だ。簡単な解決策はあるものの、そこに至るまでの道程をどうするかがわからない。

結局考えがまとまることはなくパピリオの部屋の前に到着し、一瞬考えた挙句とりあえず話してみるかと決めた。人それを、ノープランという。

 

「おっす、待たせたか?」

「ヨコシマ!」

 

 体育座りをしていたパピリオが埋めていた膝から顔を上げる。変わらぬ笑顔のようにも見える。しかし、涙こそないものの目が潤んでいるのがわかった。もう少し横島が来るのが遅ければ泣いていたのではないか。それとも、それを押さえ込んだだろうか。

 

「遅いでちゅよ、まったく! 乙女を待たせるなんていけまちぇんよ」

「わりいわりい。今後の予定を小竜姫様と話しててな。三人を迎えに来る日取りとか」

「あ……そうでちゅよね。重要なことでちゅもんね」

 

 曇る笑顔にとてつもなく悪いことをしているような気分になる。やはり女の子が笑っていないと気分がよろしくない。

 横島はわしゃわしゃとパピリオの頭を撫でる。柔らかい髪を指で梳くと、体躯の小ささがよくわかる。

 

「さっきも言ったけどさ、今日は遊び倒そうや。とりあえずトランプと花札持って来たぞ」

「時代に逆行してまちゅねぇ」

「ここにゃこんぐらいしかなかったからしゃーないやろ。老師んとこいきゃゲームステーションでもあるんだろうけど。折角の機会だ、二人で遊ぼうぜ」

「うん、そうでちゅね」

 

 七並べ

 

「ヨコシマ、いい加減にハートの8を出すでちゅよ!」

「いやいや、まだ他に出せるのがあるからな」

「うう~、パス2でちゅ」

 

 ポーカー

 

「フルハウス!」

「フラッシュ!」

「どっちが強いんだっけ?」

「知らないでちゅ」

 

 ブラックジャック

 

「頼む、後一枚引ければ、ファイブカード……!」

「がっ……駄目っ……!」

「くっ、頼むなんてっ……自分以外頼る者などない……骨身に染みて……知っていたはずなのにっ……!」

「小芝居はやめでちゅ。ブラックジャック」

「そうだな。バスト」

 

 こいこい

 

「ふっふっふ、パピのためにある役でちゅ、猪鹿蝶!」

「猪も鹿もいらねえよ、もう」

「何があったんでちゅか?」

 

 おいちょかぶ

 

「クッピン!」

「アラシでちゅ!」

「っぐ……これが天の与えた……剛運っ……!」

「まだ続けるんでちゅか? その小芝居」

 

 二人でも遊べる思いつく限りのゲームをやってはいたが、それでもネタは尽きる。

 夜も更けてきてパピリオが眠たそうに欠伸をし、ごまかすように口に手をやった。以前にも同じようにやっていたと思いだし、横島は苦笑した。

 

「眠いならそろそろ休むか?」

「ま、まだ大丈夫でちゅよ。ほら、次は何やるでちゅか?」

 

 花札を整えるパピリオを見て、横島はそろそろいいか、と佇まいをなおす。

 

「いや、遊びはおしまいにして、話そうぜパピリオ」

「うーん、残念でちゅがそうしまちゅか」

 

 トランプと花札を箱に入れなおし脇に寄せる。結局考えはまとまっていない。全力で遊んでいたのだから、それも当然である。

 横島は自分が考えることに向いていないことは重々承知している。思考を放棄しているわけではないが、考えてから動くより、動きながら考えた方がまとまりやすいのだ。

 

「妙神山で世話になって結構経つけど、生活はどんな感じだ?」

 

 というわけで、ド直球で聞くことにする。

 パピリオは一瞬戸惑い、すぐに笑顔で答えた。

 

「いい感じでちゅよ。相変わらず修行は楽しくないでちゅが」

「そっか。老師や小竜姫様とは仲良くやってるか?」

 

 今度は、パピリオは即答することはできなかった。パピリオの性格的なものだろうが、誤魔化すことはできても嘘をつくこと自体が苦手なのだろう。

 

「老師は最近まで神界に帰っていて会う機会が少なかったでちゅね。小竜姫は、武神と呼ばれるだけあって修業が厳しい、でちゅ」

 

 気付いているのかどうか。話している間にパピリオはうつむいていった。

 

「修行が厳しいから、小竜姫様は苦手か?」

「そ、そうじゃないでちゅ。でも……」

 

 考え込み、慎重に言葉を選んでいるように見える。何を気にしているのか横島にはわからないが、らしくないと思えた。パピリオらしくないではなく、子供らしくないだ。

 

「お前とルシオラが事務所に間借りしていた時とさ、今って同じ気持ちか?」

 

 横島の言葉にパピリオは身を竦ませる。まるで悪いことがばれ、親に怒られる子供のように。

 

「まだ人間を敵と思っていて、なし崩し的に周りが敵だらけで、頼れる相手はいない、そんな状況に置かれて」

「違う、違うでちゅ! 私は、神族を敵とは思っていないでちゅ!」

「だったら、頼れる相手がいないってのは、間違っていないか?」

 

 パピリオは、項垂れたまま小さく頷いた。小さい身体がより小さく見える。

 横島は、迷子になっているのに強がって助けを求めないでいる子供の相手をした時を思い出していた。

 

「ベスパは魔界の軍にいるし、俺も頻繁に来れるほど近いわけじゃない。だけどな、会いたきゃ会いたいって言えばいいじゃねえか」

「でも、私は……そんなこと」

「俺は都合つけば会いに来れるし。ベスパは今任務中だけど、小竜姫様に頼めば手配してくれるだろ」

「そんなこと、できないんでちゅ!」

 

 不意に大きな声を上げ、横島の言葉を遮るパピリオ。膝の上でぎゅっと握られた手は小刻みに震えていた。

 

「私は我儘言っちゃいけないんでちゅ!」

「何でだよ」

「私が大人しく今の状況を受け入れていればいいんでちゅ! 私が我慢すればいいんでちゅ! そうじゃないと、そうじゃないと……」

「迷惑をかけちまう、か?」

「っ!?」

 

 弾かれるように上げた顔は驚愕に満ちていた。それとも恐怖だろうか。少なくとも見ていて楽しい顔ではなく、してもらいたくない顔だった。

 

「小竜姫様が言ってたぜ。お前、言いつけはしっかり守るし、修業もきっちりやるいい子だってな。そりゃいいことだろうよ」

「……」

「でもな、いい子になるってのと顔色をうかがうってのは、別の話なんだぜ」

「わ、私は……そんな」

「違うってか?」

 

 パピリオは答えられない。自分でも思っていないことを話せるような子ではない。そんな意味でもいい子ではあるのだ。

 

「いいんだよ、迷惑かけて。お前はまだ子供なんだからさ。我儘言っていいんだ」

「わ、たし……は」

「寂しければ寂しいって、な。おっきな声で泣き叫んじまえよ」

 

 膝の上の拳が力の限り握られる。力なく開いていた口がきっと引き締められ、

 

「う、うるちゃーいっ!」

「どわーっ!」

 

 今度の叫びは霊波砲を伴うものだった。座り込んでいたため、流石の横島も回避することはできなかったが、余波に巻き込まれ障子と共に外へと放り出された。

 パピリオが放った霊波砲は、横島の記憶にある全盛期の威力となんら遜色のないものだった。

 直撃こそしなかったが、横島を巻き込んだ霊波砲は障子を突き破り修行場の壁を打ち抜く。辺り一面を焼け野原にした彼女の姉たちの壮絶な戦闘を思い起こさせる威力だった。

 

「あ、あぶねえ……」

 

 その威力に横島は冷や汗を流し、同時に安堵した。パピリオが横島の言葉を遮り叫んだということは、図星を突かれているからだ。

 横島の言葉はパピリオの隠していた内心をさらけ出させた。しかし、それはパピリオの心の処理能力を越えさせてしまったのだろう。

 自分が我儘を言えば小竜姫に迷惑がかかる。それが冥界に伝われば情状を酌まれた現状が崩壊しかねない。そうなれば軍務につくベスパにも迷惑がかかる。だけど寂しい。心から甘えられる相手がいない。いつでも近くにいてほしいのに。でも我儘を言えない。

 パピリオの心はループに陥っていた。出口のない無限ループ、しかし横島が出口を無理やりノックしたことにより堆積したストレスが奔流となった。

 パピリオが自身のうちに秘めさせていた本音を引き出させることができたならば、素直にそれに従わせなければならない。

 だが、そのためには離れるでもなく隠れるでもなく、この場に居続けパピリオと話さなければならない。銃口、いや大砲を向けられ続けているのと変わらない。常人ならばあっという間に物言わぬ肉塊にもなろうが、横島には霊能力があり、常人離れした運動能力が、そして、決意があった。

 

「泣いてる妹は笑わせてやらねえと」

 

 頬を叩き、気合いを入れる。震えそうになる膝は無視する。ヘタレで卑屈を自称する横島であっても、やらなければならないことくらいは理解していた。

 

「それがお兄ちゃんの役目だよな!」

 

護ると決めたら護る。相手が神だろうと悪魔だろうと、自虐している妹だろうと。

 力を手にしたときに心に刻み込んだ決意。

 

 

 

 

 ボロボロと涙を流し、パピリオは縁側から足を踏み出した。同時に身を起こした横島が頬を叩き、立ち上がろうとしていた。

 

「ヨコシマに、何がわかるんでちゅか!」

「わかるっていいたいところだけどな。結局わかったつもりになってるだけだろうな」

「だったら、余計なこと言うんじゃないでちゅよ!」

「いーや、言ってやる! お前が元気になるためだったら何だってやってやらあ!」

「余計なお世話でちゅ!」

 

 パピリオの叫びと共に再び放たれる霊波砲。放っていることを自身で意識しているのかいないのか、狙いをつけられずに放たれているためか、かわすことは容易かった。一歩歩みよる。

 

「私は……寂しくなんかないんでちゅ!」

「隠すんじゃねえよ。丸わかりだ」

「だって、私は……アシュ様の娘だから……冥界の指示に従わないと、駄目なんでちゅ」

「違うだろ。お前が誰だって、何言われてるんだってのは関係ねえだろ! 寂しいんならそう言えよ、甘えろよ!」

 

 涙を流し、声を詰まらせるパピリオの姿に、横島は怒りを覚えた。本当に冥界の指示とやらでパピリオが寂しい思いを押しこめていたのならば、一言言ってやりたい気分だった。

 

「そんな、こと……できないでちゅ」

「甘えたいってのがそんなひでえことなんかよ。そんなわきゃねえだろ!」

「だって私にはベスパちゃんとヨコシマしかいない、いないんでちゅ! 我儘言えないんでちゅ!」

 

 再度放たれる霊波砲。パピリオ自身が制御していないためか、いつ放たれるかが読めない。それでも横島はサイキックソーサーで弾き、また一歩歩みよる。

 あと十数歩。

 

「いるよ。お前と仲良くしたいって、家族になりたいって考えてる人はいるんだ」

「え……?」

「小竜姫様だよ。同情だの憐れみだのじゃねえぞ。あの人はそんなん考える人じゃねえ」

「小竜姫、が?」

「厳しいって言っていたよな。あの人は真面目だから、手ぇ抜けないんだよ」

「……」

「でも不器用だからお前との付き合い方がわからないだけなんだ。責任感強い人だから任されたお前を守りたいって、優しい人だから仲良くなりたいって、俺やベスパみたいにお前に甘えられるようになりたいって思ってんだよ!」

「そ、そんなはずない! だって、私は逆天号で妙神山を消滅させたんでちゅよ!?」

「腹ぁ割って話してみろよ! 誰だって言われなきゃ、話さなきゃわからねえんだ!」

 

 ベスパと再会した時、言葉にしなくても伝わるものはある、と言っていたがそれは特殊な場合である。誰もが皆、伝えたい気持ちを伝えられない言葉に、もどかしさに悩んでいるのだ。

 あと、数歩。

 

「そんな……そんなこと」

「真面目で融通がきかなくて冗談も通じないけどな、優しい人だ。悪いようにはしないでくれるだろ」

「私……わ、たし……」

「?」

「う、うわあああぁぁぁぁんっ!」

「のわーっ!」

 

 横島の言葉が通じたのか、パピリオは考え込むように言葉が出ないようであった。だが、自身の想定の外にあった事実を告げられ、パピリオの心は千地に乱れてしまっていたようだ。

 慟哭と共にパピリオの全身から霊波が放出される。それは物理的な圧力となって近くにいた横島を弾き飛ばすかに思え、横島も衝撃に備えようと目を瞑るも一向に来ない。

 

「ありゃ?」

 

 恐る恐る目を開けてみれば、泣き叫ぶパピリオから霊波は確かに放たれているのだが、それはまるで向かい風に立ち向かうほどの威力。

 人一人を吹き飛ばすことは容易くできそうな暴威を秘めているはずなのに、横島は吹き飛ばされることもなくその場にいることができていた。

 

(これが、あれ(・・)か。よくわからんけど、霊圧を“防”いでくれてるんなら──っ!)

 

 パピリオの霊圧放射を無効化できている今ならば、数歩歩けばパピリオに手を差し伸べられる。勢い込む横島だが、踏み出した足が鈍り、その数歩がとても遠く感じた。

 急激に霊力が削られていく。さらには頭の中に楽団でもいるかのような頭痛がしだした。

 音が出るほどに歯を食いしばり、弱気にくじけそうになる心を叱咤して、一歩、また一歩と霊波を放出するパピリオへ歩み寄る。

 泣き叫ぶパピリオは痛々しいほどに身体を震わせていた。そんな姿は見たくないし、させていたくない。やめさせるためにも一刻も早く抱きとめてやりたいのに、

 

(あと……もう少し、もう少しなんだけど)

 

 あと一歩、たったの一歩近づくだけで泣き叫ぶ妹を抱きしめてあげられる。だというのにその一歩が遠い。

 霊力は間もなく底をつき、頭痛は激しさを増して縄で絞めつけられているかのよう。凪いでいた暴威が少しずつ横島の体を押しのけようとしてきていた。

 

(一歩……だけでいいのに)

 

 相当な重量の荷物を担いでなお身軽に動ける身体能力を持つ横島であるが、あとたったの一歩が踏み出せない。

 踏み出そうとする足が膝から折れる。身体が地面に倒れれば再度立ち上がることはできないだろう。パピリオの霊波が横島を吹き飛ばすだろう。

そう予想できていて、横島は膝を地につけるのをこらえるしかできなかった。

 

(パピ……リオ)

 

 もはや霊力が尽き、吹き飛ばされるのを待つのみ。しかし、

 

「横島さん」

 

 倒れそうな身体を支える手、遠のきかけた意識を引き戻す声。それは間違えるはずもない、小竜姫のものであった。

 

「私にあれだけ言ったあなたが、こんなところで挫けてちゃいけませんよ」

「小竜姫、さま。どうして?」

 

 顔を横に向けると小竜姫が脇に立ち、体を支えていた。不意の登場に驚く横島に、小竜姫は笑みを浮かべた。

 

「私にも意地があるんです」

「意地ですか?」

「ええ。お姉ちゃんの意地です」

 

 きょとんとした横島であるが、小竜姫の言葉に笑みが浮かぶ。

 靄がかかっていた意識は小竜姫のおかげで晴れた。付きかけていた霊力は横島に密着する小竜姫の柔らかさにより煩悩が刺激され多少回復した。何よりも、一人ではないならあと一歩を踏み出すことなど容易いことだ。

 横島と小竜姫は、踏み出し、手を差し伸べ、癇癪を起こす妹を優しく抱きしめる。

 

 

 

 

 

 数秒前の暴威が嘘のように静かになった。

 

「ヨコシマ……小竜姫?」

「はい、私です」

「どうして……?」

「夜更かしして騒いでいるあなたを叱りに」

 

 小竜姫の言葉にビクッと身体を震わせるパピリオ。周囲を見渡せば、壁やら何やらを破壊してしまっている。ただ騒いでいただけとは到底言えない状況である。

 自分の起こした惨状とそれが引き起こすであろう影響を瞬時に理解したのだろう。あわあわと焦るパピリオに小竜姫は優しく背中を撫でた。

 

「そして、あなたと家族になるために」

「家族、私と?」

「ええ。横島さんに叱られてしまいました。黙って待っているだけで仲良くなろうなんて、虫がよすぎるって」

 

 夕食後小竜姫の部屋を訪れた横島は、小竜姫の部屋にいるということや寝着姿に非常に興奮するなど、ある意味予想済みのことを行い跳びかかって迎撃された。

 何事もなかったかのようにおキヌら三人の修行の予定を詰めた後、横島はパピリオの現状を確認したのだった。

 

「あなたの立場を誰よりもわかっている私が、なぜあなたの寂しさを放置しているのか。仲良くなりたいと思っているのに、なぜ行動しないのか。そう言われました」

「わ、私は……寂しく、なんか」

「そうなのかもしれませんね。横島さんが感じただけなのかもしれません。けれど、私は悔しくて、辛くて、寂しかったのです」

「え……?」

「私には横島さんのようにあなたを笑わせることはできなかった。武神などと煽てられても闘い以外では役に立ちやしない。そして、あなたと上手く話せないことが」

「……寂しかった?」

「はい」

 

 小竜姫はパピリオの頭をかき抱き、パピリオは小竜姫の胸に顔を埋めた。姉妹というよりは親娘のようにも見えるが、そこにはお互いを気にしていた家族未満の姿はない。

 

「私も……」

「はい?」

「私も、寂しかったでちゅ」

「……はい」

 

 小竜姫はパピリオをより強く抱きしめ、パピリオは小竜姫により強く抱きついた。そこに、二人の姿に芽生えた絆を見ることは簡単なことだった。

 

「いっぱいお話しましょう。寂しかったら甘えてください。悪いことをしたら叱ります」

「……うん」

「私はベスパやルシオラの代わりにはなれません。もちろん横島さんも」

「……うん」

「それでも、私にあなたのお姉ちゃんにならせてくれませんか?」

「……うん!」

 

 妹を笑顔にするのが姉の役目だというならば、小竜姫はその役目を存分に果たしたと言えるだろう。ならば、血の繋がりはなくとも二人を姉妹と称するの何の妨げがあるだろうか。

 

「めでたしめでたし、でいいかな?」

 

 さて、姉妹の語らいの間まったく空気と化していた横島であるが、当事者でないものが出しゃばることはないと二人の語らいを見守っていた。

 しかし、それは割って入るだけの余裕がないことの裏返しでもあったのだった。

 昼にハヌマンとの修行をこなし、間を開けたとはいえ霊力を全力全開で使用した横島の限界はとうに訪れていた。

せめても事の顛末を見届けることは横島の意地だった。

 

「ヨコシマッ!」

「横島さんっ!」

 

 抱き合う二人から離れるように立ち上がると、横島は鼻からホースで撒き散らすかのような血を噴き出し、バッタリと倒れ込んだ。

 パピリオと小竜姫、そして隠れて様子を見ていたおキヌ、シロ、タマモが駆け寄る。

 覗き込むと、鼻や耳から血を吹き出し、目を回してはいたものの、どこかやりきった表情の横島の顔があった。

 




最近だと姉なるものが可愛いなーって。
妹萌えもいいけど、姉も捨てがたい。実姉いる身としてはそこまでじゃなかったんですけどね。
やはり二次元に限る。
次は1500でーす。

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