GS横島 Step by step   作:カシム0

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 連続投稿三日目です。
 凶行の犯人が恩師だった。それを聞いた子どもたちは何を思う。

 じゃあどうぞ。


夏休みアニメフェスタ3

 

 

 玉藻が断言した言葉にまず食いついたのは広だった。

 

「ぬ~べ〜がそんなことするはずないだろ!」

「落ち着きなさいよ広」

「郷子、お前だってそう思うだろ」

「それは、そうだけど」

「今ここで怒鳴ったってしょうがないでしょ」

 

 尊敬する恩師が人を傷つけたなど、到底聞き入れられるわけもない。

 

「ピート、見舞いの果物もらうぞ」

「どうぞ。あ、リンゴ取ってもらってもいいですか?」

「横島サン、わっしにもお願いします」

「ほいよ」

 

 そして、それを尻目に見舞いの果物を食べだすゴーストスイーパーの面々。

 

「落ち着きなさい、広くん。ここは病室ですよ」

「今のところ、あくまで状況証拠しかないけど、ぬ~べ〜もしくはそっくりさんが童守町にいるのは間違いなさそうね」

「偽物に決まってらあ! ぬ~べ〜がそんなことするもんか」

「そもそも覇鬼と和解したんだし、白衣観音経で封印を解く必要だってないはずだものね」

 

 予想し真実に辿りつこうとするが、美樹の言うとおり状況証拠しかない状態では限界がある。

 

「やっぱ常温だから温いな」

「しょうがないですよ。買ったばかりみたいですし」

「昨日の今日で見知らぬ人からお見舞いもらえるあたり、さすがですノー」

 

 リンゴに噛りつくが、今朝ピートの存在に気づいた看護師や他の見舞客が病院近くの八百屋に駆け込んで購入したため常温だった。

 そもそも横島宛の品ではないので文句を言える立場ではない。

 

「だろ。だから偽物に決まりだ」

「だが、断言しておこう。先も言ったが、ピートくんの傷痕の残留霊気は鵺野先生と、いや鬼の霊気と同一だ。これは、見た目だけ真似したところでごまかせるものではない」

「なら、本当にぬ~べ〜なのかな。あ、でも覇鬼だけが戻ってきたならありうる?」

「でも見た目ぬ~べ~でしょ? 覇鬼って化けられたっけ」

「あの身体がぬ~べ~の手になってるんだし、鎧になったり羽になったり……いけるんじゃない?」

 

 偽物と主張する広に、自ら確認した事実を告げる玉藻。もはや推論でたどり着ける位置に事実はないのだと、誰もが理解した。

 

「あ、そういや最近こういうことができるようになったんだ。うりゃ」

「……リンゴが冷えてますね」

「横島さんの能力はもはやオカルトと言っていいんですかいノー」

「簡単に使ってますけど、凄いことですよこれ」

「慣れてないと頭痛くなるから、ちょいちょい使っていけって老師がな」

 

 横島から渡された冷えたリンゴに頬がひきつる。ピートもタイガーもオカルト知識は豊富であるが故、横島が簡単にやってのけたことに驚愕する。

 

「ぬ~べ~に電話できればいいんだけど、玉藻先生連絡先とか知らねえの?」

「本人に話が聞ければ一番早いものね」

「今朝早々に連絡したとも。アパートにも学校にも不在だったよ。同僚の教師も夏休みだから毎日学校に来るわけではないと言っていたな」

「ゆきめさんとも連絡つかないの?」

「うむ」

 

 鵺野鳴介は貧乏であり携帯電話など持っておらず、また転任する段階では電話契約をしていなかったため、誰も連絡先を知らなかったのだ。

 唯一、童守町の平和を託された玉藻だけが後から知らされていた。 

 

「ブドウって皮ごといけなかったっけ」

「品種によっては大丈夫だったと思いますけど、なんで丸ごといったんですか」

「漫画のように軸だけ残ってますノー」

 

 一房を丸ごと口にした横島が皮を吐き出そうとするのに苦戦して、苦笑しながらティッシュを渡すピート。呆れたようにタイガーがゴミ箱に手を伸ばす。

 

「さっきはぬ~べ~がそんなことするもんかとは言ったけど、ピートって人が何か悪いことしたならありえるか」

「あんた、いくらなんでも失礼すぎよ」

「すいませんピートさ、ん?」

「何か意見はないのかな、ゴーストスイーパーの諸君、は?」

 

 行き止まりの議論に広は手近な答えをピートに求めるが、あまりにも礼に欠いたものであった。そこで白熱していた面々はゴーストスイーパーの三人を見やるのだが、

 

「メロンあるじゃん」

「せっかくですけど、包丁がないんですよね」

「さすがにメロンに皮ごとかじりつくのは難易度高いですジャ」

 

 呑気にモシャモシャと果物を食べている。広らとの温度差にだあっと崩れ落ちる。

 

「ちょっと! 横島さん、ピートさん、タイガーさん!」

「なんで呑気に果物食べてるんですか!」

「しかも、横島くんならまだしもピートくんまで」

「なんで俺ならまだしもだよ」

「あんたが真面目に見えないからだろ!」

 

 大声で責め立てられた横島らである。

 

 

 

 

 

「俺らの場合、郷子ちゃんらみたいにその相手に心当たりないしな」

「皆さんが落ち着くのを待っておったんですが、怒らせてしまったのなら申し訳ないですノー」

「ピートさんをこんな目にあわせた犯人でしょ。そんなんでいいの?」

 

 美樹がピートの腹を指差す。包帯をきっちりと締められているが、内側には血塗れのガーゼがあることを誰もが知っていた。

 

「僕はヴァンパイアハーフですから、これくらいどうということはありません。それに、僕が未熟だったから負った負傷ですから」

「今夜のパトロールは行けそうですかい?」

「もちろんだよ。不覚を取ったけど同じ轍は踏まないさ」

「今夜って、ピートさんお腹刺されたのにまだ働くつもりなの?」

「この仕事してると両腕両脚がボキッと折れて、肋骨にヒビが入り、うずくまったところに小錦がドスンと乗ってきたくらいじゃないと入院とかしないし」

「そんなまさか」

「そこまでするのは横島さんのところくらいですよ」

「エミさんはもうちょっと早めに入院させてくれますジャ」

 

 横島は経験済みのことを話したのだが冗談と思われたらしい。さもありなん。

 

「ゴーストスイーパーの人たちとしてはどう思うの? 今回の件、ぬ~べ〜が本物か偽物かどうか」

「以前、妖怪がぬ~べ〜に化けたことあるんだけど、今回も同じなのかな」

「そもそも俺らは本物の鵺野先生を知らんから○とも☓とも。ただ、オカルト能力って結構なんでもありで、ガワだけならいくらか方法はあるんだよ」

「なんでもありなのは横島さんくらいですけどね」

「タイガーだってできるだろ」

「へー、タイガーさん、そんなことできるんだ! 見せて見せて!」

「いや、ワッシの能力は精神感応であまり見せ物にするものでも……、まあ、少しくらいなら」

 

 渋るタイガーだが、美樹のキラキラとした子供らしい懇願に折れたようだ。無言の気合で美樹へ精神感応をしかける。

 

「別に、何も変わってないけど」

「何か変化あった?」

「ぶふっ!」

「どうしたのよ美樹。変な声出して」

「あ、あんた、郷子なの? あたしには広に見えるんだけど」

「は? 何言ってやがんだよ」

「すごいわよ郷子、広。あんたら逆になってる」

 

 タイガーの能力で美樹は郷子と広の姿を逆に見えていた。女言葉の広、柄の悪い郷子。美樹は腹を抱えて笑い転げていた。

 そんな自分を見て大笑している美樹に、郷子はアイアンクローをかましていた。

 

「化けタヌキ見たことあるけど、そういうの?」

「化け方も色々あるんですが、タヌキやキツネの様に化けたり、幻を見せるなどは、悪霊や妖怪がよくやる霊障ですジャ」

「あと、オカルトアイテムでそっくりに化けられるマスクがありましたね」

「本物だった場合は支配されてるか洗脳か憑依か、ああ、中身が入れ替わってる場合もあるか」

「ほえー、結構あるのね。っていうか、よくそんなすぐにスラスラ出てくるわね」

「まあ、全部経験済みだからな」

「はい?」

 

 横島は妖刀に体を乗っ取られたり吸血鬼に噛まれて操られたり、さらにはネズミのネクロマンサーによる洗脳、神族による憑依、儀式による人格交換など、多岐に渡り経験している。

 

「霊能力者が情けない」

「うるへー! 霊能に目覚める前のが大半じゃい!」

「その言い方だと、目覚めた後もいくらかあるのだろう?」

 

 その経験を馬鹿正直に言うものだから玉藻に呆れられていた。

 

「つまり、本物とも偽物ともはっきりしないっていうこと?」

「としか言いようがないよな」

「こういうのってどう対応するの? ゴーストスイーパー的に。ダメ元で言うけど、穏便な感じでいけない?」

 

 鵺野鳴介の真偽はもちろんだが、仮に本物だった場合の処遇も気になるのだろう。

 どのような事情があれ、恩師が犯罪者として捕まる姿は見たくないのは当たり前ではある。

 

「人間だったらとっ捕まえて、悪霊や妖怪だったら除霊する、としか言いようがないんだよな」

「ええ。僕たちはゴーストスイーパーなので捜査権を持ちませんから、また会った時に暴行なり傷害なりで現行犯逮捕してオカルトGメンに引き渡すくらいですかね」

「逮捕しちゃうの?」

「霊能力を使って犯罪を犯した場合、ただのイタズラ程度なら注意ですみますが、人を怪我させているのなら、そうなるかもしれませんノー」

「へん! ぬ~べ〜が本物ならあんたらに負けるかよ」

「広!」

 

 広のそっぽを向きながらの言に郷子の雷が落ちるが、どこ吹く風である。

 普段の広は、言葉使いこそ荒いものの基本的には明るく元気で勇敢な、ちょっと(大分)お馬鹿ないい子である。

 だが、どうやら。様々な要因から情緒が乱されているようで、自分自身わかってはいながらコントロールができていないようである。

 

「なんであんたはさっきからそんな態度なのよ!」

「俺はぬ~ベ〜を信じてるからだ。昨日今日あったこいつらよりな!」

「ぬ~べ〜を信じるのと横島さんたちに失礼な態度取るのは一緒にならないわよ!」

「っ……へんだ」

「あんたって人は!」

「まあまあ、落ち着きなさいって郷子。広も、助けてもらった人にその態度はないでしょう」

 

 であるから、言ってはいけない言葉も考えなしに言ってしまったのだった。

 

「ふん! 助けてくれなんて言った覚えはないね」

 

 だがそれは、助けられた者が言ってはいけない言葉であった。

 広の言葉の直後、パシィンと、乾いた音が病室に響く。

 郷子の平手が広の頬を叩いた音だ。

 

「殴りやがったなこの暴力おん、な……」

 

 広の目に映ったのは今にも泣き出しそうな表情の郷子だった。

 昨年引っ越してきた広と郷子はお互いに想い合っていることもあり、付き合いは長いとは言えないが密度が濃い。

 そんな関係の二人だが、広が郷子をこれほどまでに悲しませたことはそうそうなかった。

 

「あんたが意地っ張りなのは知ってる。けど、恩人にそんなこと言う奴だとは思わなかった!」

「う、それは……」

 

 目に涙をためた郷子の訴えに怯む広。自らの言動が褒められたものではないことを広も理解しており、憤りが一気に消沈する。

 そんな広の姿と、郷子の背を擦る美樹もあって落ち着いたようだった。

 

「ごめん、美樹。もう大丈夫」

「そう? でもね、私はまだなの」

「え?」

「ふんっ!」

「ぶげらっ!」

 

 病室に鈍い音が響く。美樹が広をゲンコツで殴った音だ。

 小学生たちの揉め事に口を挟まず静観していたが横島らや玉藻だが、別の意味で口を挟めなくなっていた。

 

「み、美樹?」

「郷子は平手で我慢したけど、私はそうじゃないの」

「いや、私は我慢したわけじゃないけど」

「あー、美樹くん。ここは病室なので怪我人を増やすような行為は……いや、好きにしたまえ」

 

 心なしか郷子も美樹の行動にひいていたし、玉藻はギヌロッと座った目で睨んでくる美樹にため息をつきつつ諦めた。

 

「いっててて、何すんだよ美樹まで」

「言わなけりゃわかんないの!?」

「う……」

「あんたねえ、私やあんたがやらかしたことで郷子が危ない目にあったのよ? それをあんたは、郷子がケガしても良かったって言うの!?」

「お、俺は、そんなつもりは……」

「自覚なしに言ってんならあんたは昨日のことで何の反省もしてないし、ぬ~べ~に教わったことぜーんぶ忘れてるってことよ」

「っ」

 

 ぐうの音も出ないとはこのことか。殴られてへたり込んだ広がうなだれる。

 ふんっ、と鼻息荒くとも溜飲を下げたらしい美樹は、広の首根っこを掴み無理矢理に立たせ頭を下げさせた。

 

「横島さん、ピートさん、タイガーさん。広が失礼なことを言ってごめんなさい」

「お、おう。まあ別に俺らは」

「そう、ですね」

「ですノー」

「まだぬ~べ~のこととか町のこととか聞きたいことはいっぱいあるけど、今日はもう帰ります」

「ああ、わかった。案内してくれてありがとうな」

「ほら、行くわよ郷子、広」

「いてて、耳引っ張るなよ!」

「あ、ちょ、もう。それじゃ失礼します」

「そろそろ霊が活発に動き出す時間ですので気をつけて」

「はい、ありがとうございます!」

 

 嵐のように騒がしく、小学生たちは去っていった。

 となると特に話すこともなく、横島が果物を頬張る音だけがしていたのだった。

 

「え、えーっと。そろそろ僕達も仕事に戻りますか」

「そうですノー」

「だな。果物も片したし」

「きれいに食べたな……。ところで、医療に携わる身として君たちに医療費の請求をしなければならないのだが」

 

 玉藻が懐から出したメモ紙には3人の全財産を合わせても到底足りない額が書かれていた。

 

「……こ、こんなにかかるんですか?」

「これはメモ書きだが、保険に入っていない全額負担だとこれくらいだ。ヒーリングですめばまだ誤魔化しは効いたのだが、治療行為とベッドを提供したとなると他の看護師や患者の手前なあなあにはできんよ」

「タイガー、あのしおりにはこういうときどうするって書いてあったかな」

「オカGに連絡すると代わりに支払ってもらえたはずですが」

「西条にツケとけばいいんじゃねえかな」

「そういうわけには」

「君たちの活躍には敬意を表するし期待するが、それはそれとして手続きを済ませてから仕事に戻ってくれたまえ」

 

 というあれこれがあり、横島らが病院を出るのは広らとは少し離れた時間となった。

 その僅かな時間差で事態が展開し、風雲急を告げることになろうとは、誰も思ってはいなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一足先に帰路に着いた郷子と美樹だが、一緒にいた広の姿はない。

 病院を出てすぐに、美樹から頭を冷やしてきなさいと尻を蹴飛ばされていたのだ。

 やりすぎではないかと思いつつ、恩人への態度に腹を立てているのは郷子とて同じなので、複雑な思いで広と別れたのだった。

 

「それにしても広のアホは何なのかしら」

「煽った美樹が言えることかなとも思うけど?」

「む、それを言われると弱いけど、それにしてもじゃない?」

「まあ……そうね」

 

 面白がって横島を当て馬にしたのは美樹であるが、広と郷子の想いが強固なものだから安心していた部分はある。

 まさか広がぬ~べ~への尊敬の念を拗らせて頑なに横島を拒絶するとは思いもしなかったのだ。

 

「悪いことしたとは思うけど、あいつは少し反省させた方がいいわよ」

「うん。一日あれば広もわかってくれるわよね」

「あんたが一日も早く広と仲直りしたいだけじゃないの?」

「美樹!」

 

 逃げる美樹を追いかけようとする郷子の目にそれが写ったのは果たして偶然か。

 黒髪の背の高い男が、白シャツに黒ズボンで左手に()()をした男が、ビルの影に消えていった。

 それはあえて姿を晒したかのように、見間違いではないと確信を持てるほどに、まるで付いてこいと言わんばかりであった。

 

「美樹、ぬ~べ~がいた」

「は? どこよ」

「あそこのビルの間に入っていったんだけど……」

「だけど、怪しい?」

「うん。まるで、というか確実に誘われてると思う」

 

 あまりにあからさまだが、確実だ。目下行方を知りたい人物が目の前にいたのだから、罠であっても飛び込みたくなる。

 しかし、そうしてはならないこともわかっている。これまでの経験を台無しにしたくはないし、広に怒りをぶつけた手前迂闊な真似はできない。

 

「かといって放置するにはもったいなさすぎるわね」

「横島さんたちに連絡したいけど携帯持ってないのよね」

「しまったなぁ。せめて連絡先聞いておけばよかった」

 

 昨今の小学生としては珍しく携帯電話を持っていない二人と、昨今の高校生としてもGSとしてもありえないほどに珍しく携帯電話を持っていない横島たち。

 一応小銭も公衆電話も近くにあるが、そもそも連絡先を知らなければどうしようもない。

 

「……もったいないけど、無視しちゃおうか」

「そうね。今から横島さんたち探して伝えるだけでもしておいた方がいいかもね」

 

 危機管理のしっかりした小学生である。

 だが、何者かは。黒幕だか愉快犯だかはそれを許しはしないようだ。

 

「……郷子、私にもぬ~べ~が見えたわ」

「うん。今度ははっきりとね」

 

 先のビルから背を向けて病院方向へ戻った郷子と美樹だが、先回りするように別のビルの間へ消えていく鵺野鳴介の姿。

 それが一度ならず二度三度と続き、チラ見せだったのが段々と大胆になり、とうとう顔を見せて絶対にそうは笑わないだろうというニヤリとした笑みをしていくまでになった。

 

「……どうしてもぬ~べ~(仮)を追いかけさせたいみたいね」

「明らかにおかしいわね、色んな意味で」

 

 郷子らから見て左側のビルに消えていった姿が次には右側に消えていく。

 まるで瞬間移動しているかのようであり、成人男性が小学生女児に気付いてほしくて動き回っているようであり。

 その姿は滑稽ですらある。それが恩師の姿ならなおさらだ。

 

「とりあえず、本物か偽物かは置いといて、ぬ~べ~が普通じゃないのは判明したわね」

「悪乗りしたぬ~べ~ならめっちゃ頑張ってダッシュしててもおかしくないかもだけど」

「っ、美樹、避けて!」

「っちょ、危なっ!」

 

 とうとう業を煮やしたのか、ビルの隙間から空き缶が飛んでくる。

 見やれば壁に寄りかかりポンポンと缶をもて遊ぶ鵺野鳴介。

 

「とうとう手段選ばなくなってきたわね」

「とはいえ追いかけるのは絶対に避けたいし、ダッシュで逃げる?」

「あ、駄目だ。ついてかないと、ヤバい」

「美樹、何言って……そうね」

 

 鵺野鳴介はすでに二人を見ていなかった。

 視線の先には児童が数人歩いており、手には缶を持ち、狙いは既に定められていた。

 

「ぬ~べ~の姿でふざけたことをしてくれるわね!」

「性格悪いのは間違いないね……美樹、ちょっと頼まれてくれる?」

「何よ。あんたが追っかけて私が横島さんたち探しに行くってんなら聞かないわよ」

「でも、このままじゃあいつ誰かに危害加えるでしょ。だからさ(ヒソヒソ)」

「……それしかない、かな。無茶しないでよ」

「広にああ言った手前、気をつけなきゃね。あんたこそ()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 横島らが多発霊障対策に童守町を訪れたのは数日前なのだが、ブリーフィングで西条から言われていたとおり童守町の霊障は異様であった。

 悪霊が発生する範囲が広く数も多いので人知れずとはいかず、襲われているところを助けるギリギリの状況も幾度かあり、たった数日で美樹のような小学生にまで噂が届くほど日に日に増加している。当初は一日に全体で数件だったのも多かったのだが、数日経った今では一人で数件、そろそろ二桁に達しそうな勢いである。

 実は、オカルトGメンが手配したのは横島ら三人だけではなく、もう一人後方要員がいる。

 童守町に住んでいて霊能力があるのだが除霊に参加するには少々実力に不安がある()()()()()、というわけで後方支援に回っているが自身の能力と広域見鬼くんで索敵し、横島らに伝えている。

 彼女のフォローと、なぜか多発霊障が夕方から深夜にかけてのみ起こることもあり(このことからオカルトGメンでは人為的な霊障を疑っている)、今までのところピートが負傷した以外に被害は出ていない。

 夕方までに横島らは街中央部に待機し、そこから女子中学生のオペレートを受け方々に散る。再度合流するのは深夜となる除霊を続けている。

 そんなわけで、一足先に病院を出た郷子らに遅れること数十分、横島らは街の中央部へ向かう河川敷を歩いていた。

 オカルトGメンと連絡がつき支払い代行手続きを行って破産を免れたのでホッとした顔をしているが、これから数時間街中を駆け回ることになるので少しの間だけだろう。

 そんな中、膝を抱えて川を見ながら座り込んでいる広を見つけた横島は、声をかけるべきか悩んでいた。

 女の子ならともかく小生意気なガキンチョを気にかける必要を感じないし、背中から漂う哀愁の元になったあれこれを知っているので放っておいてやろうという気にもなる。

 

「あれ、どうする?」

「なんです? あー、広くんですね」

「時間も時間ですし、声をかけて家に帰してあげた方がよさそうですジャ」

「まあ、そうだな。おーい、広!」

 

 横島の声にビクッと反応し、振り向いて確認し、また膝を抱える。典型的ないじけ状態である。

 面倒くさいと思いつつ放っておかないのは、面倒見がいいからだろう。坂を下る横島を見て、ピートとタイガーも後に続いた。

 

「無視すんなよ広」

「何だよ、気安く話しかけんじゃねえよ」

「んー……こらっ、年上には敬意を払いなさいと言われんかったか!?」

「あいでででっ!」

「よ、横島さん?」

 

 コミュニケーションを拒否する広に、横島はこめかみをグリグリ通称うめぼしをかます。

 

「何すんだよ!」

「元気出たか?」

「心配するならもっと別のやり方やれよ!」

「やだよめんどい」

「お前郷子や美樹と俺の扱い違いすぎんだろ! このロリコン野郎!」

「バータレ! 俺の好みは乳尻太もものしっかりした大人のオネーサマだ! あの子等はあと五年くらいしないとナンパの対象に入らねえよ」

「美樹はどうなんだよ。あいつの胸すげーだろ。確かDだかEとか言ってたぜ」

「DかE。あの歳でおキヌちゃんより……いやいや、美樹ちゃんはまあ、確かにすげーけど小学生はさすがにないわ。ってか、お前らの年代だとあの子クラスで人気あるんじゃねえの?」

「まあ、根はいいやつだし友達想いでもあるんだけど、お喋りで騒がしいしコーマンチキってえの? そんなんで見るにはいいけど付き合うのはちょっと、みたいな感じ。俺の友達はそれでもいいってやついるけど」

「残念美人系か。んで、お前郷子ちゃんとはどうなんだよ。聞くとこによると結構いい仲らしいじゃねえか、小学生のくせしてうらやましい」

「なっ、バッカじゃねえの。なんで俺があんな暴力女と」

「おいおい。素直になれないとか恥ずかしいとか、気持ちはわからんでもないけどよ。女の子の方が先に大人になるもんだぜ。置いてかれちまうぞ」

「そ、そういうもんかな」

「お前らの年代だと頭がいいとか運動神経がいいとか面白いやつが人気あるだろ?」

「まあ、そうかな。ヤマコのケンジも元の姿じゃないともててなかったしな」

「イケメンがモテるのはどの世代も一緒だけど、段々と優しいとか気遣いできるとか、顔がいいだけじゃないやつがモテるようになるんだ。あいついいやつだもんな、好きになるのもわかる、僕が先に好きだったのに(BSS)とか、後から思っても遅いんだぜ。うっ、昔の思い出が」

「そういえば、あいつ水泳部の幽霊とか陽神とか、年上の頼りになる優しいやつに弱いんだよな」

 

 ピートやタイガーが転入してきた際にあっという間に受け入れられたのはクラス自体の適応能力の高さもあるが、クラスの中心にいる横島とのコミュニケーションのおかげでもある。誰とでも仲良くなれるとはよく聞く自称であるが、横島は本当に誰とでも仲良くなれてしまう。

 その光景を目の当たりにし、ピートとタイガーは手際の良さに感心してしまうのであった。

 

「……ってか、なんで俺はあんたとこんな話ししてんだよ!」

「バッカお前。女の子の話は男の永遠のテーマだぞ」

「じゃなくて、なんであんな態度とった俺に普通に接してるんだよ」

「5つくらいしか違わないけどな、子供の癇癪くらい受け流せるよ」

「っ、何だよその言い方」

「実際、そうだろう?」

「……まあ、そうだよな」

 

 先だって郷子や美樹から指摘された通り、広の態度が良くないことは自身でも自覚があり、そして素直ではないが悪いことをすれば謝ることのできる良い子である。

 なので、

 

「あの、横島、さん。ピートさん、タイガーさん」

「おう」

「色々変なこと言って、ごめんなさい」

「わかった。次から気をつけろよ」

「はい、その謝罪を受け取ります」

「ですノー。ワッシらも昔は通った道ですジャ」

 

 ペコリと頭を下げる広に笑いかける。

 頭を上げた広もヘヘッと自然と笑顔が浮かぶのであった。

 

 

 

 

 

「んで、広は二人に置いてかれたんか?」

「う、そうだ、です。頭冷やせって美樹に言われた、んです」

「別に無理に敬語使わんでもいいぞ。敬えとは言ったけど気にしないし」

「ああ、助かるよ。それで二人は先に帰ったんだよ。明日にでも謝ってくる」

「そか。最近マジで危ないからできれば送ってってやってほしかったけど」

「今は無理」

「だよな」

 

 広が送り届けを強行すれば郷子も嫌とは言わなかっただろうが、美樹の剣幕が激しく広には押し切ることはできなかった。

 

「ってか、本当にそんなに危ないのか? 昨日美樹に聞かされるまで噂も聞いてなかったんだけど」

「ここ数日で除霊の数も増えてきてますしノー」

「オカGもそろそろ本腰入れて非常事態宣言するとか言ってたっけか」

「そんなになのか……俺、今からでも郷子と美樹探してくる」

「いや、お前も帰った方がいいんだけど」

「ダッシュで家に帰ったか確認してくるよ。ついでに、謝ってくる。そしたらすぐに帰るよ」

 

 無謀ともとれるかもしれないが、広は勇気ある優しい少年だ。だから自己満足かもしれないが、友人が危険な目に会うかもしれないと聞いてそのままでいられるわけがなかった。

 そんな広少年を笑って見送ろうとしたのだが、闖入者がそこに現れた。

 

「……ーい、よこ……ーん!」

「ん、今美樹ちゃんの声したか?」

「美樹さんのかはわかりませんが、横島サンを呼んでいるような」

「横島さーん!」

「ああ、美樹ちゃんだ。どこからだ?」

「僕にも聞こえましたが、上から聞こえたような」

「横島さーん! よかった、会えた!」

「美樹ちゃ、うえぇぇぇっ!」

 

 美樹の声がする方向を向けば、空から美樹の生首が降ってきた。

 童守小学校元五年三組からすれば当たり前の、美樹の特技ろくろ首であるが、初見の横島らは度肝を抜かれていた。

 

「美樹ちゃん、小学生離れした体型とは思っちゃいたが、まさか妖怪だったとは」

「いや、横島さん。これ幽体離脱ですよ。エクトプラズムです」

「美樹、いったい何やってんだよ」

「広、あんたもいたのか。ちょうどよかった。大変なのよ!」

 

 大変のは喋る生首を持っている男を目撃した周りの人間である。

 すわ猟奇事件かと恐々とする周囲を適当にごまかし人気のない方へと移動するのだが、周囲からすれば怪しさ極まりない。

 

「何事だよ美樹ちゃん。下手すりゃ通報されるぞ」

「他に方法がなかったから仕方ないでしょ。それより、助けて横島さん」

「お、おお。そりゃいいけど、ひょっとして郷子ちゃんに何かあったか?」

「え、そうなのか美樹!」

「広、あんた……いや今はいいか。まだ大丈夫だけど何か起きてもおかしくないのよ」

 

 そうして美樹が語ったのは、広と別れてからの出来事である。

 不意に現れた鵺野鳴介(仮)のあからさまな誘い。

 それに乗らず横島らを探すも、無関係の児童への加害も辞さないやり口。

 郷子が美樹に頼んだ内容は、首を伸ばした美樹が横島らを探し、美樹の身体とともに郷子が付いていくということだった。

 

「なんでそんな危ない真似を、ってんなことされりゃ郷子なら付いてくよな」

「他に方法がなかったのよ。そんなわけだからお願い! 郷子を助けて!」

「そりゃ助けたいけど、どうすっかな」

「また危険なことしてるのはわかってる。ちょっとくらいならおっぱい揉んでもいいからさ、お願い!」

「やめんか、女の子がはしたない。そうじゃなくて、そろそろ悪霊どもが騒ぎ出す時間だからな。ピート、タイガー、そっち任せていいか?」

「ええ。そちらに全力を投入したいところですが、街も放っておけませんし」

「何とか横島サンの穴を埋めますケエ、助けに行って上げてください」

「おう、任せた」

 

 ゴツンとグータッチをする三人はお年頃の広にはとても格好良く見えた。いつか克也やまこととやってみようと思ったのはさておき。

 

「行くぞ美樹ちゃん、広」

「俺も行っていいのか⁉」

「行かねえとか言ったら本気でうめぼしするぞ。郷子ちゃんが歩けない状態だったらお前に任す」

「あ、ああ! 俺も連れてってくれ!」

「うし、美樹ちゃん案内頼む」

「うん、こっちよ!」

 

 河川敷を駆け上がっていく横島(美樹の生首所持)と広。脇目も振らずに走り去っていった。

 

 

 

 

 

 見送るピートとタイガーも河川敷を登り、当初の集合場所へ向かうことしばし、そこでまたもや空から現れる小さな狐。

 

『ちょっと! 約束の場所にいないとかどういうこと?』

 

 生首と違い心当たりがあるので狼狽えることはなかったが、姦しい声で怒鳴りだす狐に苦笑する。

 

「すいません、病院を出るのに手間取ってしまって」

『あ、ピートさん、怪我は大丈夫?』

「除霊に支障はありません。ありがとうございます」

「そう、ならいいわ。ってあれ、横島は?』

「ちょいと別件で離れてますジャ。今夜はワッシらだけで対応しますケエ、よろしくナビお願いします」

『何やってんのよあいつは。こんな時に』

 

 この狐こそがオカGの手配した童守町居住の霊能力女子中学生葉月いずなの操るくだ狐であり、くだ狐を介して遠距離通話を行ういた(こ)phoneの術である。 

 

『今夜は様子が変よ』

「変とは?」

『いつもならあの広域見鬼くんってやつに反応があるんだけど、町中に反応がないの』

「それはいいことですが、ひょっとして町の外に?」

『そう。地図で見ると童守町の端の方。そこに乱れた霊的磁場の反応が集まってて、数えられないくらい』

「なんですって⁉」

「ですが、一所に集まっているのなら好都合ですジャ」

『私は町に反応が出てこないか観測を続けるよ』

「そうですね。いつ悪霊が現れないとも限りませんし。行こうタイガー!」

「ガッテンですジャ!」

『この()が案内するから付いてきて!』

 

 いよいよ以て童守町における広域多発霊障が、人為的なオカルトテロの可能性が高くなってきた。もしくは、人知を超えた超常存在か。

 いずれにせよ、向かう先にて黒幕が何やら企んでいるだろうことは間違いない。

 

『場所は童守遺跡!』

 

 ここに広や美樹がいればピンと来たであろう名前に気付けるものは誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 一方そのころ、郷子の救出に向かった横島と広は、

 

「待てーっ! 貴様のような猟奇的な輩は法の裁きを受けるがいい!」

「だから、話を聞けってのに!」

「げっ、あのお巡りさん拳銃抜いてるぞ!」

「横島さん、そろそろ首限界! だめぇ、そんなに伸びないのーっ!」

 

 美樹の生首を抱えているところを通報されて警察官に追いかけ回されていた。

 

「「「こんなことしてる場合じゃないのにーっ!」」」

 

 三人の叫びが虚しく空に響き渡る。




 小学校が舞台なのにぬ~べ~はお色気シーンが結構ありました。今だと苦情が来そうですね。当時もあったのだろうか。
 ホラーとエログロは相性がいいとは言いますが、GS美神だと美神さんくらいしかお色気シーンが無かったですね。健全!

 次は翌朝八時に。
 じゃあまた。
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