誘拐された(?)郷子を助けに、和解した広と美樹と共に横島が向かった先は?
じゃあどうぞ。
童守町を囲うように存在する山の一端に存在する童守遺跡。
電力の代わりに気を用い発展した文明のものとされているが、その学説が受け入れられるにはまだ人類には早かった。
いかなる文明とも共通項を見つけられず、また学会でも荒唐無稽なインチキとされた超古代文明の遺跡である。
童守小学校元五年三組の広、郷子、美樹を含めた五人はこの遺跡に端を発する霊障に大いに関わっている。
その発端となった屋敷、百刻館の入口に息をきらせた横島と広がいた。
「しつこかったなあの警察官」
「生首を持った男がいりゃあ、放ってはおかないだろうよ。正義感のあるいいお巡りさんが赴任してるんだ、安心しろよ」
「わかってもらえたから良しとしましょう。それより、私の身体が近くにあるの。しばらく動いてないわ」
「郷子ちゃんもそこにいればいいんだけどな。っと、あの木に抱きついてるの美樹ちゃんの身体か?」
「そうね。あのFカップの豊満なボディは美樹ちゃんの身体で間違いないわ」
「わざわざ言わんでよろしい、ってかFなのか。美神さん並、末恐ろしや」
美樹がフヨフヨと身体へ飛んでいく。ムニュンと潰れるほど木の幹に抱きついているのだが、周りに郷子の姿はない。
「嫌な予感、当たっちまったか?」
「そうみたい。横島さん、これ」
元の姿に戻った美樹が、胸の間から紙を取り出す。
「郷子からのメッセージみたいね」
「お、おう。生あったけえ」
「横島さん、鼻の下伸びてんぞ。あと5年はナンパの対象にならないんじゃなかったのかよ」
「それはそれだ。えーっと何々……」
『連れてかれるのは私だけみたい。百刻館。美樹の身体よろしく』
殴り書きであるが、郷子の筆跡であると広も美樹もわかった。
郷子に決断をさせた何者かへの怒りが湧いてくるが、同時に無事であろうことに安堵した。
「このひゃっこくかん、てのはあの館でいいのか?」
「ああ。去年妖怪博士が究極妖怪オロチを復活させようとした拠点があそこだ」
「妖怪博士に究極妖怪ねえ。なんともな名前だけど」
「やってることはとんでもなかったわよ。子どもの魂を集めたり、エクトプラズムで妖怪を創り出したり。最後は不完全ながらもオロチを復活させたしね」
「ってか、その時にこの館壊れなかったっけか」
「人造妖怪ってか。カオスのおっさんとはまた別のマッドなのがいたんだな。見た感じ、幻とかじゃなくて本当に存在する建物っぽい。こりゃあ、そいつが復活したなんてこともあるか」
「復活って一応妖怪博士は人間よ?」
「人間でも条件整えたらできるんだよ。身内の巫女さんとか知り合いのオカマにそういうのがいる」
「そんなことできるのか? でも、ケセランパサランの力で奥さんと成仏していったんだし、復活しても悪いことはしないと思うんだけど」
「勘だから深く気にすんな。それとこれも勘だけど、町の悪霊多発の黒幕もここにいるかもな」
「そうなの?」
「同じ場所で変なことが連発してれば同じやつがなんか企んでるんだと思うぜ。別の犯人がこの機に乗じてってよりは、可能性高いんじゃねえかな」
結局の所、考えるだけでは答えにたどり着かないのは変わらずであった。
「郷子ちゃんがあそこにいるのは間違いないだろうから行くとするか。広、美樹ちゃん、案内頼むぜ」
「おお、任せとけ!」
「うん。だけどどこに行く? 重要そうな箇所はいくつかあるけど」
「一番重要そうなところから潰してくか。広や美樹ちゃんはともかく、俺はお呼びじゃないだろうから妨害がありそうだけど、っとおいでなすった」
横島が広と美樹を庇うように立ち位置を変えると同時に、身を隠していた木の上から人の頭ほどの大きさの物が落ちてきた。
『グゲゲゲゲ』
「こいつ、釣瓶落とし!」
「前の時もこいついたわ!」
「ちょいさ!」
三匹四匹と増えていくがさすがに横島も手こずることはなく、“栄光の手”の一撃で退治する。
「さっすがゴーストスイーパー!」
「んー、なんか手応えが変だな。妖怪ってこんなもんか?」
「横島さん、まだ来るぜ!」
「きりねえな。一気に行くぜ、広、美樹ちゃん走れ!」
横島を先頭に館へ走る。
“栄光の手”で切り開き、広や美樹を狙う釣瓶落としは“サイキックソーサー”で撃ち落とす。
普段は馬鹿でアホでスケベなヘタレだが、“大霊障”を切り抜けた経験はこの程度の妖怪に手こずることはない。
「ちぇっ、かっけえなぁ」
「さっきも思ったけど、もう横島さんに反発しないのね」
「悪かったよ。あまりにもガキすぎて反省してんだ」
「郷子にも謝っておきなさいよ」
「わかってる。そのためにも絶対に郷子を助けるぞ」
「言われるまでもないわよ」
森を抜ければ木から落ちてくる釣瓶落としは現れず、門を越え館に辿り着く。
洋館の玄関は閉じられていたが、鍵はかかっておらずいとも簡単に開く。
館内は明かりがなく薄暗く、窓が鉄格子で封鎖されていることもあり不気味な雰囲気が漂っていた。
「さて、こういうののお約束は地下に秘密の基地があるってもんだけど」
「正解よ。ここ本館の地下深くにドームがあるの。北館も重要っちゃ重要だけど、ドームの方が
「んじゃそこ行くか。ところで、やっぱ中も妖怪だらけか?」
「ああ、小さなストーンサークルがあって、そこから妖怪を生み出してた。前のときはしょうけらが出てきたんだ」
「しょうけらって、あいつか?」
横島が指差す先には巨大な角の生えた鱗に覆われた妖怪が立っていた。
「ほんとにいたーっ!」
「なんだかな。本当に再現でもしようってのか?」
「のんびり言ってないで、横島さん倒してよ!」
『グアアアッ!』
横島は無言で“サイキックソーサー”を放つと、飛びかかってきたしょうけらは回避することもなく直撃し、消えていった。
「つ、強いのね横島さん」
「いや、さっきの釣瓶落としの時から思ってたんだけど、こいつら
「ガワ?」
「見た目だけ妖怪の形してるけど意識はないし、強くもない。人形をそれっぽく見せてるだけだな」
「そうなのか? 俺には全然わかんねえけど」
「霊体だから霊能がない人にはどうしようもないけども、うーん。よくわからんなぁ。まあ、油断せずに行こうか。案内頼むわ」
「うん。こっちの方に広間があって、その先に地下への階段があるの」
美樹が指差す方へ向かう。
夏で日の入りが遅いとはいえ既に夕暮れ。館の造りもあってより暗い方へ誘われているかのようである。
かろうじて明かりがなくとも歩ける程の廊下を通ることしばし、突き当たりのドアを開けると広間になっていた。
二十畳はある広間に見上げればテラスまで設置されており、元の持ち主がパーティでも開いていたのか、一般住宅とは到底思えない広さだ。
「前はテラスから妖怪博士が出てきて、ストーンサークルから妖怪を生み出せるのを見せられたんだったっけ」
「犯人が狙って再現しようとしてるのなら……マジで来たよ」
「あ、あれは!」
広の言葉に見やれば、テラスから姿を表す人影。
年の頃は二十半ば、高身長に引き締まった体躯。腕まくりをした白いワイシャツに黒ズボン。特徴的なゲジ眉に左手に黒手袋。
広らが見まごうはずもない、恩師鵺野鳴介、ぬ~べ~の姿がそこにあった。
「ぬ~べ~、じゃない!」
「あれが鵺野先生か。見た感じ普通の人だけど」
「ぬ~べ~(仮)! 郷子はどこ!?」
「こうして見りゃイチモクリョーゼンだ! お前ニセもんだな!」
初めて見る横島にはわからないが、生徒だった広らには通ずるものがあったのだろう。一目で偽物であると看破した。
普段はダメダメなのにいざとなると頼りになる、優しくも厳しく生徒を導く大好きな先生。それが鵺野鳴介へのイメージだ。それが何がどうなろうともイヤらしい笑みを浮かべて見下ろす、こんな男に成り果てるわけはないと確信があった。
「おいおい、ひどいな。恩師の顔を忘れたのか?」
「ぬ~べ~の顔で出てくるんならもっと調べとけよ。ぬ~べ~はお前みたいな気持ちわりい笑い方しねえんだよ!」
「そうよ! 下手なモノマネしてないで郷子を返しなさい!」
今までの鬱憤を晴らすように激情をぶつける広と美樹だが、どこ吹く風とぬ~べ~(仮)はくっくっくと笑う。
「まあお前たちがどう思おうともこの俺は鵺野鳴介だ。妖怪博士の力は復活させた。こいつで童守町を破壊してやる」
「お前、ぬ~べ~の顔でそんなことさせるかよ!」
「言葉ではなんとでも。だが、お前たちに防ぐことができるのか? 何の力も持たない、守られるばかりのお前たちが」
「あんた、本当にわかってないのね」
「何?」
「ぬ~べ~は私たちが守られるばかりじゃない、特別な力が無くたって無力じゃないとわかってくれてる。ちょっと調子に乗って危険な目に会っちゃったけど、それでもぬ~べ~はそんなこと言わない! ぬ~べ~クラスの私たちはあんたを絶対に認めない!」
「ふん、実際何ができるわけでもない。ただ吠えていれば」
「うりゃ」
「うおっ!」
論戦が激しくなったところで、全く空気を読まず横島は“サイキックソーサー”を放つ。
妖怪と違い回避したが、その顔は驚愕に満ちていた。
「お、お前空気読まなすぎだろ!」
「別に読む必要もないだろ。とりあえずお前ぶっ倒すのはやらなきゃならんし」
「とりあえずで邪魔をするな!
「ゴーストスイーパーがいるのはわかってただろ。アドリブ効かせろよ」
「下賤な人間如きが!」
「おいおい大丈夫か。素が出てんぞ」
「……ちっ。囚われの姫はオロチの間で待つ。入口の鍵は北館の最上階だ。さあ、ゲームスタートだ」
「今さらカッコつけてもなぁ」
「横島さん、そこ」
「ああ、大丈夫。落とし穴だろ?」
鵺野鳴介(仮)は一息ついて気を取り直し、身を翻してテラスから消えた。
見送る横島は美樹の声に石を蹴る。すると、追いかければ落ちていたであろう絶妙な位置に、床が開く落とし穴が設置されていた。
「気づいてたのね。それも霊能力?」
「いんや。落とし穴は俺もよく使うし、きれいに四角の線が見えたから」
「よく使うのかよ。陽神と南雲は落ちたんだよな」
「どちらさん?」
「前の時に一緒にいた上級生。そいつら霊能力持っててさ、俺たちに危ないから帰れとか言ってたのに落ちちゃって」
「大丈夫だったのか? 結構深いけど」
「ぬ~べ~(仮)が言ってた地下ってオロチの復活装置があるところだと思うんだけど、そこに私達が着く前に妖怪博士と戦ってたから無事だったわよ」
「へえ、ここ目的地に繋がってるんか」
横島が落とし穴を覗き込むと全くの闇でどれほどの深さかはわからない。
だが、横島はいいことを聞いたとばかりに口角を上げた。
「鍵は北館の最上階ね。ちょっと距離あるけど仕方ないか」
「バカ正直にあいつの言うなりになるこたあないだろ」
「横島さん、なんか変なこと考えてない?」
「いや? ショートカットはできるならした方がいいと考えてるけど」
「おい、やっぱ変なことじゃねえかよ!」
「まあまあ、騙されたと思って俺に任せろって」
「あ、ちょっ、ちょおおおおっ!」
「ふざけんなあああっ!」
「アイキャンフライってな!」
横島は広と美樹を抱えると、落とし穴に飛び込んだ。
どう見ても自殺行為。付き合わされる広と美樹にはたまったものではない。
暗闇に悲鳴が響く。
「飛んでない! 落ちる、落ちてる!」
「着地出来りゃ降りてるんだよ」
「ホントに出来るんだろな! 騙してないよな!」
「任せろって言ったろ。“栄光の手”!」
落下中に横島は“栄光の手”を発動させ、伸ばして壁面を掴む。
勢いがついていたため土をガリガリと削りながら落下速度を落とし、広と美樹には長い時間、実際には数秒でピタリと止まる。
小学生とはいえ片手で二人を抱え、壁にしがみつくのは相当な負担だろうが、大量の荷物を担ぎ山やら海やら踏破してきた横島には簡単なことだった。。
横島は特殊な状況に慣れているだけなので、良い子は真似をしてはいけない。
「体感20メートルってとこか。ビル5、6階くらいだな」
「し、死ぬかと思った」
「こんくらいじゃ死なねえって」
「死ぬわ! 普通の人は5、6階の高さから落ちたら死ぬんだよ!」
「俺大気圏から落ちたことあるけど平気だぞ。慣れだ慣れ」
「慣れたくねえよ、そんなん。ってかどういう状況だよ」
「もうちょい深さあるな。こっからはゆっくり落ちるぞ」
「お願いだから降りて。落ちないで降りて」
“栄光の手”をゆっくりと伸ばし、静かに降りていく。
完全な暗闇で広と美樹には自分の身体も、抱き着いている横島さえも見えない。ゆっくりとはいえ落下感のみを感じるのは、深夜のフリーフォールのようで恐怖を覚える。
横島は夜目が効いているのか、本人が言うように慣れているのか、事も無げに降りていく。
「お、風が吹いてるな。横穴見っけ。広、美樹ちゃん。手ぇ放すからしっかりしがみついてろよ」
「勘弁しろよ、落ちちゃうって!」
「すぐ着くよ。よいしょっと!」
「ひいぃっ!」
横島は広らを掴んでいた手を横穴に向け“栄光の手”を伸ばし、横穴の壁を掴んで三人を引き寄せる。
「よっと。ほら、すぐだったろ?」
「寿命は確実に縮まったわよ!」
「俺、もう絶叫マシンとか怖いとも思わねえ気がする」
ぐったりへたり込む二人を尻目に、横島は横穴を見やる。
光源はなく、夜目が効くどうこうの問題ではなく全く見えない。
「この先はさすがに明かりが欲しいな。もったいないけどしゃーねえか。ほれ、広」
「え、何だこれ。ビー玉?」
「それポケットにでも入れとけ」
「何だよそれ……ん? あれ、灯りもないのに見える」
「わ、それもオカルトなの? 何でもありねえ」
横島に手を取られて立ち上がった広を中心に暗闇が照らされていく。しかも広が中心にいるというのに横島や美樹の影が出来ない謎仕様。
闇を“照”らすというよりは、周囲だけ闇が切り抜かれたかのような光が侵食しているような、まさに不思議パワー、オカルトであった。
「どっかで繋がってんだろ。行けるところまで行ってみようぜ」
「ホントに大丈夫なのかよ」
「ああいうスカした奴の裏かいて思い通りにさせないのも戦法の一つだぜ。うちの上司はそういうの大得意でな」
「搦手ばっかなのね」
「基本的に神族だの魔族だのは人間よりスペック高いから、裏ワザ使わないと勝てねえし」
横穴を進んでいくと広間に出る。石畳が敷き詰められており柱が立ち並ぶ。どういった用途の部屋なのか一見して想像がつかない。
「広いな。広、辺り一面照らしたいって考えてみ」
「お、おう。この部屋を照らしたい」
口に出す必要はなかったのだが、広の願い通りに“照”らされる広間。先の方の行き止まりには扉が見える。
一通り危険が無いことを確認し、不意に現れる妖怪に注意して扉へ向かう。
「おー、ホントに謎パワー。どうなってんの?」
「ま、そいつは後回しだ。さっきの鵺野先生(仮)の話を先にしようぜ」
「ぬ~べ~の? 何かわかったのか?」
「ありゃ偽物だな」
「偽物? 操られてるとかじゃなくてってこと?」
「そ。今まで出てきた妖怪と同じでガワだけのやつ。俺がさっき攻撃した時、ソーサーの余波で輪郭崩して怒鳴ってたの見えたろ」
「そりゃビックリしてたし、それくらいするんじゃないの?」
「おいおい美樹ちゃん。人間輪郭なんてそうそう崩れないぞ、ギャグマンガじゃあるまいし」
「え、そ、そうかしら。いや、そうよね」
「なんだろう。なんとなくお前が言うな感が」
現実はギャグマンガのように顔が大きくなったり目が飛び出たりしないのである。
「多分、他の妖怪を一としたらあいつは百くらい密度に差があるんじゃねえかな。数字は適当だけど」
「だから他の妖怪と違って喋れたってこと?」
「いや、あいつと話して
「……」
黙ってしまった広と美樹だが、心当たりがあった。しかしそれは、ありえないことであり考えたくないことであった。
「多分、絶鬼だと思う。何か人の悲鳴がシンフォニーだの最終楽章だのそれっぽいこと言ってた」
「うん。ぬ~べ~の左手に封印されていた覇鬼の弟で、覇鬼を解放するために地獄から這い上がってきたの」
「どの鬼も兄弟想いなのは一緒か」
「でも、ぬ~べ~にバラバラにされて鬼門に叩きこまれて無限地獄に落ちたはずだし、あいつだったらこんなまどろっこしいことしないで暴れると思う」
「だな。前の時はみんな半殺しにあってたし、わざわざぬ~べ~の評判を落とそうとするとか、手下使って暴れさせるとか、そんなことしなくてもあいつだけで童守町壊滅できそうなもんだけど」
「あー、本人がしこたま強いタイプか」
横島が相対してきた魔族や妖怪にも、街を壊滅させることなど容易な力を持つものは多々いる。
大人を子供にしてしまう悪魔バイパーや、花粉や花の分体で街を覆った死津喪比女、本人も強く策謀を巡らせるメドーサなどがいたが、絶鬼のようなタイプと言えば、
「究極の魔体、か? さすがにそこまでヤバいのはいねえと思いたいけど」
「何ブツブツ言ってるの?」
「いや、わかるのはこんくらいかなって。あとは本人に突撃インタビューだ」
話している内に反対側へたどり着いており、荘厳な扉が行く手を阻んでいた。
「しっかし、変な造りしてんのなこの館」
「そうよね。機能性ってものが感じられないわ。無駄に長い廊下に無駄に広い部屋」
「そうか? ゲームのダンジョンだとこんな感じだけど」
「そういえば事件の始まりってゲームだったわよね。あいつもゲームスタートとか言ってたし。拘りなのかしら」
「ま、どうでもいいっちゃどうでもいいやな。さて、それじゃ行くか」
「あいつの言うとおり鍵かかってるぜ。どうすんだよ」
「こうする」
横島が腕を振りかぶり、淡く光る拳を扉に叩きつける。
するとなんの抵抗もなく、自動ドアかのように扉が“開”いていった。
「さっきまで鍵かかってたのに」
「あ、ひょっとして昨日助けてくれたときも?」
「そういうこと。さ、行くぞ」
扉の向こうは石畳ではなく近代的なフロアになっており、壁には明かりが設置されている。先程までの広間とは用途が明らかに違うと感じさせる。
警戒は怠らず進むと開けた場所に出る。
そこはドーム状の部屋であり、床に設置された巨大なストーンサークルが投光器で照らされている。壁にある謎の機械が異様ではあるがシンプルといえばシンプルな造り。
オロチ復活を目的とした霊障の基点、ラスボス部屋に到着である。
「ここ目的地?」
「前とは入口違うけど、そうよ」
「あの機械が子供の魂を集めるオロチ復活の核になってたけど、今は何もないな」
「もう来たのか!?」
焦った声の方を見やれば、バルコニーのようになっている部分から鵺野鳴介(仮)が見下ろしていた。
「鍵を取ってくるならもっと時間がかかるはずだ。さては貴様、ルートを無視したな!」
「隠し通路とか見つけるの得意なんだよ、俺。ゲームにはありがちだろ?」
「っていうよりズルな気がするけど」
「確かに横島さんの力、便利すぎてバグってるもんな」
「チーターめ!」
「仲間からも敵からもえらい言われようだ」
ぐぬぬと柵を握りしめる鵺野鳴介(仮)だが、ふうと一息ついて髪をかきあげる。
「せっかく配置した妖怪どもが無駄になったが、ともあれ、ここまで来たのならもう用はない。お姫様はそこだ」
「郷子!」
「美樹、横島さん! 広も、来てくれたんだ」
「ああ、悪かったな。もう大丈夫だ」
鵺野鳴介(仮)が指差し、投光器が照らす先に紐に手首を縛られた郷子がいた。
美樹と広が助けに行くが、見た限り負傷はなさそうであり、まずは一安心といったところだ。
「なんだ、この子の命が惜しければ、はしないのか」
「ふん。そんな小悪党のような美意識に欠ける行為をするわけがないだろう」
「ほとんど初めましてなのに、んなこたわからんだろ」
「だから、
もはや本性を隠す気もないのか、口調が変わった鵺野鳴介(仮)はヒラリと手摺りを飛び越える。
常人では怪我なく降りれるわけもない高さを難なく飛び降りた。
「結局ぶっ倒すんだからあんま興味はないけど、その子らが気にしてるから聞いとくぞ。お前、絶鬼とかいう鬼か?」
「ふふ、さすがにヒントを与えすぎたかな。その通り。かつて兄さんの力を完全にコントロールした鵺野鳴介に破れ、地獄に叩き返された絶鬼だよ」
グニャリと顔の輪郭が歪み、かつて人間態で現れた美形の少年の顔となり、また歪んで鵺野鳴介の顔に戻る。
「絶鬼、なんで人間界に戻ってこれたんだ!」
「あんた地獄の最下層に落ちたはずでしょ!」
「なんでぬ~べ~のマネなんかしてるの!」
「……うるさいな。ちゃんと話すから少し待ちなよ」
呆れたようにこぼす絶鬼。
「ゴーストスイーパー、だっけ? 少し話す時間はもらえるかな。さっきみたいな不意討ちはなしで」
「何かの時間稼ぎかもしれないからとっととぶっ倒したいけど、まあ、しゃーねえか」
「つくづく君は様式美を介さないな。だがまあ、時間稼ぎではないし、ありがとうと言っておくよ」
以前の絶鬼は人間を虫けら扱いし、弱い者いじめのように蹂躙することを好んでいた。どんな心境の変化なのだか、形はどうあれ今の絶鬼は一定の評価をしているように見える。
敵であることも油断できないことにも変わりはないが、本気で会話をしようとしているのだと思わせた。
「人間の暦はわからないけど、ある日いきなり、何の前触れなしに僕は童守町にいた。鵺野鳴介に五体をバラバラにされて鬼門に落とされたはずなのにね。同時に、童守町全域に妖気が満ちているのがわかった。町中に妖怪が溢れているのだとすぐにわかったよ」
それはおそらく、かつて“大霊障”終盤で起こった、退治されたはずの妖怪や悪霊が復活した日だろう。
後にオカルトGメンの調べで、日本どころか世界各国に同様のことが起きていたと判明しており、被害も相当にあったらしい。
「一際大きな力のある方向、つまりこの館に来たらオロチがいたので、食べた」
「食べた!? オロチをか!」
「そう言っただろう? それで僕はさらなる力を手に入れたが、それでも足りないと思えた」
「そんな、ただでさえとんでもない力を持ってた絶鬼にオロチのパワーまで加わったら……」
広らは驚愕するが、横島はどちらも知らないので全くピンとこない。今の鵺野鳴介(仮)改め絶鬼から、それほどの力を感じられないからだ。
凄まじい魔族や魔神と相対した際に感じた、空気が震えるような、背筋が凍えるような感触が伝わってこないのだ。
「その力を僕は全てこの世界に留まるために使った。何者かによるよく分からない召喚、何かの拍子で送還されてはかなわないからね」
「え、どういうこと?」
「多分、去年世界的に妖怪悪霊が大発生した時のこと言ってんだろう。あん時、大元をぶち壊したら復活した奴ら全部消えたから」
「あ、そういえば大騒ぎしてたけどすぐに収まった。え、あれ横島さんが関わってたの?」
魔神アシュタロスが世界の修正力に対抗するために作り出した
知る者は少ないが、世界を救った戦士の一人であるのだ。普段からはそうは見えないが。
「予想通りに存在が消えそうになったが対策のおかげで耐えきれた。この世界に足をつけた僕はこの館を拠点とした。ああ、半ば妖怪化していた人間がいたのでついでに食べておいたよ」
「妖怪博士をか!? あいつも復活していたのか」
「改心したとはいえ好きになれないやつだけど、それでもなんかくるものがあるわね」
「以前と変わらないままでは人間に、鵺野鳴介に勝てないことはわかっていた。悔しいことに、人間の絆の力、傷つけられた時に発揮するパワー、触れてはいけないものに触れて僕は負けた」
「あんたの後に眠鬼ちゃん来たけど、仲良くなったわよ。それに覇鬼だってわかってくれた。だったらあんたも」
「……そうか、眠鬼も兄さんも絆されたのか。そうさ、鬼にだって絆はある。人間と何が違う?」
「壊すことにしか力を使わないお前にはわかんねえよ。何かを守りたいって時に発揮する正義のパワーはすっげえんだ! そうだろ横島さん」
「あー、まー、そう、かな?」
いきなり話を振られた横島は曖昧に答え、広らは上がったテンションからの落下でだああっとコケる。
「なんでそんな曖昧なのよ」
「いや、絆とか言われてもよくわからん。俺の霊能力の源は煩悩だし、雇い主は金だし」
「せ、正義は? 愛は?」
「いや、ノリで言うならまだしも素面ではちょっと」
「酔ってるみたいに言うなよ!」
とはいえ、愛や正義など横島や美神からすれば背筋にサブイボが出るレベルの言葉である。
そんなものより現世利益最優先なのが美神除霊事務所のスタンスなのである。
「ま、まあ、絆の力とやらを理解しようかと思って、妖怪博士とやらの知識でこの姿を作り童守町を歩いてみたけど、やはり無理だったね」
「何で! 眠鬼ちゃんも覇鬼も楽しんでたのに」
「二人とも馬鹿だし、人間界で過ごしすぎたからさ。僕は人間の悲鳴や血まみれの姿が大好きなんだ。何もない平和な日々を過ごすなんてどうしてもできなかった」
「最悪ね」
くくっと邪悪に嗤う鵺野鳴介の姿を見せられる広らに怒りが溜まっていく。
力で敵わないのは承知の上で殴りたくなる気持ちを抑えていた。
「強きに挑み、弱きを薙ぎ払う。地獄では当たり前。それを忘れては鬼ではいられない。そういった意味では、鵺野鳴介に恐れをなした僕も鬼では無いのかもしれないがね」
「それで、鵺野先生の姿になって評判落として絆を崩壊させようとしたとかか?」
「まさか。そんなみみっちいことはいないよ。この姿は今の僕がイメージする最強が鵺野鳴介のためだ」
絶鬼は左手の黒手袋を外す。そこはピートの言った通り、広らが見たことのある通り、手首から先が無かった。
「くっくっくっ。笑えるよ。鬼の僕が取るに足らない人間に、兄さんの力を使わなければ戦えない人間に恐れをなして、強さを認めてしまっている」
「何を! ぬ~べ~は例え鬼の手がなくったって戦うぞ!」
「だろうね。奴は兄さんの手が無くても僕に立ち向かっただろう。だがそれなら僕が負けることはなかった。自分ではない別の力に頼り、自分ではない何かを守るために力を発揮し、僕を撃退した。こんなこと認められるわけがない!」
妖気を発し“鬼の手”が現れる。
完全に戦闘態勢となった絶鬼に広らは下がり、横島は“栄光の手”を構える。
「そろそろお話は終わりにしよう。この姿で暴れれば奴もいずれここに来る。ゴーストスイーパーが来たのは想定外だが、本命の前のウォーミングアップだ。貴様を殺す!」
「お前、やってることが支離滅裂だぞ。本当は何がしたいんだ?」
「それを知りたければ僕を倒すことだな!」
童守町の広域多発霊障の黒幕にして、鵺野鳴介への復讐に燃える地獄から復活した鬼、絶鬼。
対するは最強の丁稚横島忠夫。
現代の鬼退治が始まる。
“鬼の手”∨S“栄光の手”
ある程度プロット決めて書いてるんですが、書いてる内にああしようこうしようと二転三転することが多々あります。
なので整合性が合わず首を傾げることがあるかもしれませんが、そういう時は感想でツッコミをどうぞ。
無理やり辻褄合わせるか、訂正します。
じゃあまた。