趣味で書いてるので締切はあってないようなもの。連載作家はすごいなとしみじみ思います。
修行も終盤に差し掛かったものの、成長の実感を得られていない三人のお話。
じゃあどうぞ。
第十五話 覚えたことは忘れませんよ
某県にある人界最後の修行場とされる妙神山。
現在、美神除霊事務所のメンバーである氷室キヌ、人狼族の娘犬塚シロ、金毛白面九尾の狐の転生体タマモの三名が修行に励んでいた。
彼女らはまだ、管理人である小竜姫の師匠であるハヌマンの稽古を受けられるほど成長が頭打ちしていないため、通常空間での修行となる。
門番である鬼門らは、ここ最近の修行場の騒がしさに喜びを噛み締めていた。
『小竜姫様が楽しそうで何よりであるな、右の』
『うむ左の。今日は一段と励んでおられるようだ』
耳をすませる必要もなく、門からでも剣を合わせる音、霊波を放つ音、地面に叩きつけられたり吹き飛ばされて壁に埋まる音が響いていた。
時折苦悶の声も聞こえるが、修行には付き物である。
『はて、そろそろ誰か限界を向かえたかの』
『昼食にはまだ早い。当たりどころが悪かったか』
常ならばまだまだドシンバタンと音がしているだろうに、不意に音が消えた。
『なあ右の』
『なんじゃ左の』
『ワシらが相手するにちょうどいい修行者が来ないものかの』
『そうさな。最近上澄みばかりでワシらかませにしかなっておらんしの』
門番が任務とはいえ、楽しそうに修行をつけている小竜姫を見ている鬼門たちは、羨ましそうにそうこぼすのだった。
そのドシンバタンの現場は道場ではなく、ほど広い庭であった。つい先日パピリオが暴走しかけ、横島と小竜姫が収めることに成功したあの庭である。
かつて美神が修行に来た際は霊体を直接鍛えるため影法師を召喚していたが、おキヌら三人は身のこなしや戦闘時の連携向上も込みでの修行を希望したため、肉体をいじめ抜く修行となっている。
「はあああっ!」
「太刀筋は昨日よりよくなってますが」
「ちぇいっ!」
「タマモちゃんの攻撃を隠したいのなら」
「「ぎゃんっ!」」
シロの袈裟斬りを打ち落とした小竜姫は、死角から接近したタマモの蹴りを往なし、その勢いのままタマモの足首を掴みシロに叩きつける。
「視線を向けては気づかれます。位置取りはいいですが
狐火を放ちながら距離を取ったタマモの影から、シロが最近編み出した霊波クナイを投擲。
剣で払ってくれればまだ幾ばくか隙が生まれようものだが、小竜姫はクナイを指で挟み、狐火を目隠しにシロ、タマモに投げ返す。
「くっ、右!」
「左!」
クナイをかわしながら、シロが右、タマモが左から突進するが、そのようなわかりやすい攻撃が小竜姫に通じるはずもない。さらに二人の軌道の交差点は小竜姫ではなく、その手前。
何をしてくるのか、と小竜姫は薄く笑みを浮かべ迎え撃つ。
そして、シロの霊波刀とタマモの霊波爪がぶつかり合い、凄まじい閃光が発せられる。横島のサイキック猫だましと同等の技である。
さらに追撃をせんと霊波刀と霊波爪が小竜姫に振るわれるが、
「なんと!」
「同時に踏み込んでも同じ間合いの得物にしないと」
シロの霊波刀の先端に剣を合わせて止め、
「同時攻撃になりません」
「ぬうっ!」
「うあっ!」
「いちいち動きを止めない」
剣を巻きシロの態勢を崩し、タマモとひとかたまりにしたところで、
「「んぎゃっ!」」
「せめて防御はしましょう。あ、ちょっと出来ましたね、良いことです」
回し蹴りで二人まとめて壁に叩きつける。この一連の流れはたったの数秒で行われた。
目にも止まらぬシロとタマモの攻勢をその場から一歩も動かずに対応した、小竜姫の鮮烈にして静かな霊波を感知したおキヌは圧倒されていた。
戦況把握訓練のため目ではなく霊感で追っていたのだが、訓練が進むにつれ普段はホンワカお姉さんといった小竜姫が、その実武神と呼ばれる戦姫なのだと改めて認識する。
「本命までに小技を繰り出すのはいいのですが、まだまだ小手先ですね。二人は一旦休憩としましょうか。次、おキヌちゃん」
「は、はい!」
「そこから二人を治療してください。終わり次第組手です」
「こ、ここからですか」
「そうです」
そして、やはりスパルタなのだとも。
手当てとも言うように、おキヌが使用できるヒーリングは患部に手を当てることで効果を発揮する。もっと言えば癒魂術の副産物であるヒーリングは効果が薄く、遠距離での発動はやったことがないし、どうすればいいのかもわからない。ネクロマンサーの笛の使用も禁じられている。
とりあえず二人に手を向け、治って〜癒やされて〜と念じてみるが、手応えはない。
むーんと唸っているおキヌ、息を整えているシロ、タマモ、息を切らしてもいない小竜姫の元へ、パピリオが現れた。
「小竜姫、電話でちゅ。ヨコシマから」
「明日のお迎えの連絡でしょうか?」
「よくわかんないけど、緊急だっていってまちたよ」
「あら、何事でしょうね。それではちょっと早いですがお昼休憩とします。二人が自分で回復するまでにおキヌちゃんは治癒を、二人は今の組手の反省を。パピリオ、私が戻るまで監督を任せます」
「わかりまちた、けど。何やってるんですか、あれ」
「お願いしますね」
心なしか足取り軽く去っていく小竜姫を見送り、踊るように手をわちゃわちゃさせているおキヌを見て、何を監督すればいいのやらと悩むパピリオであった。
「うー、全く歯が立たない」
「あっという間に気絶させられた初期に比べればまだましとはいえ」
「私の霊波爪もあんたのクナイも猫だましも、今日初見のはずよね」
「まったく意にも介されなかったでござるなぁ」
「スペックで力任せにやられたんじゃなくて、完全に技で返されたし」
「よくわからない動きで予想もつかない先生とは違って、動きに無駄がない」
「年の功っていうのかしらね、こういうのも」
「参考になるでござるが、小竜姫どのの良いところばかり挙げても意味がない。拙者らの改善点は?」
シロとタマモの二人は言われたとおり反省会をしていたが、小竜姫が聞けば井桁を浮かべていたかもしれない。
「って言っても、
「確かに。小竜姫どのの
「あ、シロも? 実は私も」
顔を突き合わせて相談する二人の元へパピリオが赴く。
「手こずっていまちゅね」
「パピリオどの。力でも技でも負けている相手にどう勝てばよいやら検討もつかず」
「勝つ必要ないんじゃないでちゅか? 修行なんだし」
「それはそうだけど、成長の実感というか一泡吹かせたいというか」
「考え方が横島に毒されてまちゅね」
横島も美神もだが、勝つためには何でも使うしやる。
シロは武士道を心がけているが、負けて死ぬくらいなら泥に這いつくばってでも勝とうという気概はある。タマモは元はといえば宮廷人であるが、生き延びるために権力者の庇護を求める手段を選んでいる。元より手段を選ばない素養持ちであるのだ。
「私は出力だけなら小竜姫と同等かそれ以上なんで、参考にはならないと思いまちゅ」
「むう、確かに」
「行き詰まったら基本に戻るのが大切らしいでちゅよ」
「基本っていってもね。確かに出力向上してはいると思うけど」
「大元に立ち返ったらどうでちゅ? 二人は人狼と妖狐とはいっても元は獣なんだし、野生の本能覚醒とか」
「大元に」
「立ち返る」
パピリオがキューブを回すような仕草をした意味はわからなかったが、その言葉にさらに何やら引っかかるものを感じたシロとタマモは、じんわりとおキヌから漂ってくる癒やしの波動に身を委ねるのであった。
「はい小竜姫です」
「横島です、こんちわっス」
「こんにちは横島さん。明日の予定の確認確認かと思ったのですけど、何やら緊急事態だとか」
「そうなんです。すいません、俺、妙神山には行けなくなりました」
そのころ、パピリオからの言伝を受け、妙神山唯一の外界との連絡手段である黒電話の元へ赴いた小竜姫は、横島から奇妙な伝言を受けていた。
「え、横島さん、明日迎えに来れなくなったんですか!?」
「明日だけでなく、その後の臨海学校? というのも行けるかわからないとのことでしたが」
昼食の際、横島の急用が伝えられた。
数日後に臨海学校を控え、絶対に行く、みんなの柔肌は俺が守るなどと宣っており、気合が入っていた横島が予定を変更するなど考えづらい。
おキヌとしては大分複雑ではあるが、助っ人としては申し分なく心強い存在である横島が来られないことに、何やら不安を掻き立てられる。
「遺産関連で至急取り掛からなければならない案件だとかで、県外出張らしいですよ」
「今から出向いても遅いとはいえ、お手伝いしたかったでござる」
「気が急くのも無理はないと思いますが、皆さんは修行を完遂することが責務です」
「わかっちゃいるけどね。それで、明日修行終わった後ってどうすればいいか、横島は何て?」
「迎えに行けなくてごめんと。美智恵さんの了承を得ているらしいので、しばらく自由行動で良いとのことです。戻るならオカルトGメン預りで捜査に従事してもらい、どこか行きたいところがあるなら行ってもいい、と」
「帰るのは問題ないですけど、シロちゃんとタマモちゃんって監督者が必要なんじゃなかったでしたっけ」
「問題を起こさなければ構わないらしいですよ。たまには帰省してきてもいいよ、ですって」
人狼族の里にはしばらく帰っていないので帰省してもいいのは嬉しいが、シロとタマモに構っていられないほどの事件が起きているのではとも思える。
そんな時にノンビリしていていいのかとも。
「ま、こう言っちゃあれだけど、私たちじゃなきゃダメな何かがあるわけでもないってことでしょ」
「そう、なのかな」
おキヌらはそれぞれ年齢に見合わぬ特殊で強力な能力を持ってはいるが、未成年であり、社会に地盤を持たぬ妖怪である。
そんな彼女らを親子の気の置けない関係や、資格持ちでフットワークの軽い丁稚へのように気軽には依頼できないのだろう。
「そういうわけですので、明日の予定時間までは修行に努めてください。食後、いつもの時間にまた組手を始めますよ」
「あ、それなんだけど、私とシロにちょっと時間と場所をくれないかしら」
「構いませんが、場所というのは?」
「どこか、静かで瞑想に適した場所をお借りしたく」
「なるほど。それでしたらパピリオに案内させます」
「あそこでちゅね。了解でちゅ」
「あれ、それってひょっとして」
「代わりにおキヌちゃんとの組手の時間を増やします」
「……ですよね」
修行はシロとタマモのペアが小竜姫と組手をし、入れ代わりでおキヌが小竜姫との組手とは名ばかりにしこたま投げられるのがパターン化していた。時折霊能の課題も加わっていたが、どうやら午後は打ち身が増えそうだと気合が入るとともに少々萎える。
「おキヌどの、申し訳ござらんがしばしお願いいたす」
「う、うん。シロちゃんとタマモちゃんに重要なことなんだよね」
「今は多分としか言えないけどね」
怪我をしないように念入りに石を拾っておこうと思うおキヌであった。
そうして、おキヌが立っているより転ばされている時間のほうが長い組手を行っている中、道場でシロとタマモは瞑想をしていた。
午前の二人の会話で、またパピリオとの会話で引っかかった野生の本能という言葉。
二人は狼と狐であり、また少女でもある。
優れた身体能力、人間よりも優れた霊感、高出力な霊波、磨き積み上げた技を駆使することができる。
人間社会に適応するのは間違いではないし、戦い方も学ぶのは間違いではない。だが、人間に寄せるのは必ずしも正解ではないのではないか。
人型となれるが、獣でなくなったわけでは無い。今までの経験を捨てる必要はないが、自分が何者かに立ち返ることも重要ではないか。
自分が何者であるか、どのようになりたいのか、瞑想の中で自問自答する。
人間になりたいのか。想い人とデートをしてスイーツを食べさせあったり、並んでキツネうどんをたべたり。なるほど、心惹かれるものがある。
獣でいたいのか。大自然を思いのまま走り回り、自然の幸を堪能する。悪くはない。
恩師や恩人と肩を並べて戦い、フォローしたりされたりして、日々の糧を稼ぐ。群れの一員として頼られたいし助けたい。
人型をとり得た経験を元に行動することは間違いではない。獣として直感を信じることもまた。いずれも諦める必要はない。
直感とは感覚的に動くこと。
それまでに得た知識や経験を元に無意識に身体が動くこと、何となく嫌な予感がして危険を察知すること、どちらも直感である。
つまり、
「考えてから動くではなく、動いてから考えるでもなく。考えながら動く」
「思考と動作を直結させる。相手が何をしてきても即座に対応する」
「下手の考え休むに似たり、でござるな」
「言うは易く行うは難しでしょ。だいぶ無茶なこと言ってるわよ」
「……これって、小竜姫どのや横島先生のやってることと同じなような気がするでござるが」
「どうだろ。小竜姫は体が勝手に動くまでいってるだろうけど、あいつは考えなしに動いてそのままな気がするけど」
目指すところはすでに先達が見せていた。
自身の組手と霊能向上、戦況把握のため小竜姫とシロ、タマモの組手の見取り稽古など、組手のみ行っているシロとタマモほど激しくはないがおキヌの修行はやることが多い。
おキヌの戦闘時の立ち位置は後衛であるが、前衛の立ち回りを理解し、さらに接敵された際最低限身を守れるよう身のこなし方を学ぶ組手を行っている。修行開始当初は室内で行われていた小竜姫とおキヌの組手は、今では屋外で行われている。
攻撃されて防御するのは最後の手段、距離を取り、または捌けるようになるために小竜姫が選んだのは合気柔術であった。
かつて霊体で三百年あまり過ごした上、地脈制御装置に繋がれていたおキヌは、力の流れを感知する能力に長けている。
応用できるはずですと、修行開始から投げられ続け地面を舐めた数は初日で数えるのを諦めた。受身は上達したのかもしれないが、硬い地面では誤差に等しい。
「お、お願いします」
「はい、行きますよ」
そう言いつつも小竜姫は動かない。相対し、静かにおキヌの動静を見ているようで見ていない。おキヌもただ立っているようにしか見えない小竜姫を観察するが、その実剣を突きつけられているのと変わらない。
瞬きした一瞬で音もなく接近する小竜姫、霊感で感じ取るおキヌ。肩に伸びる手を捌き、体を入れ替えることに成功するも攻撃手段がないおキヌは距離を取る。
ここまでは以前にもできた。前回は安堵した拍子に足をかけられ転倒したため油断はせず残心する。
「体捌きはよくなっていますね」
「ありがとうございます」
「とはいえ、まだ視覚に頼っています。ヒャクメから心眼を与えられた感覚を思い出しましょう」
「もうヒャクメ様に返してしまいましたけど」
「覚えたことは忘れませんよ。思い出しにくくなっているでしょうが。私は知りませんが、自転車というのはしばらく乗らなくてもすぐ乗れると聞きました」
「一緒にしていいものなんですか?」
「身体が覚えているか魂が覚えているか、違いはありませんよ」
それならば、
ふと思ったことに、おキヌの脳内でカチリと何かがはまった音がした。
「段階を上げます、と言いたいところですが、休憩にしましょう」
「あ、シロちゃん、タマモちゃん」
「お時間いただきありがとうございます」
「小竜姫様、組手お願い。今の感覚を忘れたくないの」
「構いませんよ。お手並み拝見します」
見た目も雰囲気も変わってはいないが、思うところがありそうな二人を見て小竜姫は笑みを浮かべる。
心持ち一つで見違えることがあるのは横島の前例がある。彼女らはこの短時間で何を変えてきたのか、武人として師匠として興味をそそられる。
自然体で佇む小竜姫に反して、シロとタマモは今にも飛び出しそうなほどの前傾姿勢で構える。
シロは自然体を試したことがあり、見様見真似とはいえそこそこ様になっていたが、こちらの方が性に合っているのだろう。堂に入っている。
おキヌが合図の柏手を打ち、弾かれたように突進する二人。何度となく打ちのめされ、どうすれば小竜姫に勝てるのか
それではいけない。持ち味を活かせない。二人は人型を取れるが獣であり、
シロは走りながら霊波クナイを投擲、しかし牽制にもならならないほど的外れな方向へ飛ぶ。
合わせてタマモの狐火の目眩まし。効果がないのは重々承知。狐火を貫いてクナイが小竜姫の後方に飛び、その場で固定される。
「がああっ!」
「勢いだけはいいですよ、あら」
霊波刀の一太刀を打ち落とされ体を崩されたが、シロは勢いのまま走り抜け、クナイを足場に方向転換。
間合いの違うタマモと同時に攻撃、いなされる。
足を止めての連続攻撃、上に下に振り分けるも小竜姫はやはりその場を動かない。動かせない。
「いいですね。獣の勢い、人型の技術、共に活かしています、が」
「がっ!」
「くぅっ!」
わずかにタイミングがずれ、一撃をくらい弾き飛ばされる。
体勢を整え再度吶喊。
「はああっ!」
「たああっ!」
全身全霊を刀に、爪に込め、常に一撃必殺を心掛け、
「今までと変わりません、よ!?」
打ち落とす刀を、弾く蹴撃を獣型に変化しかわす。
急に間合いや体勢が変わるが、自ら変化したシロ、タマモと違い小竜姫が対応するには遅すぎた。
霊波刀が、霊波爪が小竜姫の身体に到達する、その直前にかき消える。
「ぬうっ!」
「これでもかわすか!」
午前までの二人ならばそのまま衝突していたかもしれないが、気分が乗っている今ではすぐさま追撃にかかれる。
「ふう、危なかったです。ちょっと本気でいきます」
今までは一歩も動かすことができなかったが前進した。しかしそこで満足はしない。少なくとも一撃はくらわせると勢いが増す。
それからしばし、おキヌは三人の組手を全く目で追うことはできなかった。
人型で切りつけ、獣型で食らいつき、刀爪牙問わず攻撃。クナイが狐火が舞い、縦横無尽に飛び回る。
小竜姫の動きを見てから対応するでなく、予め対応を決めておくでもなく、その時その場でアドリブで動く。
おキヌは霊感を全開にし観察するが、コンビネーション抜群の二人にフォローを入れられる気がしなかった。把握できたとしても方法がなかったこともあるが。
しかしそれでも、その場を動かない枷を外した小竜姫を捉えることはできなかった。
「いいですよ、二人とも。こちらからもいきますね!」
「望むところ!」
「そのすまし顔引きつらせてやる!」
さらに、今まで隙を晒したときにしか攻撃をしなかった小竜姫からの攻勢が加わる。
神剣による切りつけ、放たれる霊波砲、殴打、蹴撃、投げ、極め。どれ一つとしておキヌに流れてくることはなかった。
おキヌは仮にそうなったとしても、弾き飛ばされてから気づいたことだろう。
二人の凄まじい成長に感嘆し、置いていかれたくはないと焦燥も混じりに、集中力を高めていたおキヌの霊感は広く深く、広がっていく。いまだ当人も気づいていない領域に。
しかし、終わりは唐突にやってくる。
「あ」
「あたっ!」
「へっ!?」
「あ、ちょっ!」
高速戦闘の最中、唐突に小竜姫の頭上に一抱えはあろう石が降ってくる。
と同時、集中が途切れたシロとタマモが足をもつれ転倒する。
ただ一人、おキヌだけは気づいていた。とはいえ、見事な隠形で直前まで気づかなかったのだが。
パピリオが修行の激しさが増していったころに、ハヌマンを呼びに行っていたのだった。
「ろ、老師!? 何をするんですか」
「阿呆。結界外でやりすぎじゃ。また再建させるつもりか」
「え……あ、誰がこんなことを!」
「小竜姫でちゅよ」
ふと見れば、庭はだいぶ様変わりしていた。地面は抉れ、岩は砕け、木は折れていた。誰がやったのかと言えば言うまでもない。
「逆鱗に触れられたわけでもないのに周りが見えなくなるとはのう」
「も、申し訳ありません。二人の成長が嬉しくて、つい」
「二人だけか?」
「え?」
ハヌマンはへたり込むシロとタマモに、遠距離ヒーリングを行っているおキヌを見やり、小竜姫も気づく。
「明日、犬神はワシが預かるぞ」
「はい。おキヌちゃんの修行は趣向を変えます」
「成長できるって、やっぱりうらやましいでちゅね」
「あなたも成長できますよ」
「はい」
「お前はもうちょっと成長せんか」
「……はい」
霊気の出力が上がったわけではなく、技術が向上したわけでもない。ただ心構えが変わっただけ。
されどそれだけで充分。
こうして、三人の修行は仕上げを迎える。
で、成長の兆しが見えてきた三人のお話でした。
お目見えはまた別のお話で。
じゃあまた。