GS横島 Step by step   作:カシム0

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 白竜会に出向いた横島と同行者のお話。
 話が中々進まないとお思いでしょうが、私もそう思います。
 じゃあどうぞ。


第十七話 俺の“栄光の手”だ!

 

 

 

 

 

 謎の襲撃犯兼窃盗犯追跡のため、白竜会に向かう横島はオカルトGメンが所持するヘリコプターに乗機することとなった。

 パイロットは除霊資格を持った高校生を指定ポイントに搬送せよ、だけの命令を受け、さらには胸ポケットに活動停止中のステンノとエウリュアレを入れた、一目見て人形を胸ポケットに入れた怪しい高校生を速やかに搬送した。

 俺、この人からどう思われてんのかなと横島は思ったが、確認する気は起きなかった。

 陸路よりも格段に早く件の山の麓に到着した横島は、美智恵が手配した同行者と合流した。

 

「お前らか。雪之丞に勘九郎」

「白竜会だろ? そりゃ俺たちが適任だ」

 

 先日人間として復活し身寄りがないためオカルトGメン子飼いの実働員として活動中の鎌田勘九郎と、一時的に身元引受人となった伊達雪之丞である。

 元は白竜会の一員なのだから納得の人選であった。

 

「もうしばらく顔出してないけどね。それにしても坊や。そういう趣味?」

「話聞いてんだろ。メドーサじゃないメデューサの姉貴たちだよ」

 

 初めてのことなので想像でしかないとの前置きがあるが、恐らくステンノとエウリュアレが人界で活動できる時間は約一日である。

 二人の今の姿はラジコンなようなもので、自意識を封じた端末を人界に派遣しているのだという。込めた魔力が尽きれば消えてしまうため節電中である。

 そんなステンノとエウリュアレを胸ポケットに収めた横島を、勘九郎はからかうように笑みを浮かべていた。

 

「言われてみればどことなく面影があるような無いような。んー、無いかしら」

「転生してるから別人だろ。今こいつらが起きてる必要はないんだから、さっさと寺に行こうぜ」

 

 いつもシロに散歩で連れて行かれる山と違い、舗装された山道は格段に歩きやすく、雪之丞らの先導で寺へ向かう。

 道すがら情報のすり合わせを行うが、わかっていることは多くなく、すでに連絡済みでそれほど話すことがあるわけでもなかった。

 

「お前ら今何してんだ?」

「俺は修行がてら遺産事件に関係ありそうな案件を片っ端から片付けてるな。実は勘九郎と会うのはメドーサの件があってから初だ」

「冷たいのよね、雪之丞ってば。あたしに会える機会は何度があったのにスルーなんだもの」

「お前に会う必要がなかったんでな」

「ひどいのね。あんたの彼女さんのこと聞きたかったのに。会ってみたかったのに」

「弓は彼女じゃねえ!」

「聞いた坊や? あたし彼女さんとしか言ってないのに、すぐに弓ちゃんのことって思い至るのよ」

「俺の弓さんとイチャコラしやがって」

「誰がお前のだ! 弓は俺の……何でもない」

 

 なので、男同士の雑談となる。

 

「んで、勘九郎は何してんだよ。なんか西条がお前のこと話すたびゲンナリしてんのは知ってるけど」

「あたしはオカルトGメンが表立って動けない案件担当よ。コロシは無いけど侵入、奪取、鎮圧って感じ?」

「それって非合法なやつか?」

「ちっと面白そうなんだよな」

「相手は裏とか闇とかがつくやつよ。ご褒美に海の見えるホテルでディナーをおねだりしてるんだけど、彼、ガードが硬いのよね」

「なるほど。もっとガンガンやってやれ。応援するぞ」

 

 男として男色の気がないのに迫られるのは同情しないでもないが、西条なら話は別である。

 

「そろそろ階段が見えてくるか」

「朝晩恒例の魔の上下運動ね。今にして思えば懐かしいわ」

「その悍ましい呼び方してたのお前だけだぞ」

 

 雪之丞の言葉通り、百段は越えていそうな見るだけで萎えてくる石段が現れた。修行にはつきものだろうが、これを登らなければならないのかと考えるだけで行く気が失せてくる。

 

「そういや、この寺って観光名所だったりするのか? 今んとこ人っ気無いけど」

「地元でも知る人ぞ知る、レベルだな。とーっきどき観光に来てたのいたけど、見るとこねえからすぐ帰ってた。ありがたいご本尊もねえし、売店もねえし。そういやどうやって生計立ててたんだ?」

「あら、雪之丞は知らなかったのね。基本ヤクザのボディーガードの斡旋よ」

「時代劇の先生お願いしますってやつか」

「お前の今の任務の対象だったりする?」

「まさにそんな感じよ。メドーサ様の件がなくても遠からず手入れが入っていたでしょうね」

 

 闇の武闘集団だったのだろう。戦闘に適した霊能所持者は一般のヤクザレベルでは歯が立たない戦闘力を持っている。仮にヤクザが攻撃されたとして警察に正直に話すはずがなく、存続できていたのも理解できる。

 

 

 

 

 

 話しながら石段を登っていると、不意に三人が同時に足を止める。

 

「あ、これってやっぱり?」

「坊や、話には聞いていたけど腕を上げてるのね」

「言ったろ? 俺のライバルだって」

「そんなんになった覚えは無いぞ。どっかから見られてるよな」

 

 そう横島が言った直後、霊波攻撃が放たれる。

 散開し回避すると、石畳が弾けた。

 独特な収束された刀状の霊波に、横島は見覚えがあった。

 

「ご挨拶だな、陰念!」

「雪之丞! てめえ、どの面下げて帰って来やがった!」

 

 石段脇の木陰から、傷だらけの武闘着姿の男が現れた。

 やはり見覚えのあるその男。かつてメドーサの傘下としてGS資格試験に参加し、凶悪な霊能でタイガーを下し、横島が危機感から自力で霊能に目覚め資格を得た試合の対戦相手だった男、陰念である。

 その名の通り因縁のある間柄ではあり見た目もインパクトがあるものの、思い出す機会がなく、名前をすっかりと忘れていた横島である。

 

「それに勘九郎! 魔族になって死んだって聞いたぞ」

「お久しぶり。色々あって生き返ったのよ。いい女はしぶといの」

「ゴキブリかよ」

「失礼ね」

 

 陰念は威嚇するかのように歯をむき出しにし唸っていたが、ギロリと横島に目線を向ける。

 以前ならば怯え腰が引けていたろうが、今の横島には陰念こそが怯えているように見えた。

 

「会いたかったぜ、横島忠夫。お前をズタズタにしてやりたくて、俺は技を磨いてきたんだ」

「おう、そうか」

 

 手から刀状の霊波を発し見せつける陰念は、まるでナイフをチラつかせるチンピラだ。

 怖いことは怖いが、感覚が麻痺しているのか、もっと怖いものを知っているためか、大したことないように思えてならない。

 

「スカしてやがんな。マグレで俺に勝ったからって調子くれてんのか、あ?」

「ありゃお前の自爆だろ。そんなことより聞きたいことあんだけどよ」

「っん、だ、てめえ、俺を舐めてやがんのか!」

 

 怒号とともに身体から霊波を放出する陰念。なるほど、かつてよりも出力が上がっているようだ。

 三人からすれば誤差のようなものだが。

 

「なあ、あいつあんなにチンピラっぼかったっけ?」

「いや、三下感はあったけど、あそこまでじゃなかったような」

「放っとかれて拗ねてるんじゃない? お見舞いとか行かなかったし」

「なるほどなー」

「そういやそうだな。陰念、一応気にはしてたんだぞ。指名手配されてたから病院行けなかったし。されてなくても行ってたかわからんけど」

「な、め、や、がってえええ!」

 

 歯を砕かんばかりに噛み締めていた陰念は、さらなる怒号とともに霊波を放出する。

 しかし、渾身の一撃であろう霊波は三人の腕の一振りで弾かれる。

 

「なんだと!?」

「おうおう。修行しっかりやってたんだな。契約解除されてんのに収束ちゃんとできてんじゃねえか」

「人間に戻ったときにチャクラズタズタになってるはずなのにね。頑張ったじゃない」

「見た目に似合わず真面目なんだな」

 

 かつて実力不足により魔装術に呑まれ魔族未満の魔獣に変化した陰念だが、治療が功を奏し人間に戻ることができたのは見てわかる通り。

 しかし、勘九郎も同様だったが、魔族から人間に戻る際、身体が作り変えられていることもあり霊能がまともに使えなくなるのだ。

 陰念もそのはずだが、以前よりキレの増した霊波となっており、鍛錬を重ねたことが伺える。

 素直に褒めている三人だが、陰念からすれば煽られているのと同意であったようだ。

 

「ふざけんな……こんなにも、差がついてるわけがねえ」

「いや、頑張ってるとは思うぞ。ただ、霊能って才能が物を言うからな」

「美神さんもそんなこと言ってたな。1%の努力と99%の才能って」

「煽るつもりはないんだけど、そろそろ落ち着いてお話しない? 積もる話もあるし、聞きたいこともあるし」

「うるせええっ! おめえらと話すことなんざ何もねえ、くたばれやぁぁっ!」

 

 陰念は三人に向けて霊波を放ちながら飛び込む。勘九郎と横島は後退り回避するが、雪之丞はその場で霊波を弾き構えていた。

 

「雪之丞?」

「弟弟子の修行の成果を確認しようと思ってな。手ぇ出すなよ!」

「なめてんじゃねえぞぉっ!」

 

 雪之丞は軽々と陰念の飛び蹴りを受け、着地と同時の連撃をいなす。

 

「霊撃はそこそこいいけど体捌きがなってねえな。組手足りてねえぞ」

「白竜会を潰したてめえがどの口で!」

「型動作はできたろうが。ほれ、脇を締めろ」

「がっ!」

 

 拳をかわし脇に一発。傍から見ても手加減しており、修行をつけているようにしか見えない。

 

「前の癖直ってねえな。蹴りの軌道丸わかりだ」

「ぐっ!」

 

 陰念の蹴りを膝に手をやり止め、みぞおちに肘を入れる。さらに顎をかち上げ、

 

「腹から力抜くな、ゲロ吐くぞ」

「ごはっ!」

 

 隙だらけの腹部に掌底。吹き飛ばされた陰念は地面を転がり、しかしすぐさま立ち上がる。

 

「おら、どうした! 修行時代ならまだ序の口だぞ」

「て、めえ、好き勝手やりやがって、ごほっ」

「ふん、根性は前より出てきてんじゃねえか」

「土なんざ嫌ほど舐めてきてんだよ!」

「当たり前のこと抜かしてんじゃねえ!」

 

 陰念が一方的に攻めているが、現状雪之丞が受け手の掛かり稽古である。

 わかっているのか、それでいて苛ついているのか、陰念の攻撃は激しさを増す一方である。

 

「なあ、雪之丞は陰念のガス抜きのつもりなのか?」

「うーん、どうかしら。あの子にそんな気遣いできるとは正直思えないし、本気で稽古つけてるだけかも」

「ぶっちゃけ飽きてきたんだけど」

「坊やからするとそうよねぇ」

 

 そんな二人を見ていた横島は早く終わらねえかなと考えていた。雪之丞や勘九郎は陰念との間柄があるが、思うところのない横島にとってはひたすら暇な時間であった。

 そんな会話が聞こえたのか、雪之丞が陰念を殴り倒し、背を踏みつけて動きを止めた。

 

「くっ! 何で魔装術を使わねえんだ」

「使うまでもねえ、それだけだ」

「ふざ、けんな。地獄の修行してるのに手も足も出ないのかよ」

「お前も修行したんだろうけど、俺だって修行もしたし修羅場も越えてきてる。その差だ」

 

 言って、雪之丞は陰念の背から足をどけて距離を取る。

 

「そろそろ終いにしようぜ。渾身の一撃ってやつをやってみろよ」

「とことんまで舐めてんだな、俺を」

「ちげーよ。お前の修行の成果ってやつを見せてみろって言ってんだよ」

「ん、のやろう。骨の一本二本覚悟しろよ!」

 

 立ち上がり、陰念は霊気を集中する。

 手を握り、掲げ、陰念の手に霊気が収束していく。

 どことなく、見覚えがあるような、と雪之丞と横島は思った。

 

「魔装術は使えなくなったが、代わりに編み出した俺の、俺だけの必殺技」

「お、おう」

「余裕ぶっこいてんじゃねえぞ。見て驚け! これが失われた栄光を取り戻す手、俺の“栄光の手”だ!」

 

 そうして掲げた陰念の腕には、霊波による手甲が現れていた。

 収束しきれていないのか、ところどころ不格好ながら、それは横島の“栄光の手”(ハンズ・オブ・グローリー)に酷似している。というより、出力と収束に差があるだけで同じ原理の技であった。

 

「……」

「言葉も出ねえか。そうだろう。俺は魔装術に頼らず霊波を収束する術を会得してんだよ!」

「あー、うん。すごいな」

「すっとぼけてんじゃねえぞ。お前の魔装術の装甲くらい軽く抜ける威力なのは確認済みだ」

「あー、ま、いいか。ほれ、とっとと来いよ」

「っち、てめえはホントによ。だったら、食らいやがれぇっ!」

 

 咆哮し、突進してくる陰念に雪之丞は、技の維持に気を取られてるから簡単にかわせそうだな、とか、食らっても大した事なさそうだし一発もらってやるかな、などと考えていた。

 陰念の言う雪之丞の魔装術の装甲とは妙神山の修行前を参照しているだろうし、込められた霊力からしても威力の検討はついていた。

 しかし、目の端に写った光景に、黙って見ていることにした。

 

「うらあぁぁ、あ?」

 

 陰念の言う“栄光の手”による一撃は、雪之丞の眼の前で同じ、いやそれ以上の精度の霊波収束手甲に止められた。言わずもがな横島の“栄光の手”である。

 

「な、なん!? 何でてめえが“栄光の手”を!?」

「技名被ってるんじゃボケェ!」

「ぐっはあぁぁっ!?」

 

 横島は陰念の攻撃を受け止めたのとは逆の手に“栄光の手”を発現させ、力の限り、思いの丈とともに空へ拳を突き上げた。

 

「おうおう。海から天空へ虹が伸びていく、ってか」

「たーまやーって感じ?」

 

 どがしゃあ、と地面に頭から落ちてきた陰念は、殴られてか落下したからか、意識を失っていた。

 収まりがつかない横島の肩を叩いた雪之丞は陰念の足を掴み、引きずりながら三人は白竜会へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 石段を登りきった三人は、白竜会の門の前にいた。

 これまでの道のりにも中からも人の気配はなく、どうやら残った内弟子たちの最後の一人が陰念なのだろう。

 幼少から過ごした白竜会の凋落に思うところはあるが、時代の流れというか栄枯盛衰というか。

 ともあれ、雪之丞も勘九郎もすでに巣立った場所の寂れ具合に、それほど心動かされることはなかったのだった。

 

「誰もいねえとなると、陰念が手先か?」

「さてな。あんなことがあってまだ悪党の手先をやろうってんなら、ある意味尊敬するけどよ」

「もしそうならもっと強くなっててもいい気がするけどね。正直、必死に修行したレベルの強さでしかなかったわよ」

「ここに住んでるやつにバレないで潜める場所とかあるか?」

「まあ、山に入ればどこに誰がいるかなんてわかんねえけどよ」

「だとしたら厄介よね。この人数で山狩りするのは億劫だわ」

「おら、陰念。狸寝入りしてねえで起きろ」

「……気づいてたんかよ」

 

 雪之丞の言葉に、引きずられていた陰念がムクリと起き上がる。

 ひとしきり暴れてスッキリしたのだろうか、殴りかかってくる素振りは見せない。

 

「で、結局お前ら何しに来たんだよ。古巣に挨拶にってわけじゃねえんだろ。こいつまで連れてきてるし。ってか、何だよ、その人形は」

「あー、どこまで話していいんだっけか?」

「美神の大旦那から、陰念がいたらある程度話していいってよ。事情もある程度知ってるし」

「それじゃあたしから。今日、メドーサ様の霊基とギリシャ神話のメデューサの霊基が盗まれたの。犯人が白竜会に逃げ込んだのがわかったので確保に来たってわけ」

「はあ!? メドーサ様って滅びたって聞いたぞ? それにギリシャ神話のメデューサってなんだよ」

 

 事情を少ししか知らない陰念に簡単に説明するが、少しだけ知っているためか説明が面倒なことになった。

 

「じゃあ、その遺産とやらのゴタゴタに巻き込まれたってことかよ」

「ツケが回ってきたようなもんよ。協力すれば何かいいことあるかもしれないから手貸しなさいな」

「そんな都合のいい……いや、そうだよな。どうあれやらかしたことに変わりはねえか」

「お、素直じゃねえか」

「うるせえ。で、何すりゃいいんだよ」

「どうする横島」

「え、俺が決めんのかよ」

「この中で資格持ちは坊やだけじゃない。音頭とるとしたら坊やよ」

「それもそうか」

 

 荒事に慣れていそうな面子は資格を剥奪されていたり持っていなかったり経験がなかったり、となればこの場でリーダーとなれるのは横島しかいなかった。

 さてどうするかと辺りを見れば、そろそろ日が暮れる頃合いで腹具合も心許ない。

 急ぎの仕事ではあるが、万全の体制で臨まずやりましたが駄目でしたではすまない。

 となれば、

 

「とりあえず、腹ごなしするか」

「だな。陰念、飯よこせ」

「そういえば陰念の料理、結構美味しかったわよね」

「はあ!? お前ら緊急事態で来たんじゃねえのかよ」

「腹が減っては戦はできぬ。あと寝床も頼むわ」

「てめえら、どんだけ上から何だよ」

 

 無理難題を押し付けられる覚悟はしていたが、方向性の違う無茶振りに気が抜ける陰念であった。

 

 

 

 

 

 ちょうど夕飯時であったこともあり、昔ながらの囲炉裏に数人分の食事が準備されていた。

 欠食が常の横島や雪之丞は食べられるときに食べる、三杯目を堂々と要求するのが当たり前であり、鍋の中身を食い尽くさんばかりに食らいついていた。

 

「こら中々いける。作ったのがいかついチンピラ野郎なのを除けば」

「陰念、おかわり寄越せ」

「何で偉そうに食ってやがんだてめえら! ちったあ申し訳無さそうにしやがれ!」

「誰もいないのに十人前の食事を作ってるだなんて、さてはいつ誰が来てもいいように準備してたわね?」

「人を寂しいやつみたいに言うな! 明日の分もまとめて作ってただけだ! くそ、米と味噌の在庫補充しなきゃじゃねえか」

 

 勘九郎の言うように、陰念が準備していた裏の畑で取れた野菜や狩りで得た獣肉をふんだんに使用した鍋は中々の美味であった。

 文句を言いつつも、陰念は久しぶりの複数での食事や旨いとの感想に、ニヤけそうになるのを抑えるのに必死であった。勘九郎は気づいていたようだが。

 

「あーあ、明日の夕飯に雑炊にしようと思ってたのに、空じゃねえか」

「また作りゃいいじゃねえか。次はウサギ肉がいいな」

「明日も集る気か、てめえは!」

「できれば今日でケリつけたかったけど、流石に虫がよすぎたかな」

「犯人が高笑いして出てきて思惑説明してくれれば簡単だったけれどね」

「せめて材料費くらいは置いてけよな」

 

 食後、陰念がブツクサと文句を言いつつも淹れたお茶で一服する頃にはすっかり日が暮れていた。

 

「さすがに今から周辺探すのは危ねえかな」

「明かりなんかねえし、崖とかもあるしな」

「急ぎなんだろ。探してこいよ。んで崖から落ちろ」

「陰念、あたしたち以外に誰も来てない?」

「無視かよ……来てねえな。料理してたらおめえらの霊気を感じて様子見に行ったくらいで、ここ一月以上誰も来てねえよ」

 

 お茶請けは陰念が漬けた漬物であり、塩加減がこれまたいい感じであった。

 

「一月前には誰がいたのよ」

「……俺以外の内弟子連中だ。もう先がねえ白竜会に見切りつけて出ていったよ」

「霊波隠蔽とかしてんだからそう簡単に尻尾出すわけもねえか」

「さっきも聞いたけどよ。滝の裏とか崖の下に洞窟とかねえのか? なんか身を隠せそうな場所」

「滝なんかねえよ。近くに川が流れてるけど急流でもねえし、そもそも洞窟もねえし」

「子供の頃、みんなで探検したわね。雪之丞が崖から落ちて兄弟子に助けられたこともあったかしら」

「あったなあ。俺は探検ってより、ここから逃げてやるって逃走経路の確認のつもりだったけどな」

「ああ、あそこか。山菜がいっぱいなってたとこ」

 

 昔話に花が咲くが、目星をつけられる場所は結局見つからなかった。

 

「じゃあ、だいぶ早いけど寝ちまって、明日早くから付近の検索ってな感じでどうだ?」

「現状、それが一番いい気はするわね」

「当てがねえとどうしようもねえしな」

「俺が言うのも何だけどよ。お前ら、そんな呑気でいいのかよ?」

「しゃーねえよ。こいつらがメデューサの霊気を感じたら起きるとか言ってたけど、今んとこ何もないし」

 

 と、横島が胸ポケットのステンノとエウリュアレを指差す。二人とも動く気配はまったくない。

 陰念が二人を一瞬見据えすぐに目を逸らすのを、勘九郎が見ていた。

 

「朝飯パン食いてえな」

「てめえらは本当によう。わーったよ!」

 

 というわけで、かつて雪之丞や勘九郎も寝ていた広間で布団を敷いて休むことになった。

 

 

 

 

 

「んが……んごご」

「ムニャムニャ……ママ」

「スー」

 

 三様に寝息を立てている夜中というには少々早い時間。そっと陰念が起き上がる。

 そうっと横島のジージャンに忍び寄り、動きのないステンノとエウリュアレに手を伸ばす。

 しかし、その手は二人を掴むことはなく、中空を二、三度漂い、ため息をついて手を握り、陰念は外へと出ていった。

 そうしてしばし、勘九郎がムクリと起き上がる。

 

「ちょっとご不浄に」

「任せる」

「おう」

 

 勘九郎は横になっている横島と雪之丞に声をかけ、音もなく陰念の後を追った。

 

「勘九郎って面倒見がいいのか?」

「まあ、な。俺らの代じゃ最年長で、馴染めねえ奴気にかけたりしてたな」

「ふーん」

「ケツがやばそうなんで、そっちの気がねえやつは別グループで固まってたけどな」

「そっちの気があるやつもいたのか?」

「……派閥ができるくらいには」

「おー怖」

 

 最近では同性愛者に配慮すべきとの風潮があるが、自分が対象になったとしても同じことが言えるのか。

 ノンケに迷惑かけなければ好きにすればいいが、勘九郎は本気か冗談かちょっかいをかけたがるので、雪之丞は恐々としていた過去を思い出すのだった。

 

 

 

 勘九郎は陰念を追って川に来ていた。

 陰念は勘九郎に気づいていないのか、背を向けて手を上下させていた。

 声をかけてもいいものかしら、と思春期の子を持つ母親のような気持ちになった勘九郎である。

 ナニをしていたのかは見てわかったのだが。

 

「川に向かってスルのが陰念のやり方?」

「うおっ! なんだ勘九郎かよ」

 

 振り向いた陰念の手にはタワシ。横島と雪之丞が食い尽くした鍋をタワシで洗っていたのだ。

 まあ、勘九郎は音を聞いてわかってはいたのだが。

 

「何もなしにイケるなんて若いわね。溜まってるのなら言ってくれればいいのに」

「わけわかんねえこと言ってんじゃねえよ!」

「言わせる気? エッチね」

「やかましい!」

 

 グルルと歯をむき出しにする陰念の隣に腰を下ろす勘九郎。陰念はスッと距離を取った。

 

「お人形が可愛いからって手出したらダメよね」

「……見てたんかよ」

「二人も気づいていたわよ」

「ちっ」

 

 苛立ち紛れにガシガシと鍋をこする陰念に、勘九郎は微笑ましいとばかりに笑みを浮かべる。

 

「何だよ」

「あんたも変わったのねって思っただけよ」

「うっせ。ちと魔は差したけど、今さら魔族につこうなんざ思ってねえよ」

「見てればわかるわよ。あたしも同じだもの」

 

 鍋をこする音が途切れる。

 

「正直言うと、あたしはメドーサ様を助けるためにここに来たの」

「助ける? オカGに引き渡さねえで逃がすつもりか?」

「そうじゃなくて。聞くところによると、メドーサ様の霊基は山の動物にバラバラに分けられて、食べられて、最後まで生き残ったクマを乗っ取って出てきたらしいのよ。蠱毒みたいな感じかしらね」

「ああ、何か前触れもなくいきなり出てきて驚いたとか横島が言ってたやつか」

「そ。で、坊や達が撃退して、こっから上だけの状態で魔族の特務隊とかいう部隊が確保してたのよ」

 

 勘九郎が胸元に手をやった位置は、人間ならば死体と思われても仕方のない場所であった。

 魔族だから蠱毒の虫扱いされ、魔族だから死なずにすんだがその後は囚われの身。生きているだけで儲けものとは言うが、それがいいこととも思えない状態である。

 

「それで今度は誘拐?されてさ。同情ってわけじゃないけど、なんとかしてあげたいって思うわけよ」

「袂を分かったとはいえ、そんな扱いされてたら助けたくもなる、ってか?」

「そんな感じ。なんか癪じゃない。いいように扱われてさ」

「言っちゃなんだが、メドーサ様が俺たちにやってきたことが自分に降り掛かってきただけな気もするぞ」

「それはそうだけど、あたし達が気にしてないんだし別にいいじゃない」

「まあ、な」

 

 陰念の鍋をこする音が再開する。こびり付いたカスが落ちたのか、音は大人しめだ。

 

「生き返って人間として生きていく決心は着いたしあっちにつく気は毛頭ないけど、別にメドーサ様を裏切るとか憎むとか、そういう気持ちはないのよね」

「お前もそうなのか」

「元々、逆らったら石にされるか殺されるか。それが怖くて従ったわけじゃないし」

「ああ。あの頃は魔族につくのが正しいって、強くなれるのに乗らない手はないって、マジで思ってた。今でも間違いだったとは思わねえ」

「雪之丞は試合の時に手出しされたからあっち側についちゃったけど」

「利用されて切り捨てられたのに、何でかそう思えねえんだよ」

 

 強さと残忍さと狡猾さで悪を体現していたメドーサはカリスマがあった。

 白竜会の多くは孤児や身寄りのない未成年で、強い者に搾取され、残忍な虐待を受け、狡猾な策略に振り回された過去を持つものも多くいた。

 社会から見れば悪の巣窟であったろうが、当時の白竜会には確かにメドーサへの憧れと向上心があったのだ。

 

「そんなわけで、あんたも協力なさいな」

「やるって言ったろ? マジで心当たりはねえよ」

「疑っちゃないわよ。白竜会復興までは無理にしても、何らかの恩赦はもらえるかもしれないし」

「っつーてもな。今さらGS資格を取るとか考えてねえし」

「ブラックリストから除けられるだけでも御の字じゃない?」

「まあ、なぁ……」

 

 今さら日の当たるところを歩けるとも思えないが、監視対象から外れるだけでもありがたい。

 どれだけの功績を積めばそうなれるかは采配者の思惑次第ではあるものの、光明が見えてくるのなら助かるというもの。

 

「それじゃ、あたしは戻るわ。あんたも早く寝なさいよ。朝食の支度もあるんだし」

「おう……って、お前らにも手伝わせるからな!」

「おやすみ〜」

「あ、待てコラ!」

 

 手をヒラヒラさせて寝床に戻る勘九郎につい返事をしてしまったが、明朝は全員叩き起こして何らかの仕込みはさせてやると決意した陰念であった。

 

 




 才能の無いやつが努力すれば天才に勝てるかもしれないけど、天才が努力すれば追いつけないよね。
 とある山育ちのNOUMINみたいには中々なれませんよ。
 じゃあまた。
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