横島と雪之丞と陰念の話し方が非常に酷似していますので、わかりづらいと思いますが、適当に脳内補完してください。
毎回一万文字程度を目標に書いていますが、もうちょっと小分けにした方が良いのだろうか。
というわけで、どうぞ。
翌朝、予告通りに横島らを叩き起こした陰念は夜も明けぬうちから食事の支度を始めた。
「めんどくせーな。作っとけよ」
「やかましい。てめえの食う分はてめえで作りやがれ」
「へいへい」
ブツクサと言っていた雪之丞はただ文句を言いたかっただけなのか、昨夜のリクエスト通りパンを焼きに行った。トースターなどという文明の利器はないので焚き火による直火である。
勘九郎は陰念に湯を沸かすことを指示されこの場にいない。
わざわざ関係性の薄い横島を残したとなれば、なにがしか話があるのだろうと予測はついたが、
「適当な大きさに切ればいいか?」
「食いやすい大きさに切れ」
「あいよ」
特に何を言うでもなく二人して野菜を切っていた。
野菜を渡された横島が包丁で乱切りしていく。普段はインスタントラーメンに卵を落とすくらいしかしない横島であるが、おキヌが食事を作りに来てくれたときに横並びに支度をしたこともあり、手際は良い。
しばらく無言で野菜を切っていた陰念は、とうとう口を開く。
「なあ、お前の“栄光の手”ってよ。どういうことができるんだ?」
「あん? まあ、殴ったり伸ばしたり霊波刀にしたり」
言って横島は“栄光の手”で人参をバラバラにしてま見せた。切れ口は包丁と変わらないどころか、より鋭いとさえ見えた。
「使いこなしてやがんな。どんだけ修行したんだ?」
「いや、なんか勝手に出てきたし、俺の霊力だから使いこなすための修行とかはしてねえけど」
「……くそ、俺がどんだけ苦労して編み出したと思ってやがんだ」
「知らん。っつーか、それが聞きたかったことか?」
「いや、まあ……お前の後追いなのも癪に障るけどよ。せっかく編み出した技を使わねえのももったいねえしな」
「著作権なんかねえんだから好きにしろよ。ただ技名は変えろよな」
「ちっ、わーったよ」
陰念は自ら編み出した技が横島と同一であったことが気になっていたようだ。とはいえ、横島の言う通り技に著作権があるわけでなし、もっと言えば雪之丞も魔装術という下地はあれど“サイキックソーサー”をいとも簡単に真似しているので今更である。
「とは言ったものの、お前には合ってねえかもしんねえな」
「どういう意味だよ」
「何となくだけど、小さくまとめるより大きくドバっとの方が向いてそうな……あれだ。全身から霊波砲出せるだろ。あっちの方がお前向きな気がした」
陰念の技に全身の傷跡から霊波砲を一斉に放出するものがある。魔装術や“栄光の手”の威力は高いが、対峙した横島のイメージとしてやりにくいと感じたのは霊波砲一斉射の方であった。
「……あれか。言われてみりゃあっちの方が確かに、いや、でも、うーん」
「悩んでねえで手動か、してんのな。お前料理人とか向いてんじゃねえのか」
「大きなお世話だ」
悩みつつも手元の野菜を切り刻んだ陰念であった。
雪之丞のリクエスト通りのパンに合わせ、洋風の味付けにした十人前のシチューを平らげた横島らは、空になった鍋にブツブツと文句を言う陰念と共に予定通り周囲の捜索を開始した。
白竜会の周辺は起伏の激しい山で、鬱蒼とした木々に囲まれている。川はあるが池はなく、昨夜の話通り洞窟なども無かった。
美智恵への定時連絡により再度見鬼くんによる霊視情報も送られたが進展はなし。白竜会周辺に逃げ込んだろう犯人が移動した痕跡は発見されなかった。
とっとと片付けて六道の臨海学校へ参加したい横島だったが、その願いは叶うことはなさそうであった。
「どうだった?」
「何も。そっちは?」
「同じく」
散開していた横島らが合流したものの、有力情報はなし。
霊感に来るものもなく、見鬼くんも反応はなく、何ら成果を上げることはできなかった。
「ここまで探して何にもねえと本当にここに来たのかも怪しく思えてくるな」
「本当は完全に霊波を消せるけどあえて霊波を出して、あからさまに怪しい場所にミスリードさせるって? それもありえないことじゃないでしょうけど」
「何の当てもなしに探すのも限界があるな」
「来ればなんとかなるってのは甘かったな」
とはいえ、放置するわけにもいかず人員を増やすこともできない。一連の事件は後手に回らざるをえないため、頭の美智恵らはストレスが溜まっていくのだろう。
手当たり次第に虱潰ししかない現状、少数の横島らは打つ手が限られる。そのため話は当たりを付ける方向へ流れていく。
「今回の犯人? 目的は何なんだ」
「そりゃあ、メドーサとメデューサの霊基を合成させて……どうすんだ?」
「復活させて自分の手駒にする、くらいしか思いつかねえな」
「よくわかんねえけど、そいつらがここに来たっつー時間から結構経ってるぜ。もう目的達成してるんじゃねえか?」
「かもな。なら、ここに犯人がいるとして、動かねえ理由って何だ?」
「何かを待ってる? 人か時間か」
「人って俺らか? それとも犯人の仲間が迎えに来るとか」
「時間で何かリミットがあるとすれば……その人形子ちゃんたちが人界にいられなくなること?」
勘九郎が指差す横島の胸元には活動停止中のステンノとエウリュアレがいる。
本人等の言ではメデューサの霊波を感知すれば起きるとのことであるが、いまだ反応はない。
「ってことは、ここにはもういないんじゃねえのか」
「もしそうなら完璧に無駄足だけど、ここにいない証明ってするのが難しいのよね」
「敵が時間切れ狙いなら、いくら探しても隠れて逃げ切られちまうだろ」
「っつーても誘き出す方法もわかんねえしな」
「罠でも仕掛けるか? そいつら地面に置いて、籠につっかえ棒して紐で引っ張るやつ」
「マンガかよ。そんなんうまくいくわけねえだろ」
「いや美神さんが雪女にかき氷で似たようなことやってたな。まんまと出てきたぞ」
心動かされた横島だが、犯人がステンノらに反応するかわからないし、仮にうまくいったとしてステンノらに何されるかわからないので却下である。
「んじゃ、また探すか」
「おんなじ所何度探しても無駄足になりそうなのよねぇ」
「逃げ切れねえってやけになって出てくるかもしれねえぞ」
「待った。できれば無駄な霊力使いたくなかったんだけど、文珠使うわ」
「文珠か。確かに探すのだけに使うのはもったいねえけど、四の五の言ってられねえしな」
「なんだよモンジュって」
文珠を知らない陰念に雪之丞が説明するのを背に、横島は霊力を集中する。
文珠は横島が日々溜めた霊力を一気に放出するため、現在の横島の霊力を消費することはないが残弾に限りがある。しかしながら、文珠使いの真髄に触れた横島ならば応用することはできる。
(範囲は山)
日も上がらぬ早朝から一通り歩いて探し回った場所。自らの足で歩いたからイメージしやすい。
(対象は霊波)
山に似つかわしくない大小多寡異常な霊波か、メドーサ、ステンノ、エウリュアレに似た霊波を持つ何か。
(探して伝える)
探索して横島らを案内する文珠を求める。そうしてできたのは一見して通常のと変わりない文珠。
しかし横島が霊力を集中して生み出したのは探索専門の文珠である。たった今専文珠と名付けた。
「うっし。ちょい消耗したけど普通に文珠作るよりだいぶましにできた。これで見つからなきゃお手上げだ」
「だったら最初から普通の文珠で探した方がいいんじゃねえの?」
「そらそうかもしれんけど、なんかすでに反応してるな」
「やるじゃない坊や」
「……“栄光の手”だけじゃなくて、こんなとんでも霊具まで作れんのかよ」
「すげえだろ、俺のライバルは」
「なんで雪之丞がドヤッてんだよ」
「何してんだよ、行くぞー」
手から飛び出して行きそうな専文珠を掴み先行する横島を、不機嫌そうな陰念とドヤ顔の雪之丞が追っていった。
横島に先導され面々が赴いたのは、何があるでもない少し開けた山中である。
周りに比べれば木々が少ない程度だが、確かに一度は確認したはずの場所であった。
「ここか?」
「多分な。反応が強い」
「けど、何も無いわよね。霊波も特に変なところは感じないし」
「さっき通ったけど、何もなかったぞ、ここ」
「うーん、んじゃあとはこいつに任せるか」
言って横島は専文珠を空に放る。すると専文珠は勢いよく地面に飛び込み、小さな穴に潜り込んでいった。
「穴? そうか見落としてた。潜ったのか!」
「元からある洞窟じゃなくて地面を掘ったっていうの? こんな小さな穴しか残さず」
「そらわからんわな。モグラよりも小せえぞ」
「んで、ホントにここにいるかわからんけど、いたとしてどうすんだ? 掘るのか?」
「どんだけ深くにいるかわからんけど、面倒だな」
『その心配はいらないわ』
『
美神ならば掘削重機を手配できるだろうかと考えていた横島だが、懐のステンノとエウリュアレが動き出したことから事態が進展していることを確信する。
「お前らが動き出したってことは」
『ええ。この下に犯人がいるわ』
『動き出してるわ。登ってきてる。あ、少し
「退避ーっ!」
エウリュアレの言葉と同時、地面が揺れる。何か大きなモノが地の底から噴き上がるかのようであり、実際その通りになった。
『ジャアァァァッ!』
「どわあああっ!」
地から天に登る土石流、濛々とした土煙が広がる。
見上げる巨躯は辺りの木々を越し、全貌はようとして知れず。大蛇というには巨大すぎる、蛇龍と呼ぶべき姿がそこにあった。
「でっけえ、ていうかでかすぎんだろ」
「皮がはちきれんばかりに筋肉ミッチミチね」
「何落ち着いてやがんだ! こんなのどうしろってんだよ!」
「でけえだけだぞ陰念。火ぃ吹いたり空飛んでからびびれ」
「無茶言いやがって……」
威容に怯えているのは陰念のみ。横島らは神魔との最前線にいた経験から、驚愕すれども腰が引けることはなかった。
噴気音を鳴らしながら横島らを見やる蛇龍は、しかし動こうとはしない。
「ステンノ、エウリュアレ。一応確認するけどこいつが、あー、妹さん?」
『そのようね。メドーサとメデューサ、それに他の蛇妖の霊基まで混ぜられているわ』
『人の
目標は発見したが、朗報とは言い切れない。
敵対と救出不可能。
明らかに蛇龍はこちらを敵視しているし、霊基を混ぜられているのであればもはや元のメドーサ、ないしメデューサを別々に助けることはできない。
口調こそ落ち着いてはいるが、ステンノとエウリュアレは内心怒り狂っている。このような事態を引き起こした何者かに。
『まさか発見されるとはな』
その対象である何者かは、蛇龍の頭部にいた。
一見して、また声からして男。フードを被っており姿はわからないが、横島はなんとなくイケメンの匂いを感じ取る。もったいぶった正体不明はだいたいイケメンである。
慌てて逃げるでなく、堂々と腕を組み蛇龍の頭部に立つ様は自らの能力への自身の現れか。
イケメンで強いなら、やはり人類の敵だ。
「なにもんだてめえは!」
『しがない配達員さ。これを依頼人のもとへ連れて行くだけのな』
「だったら敵だな!」
言うが早いか。霊波砲を放つ雪之丞とそれに続く勘九郎。すでに二人は魔装術を展開しており、踊りかかっていく。
「お、おい雪之丞、勘九郎!?」
「とりあえずぶちのめしてからだ!」
「陰念、ぼーっとしてちゃダメよ」
「こういう時ってあいつが目的とか喋るの待ったりすんじゃねえのかよ!」
「そんなんボコしてからでも十分できらぁ!」
『蛮族か貴様ら!』
脳筋そのもののセリフとともに戦闘開始。霊波砲が蛇龍の表皮に弾ける。
理由や目的はどうあれ、イケメン(仮)が敵なのはまず間違いなく、確保するのも間違いではない。
陰念も腹をくくり、戦闘に参加していった。
一方、横島は戦闘の余波を受けない場所まで移動していた。
「ステンノからメデューサの霊基を盗んだのってあいつか?」
『ええ。間違いないわ』
『霊波も見目もおんなじね。フード被ってるけど』
「んじゃ、とりあえずあいつぶっちめるか」
『……そうね。せめて、あいつだけはとっちめてやらないと』
「あん?」
よっしゃと気合を入れた横島だが、ステンノもエウリュアレも消沈した表情を隠そうともしない。
「どうしたんだよ。もうすぐ妹を取り返せるってのに」
『あなたには、あれがメデューサに、メドーサに見えて?』
「え、いや、どでかいヘビにしか見えんけど」
『その
先日もメドーサは山の獣たちと合成されてキマイラとされていたが、今回はそれ以上様々なヘビの神魔と合成されている。
つまり、もはや元のメデューサに戻ることはない。姉妹の再会は絶望であるのだ。
『横島。あのヘビの動きを止めて。せめて、最期は私の手で終わらせるわ』
『私たちの全力で仕留める』
「待て待て。こないだの山では動物と混ぜこぜにされたメドーサ助けられたんだ。今回だって」
『無理よ。その時は人界の
間に合わなかった。
探しようがなかったのは間違いないが、横島が手を貸したのは姉妹にこんな沈痛な面持ちをさせるためではない。
手に手を取りハッピーエンドとまではいかなくとも、再会くらいはさせてやりたくて決心したはずだ。
『動物の中ではメドーサの霊基は保っていられたけれど、
「お前ら……」
間に合わなかった。
既にメデューサもメドーサもない、蛇妖と成り果てた蛇龍。始末を妹想いの姉にさせていいのか。
誰がそんなことを望むものか。
間に合わなかった。そんなことは━━あっていいはずがない。
「諦めんなよ!」
横島はバッドエンドもビターエンドも大嫌いだ。みんな笑ってよかったよかったがいいに決まっている。
確かに遅かったかもしれない。しかしまだ間に合う。何とかなる。
「お姉ちゃんなんだろ。妹を助けるんだろ!」
『横島……』
美女にこんな表情をさせるくらいなら、無理でも無茶でもやってやる。
横島がハッピーエンドを取り返す。
蛇龍が地中から飛び出してきた拍子に遠くに飛ばされた専文珠もいつの間にか戻ってきて、そうだそうだとばかりに横島にメドーサ、メデューサの位置を知らせている。
まだ方法はある。間に合う。根拠はなく、自信があるとは言い切れないが、確信が横島にはあった。
『そこまで言うなら、手はあるのね?』
「わからん。けどやる」
『そこは自信を持って
かつて自分以上に信じられないものがこの世にあるものかと叫んだが、もはや横島はそう言っていられる立場ではなく、能力もある。
「何とかする。だから、俺を信じてくれるか?」
『……不思議ね。無茶苦茶なことを言っているのに、何とかなりそうな気がしてきたわ』
『そーね。こんなヘタレで英雄の要素の欠片もなさそーなのに』
「美女にお願いされれば何だってやってきた。それこそ魔神を倒すことだって。だから、言ってくれ」
自分はまだ信じられないが、美女が笑顔になれるならば、
『『お願い』』
底抜けのバカでヘタレでスケベな横島ならばできるのだと信じてくれるのならば、
『『妹と会わせて』』
「俺に任せろ!」
どんなことだってやってみせるのだから。
雪之丞の拳も勘九郎の刀も陰念の霊波砲も蛇龍の鱗を貫くことはできず、腹は地を這いずっていて狙えない。
腹側は鱗に比べれば柔らかいのだろうが、中々のスピードで移動している上、質量から持ち上げることもできない。
『ジャアアアッ!』
「ちいっ! でけえってのはそれだけで厄介だな!」
「ほら陰念! 毒液が来るわよ、動きなさい!」
「こんなん食らうかぁっ! いちいちこっち気にしてんじゃねえよ勘九郎!」
牙が襲い、続けて尻尾が薙ぎ払い、鎌首をもたげたかと思うと口から毒液を吐く。撒き散らされた液体は煙を発し、浴びた木々が腐れていく。
相対するに、蛇龍は面倒この上ない相手であった。巨躯のくせに身軽であり、巨躯であるから硬く強い。さらにはスタミナもある。
雪之丞らはまだまだ余裕を持って対応できているが、打つ手がないというよりは攻めあぐねている。
「どらあっ!」
霊波砲は効き目が薄いと、巨体に飛び乗った雪之丞は殴りつけるも鱗に弾かれ、のたうち回られたため飛び退る他なかった。
「せいっ!」
斬撃も突きも鱗を抜けないものの、同じ箇所を何度も狙えばいけそうと手応えを感じつつも、暴れまわる蛇龍に追撃できない勘九郎。
「っ、らぁっ!」
そして、そもそも身のこなしが二人より劣る陰念は近づくことができず、霊波砲での援護に徹する他なかった。
「だああっ! 埒が明かねえぞ!」
「文句ばっか言わないの。とはいえ、攻め手がないのよねぇ」
「フード野郎もいつの間にか消えちまったし」
「なんだ、見てなかったのか」
「戦闘開始してすぐに自分から蛇の口の中に飛び込んだわよ」
「なんじゃそら」
「自殺なわきゃねえから、身を守るためかヘビをコントロールするためか」
「どちらにせよ、前哨戦なのよねぇ」
今まで殴る蹴る斬る撃つしてきた感想は、フルパワーならば鱗を抜くことは可能。しかし溜めの時間を作り出せないし、メドーサを救うためにはただ滅ぼすわけにもいかない。
この場の三人ではできないが、雪之丞がライバルと認めた横島がどうにかするだろう。その時にいつでも動けるようにしていれば、といったところで横島か動いた。
肩にステンノ、頭にエウリュアレを乗せたまま、蛇龍の射程範囲のすぐ外に位置し、雪之丞と勘九郎に文字入りの文珠を投げつける。
「雪之丞、勘九郎! その文珠で動きを止めて、俺がメドーサを引っこ抜いたら全力でぶちかませ!」
「おうよ!」
「了解よ、坊や!」
「陰念、動きが止まったら何とかしてヘビをひっくり返せ!」
「雑な指示だなおい!」
「できねえならそこでじっとしてていいぞ」
「っ、ざけんな! しくったらブチのめすぞ!」
「美女にお願いされた俺に不可能はなーいっ! おらいけ、ゴーゴーゴー!」
ちょっと姿を見せないうちにやたらとテンションが高くなっていた横島の合図と同時、雪之丞と勘九郎が蛇龍に接近し、文珠を掲げる。
それぞれ『糸』と『専』の文字が入った文珠が輝き、効果を発揮する。
それ単体では意味のない文字であるが、効果範囲に蛇龍という『丶』が入った今、『縛』の文字が完成し、文字通りに蛇龍の動きを縛る。
『ジャアアアッ!』
「っち、長くは保たねえな、こりゃ」
「十秒ってところよ!」
「そんだけありゃあ問題ねえ! 小さく集中じゃ届かねえ、なら……どデカくぶっ放す!」
そして、陰念が霊力を集中しつつ、大きく開放する。
全身の傷跡から霊波が噴き上がり、不格好ながら“栄光の手”のような霊波の巨腕を作り上げた。
「これが俺の“栄光の手”改め、“魔光の手”だああぁぁっ!」
陰念が拳を振り下ろすと巨腕も合わせて振り下ろされる。
縛られ動けない蛇龍の顔面を掴み、そのまま捻り上げ無防備な腹を晒させる。
「どうだやってやったぞ!」
「あいよ、行くぞステンノ、エウリュアレ!」
『ええ』
『行っちゃいなさい!』
横島は足に霊波を集中させ両足に纏う。いつだったかできそうな気がして実際にできた“栄光の足”。
文珠使いの真髄に触れた横島だが、能力を使うと処理能力が足りず頭痛を引き起こし、霊力の消費も多大なものとなる。故に概念操作能力を型に落とし込んだ技を編み出した。
その名も“栄光の足”改め“
移動にのみ特化した技であり、両足首に露出した霊石に刻まれた文字は“疾”“走”。文字通り、疾風の速さで横島は蛇龍の無防備な腹へ飛び込む。
「新技第二弾、“
左手に“栄光の手”改め“
霊石に刻まれた文字は『分』。
「何度も倒した俺だけど、助けてやるぜメドーサ!」
『メデューサ、帰ってきなさい!』
『お
専文珠の導きを元に蛇龍の体内のおそらく心臓部、メドーサ、メデューサの霊基が色濃くある腹に左手を突き刺す。
さらに横島、ステンノ、エウリュアレのイメージを伝えより強固に掌握し、蛇龍の全身からメドーサとメデューサの霊基が『分』けられていく。
『ジャアアアッ!』
蛇龍はもがき苦しむも、二つの文珠の『縛』り、陰念の“魔光の手”の拘束は解けない。
蛇龍から分断されていく霊基が、横島の手を中心に人型を象っていく。
『か、あぅ……ヨコ、シマ……ねえさま』
『そうよ、メデューサ。私たちの妹なら気張りなさい!』
『変な男に捕まってんじゃないわよ!』
ステンノやエウリュアレ、またメドーサに似た美しい顔、スラリとしていながらも豊満な胸部が生えてきたあたりで、美女の脇下を掴み蛇龍から引っこ抜いていく。
非常に参考になる美女の裸体が眼前にあるため、気を張っていないと噴き出しそうになる鼻血を堪えていると、
『大層な言われようだが』
『あんたっ!』
蛇龍の体内に潜んでいたフード男が、蛇龍の腹を突き破ることなくぬるりと現れる。
『依頼人の元へ届けるまでが契約なのでな。そこまでにしてもらおう』
妨害をしようというフード男に、横島はにやりと笑ってみせた。
「感動の再会を指くわえて見てろよ」
美女を蛇龍から救う邪魔をする悪漢。まるでおとぎ話の1ページ。
『感動的だが、頂いていく』
ならば悪漢を退治するのは聖剣の一撃。
「お呼びじゃないのよ、ねっ!」
『がっ!?』
魔装術を解いた勘九郎が豪奢な刀を振り上げていた。
魔装を刀に集中した“魔刀術”。人間に戻り修行し直した勘九郎が新たに編み出した新技が、蛇龍を頭部からフード男ごと半分に斬り裂いたのだ。
『ねえさま……』
『ああ、メデューサ』
『やっと会えた』
完全に蛇龍から美女を引っこ抜いた横島は、ステンノ、エウリュアレに引き渡し離れてもらう。
姉妹が泣きながらも笑い、再会する見たかった光景を見ることができた。
残るは後始末。
「横島ぁ! まだ余裕はあるか!」
「雪之丞、合わせろ!」
「応!」
駆け寄る雪之丞のやりたいことがわかったので、最後の一撃に霊力を回す。
短時間に使いすぎた霊力は、美女の裸を見て触れ合えたため回復している。
「“魔槍拳”」
雪之丞が魔装術を解き、拳に集中させる。勘九郎と同様、魔装術を一点集中した新技“魔槍拳”。その名の通り、槍を模した装甲が腕部に展開される。
「“サイキックインパクト”」
横島の第三の新技、右手の“
攻撃特化の“栄光の手”に刻まれた文字は“衝”。
『くっ! ここは引かせてもらう』
下半身(?)から半分になった蛇龍が頭を生やし、文珠の拘束を振り切る。ダメージを負ったフード男をパクリと飲み込み逃走を図るも、
「逃がすかよ!」
『ジュラッ!』
陰念の“魔光の手”がそれを許さない。
全てを貫く魔の槍が輝き、全てを打ち砕く衝撃の拳が光る。
「ダブル!」
「GS!」
蛇龍がのたうち回りながらトグロを巻く防御態勢をとる。鱗を貫くことはできないとでも思っているのか。
結果はすぐに現れる。
「パーンチッ!」
「ナッコォォッ!」
『ジャアアアッ!!』
抵抗など無いかのように鱗を貫き頭部を吹き飛ばし、衝撃が蛇龍の全身に伝わり内部にまで浸透する。
全身を細切れの霊基へと変じ、辺り一帯をなぎ払う大暴れを見せた蛇龍は消滅した。
「合わせろって言ったろ横島よぉ」
「うちのシマじゃナックルなんだよなぁ」
「ナッコーはロボだろ」
「お前の地元俺と近えのに違うのな。浪速のペガサス」
激闘の終幕としては、少々締まらない形になってしまったが、横島は雪之丞と拳を打ち合わせた。
怒涛の新技ラッシュ。
詳しくは設定集に乗せますが、横島の技を思いついたのがこの作品を書き出したきっかけなのでようやくといったところ。
気づいてくれる方がいると嬉しいのですが、横島の技には元ネタがあります。別に後の伏線にもなってませんし、隠してるわけでもないのですけども。
年内にエピローグを投稿して、今年の締めとしたいと思います。
ではまた。