GS横島 Step by step   作:カシム0

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 ロイターは寄り道という意味です。
 本編とは関わりはないけど時系列は同一なお話し。
 じゃあどうぞ。


ロイター1 4月

 

 

 

 

 

 卒業、入学、転入、転校、退社、入社、異動、栄転、左遷、年度が変われば様々な出会いと別れがある。日本に住む以上、多少の差異はあるにしろ三月に別れ、四月に出会うことが多くなるだろう。

 横島忠夫は見習いGSであるが、現役の高校生でもある。

 彼もその例に漏れず、三月にかつてのクラスメートと別れ、四月に高校三年生として新たな生活を新たなクラスメートと共に過ごしていくことになる。

と、思っていたのだが。

 

 

 

 

 

「おいーっス」

 

 早朝、横島は珍しく登校していた。除霊の予定がないこともあるが、何より新学期最初の登校日でもある。

 

「おっす、横島」

「おはよー」

「おはよう横島。またあんたと同じクラスか」

「っつーか、見慣れた面子ばっかりじゃねえか」

 

 横島の登校が遅いのでクラスメートの大半は教室内にいた。掲示板のクラス表通り、二年生の時とそれほど変化はない。

 

「そりゃな、今になって文系理系を変えるってやつもそうそういないだろ。国公立狙うって、特進コースに上がったやつはいるけどな」

「大学進学とか全く考えてなそうな横島クンには関係ないけどね」

「卒業できるかも怪しいしね。っていうかよく進級できたわよね。どんな裏技使ったの?」

「朝一からケンカ売ってんのか、てめーら!」

 

 その中でも一年生の頃から同じクラスだったのが、眼鏡をかけた男子生徒の金井、ショートカットの眼鏡をかけた女子生徒の汐戸恵、長い髪をリボンでポニーテイルにしている馬尾眞子の三人である。

 長い付き合いであり、霊能関係ではない人間として親交はかなり深い部類に入る。

 

「ったく。ま、とりあえず、また一年よろしくな」

「おう、留年はさけろよ」

「よろしくー。でも、授業中は静かにしてね」

「あんたと違ってこっちは大学進学真面目に考えてんだからね」

「……俺のこと嫌いか、おめーら」

 

 親交が深いからこそ遠慮はない。黒板に貼られた席次表を見て自らの席に向かう横島の姿に、三人は横島に聞こえないように話す。

 

「これでまた一年退屈はしないだろうな」

「あはは、そうかもね」

「うるさいだけじゃない」

 

 ぼやく馬尾に汐戸がささやく。

 

「またまた、眞子ちゃん横島クンいないと暇そうにしてるくせに」

「な、なによ。恵だってそうじゃない」

「うん、だって実際退屈はしないもん」

「そりゃ、そうだけどさ」

 

 急に内緒話を始めた二人の会話に入れず、金井が首をかしげていた。もしこの会話が聞こえていたら金井含めたクラスの男子は間違いなく横島を敵と見なしていただろうが。

 

 

 

 

 

 横島の座席は窓際の後方の席である。その周囲には見覚えのあるクラスメイトの中でもGS関係でも親交の深い三人組がいた。

 

「おはようございます、横島さん」

「おはようですジャ」

「おはよう横島クン」

 

 男二人はGS仲間であるバンパイア・ハーフのピエトロ・ド・ブラドー、通称はピート。精神感応者タイガー寅吉である。そして女子生徒は机妖怪の付喪神愛子だ。

 

「やっぱ、最初はこの席順になるんだな」

 

 席順は一年の最初であるから名前の順だ。このクラスには横田や渡辺といった名前がいないので、横島の出席番号は日本人の中で一番最後となる。名前がアルファベット表記である二人は横島の後ろになり、名字がない愛子はさらにその後ろになる。

 もっとも、日本人離れというか、人間離れした体格であるタイガーを最後列にしないと黒板が見えない生徒が多数出てしまうというのもあるが。

 

「霊能関係者を集めたような感じもするな」

「っていうか、厄介者の横島クンとタイガークンを集めたんじゃない?」

「ワッシもですかいの? 心外ですじゃ」

「ぬかせセクハラの虎」

「煩悩の塊には言われたくないですケン」

 

 火花を散らしてにらみ合う二人を止めるのは愛子とピートであった。

 

「はいはい、どっちもどっちよ」

「差詰め、僕と愛子さんは二人のストッパー役でしょうかね」

 

 苦笑すらもさわやかな美形ダンピールに、横島とタイガーの憎悪の視線が突き刺さる。あまり女性に縁のない二人としては、美形でもてる男は敵である。友人であっても敵だ。

 ピートに言わせれば、横島はもてないと思いこんでいるだけだし、タイガーには好意を寄せ合っている女性がいるのであるが。

 

「ふん、何を言うか。お前だって問題児の一員だろうが」

「な、何を言いますか。僕は清廉潔白に生活してますよ」

「ワッシはドアをぶっ壊したことはありますが、ピートさんのように壁やら廊下をぶっ壊したことはないんじゃい!」

「ぼ、僕だってそんなこと……はっ!」

「気付いたようですのー、そうピートさんに手作り弁当を持ってくるアン嬢ちゃんですじゃ!」

「あ、あれは僕のせいじゃ」

「お前のせいではないというか! 一途にお前を慕ってくる将来有望な爆裂娘の好意をって自分で言ってて腹が立ってきたけど、とにかくお前のせいじゃないというのか! そんな無責任なことでお前の神はお許しになるのか!」

「っくぅ……まさかそこを突いてくるとは!」

 

 がっくりと膝をつき項垂れるピートに、勝利と高笑いする横島とタイガー。クラスメートは何の騒ぎかと目を向けるが、そのメンツを見ていつものことかと、それぞれ雑談やら読書に戻る。

 

「結局みんな似たもの同士だっていうの気がつかないのかしら」

 

 本体である机に肘をつき、愛子はやれやれとため息をつく。

 

「やっぱり私がしっかりしないと! ああ、不良を更生させるっていうのも青春かしら」

 

 完全に人外である彼女よりも、常識無しな問題児達を見て決意を新たにする愛子であった。

 

 

 

 

 

「でも、正直な話よく進級できましたね、横島さん」

「真面目に感心するなっての」

「出席日数ギリギリというか、下回っていたような気がするんですがの」

「先生達からすれば、超高校生級問題児の横島クンを留年させるわけにはいかなかったから、とか」

『ああ、なるほど!』

「ちょっと待てやおめーらも!」

 

 入学式兼始業式を終えて教室に戻り担任教師を待つ間の雑談中、話題は横島の進級についてであった。

 横島は、週半分は午後の授業を早退して出社し、仕事の内容によっては欠席することもままあった。とある機関の幹部の手回しによって公欠扱いとなったが“大霊障”で敵地に潜入していた期間は学校に行けるはずもなく、つまりは登校することすらまれな不登校児であったのだ。

 

「冗談はともかく、横島さんの出席日数ってどうだったんですかい?」

「あと一日、いや一時間でも欠席、遅刻、早退してたら終わってた」

「ほ、本気でギリギリだったんですね」

「ピートクンはお花の精気を吸えばいいし、タイガークンは貧乏だけど美神さんの所ほど薄給でもなかったから、二人は学校を休むってことそれほど無かったしね」

「くそぉ……どうして同じ境遇でこうも差がある?」

 

 じとっとした目でピートとタイガーをにらむ横島だが、睨まれた二人からすればその言い分に異議を唱えたいところである。

 確かにGS見習いであり、薄給であるところは同じである。

 ピートは美神の師匠でもある唐巣神父の教会に間借りし、高卒資格が必要なオカルトGメンに入るため学校に通っている見習いGSである。高額な依頼料を取らず、貧乏な人からは請求すらしない聖人のような唐巣と、守銭奴である美神では人間性に多大な差がある。

 タイガーは美神のライバルである小笠原エミの弟子であり、従業員である。エミは美神のような守銭奴ではなく、危険度に応じた給料を払うし生活環境にも気を遣う。もっともタイガーはGS資格を持っていないので薄給には変わりはないが、横島ほどではない。

 

「へん、まあいいさ。これからは学校に余裕を持ってこれるようになったからな」

「へえ、何かアテでもあるんですか?」

「うちの両親な、これまでの最低限の仕送りから色付けてくれたんだよ。具体的に言うと、毎食のカップラーメンに卵落とせるくらい」

 

 にこやかに、嬉しそうに胸を張る横島だ。しかし、その喜びは友人らには通じなかったようだ。

 

「そ、それは余裕なの?」

「さ、さあ」

 

 食費について考えたこともない愛子とピートには伝わらないことであったが、横島と感動を共にできる者がいた。同じ貧しい食生活のタイガーである。

 

「それは羨ましいですのー。あやかりたいもんですじゃ」

「うははっ、なんだったら一個くらい卵分けてやってもいいぞ」

 

 切り詰めれば根を上げて親元へ来るだろうと最低限な仕送りを送られていたものの、もはや根を上げさせる必要もないとの両親の判断により改善がされていたようである。怠惰な食生活をしていた一人息子を心配した両親が仕送りの額を増額したので横島の生活はかなり楽にはなるだろう。

 

 

 

 

 

 新学期最初の登校日の授業内容は、よほどの進学校でもないならホームルームに尽きる。係や委員会を決めるといったある意味定番行事である。

 霊能関係四人は前年度同様、正式に設立した除霊委員会に所属することとなり、愛子はクラス委員も兼任したのだった。彼女ほどクラスのことを考えている生徒はいないとはいえ、大らかすぎるクラス、そして学校であった。

 さて、前述したとおり、横島は今日仕事がなく、遊ぶ金もない。ピートやタイガーも同様で、愛子に至っては帰る家がない。よって、放課後も除霊委員会の四人は机を囲って雑談していたところ、さらに、金井、恵、眞子の三人も加わっての雑談パーティーになった。

 各員持ち寄った飲食物を、主に横島とタイガーがたいらげる中、話題は横島のことが中心になっていく。

 

「前から聞きたかったんだけどさ、横島ってどんな仕事してるんだ?」

 

 ポテトチップスをつまみながらの金井の言葉に、横島が呆れたように返す。

 

「お前、今さらなに言ってんだ? 現代社会の秩序と安全、そして経済活動を妨げる妖怪や悪霊と戦うプロ! 現代のエクソシスト!! それが――」

「いや、お前の受け売りは何度も聞いたって」

「……だったら何だよ?」

「前にGS免許取ったって言ってたろ? だってのに、いまだにお前の財布が潤ってる様子が全く見えないからさ」

「どーせ、まだ荷物持ちやってるんでしょ。横島のことだし」

「横島クンだしねー」

「お前ら、さりげにひどいな」

 

 続く眞子と恵の言葉に項垂れる横島であるがしかし、金井らの疑問ももっともである。

 かつて、日本経済は潤っており、建設ラッシュのため悪霊に住まわせる土地はもう日本にないとまで言われていた頃、GSへ支払う依頼料も破格であった。

 “大霊障”と建設による騒霊騒動のピークは過ぎたものの、その後を考えることのない無秩序な建設が尾を引き、いまだ悪霊による被害は後を絶たない。GSが高給取りであり、需要が尽きない由縁でもある。

 横島がバイトをしているのは業界一の美神除霊事務所であることは金井らも知っている。一度美神も愛子に取り込まれた横島の救出に学校に来たこともあるので、性格もある程度知っている。つまり、美神が守銭奴であることも知っているのだが、横島の生活が変化なく窮状に陥っていることに疑問を抱いたのである。

 

「一応、仕事してるぜ。最近一人で任される量も増えてきてる。そういう場合、美神さんに仲介料って形で支払って、残りは俺ってことになってる」

 

 もっとも、その依頼料は半分以上が仲介料になったり、横島に知らされる数倍が本来の金額だったりしているのだが。

 

「へえ。じゃあ荷物持ちは卒業したんだ」

「うんにゃ、美神さんと一緒に仕事するときは荷物持ちもやってるぞ。あの人の除霊スタイルって道具使いだからな」

「そうなの? 荷物持ち兼実働要員だったら、お給料上がってるんじゃないの?」

「あー、まあ最初の頃に比べれば、かなりな」

 

 かつての横島の時給は250円である。そして横島がエミに引き抜かれそうになったドタバタでこっそり5円上がり、その後横島の成長により役割が増えるにつれちょこちょこと上がっている。今は時給換算すれば同年代のフリーターよりはもらっているだろうか。

 

「だからって無駄遣いできんからな。卒業だけはせんとうちのお袋が怖いし、そうなるとテスト期間にゃバイトにいけなくなるだろうから、懐はあっためとかねーとな」

「へー。一応考えてんだな。俺はてっきりお前が役立たずだから給料上がらんのかと思ってたけど」

「あのな……」

「ふーん。ねえ、ピートクン、タイガークン、横島クンて強いの?」

 

 感心していた恵が、聞き手に徹していたピートとタイガーにポッキーを差し出す。

 

「どうも。そうですねえ、GSとしては強いでしょうね、間違いなく」

「ですが、有能かというとまた違いますケン。いただきますじゃ」

「何か、含みのある言い方ね?」

 

 眞子の問いに顔を見合わせ、さらに横島を見る二人。

 

「横島さんの戦闘能力は、日本の業界でも上位に入ると言っても過言じゃないと思いますよ。何せ経験が濃いですし、能力も突き抜けてますからね」

「うそ、そんなに強いの? 横島クンって」

「ですケン、GSとしてはただ強いだけでは駄目なんですじゃ」

「免許持ってないお前に言われとーないけどな」

 

 横島の言葉が胸に突き刺さったタイガーは傍目にも見えて落ち込んだ。かつてGS資格試験を受験した横島、ピート、タイガーであるが、タイガーのみが資格を取ることが出来なかったのであるからして、横島の言い分も正しいが。

 

「でも、事実ですよ。うちは霊障にあっている個人ないし家族が助けを求めに来るという形ですから、何が原因なのか霊視すればすぐにわかります。でも美神さんの仕事相手は企業とかで、こういう霊障に会ったからどうにかしてくれでしょう? 人に憑いている悪霊を祓って終わり、とならない除霊の場合、知識がないといらない危険を被る可能性がありますからね」

 

 齢七〇〇のピートや、世界各国を回っていた帰国子女であるタイガーは、それなりのオカルト知識を持ち合わせている。しかし、荷物持ちからスタートした横島は、素人同然の知識しかない。様々な依頼が舞い込んでくる美神の事務所にいるため様々な経験を積むことはできているが、知識不足で危機に陥ったのも一度や二度ではない。

 横島の生活はとことんオカルトやもののけに縁があると言っていい。仕事とは関係のない学校にいてすら、自分の中で学校生活を経験しようとした愛子に飲み込まれたり、飛び込んできた空飛ぶホウキに連れ去られたりするほどである。学校以外でも呪いの妖刀に取り憑かれたりなど、エピソードには事欠かない。

 実際、横島が空飛ぶホウキの『炎の狐』に乗って空を飛んでいったのを目撃していた眞子と恵はなるほどど頷いていた。

 

「美神さんにオカルト知識を教わったりしないの?」

「んー、特にこれといってないな。毎度その時その時に色々教えてはくれるけど……っつーかあの人俺の師匠ってことになってるけど、修行つけてくれるわけでもないしな」

「そもそも、お前が修行なんつーもの真面目にやるとも思えんけどな」

 

 クラスメートとの雑談など、愛子に言わせれば青春の極みだろう。内容は少々特殊であるとはいえ。

 横島は、かつてアルバイトをやめさせ学校に通わせることを強要した母に

 

『学歴なんか別にいいよ! 俺はGSになるんだからな!』

 

 と意思を伝えたことがあるが、その台詞を吐いて以降の事件で、彼の気持ちは少々変化している。

 横島忠夫は見習いGSであり、高校三年生である。それは分けて考えることはできない不可分なことであるし、GSとしての活動で得た縁と同様、学校で得られた縁も大事にしていきたいと考えている。

 もっとも、横島自身が言葉にして説明できるほど考えているかと言えば、疑問であるが。

 

 

 

 

 

「しかし、ようやく三年生になれましたね。何年も島のみんなからの仕送りをもらってましたから、ちょっと心苦しいです」

「何年も? 何言ってるんだ、ピート。お前、去年転入してきたんじゃないか」

「はい? 横島さんこそ何言ってるんですか? もうクリスマスも新年もバレンタインも、何度も経験しているじゃないですか。進級だけはまだだったから、やっとって」

「はっはっは、ピート、お前春の陽気でどうにかなってしまったようだな」

 

 アメリカンな笑い方でピートの肩をたたく横島の額には井桁が浮いていた。

 

「よ、横島さんどうにかなったって言われると、ものすごい腹が立ちますね」

「はっはっは、ピートさん、ワッシも横島さんと同じ意見じゃ」

「はっはっは、ピートクン疲れてるのかしら? 少し休んだらどう?」

「タイガーに愛子さんまで……」

 

 日本を理解しない欧米人への警告、触れてはいけない真実とは往々にしてあるものだ。

 特に、お約束というものについて真面目に考えてはいけない。

 

 




 基本、横島の学校生活がメインで進んできます。
 寄り道なので大した内容ではないですが、ちょっとしたエッセンス的な。
 じゃあまた。
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