個人的には十二神将の中だと青龍が好きなんですよね。
『陰陽師・安倍晴明』シリーズから読み始めたという不思議な読み方をした人なんですけど、『白き面に、捕わるる』のツンデレ感がすごく好きです。
前髪は邪魔そうですけど。
第2話
「大丈夫…」
そう言って立ち上がったのは、謎の生き物を連れた小柄な少年だった。俺より年下だろう。12、3というところだろうか…。
「…あのー、ちょっと聞いても…?」
謎の生き物について、聞いてみる。
「…はあ。なんでしょう。」
向こうはこちらを相当警戒しているようだった。当たり前だ。夏目は相当変な格好をしているのだろうから。
「いや、なんかそこにいる妖っぽい変な生き物は…なんなのかな、と…」
はっ、と驚いた顔の少年。謎の生き物と顔を見合わせて、まるで“信じられない”とでも言うように首を振る。
「あの、その…聞いちゃだめなやつだったかな?」
少年は慌てて否定する。
「いえ、違うんです。ただ…あなたには、もっく…いえ、この生き物が見えるんですか?」
「ああ、見えるが…?」
「特徴は?」
えーっと。
「長い耳と、額の花みたいな赤い模様と…」
彼ら…いや彼と彼女かもしれないが…はまた顔を見合わせた。
******
昌浩は驚いていた。いや、現在も驚いている。
妖を追いかけていてぶつかってしまった青年__17、8だろう__が、もっくんが見えると言うのだから。
確かに昌浩や彰子にはもっくんが見える。しかしそれは2人が相当な見鬼であるからだった。彰子は当代一の見鬼、そして昌浩は陰陽師。彼らのような見鬼は稀だ。大抵の場合は僅かに感じるか、ぼんやりとしか見えないらしい。まあ昌浩がそういう状態になったことはないので、あくまで聞いた話だが。
「何者かな…?」
「唯人にしか見えないが…」
その通り。ただ、この青年には何かがあると陰陽師の直感が告げている。あと、着ている服も気になる。
「もしかして、“見える”人ですか?」
「あ、ああ…うん。」
取り敢えず、この青年が見鬼であることは確定した。
******
「おい夏目、あの妖を追いかけていたのではなかったのか?」
「あっ!…じゃあ!ありがとう!」
ニャンコ先生の唐突な声に驚いた夏目は、まだ何か言いたげな少年にお礼だけをして置き去りにし、夏目は視界から消えようとしていた妖を追いかける。友人帳には数々の妖の名があるのに…忘れていたとは完全に不覚だった。
「待ってください!」
引き止めようとする昌浩に、今度は物の怪が一言。
「物の怪じゃないんだよ!ってそうじゃなくて!俺たちが追ってたのもあの妖だよな?」
「そういえばそうだったね…完っ全に忘れてたよ…」
愕然とした様子の昌浩だった。
******
「オンアビラウンキャン、シャラクタン…」
不思議な調子の言葉が風に乗って聞こえてくる。それと共に妖が動きを止め、暴れ始めた。
周りのものを破壊し、地面を抉る。その咆哮は龍の如く。
その妖の標的は淡い色の髪をした青年だった。彼は妖と相対する。
ゴスッ。
鈍い音と共に、思いっきり殴られた妖は咥えていた紙の束を話し、逃げて行く。
「大丈夫ですか!」
驚いた様子ながらも駆け寄る少年は、あのがんぜない子供か。更に追い討ちをかけようとする子供を、青年が止めている。
さて、面白くなりそうだ。あの青年も、なかなか面白い。
全てを見ていた者は、うっすらと笑った。
******
「つまり、貴方は未来からやってきた、ということですか?」
その日の夜、安倍邸にて、少年改め安倍昌浩と、青年改め夏目貴志はあらたまって話していた。
「うん。…信じられないかもしれないけれど、1000年以上先からなんだ。今は藤原道長の時代なんだよね?」
「はい。右大臣藤原道長様の…。ところで、聞いてもいいですか?」
「どうぞ。何?」
「いや、大したことじゃないかもしれないんですけど…その饅頭は妖ですか?」
「ああ、ニャンコ先生は…」
「夏目は私の子分だ!そして私は饅頭ではない!見よ、このぷりちーなニャンコ姿を!」
「ニャンコ?これがか?」
物の怪に訝しがられているが、まあいいとして。
「よくねえよ!」
いいとして。
「ニャンコ先生は俺の用心棒だよ。俺が死んだあと相応の対価を支払う代わりに、守ってもらっているってとこかな。まぁ、雇用関係みたいなもの…ののかな?」
「そうですか…しかし面妖な生き物ですね…。いや、それはそうなのですが、本当に聞きたいことは!それではなく。」
「…なんだ?」
緊張した面持ちの夏目と昌浩。そして頰を引っ張っている物の怪(物の気言うなっ!)とニャンコ先生。
「貴方の技…さっきの殴って妖を退治た技、それに妖に奪われていた…呪符。あれはなんですか?そして貴方達は、何者です?」
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「殴って妖を退治たのは…まぁ、護身術の様なものかな。子供の頃から妖に狙われることが多くてね…それで身につけたんだ。殴れば妖は退散するらしい。
「え?ああ、俺は妖が見えるし、聞こえるし、触れるし、気配も完全にわかる。
「見鬼って言うのか。この時代には多かったのか?俺の知り合いにも、はっきり見える人はそう言う職業の人でも少ないんだ。
「そうか、血筋なのか。妖を見ると言うのは。だから一家で陰陽師なのか…
「ああ、陰陽師ではないよ。多分、原型としてはそうなんだろうけど。そう、祓い屋と言うんだけれど。人によってその姿勢は色々なんだ。妖は全て殲滅しなければ、っていう姿勢の人だっているし、依頼さえこなせれば、妖など放っておく、って言う姿勢の人もいるらしいよ。そういう人に会ったことはないけれどね。
「俺?俺の祖母が妖を見る人だったらしいから、そちらの血なんだと思う。母方ってことなんだ。祓い屋では、ない。もちろん陰陽師でも…ないんだ。そちら側…人間側ではなく、どちらかといえば、妖に視点は近いかもしれない。
「そこまで露骨に警戒しなくても…。俺は人間だよ。ただ…さっき言った、祖母。レイコさんは…ああ、祖母の名前はレイコと言うんだけど、彼女に関係しているんだ。
「え?レイコさんは人間だよ。ただ、見えることを理由にいじめられていたり、避けられていたりしていたらしい…よ。俺も昔はそうだったんだけれど。
「彼女が妖達をいびり負かして名前を書かせた契約書の束が、友人帳。…本当はあまり無闇に言っていいことではないんだ。だから他言無用でお願いしたい。妖を従えるという代物だから。
「…俺は、俺が正しいと思ってる事をしてる。妖達に名前を返してるんだ。出会った事もない妖達に生きているうちに名を返せるかはわからないけど。レイコさんが生きていたら、なんというのかな。
「そう。君が信頼を寄せるに値すると思ったから話したんだ。妖との契約帳ってだけじゃない。その名を燃やせばその身も燃え、その名を破ればその身も破れる。
「この時代にも存在する妖は、そう多くはないと思うけど。」
いよいよ始まった物語の行き先は。
続く
ありがとうございました。
第3話…1ヶ月以内に投稿できるといいな。
因みに内容とは全く関係無いのですが、鉤括弧が連なっていく書き方は物語シリーズを意識してます。
まじ余談でした。