山水拓け『干将・莫邪』(書き捨て)   作:蓼野 狩人

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山水拓け『干将・莫邪』(書き捨て)

 尸魂界。そこには数多くの死神が住まい、現世にて彷徨える魂を導き魂を喰らう虚を退けていると言う。

 無論、死神は世界の均衡を保ち魂の平穏を担う特殊な職業。それ故に尸魂界にて死神に成るには必死の努力をせねばならない。霊術院に通い、基本的な戦闘技術や必要最低限の知識を学ばなければならない。

 

 死神としての実務を執り行う護廷十三隊。この中で席官となるには自らの「強さ」を証明し他の死神から認められなければならない。この場合の「強さ」とは十三の隊それぞれで求められている物が異なり、また隊で大きな力を持つ隊長・副隊長に認められるようになれば席官になるのはあながち夢物語ではない……認められるまでの道のりが大変ではあるのだが。

 

 そして席官として何百年も研鑽を怠らなければ、総隊長や他数名の隊長に認められてもっと上の立場に就くことが出来る。護廷十三隊の隊長、それは尸魂界でも有数の花形職業である。

 

 さて、死神として上を目指すにあたって避けては通れない道がある。

 斬魄刀の始解である。

 死神としての固有の力を発揮させ、虚を倒す為に必要な武器。それと同時に己の最も大切な命を預けるのに相応しい相棒であることを示す重要なファクター。始解が出来なければ数多の隊員達の中で埋もれていくだけであり、また始解が出来なければ席官になる夢は露と消える。

 

 始解、それは斬魄刀と共に戦い抜くという決意と絆の証――。

 

 

 ……なんてね。

 斬魄刀を始解することは重要なのだけれど、単に向上心もなく有象無象の死神に紛れて平和に生きたいのであれば必要ないプロセスでもある。

 

 だから僕は斬魄刀と語り合う気にならない。だいたい、斬魄刀が使い手の心に合わせて変化する類であれば、僕がこの手に持つ斬魄刀もきっと争いだか絆だか求めちゃいない。日々のノルマをこなし、派手に活躍する席官だか副隊長だかを横目で眺めるだけで十分だ。命大事に。下っ端万歳。この世は目立たない人たちがひっそり活躍しているからこそ維持されている訳だから、特段目立つ必要もない。きっと自分は役に立っているのだと、心の中で思っておけばそれで充分。

 

 だいたい大きな立場には大きな面倒がついて回るというもの。つい先日も旅禍だか何だかが侵入してきてえらい騒ぎになったけど、巻き込まれた人々の中で特に痛い思いをしたのは席官以上の立場の面子。護廷十三隊から抜けた愛染?とか市丸?とかは誠に残念ながら雑魚である席官未満の死神に対して全く意識を向けることは無かった。普通クーデターとかは弱者を味方にするものだが、この尸魂界では個々の能力が物を言う。圧倒的な実力で抜けた愛染?って奴はそれを理解していたのだろう。

 

 

 しかし、どうやら神様って奴は気まぐれな性格をしているらしい。僕がふと軽い気持ちで始解に挑んでみたら、あっさり分かり合えてしまったのだ。まさかの秒殺である。名前も簡単に教えてくれたし、姿も披露してくれたのだが……。

 

 二刀になった。

 

 普通に一本だったはずなのに、始解したら二本になった。

 二刀流の死神なんて今の世には二人しかいない。

 一人は京楽春水。八番隊隊長で刀の銘は『花天狂骨』

 一人は浮竹十四郎。十三番隊隊長で刀の銘は『双魚理』

 

 ……これ、絶対面倒な奴やんけ。他人に興味を引かれること自体アレだし、自分は目立ちたくないのだ。当分の間は二刀流に慣れるだけ慣れておいて、いざというとき以外は使わないようにしなければ。

僕は目立つのが嫌いなのだ。

 

 

~・~・~・~

 

 

 突然だが、自分が平隊員として所属しているのは十三番隊である。二刀の斬魄刀を持つ浮竹隊長が指揮を執る隊だ。全体的な雰囲気としては、他の隊に比べて戦闘力は落ちても敵に立ち向かう心の芯が強く優しい人たちが多いように感じる。自分がこの隊に志願したのは、この平穏な空気の中で任務に当たっていきたいと思ったから。

 

 「やあ、衛宮君。元気にしているかい?」

 

 隊長室のある部屋を横切った際、中から隊長に声を掛けられた。

 

 「はい、何でしょうか」

 「確かに君はここに努めて10年で、経験が足りない。しかしどうだい、席官が丁度一つ空いている。もし良ければ席官にならないか?」

 

 穏やかな笑みで勧誘してくる浮竹隊長。こうして席官に誘われるのは今回が初めてではないとはいえ、いつも油断してしまいそうな程にこの人の笑顔には人を惹きつける何かがある。

 もちろん、断らせていただくが。

 

 「僭越ながら……僕はベテランであっても実力は持ち合わせていません。そもそも始解も出来ない死神が席官に就いても周囲の目が厳しいでしょう」

 

 噂によればどこかの隊には斬魄刀を持たない副隊長がいるらしいが、それは斬魄刀に頼らない他の実力を持っているからだろう。実にカッコいい生き方をしているものだ。

 

 「そうか、すまないね。毎度毎度声を掛けてしまって」

 「いいんですよ隊長。まあ始解出来たら改めて考えておきます」

 

 本当は始解できるんだけど、それは言わないでおこう。

 

 僕としては日々の任務であれば大歓迎である。それだけは明記しておく。

 僕は面倒事も荒事も大の苦手だが、平穏に暮らしたい以上、ぐーたら過ごして目を付けられるのはまっぴらごめんも良いところ。今日も先輩と一緒に虚退治である。

 

 「おう、エミー。支度できたか」

 「その呼び方はやめてくださいよ、芋山先輩」

 「俺は芋山じゃねーよっ!エリート死神の!車谷善之助っ!!」

 

 アフロ頭をぶんぶん回しながら主張するこの人は車谷先輩。先日、朽木先輩が捕らえられた際に代わりとして空座町に割り当てられた死神だ。この人は毎日を平穏に過ごしたい僕にとっての見本となる先輩である。斬魄刀は始解出来るものの、特にこれと言った好成績を収めている訳では無く、普通に虚を倒したり魂を導いたりと平均的に任務をこなしている。自らがエリートであるという主張すら先輩の平凡さに花を添えている(?)。

 

 「今日も今日とてパトロールかあ。俺だって上に行きたいってのにさ、嫌になっちゃうよなあ」

 

 現世に向かう途中でも愚痴を絶やさない先輩はやはり平凡な死神の鑑である。

 

 「ええ、そうですね。上に行こうとしても成績上がりませんものね」

 僕も一応同意しておく。

 

 「お前はお前だよ。全く、噂に聞いてるぞ?浮竹隊長がお前を席官に誘っているんだってな。まあ間近で見て来た俺からすれば納得できるが、自己主張が小さすぎないか?お前ほど優秀な隊員は俺と朽木ルキアぐらいなもんだ」

 

 まあ仕方ないとはいえ生きている奴に死神の力渡しちゃったけどなあ。と一言付け加えて笑う車谷先輩に、僕は苦笑で返した。

 

 「よしてくださいよ。僕の取り柄は斬術だけです。鬼道は全く才能が無いし、白打も歩法も一番取れなかったんですから」

 

 僕にとっては霊術院での成績は気にする事じゃない。あの頃は恩師の言葉もあって真面目に死神を目指していたけど、今となっては隊員でいたい僕にとってどうでもいいことだ。

 

 「うーむ……まあ、俺には敵わないと思うがお前も大したものなんだからな。俺の様に向上心を持て向上心を」

 

 その説得にそろそろ鬱陶しさを感じ始めた所で、手元の伝令神機から着信があった。

 

 「お、ここから少し先に虚出現か。また空座防衛隊だか黒崎一護だかに邪魔されるかも分からんが、俺たちが本物の死神として活動していることを見せつけてやろうか!」

 

 やけにハッスルする車谷先輩の後を追って、僕は駆けだした。

 

 

~・~・~・~

 

 

……でもなあ。

何でこんな事態に陥っているんだか。

 

「待て、そこのボーイ!!私を置き去りにして逃げようとするとは何事か!!立ち向かいたまえ、目の前の脅威に!!」

 

僕としてはアンタの方が驚異的だよ。ピンポン玉の霊力射出してギリアン級退治とか無謀すぎる。

 

「わ、私は店長呼んできます」

 

早く呼んできてよー。こっちは一人で持たせるの大変なんだよ。

 

「キュウ……」

 

こいつはこいつで序盤飛ばしすぎだ。頑張ったのは認めるけど今の状態を考えると力の温存しとけやっ!と言いたくなる。

 

「そうか、ここが俺のクライマックスだったのか……」

 

本当に死にそうな顔で死にそうなケガしているのにギャグにしか見えないのはあなたの人徳のなせる技ですねイモ山先輩。

 

目の前で新たに出現した虚の首を切り飛ばし、返す刀で背後の虚が投げつけた爆弾っぽい何かを弾く。何人もの足でまといを抱えて戦うのは中々に辛いが、まあそれは仕方あるまい。何せ足でまといを抱えて戦っているのは向こうも同じなのだ。

 

「おい、助けは本当に呼んだのか?全然来る気配がねぇんだが」

 

でっかい包丁みたいな刀で虚の顔を真っ二つにした男が尋ねる。

 

「いえ、全然。どうやら向こうも忙しいみたいですね。死神代行もいるから持たせるだけ持たせてみろと言われました」

「そうか。俺は俺で早く夏梨達を助けたいんだけどな」

 

刀を構えた男はため息をつき、直後巨大な霊圧を纏わせた。

 

「ちまちま倒しても拉致があかねぇ。一気に行くぜ!」

 

そう言えば空座町の二代目死神代行――黒崎一護の卍解を見るのはこれが初めてだ。俺はその様子を観察した。霊圧の嵐が周囲に広がり、それだけで弱い虚が吹き飛ばされていく。嵐が収束していくにつれて、死神代行がまとっていた死覇装が変化していき、全体的に黒いコートのような形状に変化した。刀は先程までより小さく真っ黒な直刀になっていた。鍔は卍の形をしている。

 

「卍解 天鎖斬月」

 

お……おお…。

やべーかっけー。見た目がシンプルかつカッコいい…しかも剣が大きくならずに小さくなってるという事は、個の身体能力が爆上がりしているという事では?なんという卍解なんだ……。

 

「んじゃまあ、俺はここら一帯の虚を片付けるから他の場所に出現している虚を倒しに行ってくれ。頼んだぜ」

「あ、はい。了解です」

 

ここでは取り敢えず複数人を庇う為、二人で戦闘をしていた。空座防衛隊は普通の虚を足止めするには丁度いいくらいの強さだったのだが、何がどうなっているのか虚の大量発生が起きてしまったのだ。それも初め頃はまだ車谷先輩が一人で倒せるくらいの弱さだったのに、不意打ちで現れたギリアン級虚の一撃に倒れてしまった。

そのタイミングで来た黒崎一護とそれまではサポートに徹していた自分が戦線を持たせていた訳である。

 

「おい、兄!そこのイモ山?っていうアフロを手当しないと駄目じゃないのか!?俺が背負って出るからそこの死神は手を貸してくれよ!」

 

あ、この女の子は黒崎一護の妹なのか。アフ…車谷先輩を背負って戦線を抜けてくれるらしい。

 

「助かります」

 

僕は目の前の虚を蹴り飛ばしてまとめて六体を黒崎一護の足元に運んだ。

その直後、その六体の頭が胴体と分離していた。

 

やはり卍解した状態での戦闘力の向上が他の卍解に比べて著しい。あれより差が激しい卍解なんて砕蜂隊長か総隊長殿くらいしかいないのではなかろうか。卍解したら強くなるのはお約束だが、見た目だけ強そうになったのでは格好がつかない。個人的に見た目も中身も強い黒崎一護の卍解は、好きな卍解トップ3に入る。操る剣の花弁の量が多くなるくらいでは甘いのだ。地味な二激必殺が派手な一撃必殺になるくらいではないと。

 

斬魄刀を様々な方向に構えながら、妹さんと車谷先輩を狙って攻撃してくる虚を片っ端から散らしていく。虚はどうやら進化すると妙な力を手にするようで、毒々しい液体を剣の腹で防いだり放出される縁の鋭い鱗を弾いたりと忙しい。

 

「ここくらいならいいかな、降ろしてくれる?」

 

激戦地から離れた森の中の草地で車谷先輩を降ろしてもらった。

 

「えーっと、どれだったかなー」

 

ゴソゴソと懐を漁る。僕は残念ながら鬼道という鬼道が殆ど使えない。死神にとって戦闘技術の一つである鬼道が使えないということは様々な状況に対応しきれないという事だ。僕は斬魄刀をなくしたら素手で戦うしかないし、敵を即座に捕縛できず、味方を癒すことも出来ない。なのでそこはバイトもこなして貯めた金や作りに作ったコネで色んな道具を用意して補っている。

 

「お、これこれ」

 

取り出したのは緑色をした液体の詰まった小瓶。コルクの栓を開けて中身を躊躇なく車谷先輩の口に突っ込んだ。

 

「モガ!?モガグフォゴフェ」

「こ、このひと溺れかけてないか!?」

 

気絶していた車谷先輩は回復薬に溺れかけてしまっている。が、心配は要らない。この回復薬で溺れた人を見たことないから、きっと大丈夫だ。多分。

先程にましてぐったりした車谷先輩だが、額にできたそこそこ大きい傷口が瞬く間に癒えていくのを見て安心する。どうやら四番隊副隊長からお墨付きを頂いた薬の効果はあったらしい。

 

「……よかったぁ」

 

妹さんも隣で安心していた……他人かつ死神だというのに、ここまで気にかけるとは中々に優しい心を持っているらしい。

 

「っ!?」

 

不意に怖気を感じた。この霊圧は……とうとう、メノスが来たらしい。しかも集団での御到着。合計数は五体と言ったところ。

 

「は……かはっ……」

 

隣の妹さんも大きな霊圧に圧倒されてお腹を抑えて蹲っている。無理もない。これ程の敵が複数体現れるなんて想定外だ。

 

「…………」

 

どうやら、追い込まれてしまったみたいだ。

三体までなら何とか先程の黒崎一護が倒してくれるだろう。僕はその間、残り二体を足止めしなければならない。黒崎一護が卍解をどれだけ維持できるか知らないが、単なる予感として全てのメノスを倒しきれないと思う。そして僕の斬魄刀に関する予感は外れない。

 

「……山水拓け」

 

故に、言うしかない。

 

「干将・莫耶」

 

二刀流となる斬魄刀の開号を。

 

 

斬魄刀の能力は多種多様だ。

剣から鬼道を放出したり、水や炎を操ったり、身体能力を向上させたり、剣に接触した相手に毒を付与したり。本当に色々ある。

そんな中で、僕の斬魄刀は地味な部類の能力になったと思う。少なくとも見た目は地味だ。でも実態がなんというか凄い。ある意味では朽木隊長の卍解に似た能力だ。

そう、僕の斬魄刀の能力は『自己の複製』。

己の霊力が尽きるまで幾らでもポンポン出せる量産品の斬魄刀だった。

 

「……はっ」

 

左右に所持した斬魄刀を同時に投げる。黒い刀身が陽剣・干将。白い方が陰剣・莫耶。この斬魄刀は量産できるという特徴の他にもう一つの能力があるのだ。

通常なら明後日の方向へ飛んでいくはずの二つの剣。しかし丁度中間地点へ惹かれ合うように軌道を曲げていく。

 

「――――アァ」

 

その軌跡に見蕩れるように立ちすくんでいた虚が、その首を真っ二つにされた。左右から回転しながら飛来した二つの剣が断ち切ったからだ。

 

続いて手元に二組目、三組目、次々に増やしては投げ増やしては投げ……。うん、自分で言うのもなんだけど随分と節操のない始解だ。これだけポンポン増える斬魄刀なんてお上の四十六室もビックリ仰天するだろうな。投げる端から虚は減っていくけれど、足場は白と黒の斬魄刀で一杯だ。

しかし、この斬魄刀にはまだ能力がある。今回こそそれを使う良い機会だろう。

 

「ちょいと失礼」

「うぇ!?」

 

左脇に黒髪の妹さん。右脇にアフロ髪のイモ山さんを抱えて霊子の足場で逃走する。足元にはまだまだ湧き続けている虚の軍団……しかし僕はこいつらを殲滅し、ついでに証拠隠滅もしなければならない。

 

「という訳で、はい自爆」

 

ズンっ

 

重い振動と共に光が爆ぜ、視界いっぱいにあった僕の斬魄刀がみんな霊圧を解放して吹っ飛んでしまった。実験を重ねていた頃から感じていたが、この光景には一種の爽快感がある。芸術、それ即ち爆発なり。

「なんじゃこりゃーー!!」

叫ぶ妹さんも無視してトンズラする。時間的にそろそろ救援が来るし、先程の爆発は繊細にコントロールしたお陰で怪我人はいない。ちなみに直接の目撃者は小脇に抱えた妹さんしかいないので、この爆発も追い詰められたメノス級の自爆云々と誤魔化せば通用するはずだ。多分。

……誤魔化せたらいいなぁ。

 

 

~・~・~・~

 

 

「だ、大丈夫だったか夏梨?」

 

慌てて駆けつける黒崎一護の卍解は解けていた。どうやらこの妹さんは死神等が見えてしまっているようだが、尸魂界の側から黙認されているらしい。まあ見える人間を片っ端から粛清するなんていうのは理にかなっていないし、騒動の中心であるコイツの妹である以上は仕方の無いことだと思う。

 

「すげぇ……一兄、死神って凄いんだな」

「あぁ、まあな」

 

目をキラキラさせる妹さんを暫し眺めた黒崎一護は、ギュンと振り向いて目をギラギラとさせて睨んできた。さっすが兄妹!似ているわー……。

 

「な、なんですか黒崎さん。僕になにか文句でもあるんですか」

「いや、何もねぇよ。夏梨の様子が妙なのが気になるだけだ……でもありがとうよ。俺だけじゃ救援までに怪我人ゼロで維持するのは無理だったわ」

 

そう言って黒崎一護は笑った。なかなかに爽やかで裏のない笑顔だ。なるほど黒崎一護の味方が多いのも頷ける。人を惹き付けるようなこの笑顔は、どことなく浮竹隊長に似ている。

 

「しかし自爆する虚か。初めて見たなぁそんな奴。結構規模がデカかったけど、どんな奴だったんだ?」

 

不意の問いに心臓がバクバクする。いえ実は自分が証拠隠滅も兼ねて斬魄刀を吹っ飛ばしましたぁ!!なんて言ったら半殺しにされてもおかしくは無い。

 

「あ、いやー見てないです。何せ別の虚を倒そうとした瞬間に後からズドン!!でしたからね。でも大規模な爆発だったお陰で手間が省けましたよ」

 

必死の演技をすると何とか通用したようで、そうか、と言った黒崎一護の顔は納得しているようだった。あぶねー。

 

どうやら技術開発局の連中や中央四十六室のお上方にバレることは無かったらしい。まあ近頃は変な虚ばっかり出るし、まあ自爆する奴くらい居ても可笑しくないよね?という結論になったらしい。我ながら上手い言い訳であった。

 

 

~・~・~・~

 

 

尸魂界の死神は職業だ。流魂街の花火職人や菓子職人などと同じように、仕事をして給料をもらう。ただ現世と行き来して魂の管理をしたり、時には命がけで世界の危機に立ち向かったりするところが一応の相違点。要するに、流魂街の住民には死神を尊敬してくれる人もいたりする。巷ではアイドル扱いされる人もいたりして、例えば朽木家の兄妹とか人気だったと思う。それもあのルックスなら当然だろう。残念ながら生まれつき浅黒い肌に白い髪の僕は、一般的な特徴から離れているので仮に隊長になってしまったとしてもモテないだろう。間違いない。

 

さて、話が逸れてしまった。死神という職業は今までにも述べた通りブラックな内情を抱えてこそいるが、休暇は比較的自由にとれる。ある程度責任がついて回る席官以上の死神だとそうはいかないものの、下っ端は山ほど存在しているのだ。担当地区での業務さえ押し付けることが出来れば何とかなる。

 

本日は実にいい修行日和だったので、前回の虚大量発生での怪我から完全復帰した車谷先輩に押し付けて来た。実は担当地区での業務と言っても虚退治に限る事ではない。他にも死神代行の仕事ぶりを報告するとか、まだ虚になってない魂魄の魂葬とか色々ある。よって助手が一人抜けるだけで仕事量が倍以上に増えるわけだが、調子に乗って退院祝いとして酒をしこたま呑んだ車谷先輩をそそのかすと、とても簡単に押し付けることが出来た。ありがとう車谷先輩。

 

頼りがいのある有難い先輩に感謝しつつ、僕が向かった先は四楓院家である。天下の四楓院家。その役割は天から賜ったとされる文字通り天賜兵装を管理することだ。

僕はしばらく前に、浦原商店に居ついていた猫と仲良くなった。鬼ごっこをしながらその猫と遊んでいるうちに、僕が五連勝した直後に正体を明かしてきたのである。

 

名を四楓院夜一とか言って、なんでも追放された身なのだとか。僕は死神の表事情はよく知っていても、裏事情についてはサッパリなので有名な四楓院家の一人娘が何故追放されたのか分からない。余程の事をしでかしたのだろう。

 

確かその時、夜一さんは僕にこう言ったと思う。

「もっと強くなりたくはないか?」とね。

どうやら僕の瞬歩に負けたことが酷く悔しかったらしく、修行を口実にリベンジしようという腹積もりだったようだ。現に白打とか歩法とかの修行が全体の3割程度で、後はひたすら鬼ごっこだったと思う。因みに現在に至るまでの勝率は、僕と夜一さんで6:4。でも稀にズルしてくるケースを含めれば勝率は五分五分と言ったところだ。

 

その修行は定休日に行っていたが、ある日突然「もしもお主が卍解を手っ取り早く習得したいなら、十分な休みを設けてこの場所に来い」と地図を渡された。僕は別に卍解を習得するつもり何て、今までにはこれっぽっちも無かったのだが、あの時始解を使った時に浮かび上がってきた危機感をどうにかしたかった。僕は昇進なんてこれっぽっちもしたくないが、死にたくもない。最近は虚の発生報告数も多いと聞くし、ここらで卍解を習得しておくのも悪くない。

 

いざとなれば、卍解しておいて「これが僕の始解です!」と言い張ればいいのだ。霊圧隠せば何とか誤魔化せるだろう。先日もうまくいったし。

 

事前に連絡しておいたので、四楓院家の裏口らしき隠し扉から侵入して、曲がりくねった細い道を抜けていった。距離にして恐らく東流魂街一周分。これ絶対四楓院家の土地からはみ出てるでしょ。

 

「おう、遅かったなシロウ」

 

長い長ーい通路を抜けた先、感覚的にはまだ地下なのに、一体どうして屋外としか思えないようなだだっ広い空間があった。周囲には小高い岩山や崖らしき地形もあり、よく見れば人為的なものと思われる抉れた地面がある。中央に拳の跡があるから、単に殴って抉れたのか。となれば……

 

「また遊び場、ですか?」

「その通り!ワシと喜助が作った幾つかの中でもとっておきの場所じゃ。実家の裏手に出入口を設置したのに未だにバレておらんからの。隠形はバッチリじゃ。例え今の護廷十三隊の全員がここで霊圧を開放しても感づかれはせんよ」

 

そりゃ随分気合を入れて制作したようで。

 

「今回、手っ取り早く卍解を身に付けたいというお主の為に用意したのがこの道具じゃ!!」

 

ドンッ

テッテレレッテッ テッテレレッテッ テーー♪

 

「転神体〜〜!!」

 

頼みますから裏声は止めてください。怒られます。

 

「この転神体を使えば、己の内側にいる斬魄刀を具現化させる事が簡単に出来る。よって、普通ならば修行に十年は掛かるところを大幅に短縮出来るのじゃ」

 

「でもこの道具、あんまり有名じゃないですよね」

 

さもありなん、とばかりに夜一さんは頷く。

 

「この道具は隠密機動隊の最重要特殊霊具じゃからの。おいそれと持ち出す訳にもいかぬ上に、卍解の修行として使うのは非常に危険が伴うのじゃよ。無理やり引っ張り出して具現化するという事は、向こうも相当に気が立っているに決まっておるからの」

 

へ、へーー……。

 

「いや、まあ出来ると言うなら早めに強くなりたいなーとは思ってましたけど、危険が伴うと言うのであれば……」

 

「逃げてはならんぞ、シロウ」

 

僕はとっととトンズラしてのんびり斬魄刀の具現化修行に励もうとしたが、後ろからシリアスな空気満載で呼び止められてしまった。

 

「あ、ハイ。何でしょう」

 

「良いか?お主の本質というのはズバリ平和主義じゃ。戦いは出来れば見たくなく、争い事は避けたい。面倒を嫌い出世を嫌うのは、その分戦場に出る機会が多くなるから、じゃろ?現に今まではそのままの強さでやってきた」

 

まあ、否定はしない。確かに僕は戦いが嫌いな引きこもり体質だ。死神になったのはもっと他の問題があったからで、僕自身はあまり仲間が傷付いたり自分が傷付いたりする所は見たくない。だから鬼道が使えないにしては大量の道具をいつも用意しているし、武術も“争いを最小限に留めるために”修行してきた。

 

「その平和的な臆病者がわざわざ修行したいと思い出したのは、何か理由があるとは思わぬか?例の藍染が裏切った件は、これからより大きな災いを運んでくるのかも知れぬ」

 

そして夜一さんは、隣に立てかけた転神体をポンポンと叩いた。

 

「ここに始解した刀を貫くだけじゃ。面倒事ならサッサと済ませたいじゃろ?」

 

全く……アンタには観念しっぱなしだよ。夜一さん。

 

僕は斬魄刀の改号を呟いた。

 

「山水拓け 『干将・莫耶』」

 

具現化した二本をほぼ同時に転神体の中央部へ突き刺すと、突然辺りの空間から淡い光が漏れ出てきた。

 

「来るぞッ!!構えろシロウッ」

 

僕は手元にチャッカリコピーしておいた干将と莫耶を構えて、光が人型に収まっていくのを待った。

 

「……やれやれ、君たちは少し礼儀というものがなっていないのではないかね?強引な方法で卍解を学ぼうとは、呆れたものだ」

 

光が収まったそこには、赤い外套を羽織った長身痩躯の男がいた。全身の肌が浅黒く焼けていて、頭髪は傷だらけの水晶のように白い。斬魄刀は持ち主に似るというらしいけど、ここまで似なくていいと思うんだけどなぁ……。

 

「やあ、諸君。私の名は干将莫耶。そこな死神の持つ斬魄刀が具現化した者だ」

 

涼しげな様子で立つ男の両手にはやはり、干将と莫耶が握られている。しかし僕には一目で分かってしまう。

僕の始解より構造が丈夫。完全に――上位互換だ。

 

「私の主はどうやら、卍解を習得したいらしいな。斬魄刀により卍解を習得させる手順というのは異なるらしいが……ふむ。君と私なら直接戦って決着を付けるのが良いだろう」

 

男は、斬魄刀を構えた。




ここで力尽きました。そもそもBLEACHはアニメしか見てない。何故書いた……?
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