悪役にされた俺の末路 作:盾長
冬の雄叫び作戦から約三週間。
俺は今、某ホテルの一室にて次なる作戦を練り上げていた。
ベットの上に樹海化した地図を広げマーカーペンを握る。
「A地点からB地点までの距離はおよそ1キロ……B地点からC地点までの距離は直線で行っても3キロ……」
偏見と予測を積み重ね、俺は地図上に大まかな数字を書き記した。数字はそこまでの距離を表しマークされた地点は次なる奪取ポイントとして記録される。
この地図は戦いの後、戦利品として神様から受け取った副産物。俺はその副産物にありとあらゆる情報を詰め込んでいく。
地図があってこそ、始めて戦略と言う物は動き出すのだ。
だが、俺に取って“樹海”は広大すぎる戦場。
遮蔽物が乏しいのが痛いところだ。
「……だったら自分で遮蔽物を作り出せば良いんじゃね?」
途端、俺の脳内に何かがピンと来た。
-遮蔽物がないのなら、自分で作れば良いじゃない。
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一旦決意した意思は止まる事を知らなかった。
戦える程度まで戦力を整えた空中艦隊は今、メンテナンスに入っている。
第一から第三艦隊にまで揃えあげたその勇姿は今、地下に眠っている。出撃に備え念入りなカスタマイズを行い万全を期すのだ。
この地下基地は依然として勇者の知らぬところに存在する。
場所は香川沖の瀬戸内海。俺は、昨日練り上げた計画を実行に移すべくこの地下基地を訪れていた。
「さすがにまだ陰も形もないか……」
地下基地の隅っこにまだ骨組みだけが築かれている巨大な物体がその場に佇んでいる。それが何個、何十個と縦に並び組み立てられていた。
枠組みだけ見れば隕石のようにも見えるそれは艦隊の盾となり矛にもなる。
「後に“トロイの巨石”として命名されるお前達が今後の命運を分ける“鍵”となるだろう。そしてお前が俺の運命を分けるのだ」
数十メートルもある“巨石”と名づけられたこの物体は静かに壇上を見下ろしていた。無人の工具達が周りを囲い粛々と作業に励んでいた。
計画はゆっくりと確実に進み五日後にはついにその姿を壇上に映し出す。
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「おぉ、壇上? 調子はどうじゃ? そろそろ次の戦いに移行するぞ」
あれから一週間。何時もと変わらぬ朝に神様は通話を此方によこした。戦いの準備は済み、後は来る戦いに備えるのみだった。
スマホ越しに発する神様の言葉を耳にした俺は、やがて勝利を確信する。
「良いか? 次の戦いは今日の正午。ピッタリに始める。食事は早めに済ませておくように」
「了解」
そう言って俺はスマホの通話を切ろうとしたその時、神様は最後、一言添えて俺に問いかけてきた。
「壇上……艦隊の備蓄は充分か?」
何処かで聞き覚えのある台詞を聞いた途端、俺は考える間もなくこう答えた。
「大丈夫だ……問題ない」